ドフィの言葉が妙な事になってたのは突っ込むべきかと少し考えて、頑張って語尾を直そうとしてるからなんだなと思えばこそ突っ込まない事にした。〝俺が着いてきて貰ってよかった〟と言ったけど〝俺に〟じゃないと言葉としてはおかしい。
でも多分、俺が着いてきて良かっただろうと言いたかったのに、偉そうな物言いが抜けなかった結果なんだろうなと思えば微笑ましいばかり。少しずつで良いから、普通に生きられるように、言葉を直して行けるといいけど。
荷物を背負う等して準備を整えてから、軽く何か食べて帰ろうかと声をかければドフィは笑顔で頷いてくれた。なので何が食べたいか聞くと、少し困ったようにロブスターだと言われてそれは予算オーバーだわと思う。
でもただ駄目だと言うのは心苦しい。どうにかならないかしら?
「よし、ロブスターは川で捕まえたらって事にして、今回は何か違うのにしましょう」
「うん。わかった」
ロブスターは川じゃ取れないけど、ザリガニが取れるから似たようなものでしょうと思う。ドフィに言ったら怒りそうだけど。
そうして米系が食べたいと言ったドフィを、パエリアを出してるお店まで案内する。それにより魚介系の物を見たドフィは嬉しそうに食べ始めて、それを何となく見ていれば落ち着いた様子で食べているなら、ドフィのテーブルマナーは悪くは無いのだと気付く。
それでも時々変な仕草が入るので、それを注意して教えながら食べて行くと見知らぬ女性が驚いた顔で、こちらを見ている事に気が付いた。どうしたのかと思ってその人を見ていたら、カツカツと音を立てて近付いたその人は私のフードを取り去りやっぱり……と呟く。
「あの?」
「あんた、ナミちゃんか?」
「え?はい、え?」
「そうだな。こんな可愛い顔で、オレンジの髪で、このスタイル……。他にいるとしたらナミちゃんの実母くらいなものだろう。でも、なんで、この時代にナミちゃんが?まさか実母?それなら名前までってのは流石に奇跡すぎるだろ……」
無礼な態度に怒るべきだったのかも知れないけど、ブツブツと言葉を口にするそれにより、ある事に気付くと私は怒りなんて抱く余裕も無かった。今、この人〝この時代〟って言ったわ。
「あなた、も、転生……者?」
思わず呟いた時、その人は大声でマスター!と叫び勝手にドフィの顔を覗き込むと徐ろに口を開いた。それにはドフィも驚いた様子で硬直している。
「やはりか。……弟はどうした?もう、はぐれたのか?」
「……お前に、関係ない!」
女性の手を振り払ったドフィは、椅子から飛び降りると私の傍に駆け寄り腰に抱き着いてきた。それにより、どうやら信頼して貰えてるらしいと気付けば顔がにやけてしまう。
……可愛い。どうしよう、撫で回したい。
そんな場合じゃないのは分かるのに、可愛さの余りに理性が家出中だ。これでは巫女様を責められない。
「……あぁ、すまない。私はどうも不躾で、これだけは変わらなかったらしい。悪気は無いんだ」
何処か男勝りな話し方で、けれども申し訳なさそうにする様子に悪い人ではないらしいと思う。そして、何だかよく分からないけど、不器用そうなそれが妙に愛しく思えるのだ。
けれど私の視線に気付いたらしいその人は、困ったような顔をしてから店主に向き直った。そして、当然のように言うのだ。
「この店にロブスターの料理はあるか?」
「おォ!あるぞ!!食うか!?」
「それをこの子に、それと果物の盛合せをこちらに、私には……軽食を頼む。2人が先に頼んでいた分も私が払うから合わせてくれ」
見ず知らずの人に、そんな事をしてもらう訳にはいかないわ。フードを外したり、顔を覗き込んだりしたそれは確かに問題だけど。
「そんな……!?」
「無礼な態度で怯えさせた。償わせて欲しい。……それに、少し話も聞きたい」
そんな言葉を向けられて、私は頷く他に選択肢を持ってはいなかった。ドフィは私の目の前から横に席を移動して、待望のロブスターを即座に食べ初めている。
瞬時にそれを食べ尽くし、おかわりしても良いのかと聞くドフィに、女性はクスクスと笑いながら好きなだけどうぞと笑う。どうやらこの女性、金銭的にはそれ程困ってない……もしくは結構な余裕があるらしい。
私は果物と飲み物を目の前に置かれていて、でも手を出せずに居たらドフィがヒョイっと手を伸ばして、飲み物と果物に少しずつ口を付けてから返して来た。それにより驚いてドフィを見ると、呆れたような顔をされる。
「……ナミ、自分で作ったの以外いつも食べるの躊躇ってるだろ。最初に会った時の姿とかを思い出せば、想像はつくから気にしなくていい」
……何この男前。どうしてコレが、ああなっちゃうの?
