それぞれに合わせて作った手袋は、毛皮が内側に入るように作ったので、内側が温かいのに外は皮そのままで物を持ちやすい仕様になるようにしてある。鞄は逆で、周りはモコモコしていて可愛らしく、暖かそうなのに、中に物を入れたりしても、引っかからないのが利点。
でも鞄の内容量は多くないのよね。うーん……そうね、入れられるとしたら、財布とスマホ、手帳と定期入れ、そこに今回渡した手袋を入れると、ハンカチと口紅が入るかも頑張らないとって感じのサイズ感。
勿論スマホとかはここに無いから、イメージしやすいようにそう表現しただけだけど。男女どちらが持っても、おかしくないデザインになってるとは思うわ。
ふふっ!我ながらよく出来たわ。とは言え、本当に小さな鞄なので、それ程多くの物は入れられないんだけどね。
そう思って笑いながらそれぞれに手渡せば、何故か泣き出すご両親と女性。そして、大喜びではしゃぎ回る2人の子供達。
……何が起きてるのと焦った私はおかしくない筈よ。そんなこんなで、私達は作った食料と共に女性の船に乗り込み隣の島を目指す。
そこで何が待ち受けてるかなんて、考えもせずに……。私達はただ、海を超えて行く、敵に回しているのが〝運命〟という大き過ぎる相手だなんて事を、すっかりと忘れ去って。
共に航海する日々は楽しかった。釣りをしたり、カードゲームをしたりして、交代でやる見張り等も恐らくこの1家には良い経験になったと思う。
女性は、いつもこれを1人でやっていたから楽しいし楽だなと笑ってくれる。それに私は随分甘えさせて貰ってる。
海を渡った先で、私達はもう少しだけ共に過した。私と同じ髪色の染め粉を完成させる迄、という制限付きではあったけど。
でも、それが完成してしまえば、女性は寂し気に笑って別れを告げた。1度染めてしまうと半年はその色で髪の毛が生えてくるという代物で、その後は新たに生える所が元の色になるという染め粉だ。
「4人分ある。4回を1人が使うか、1回を4人で使うかは任せる」
「ありがとう。……あの、貴女はこの先、探し人に関するアテはあるのですか?無ければ、これからも私達と共に行きませんか?」
お父様が問い掛けると女性は静かに笑い、首を横に振った。そして、真っ直ぐな眼差しに決意の炎を宿して言う。
それは凛として美しく、そして暖かい。決意は、どれ程言葉を尽くそうとも変わらないだろうと分かる。
「探し出してやらないと。アイツ、1人にしとくとろくな事無いんだ。……ナミ、生き残れ。未来で必ず生きて会おう。私の姿は高齢となり変わっているだろうけど、それでも私がナミを見つけ出す。だから、生き残れ。いや、生き延びろ。何が起きても……死に急ぐなよ」
その言葉に私が頷くと、女性は私を強く抱き締めて、震える声で言う。離したくないと。
けど、彼女は約束したからなと言いつつ私から離れると、泣きそうにその顔を歪めて、ぎこち無い笑みを浮かべた。それから袋を1つ投げ寄越すと、背を向けて去って行く。
そのままその背が見えなくなるまで私とドフィ達家族はその背中を見ていたけど、1度として女性が振り返る事は無かった。女性の姿が見えなくなって、私は渡された袋を開けて驚く。
中には宝石がぎっしりと詰まっていたから。事も無げに渡されたそれが、ドフィのお母様に必要な薬を得る為の物であり、彼等の生活の基盤を作るのに使えと言ってるのは明らかだ。
「優しい、人ね」
いつか、恩を返せるだろうか。私は何も出来ないままに、ただその背を見送ってしまった。
親友だろうと笑ってくれた。生きていてくれたら、笑ってくれるなら、それだけで良いのだと……優しくしてくれた。
懐かしいと、そう感じたのは間違いないけど、その感傷に浸る暇は無いだろう。そんな時、お母様が妙な言葉を口にした。
「どこか、貴女と似てましたね。自分の痛みを悟らせない所とか」
「似てますか?」
似てる要素が見つからなくて首を傾げる私に、お母様はクスクスと笑うと、よく似てますなんて言う。だから、私本人にはわからないところがあるのだろうとそれを受け入れる。