心の底から残念に思いながら、ありがとうと笑って頭を撫でるけど、同時に危険な事しないでと言えば、ドフィは本気で呆れたと言うように溜息を落とした。それからロブスターのお代りを頼んで私を見る。
「俺は泥水啜って生きても、病気にもならなかった。ナミよりは色々マシだったと思うが、なんかあれば分かる程度の経験はしてる。ナミの事は……その、気に入ってるから、守ってやる……よ」
どうやらドフィは、私の事を本当に姉のように思ってくれてるらしいとそれにより気付く。だからこそ私は、ありがとうと言って果物と飲み物を口にする事が出来たのかも知れない。
そんな様子を黙って見ていた女性は、微かにその瞳を揺らしてから言葉を口にした。瞳の他は、表情に特に変化は見られないけど。
「産まれる時を間違えた……とかか?」
「いいえ。なんでかはよく分からないけど、私は未来から飛ばされて来たのよ」
「この世界においては〝有り得ない事は有り得ない〟とは言っても、限度はあるだろ。本来ならば、未来には行けても、過去には行けない筈なんだかな」
「……未来には、行けるの?」
未来に行けるなら、ルフィの所に帰れるかな。ルフィに、また会えるのかな?
そんな期待を込めてしまった私の言葉に、女性は自分用に頼んでた物を口にしながら頷く。そして、トキトキの実の能力がそれだと言う。
でも女性は、随分と長い事その能力は1人の人が有していたから、新たに生じるのがいつになるのかは不明だと笑った。それから、どんなに遅くても海賊王が死ぬ直前には実に戻る筈だがと呟いて、それに軽く気落ちしながら私は情報交換を開始した。
それによると、この女性は政府に捕まった恋人を追いかけているところらしい。それと同時に、行方不明の親友達を探しているのだと言う。
「なんで、その彼は捕まったの?」
「サイボーグや人造人間を奴は作れる。天才なんだよ。……それで私を含めた研究チームが狙われて、バラバラに逃げたんだがあいつは
「長い付き合いなの?」
何だか疲れてますって感じで話してる様子が微笑ましくて聞けば、1瞬暗い表情になった女性はけれども頷いてくれた。そして、私の髪にそっと触れながら言う。
「産まれる前から、私の男はアイツだけだ。……そんな奴よりも大切な親友が、まだ見つからなくてな」
「えっと……?」
「……正直に言えば、その親友がナミじゃないかと私は疑ってる。原作のナミちゃんとは雰囲気が少し違うし、親友と似てるんだよ、細かい仕草が」
この人は何を言ってのか。そもそも親友の可能性を疑うとか、既に意味がわからないわ。
親友なら、見た瞬間とかに分かるでしょ。それとも幼少期にはぐれたとかなのかな。
そうなるとでも、私は未来から来たって言ってるんだから矛盾が生じるわよね。本気で分からないけど、無闇に傷付けたくなくて、言葉を選ぶ。
「えっと……私、違うと思う、んです。初対面、ですし」
「……私の親友なら、私達を知る筈ないよ。私達の受けるべきだったものを親友達が代わりに受けた。性別も、産まれる時代も分からない。だけど……過去の記憶があるなら、そしてこれだけ似てるなら、可能性は高いと思ってる」
真剣なその表情が、私を真っ直ぐに見詰めてくる。つまりそれは、今の生より前からの親友であるという事になるわよね。
だとしたらそれは、巫女様とかって可能性もあるんじゃないかな。だって、同じような転生者だもの。
私は転生者と言うより、成り代わりと呼ばれる種類だから……色々と違う気がするのよね。いくら時代が違う可能性があるとはいえ、これだけの年齢差があるのは流石にと思ってしまうし……。
私が考え込んでいたら、女性は軽い感じで言った。それは、私を動揺させるには充分すぎる内容。
「そう言えばナミは誰と付き合ってるんだ?」
「え?あ、ルフィ……と。です」
私の言葉に女性はフワリと笑うと、頷く。何とも優しい眼差しで私を見ながら。
言葉は揶揄いを含んでいても、言動が狂気的でも、それと良く似た眼差しを私は何度か受けた事がある。ビビの兄王子や、巫女様から、それとよく似たものを受けたわ。
「王道だが、良い選択だな。幸せにして貰え」
「貴方は、その……」
「私の場合は相手の産まれた立場等が問題で、幸せになれるかは不明だが……そうだな、私の親友ならそれでも〝私が幸せにしてみせる〟と笑うだろうから、私もそれに倣うさ。だがまさか、ベガパンクに転生されるとは……厄介な事この上ない」
「……ベガパンク!?」
私の反応に女性はクスクスと笑い、そうだよと言った。元々研究オタクだったからある意味合ってるだろうけどなと言ったそれに、脱力する。
ベガパンクに関する情報を私は持ってない。心優しい少年であり、天才だったが政府に捕まり、海軍の元で働いていると……そうだ、約束は守る人でもあると……そんな程度しか知らないのよね。
外見も、年齢も分からない。多分性別は男だろうとは思ってたけど……。
今の私がベガパンクに関して言えるのは、1つ。胸元にも腰にも装着してないのが不思議でならないけど……。
「……今は手元に無いけど、私の使ってるクリマタクトを作ったのは、ベガパンクなのよ」
「…………何が起きると、そうなるんだ?」
長い沈黙の後に問い掛けられた最もなそれに、私がシャンクス達との事について語り、その途中でされる質問にも答えれば、最後まで話を聞いた女性はふぅんと言って1人で納得した様子を見せた。それから女性は優しく笑う。
何だか、眩しそうに私を見ながら。まるで、手の届かない位置にある夢の集大成でも見るような様子で。
「やっぱり、ナミが私の親友だ。間違いない」
「へ?」
「自分の事を蔑ろにして、周りばっかり気にして、その癖妙に抜けてて、何より世界の誰よりもお人好しなんだ」
「それならナミだろうと思うぇ……っ!!ゴホッ」
語尾を誤魔化す為に咳き込んだドフィの背中を撫でながら、どういう意味よと言えばドフィは私の果物からメロンを奪って皮ごと食べ始める。そしてそれを咀嚼しながら言うのだ。
足組んで偉そうに。わかり切ってるだろとでも言わんばかりに。
「ナミ程のお人好し、他に存在しない。未来がどうとかはよく分からねェし、過去がどうとか頭がおかしいとしか思えねェが……それが事実なら、ナミがその親友だ。……俺達の事ばっかりで、自分の怪我とか放置するし」
「ナミ……こんな幼子にそれを言わせるような何をしたんだ?」
その後私は2人から、叱られたりディスられたりしながら食事を終えた。そんな中で、女性に港で船が買えそうか聞いてみる。
それに女性は少し考えるような仕草をしてから、隣の島までなら乗せて行くと言ってくれたのだ。その理由としては、船を非加盟国で手に入れるのは難しく、情報収集の為に寄っただけだから船は手放してないと言うのだ。
そういう事なら本当に有難いと思う。けれども人数を考えれば、どうしたって躊躇ってしまうのよね。
そんな私に女性はそれなりに大きいから安心していいと言ってくれたので、言葉に甘えて暫くの間同行するメンバーか増える選択肢を私は選んだ。そして話をしていたら、突然女性に髪の毛を数本抜かれてしまう。