それから私達は話合い、お母様が4回染め粉を使う事に決めた。そうする事で髪の色で1人浮いていた私を溶け込ませられる事と、何かの時体の弱いお母様だけは無事でいられる可能性を高めたのだ。
決まれば話は早いとその染め粉を使いお母様の髪の色を変えると、男達3人はお母様を物珍しそうに見てはしゃぐ。そしてご両親は……イチャつき始めた。
「どんな髪色でも、美しいね」
「嫌だわ、あなたったら……!」
「ロシー、こう言うのをバカップルって言うんだ。覚えとけ」
「うん、分かった。兄上は、物知りだね」
お母様の髪の色を変えても他はそのままだからと、念の為に私達はフード姿で移動を続けた。それがどれ程目立つのかも、考えないままに。
町外れにある小屋を借りて、私達は生活を始めた。お父様はお母様の看病をメインに、何かの時にはドフィとロシーを連れて逃げる為に体力も付けて貰う予定。
ドフィとロシーには近くの森で食べられそうな物を採ったり、薪に使えそうな物を拾ってきたりして貰う。私は薬を買いに行き、情報を集めながらこの先について考えるようにしていた。
今のまま町の近くにいれば、薬を手に入れてお母様を回復させるには便利だわ。だけど生活は、収入になる物は無いからどうしても苦しくなって行く。
それなら、森や山の中で牛とか鶏を世話しながら生きていく方が安全で、生活にお金も掛からないだろう。普通の人らしく生きていくと言う、ご両親の願いも叶うだろう。
そう考えた時、果物を選んでいた手を掴まれてフードを払われる。何するんだと無礼なそれに対して睨み付けると、それをした相手は私を見て口笛を鳴らした。
けれども町の人達は遠巻きに見ているだけで、助けようとさえしない。つまりは、この町の権力者か、その親族。
「可愛いな。そりゃ、フード被ってる方が安全だよな」
「何が言いたいの」
「隣の島でさ、天竜人の1家が見付からないって騒ぎになってる所へ、フード姿の怪しい家族が来たら……疑うだろ」
「……無関係だと分かったなら、手を離して」
短剣が腰で揺れる。私にその手を切り落としてしまえと言ってる気がして、確かにこの子は少し扱いにくいかもと初めて思った。
でも、変に目立ちたくないし、この程度なら素手でやれる。最悪でも鉄笛で充分だわ。
「ナミに触るな!」
「ドフィ!?」
突然の声に慌てたのは、1人なら余裕でも他に潜んでいるだろう仲間からドフィが狙われたら不味いというのがある。何せドフィはこの辺りでは珍しい金髪なのだから。
なのにドフィは私を助けようと、男に殴り掛かり簡単に蹴り飛ばされてしまう。慌てて男の手を振り払いドフィに駆け寄るけど、その場でドフィのフードが外れてしまえばその場は騒然となる。
「……家族、なら、名前で呼び合わねェよな?」
「両親が私を名出呼ぶから、弟も真似してるだけよ。それが何か?」
「天竜人は金髪の四人家族……そう回ってきてる。その坊主は金髪だな」
試すような物言い。探る眼差し。
でも、アーロン達のそれとは比べ物にならない脆弱なもの。私はこういう時の対応に慣れているのよ。
「お父様の髪の色を継いだのよ。私の生まれ故郷じゃ、珍しくもないわ」
「あんまり、似てねェしよ」
「私、お母様に似たの。弟はお父様に」
睨み合う私と男。けれども私の腕の中にいるドフィはフードを被ってから、私の手を離れて間に立つ。
守ろうとしてくれてるのが分かる。その気持ちは嬉しいけど、今は少し良くない。
「いつ洗ったとも分からない汚い手で、ナミに触るな。ナミ、帰ろう。帰りが遅いから、迎えに来たんだ」
私に声をかけながら、でも、ドフィは男を見上げたままだ。サングラスで分からないだろうけど、後ろ姿だから確証はないけど、多分睨み付けてる。
そんなドフィにありがとうと言ってフードを被りながら手を伸ばした時、男の合図で姿を見せたのはざっと50人近い男達だ。1人なら何とかなっても、ドフィを無傷でってなると難しい人数だわ。