「痛いんだけど!?」
「この色の染め粉作るから待て。とりあえず今日はそこの宿で泊まろう。金は心配いらない」
「そんな訳には……!」
「ナミ、安心させると思って素直に応じてくれ。私はナミが傷付くのは嫌だよ」
……なんだ、このヅカっぽい生き物は。そう思うのと同時に、仕方ないかと笑って頷いた。
部屋分けは特にされず、ドフィは私のベッドで寝る事にしてツインを1部屋で済ませた。ドフィが私から離れなかったのは勿論だけど、私もドフィから離れたくなかったのだ。
「良く似た反応してるな。誰にも君達を害さないから、張り付くのを辞めなさい」
そんな風に笑った女性は、部屋にシャワー室があるそれを選んでくれた。なのでドフィを洗ってあげて、その後でゆっくり私もシャワーを堪能させてもらう。
放置した事で膿んでしまった傷口に短剣を突き刺そうとしたら、短剣が小刻みに震えて上手く動かせない。その事が不思議で首を傾げる。
そう言えば、前にもなんか、似たような事があった気がする。あの時は、肉を削ぎ落とそうとしたのに、上手くいかなかったのよね。
「いつまで入ってるつも……!?何してるんだ!!」
突然ドアを開けた女性にシャワー室で押さえ込まれて、睨まれる。それからどうやら自殺でもしようとしてるように見えたらしい事を知って、事情を説明したらベッド迄運ばれて治療を施された。
「私は医者じゃないが、この世界の科学者に不可能は無い。傷ぐらい治してやるから、その短剣を虐めてやるな」
「へ?別に虐めた事なんて無いけど?」
「充分虐めている。その短剣は妖刀の1種だろ。主を傷付けたくないとさ」
「えぇ!?」
言われてからマジマジと短剣を見るけど、だとしたら私に使われるので良いのかな。もっとこう、ちゃんと戦いに使ってくれる人の元に行きたいんじゃないのかな?
でも、離したくない。ベックから貰ったのも理由にはあるけど、私はこの短剣にも随分依存してる。
「……気付いてなかったのか。多分、相当扱いの面倒な子だぞ」
「分かるものなの?」
「……あちらで、居合の有段者だったもんでな。それなりには」
それって、凄い、よね?
そう思って見たらふっと笑って、巫女舞を出来るナミには敵わないと言う。それに驚いて見つめたら、出来るだろと言われた。
「……うん、できる、けど」
「なんで舞えるのかは知らなくても、ナミなら舞えて当然だ。
「そう、なんだ……。あ!ねぇ、この短剣だけど、扱いにくくないわよ。果物切るのにも使えて便利だし」
「……ナミだから出来る使い方だな。そんな事を他の人間がやろうとしたら、手を切り落とされるぞ。そうか、そんなに自分の主人が好きか」
その時短剣が小さく震えた。それを見た女性は大切にしてやれと笑って、私の頭を撫で回して来る。
そんな会話ややり取りをしながら治療を終えてくれた女性は、私とドフィに小綺麗な服を差し出して来てそれを見ていると寝間着だなんて言う。ドフィはそれを当然として受取りさっさと着替えると、久々に普通のベッドだえと喜びながら私のいるベッドに飛び込んできて嬉しそうに飛び跳ねた。
その様子に朝が早いから寝ましょうと声をかければ、素直に頷いたドフィはサングラスをしたまま私の事を抱き枕にして眠りにつく。その様子を見てから、私も寝ようと身体から力を抜いた。
「2人とも、おやすみなさい」
「……あぁ、お休み」
「ん……ナミ……」
寝てるドフィまで返事をくれるから、それに笑ってしまう。そんなドフィの頭を撫でてから、私も本当に眠りについた。