……短剣ならやれなくは無いけど、無闇に人を傷付けたくないし、間違えば殺してしまう。それだけは避けなきゃいけない。
私は本来、ここにはいない筈の人間なのだから。そう思っていたら、私の腕を掴んだその男が言った。
「お嬢さんが、天竜人の奴隷で天竜人を庇ってる可能性もある。焼印がないか、調べさせてもらおうか」
その言葉にゾッとする。慌ててドフィを抱き締めると、ドフィが叫んだ。
「巫山戯るなえ!!ナミに、指1本触れるなえ!!」
その瞬間、空気が変わった。しまったと思った時には襲いかかられていて、私はドフィを抱えたままその場で攻撃を躱していく。
ドフィもしまったと思ったのだろうか、声をなくしているけどもう遅い。必死に躱していくけど、どうしたって子供1人抱えてのそれは体力的に限界も近いし、家に戻ればお母様達とロシーを巻き込んでしまう。
「ドフィ、私に掴まってて。全力で走るから」
「分かった」
ドフィが強く抱きついたのを確認して、鉄扇と鉄笛を抜くと両手のそれで襲い来る武器を弾きながら人のそれを抜ける。そのままの勢いで森の中へと駆け出すけど、追い掛けてくる人達が止まる気配はない。
山の中を駆け回り、岩場に身を隠して少し呼吸を整えれば、小さな声でドフィが謝って来る。その様子に、大丈夫との意味を込めて抱き締めると、その頭を撫でた。
そうしただけで泣き出したドフィに、恐怖を思い出したのと、責任を感じたのだろうそれにが何だか切ない。それにしても、どうやってドフィの安全をはかればいいかしら。
その時ドフィが小さく身じろいだので、どうしたのかと顔を見る。すると少し赤い顔で俯いたので、あぁ……と気が付いて見聞色の覇気で近くに人が居ないのを確認してから、影に行くように言えば不安そうに見てくるけど……。
「トイレでしょ。今は近くに居ないから、大丈夫。でも、早めに帰って来てね」
それに頷いて離れていくドフィを見送り、深呼吸を繰り返してから見聞色の覇気で辺りを警戒する。次の行動を読むのが出来るのが本来の私のそれだから、これやると疲れるんだけどね。
慣れると普通に出来るようになるのかしら?
そんな事を考えながら、調べて行くと少し離れた所で妙な動きをしてるそれに気が付く。それに意識を集中すれば、様子が見えて来る。
あれは……嘘でしょ!?ロシーが、捕まってる!?
位置を必死で確認した所でドフィが帰ってくれば、ここに残すリスクと連れて行くリスクとで思考が渦巻き、息が止まりそうになる。でもここでドフィに決めさせるなんて、責任を押し付けるなんて出来なくて……。
「ナミ、どうしたえ?」
「ドフィ……」
「ナミ」
子供とは思えない静かな声が、話せと訴えて来る。でも、そんなの、卑怯だわ。
私は大人で、この子達を庇護する役目があって……なのに、どうしたらいいか分からない。どうしたらドフィを守り、ロシーを助けられるのか分からないの。
そんな私をドフィが強く呼ぶ。それにハッとさせられるのは、やはり将来とは言え覇王色の覇気を持つ男だからなのか。
「ナミ……!」
「ロシーが、拐われたみたいなの。助けに行きたいけど、ドフィを連れて行っても、ここに残ってもらっても危険で……」
「俺はナミについて行く。そんな時バラバラになる方が危険だえ」
「ドフィ、疑わないの?なんで分かるとか言「ナミは俺に嘘付かない。今度こそ、足手纏いにはならないように気を付けるから、つべこべ言わずに連れて行け」」
こんな時でも偉そうに言うそれに、少し肩から力が抜ける。そして私は頷くと、ドフィを背負ってロシーの元へと駆け出して行った。
決定をドフィに任せてしまった罪悪感はどうしたってあるけど、今はそれに押し潰されている時間的な猶予は無い。先程見えた様子では、ロシーは既に暴行を受けているもの。
どうしてあんな幼い子供にそんな事が出来るのか。金髪であるなら、誰でも良いのか。
怒りと悲しみが綯い交ぜになったような気持ちで、私は森と呼ぶべきか、山と呼ぶべきか分からないその場所を、1直線上に駆け抜けて行く。大切な弟を守りたいから。