予定していた食事は愚か、休憩さえ取れるかわからない街に到着して私は地図を何度も確認する。ビビの話では、ここはオアシスの街である筈で……。
その時脳内に〝オアシスを何度も砂嵐が襲う〟のだとテロップでも流れる勢いでキーワードが現れて、そうだったここもまた〝オアシス〟なのだとと思い至ればこの町が襲われない理由なんてなかったわよねと思う。更には、辺りに人の気配が無い事に愕然とする。
ここは、アラバスタ王国のユバ、オアシスの街。砂に埋もれた町並みは、エルマルと呼ばれていたルフィ達が無駄に破壊していた所と何ら変わらない様相だ。
オアシスの街と言う名が物悲しく感じる程に、水の1滴さえ見つけられないのでは無いかと思わされる。そうなると反乱軍は……何処に?
マツゲを降りて砂を踏み締めたビビは、その表情を絶望に染めている。予定が、計画が根本から崩れ落ちるような事態に、ビビは体を震わせてその場で崩れ落ちた。
それを咄嗟にマツゲから飛び降りて支えたけれど、それでも涙の1つも流せないビビを見れば1度泣いたらそのまま壊れそうなのだろうと理解出来てしまって、言葉を口にする事が出来なくなる。けれどもビビは王女なのだと、必死で状況把握に勤しもうとする姿から強く認識させられる。
その状態で、私は深呼吸して気持ちを落ち着けてから覇気で辺りを探ると、1人の人間がいる事が分かった。ならばと思いルフィに視線を向けると、ルフィがサンジ君の名を呼んだ。
サンジ君はビビを私から受け取るようにして支えてくれて、私はルフィの視線に促されるように歩き出す。人の気配はこっちにある。
マルコさんも同じ判断のようで小さく頷いてくれたので、ホッとする。人の気配のある所には砂が広がっているばかりで、何処にいるのかと辺りを見た時、突然人の声が聞こえて来た。
「旅の人かね。……砂漠の旅は疲れただろう。すまんな、この町は少々枯れている」
声の方に視線を向ければ、随分と低い位置でスコップを手に流れる砂を掘り返す老人の姿が見えた。それによりビビは覚醒したように顔を隠して、1歩前に進み出た。
そうしてビビの口から飛び出した声は、少し上擦っていて……反乱軍を想い、国を想い、希望に縋っているのだと伝わって来る。……泣くな、今私が泣く権利は無い。
自分にそう言い聞かせながら、ビビの問い掛けに怒り狂う老人とビビの様子に視線を向ける。その中でも老人は、カトレアに反乱軍が集まっているのだと話してくれた。
それを聞いて思わず地図を確認してしまった。……遠い、間に合うの?
これから黒髭とも戦うのに、こんな事って……。瞳を強く瞑り、深呼吸する。
冷静にならなければ、この場はどうしたらいい。ビビの件と黒髭の件、2手に別れるのはこの場合悪手だと嫌でもわかる。
ならば、どうするか……。カトレアは、ナノハナの隣町だもの。
けれどもその時ビビが大声でカトレアと叫んだ事で、ルフィが即座に反応して事態が動いた。そう、ルフィがビビの名を呼んだから。
「どこだビビ、それ近いのか!?」
老人はスコップを投げ捨ててビビの肩を掴んだ。ビビは必死に誤魔化そうとしているけど、これは。
「ご老人、ビビ王女の知古ですか?」
「……知古と言えるかは……だが、私はトトと言う」
その瞬間、今更記憶が戻り始める。頭痛が、襲って来る。
ビビが動揺して、それでも会話を始めたのを見ながら、戻るのが遅いのよと自分の記憶に苛立つ。中枢神経が頭痛で乱されて、体が勝手に傾く。
倒れると思った時誰かの腕が私の体を支えた。それから直ぐに診察する動きを見せた事で、マルコさんだとわかる。
「……これは、何だ?偏頭痛じゃねェとは言えねェが、1般的なそれとは随分と異なるねぃ」
「それは俺も気になってた。だからナミには薬が効かねェんだよ」
医者モードになってる2人は、それでも私の症状が出てる今を幸いとでも言わんばかりに質問攻めにして来る。今はそれどころじゃないのよ。
ビビが……と思ったら、2人に声を揃えて今は頭痛の対応が先だと言われてしまう。……解せぬ。
診察されながら私の脳内はおかしな事になっていた。ビビって、誰の事が好きなんだろう。
私を好きとか言ってたのは放置して、お兄様も投げ捨てて……。そうなると、他に誰?
……心配だわ。姫なのよビビは。
コーザかな。……いや、私はペル推しなんだけどね。
でもペルって仕えてる兵士だものね。そういう意味では幼馴染みで自衛団のリーダーなら……ダメか、平民だもんね。
って待ってよ?それなら私とビビのお兄様って初めから無理じゃない。
ビビはやったら推して来るけど、そもそも私は戦災孤児よ。即ち平民以下しかも元奴隷、となればその件は解決よね。
確かに〝読んで〟いた頃はビビはコーザを好きなのかなって思ってたけどね。でも実際いいとこ取りしててカッコイイというか、ビビを任せられそうなのってペルかなぁなんて思うのよね。
まぁ、ルフィとビビってのも王道的に人気だったけど、ここは現実だから、海賊王になったとしても、海賊と王女では色々無理があるからね。それにルフィにはハンコックがいるし。
ゾロとビビとか、サンジ君とビビもそれなりに人気だったけど、それの他にゾロとサンジ君はどちらが先に来るかはともかくとして人気のペアだったわよね……うん。難しいわ。
と、自分と言うかナミちゃんの存在を綺麗に忘れて〝1読者〟としてビビの将来と現在の恋心を考える私。そんな時チョッパーに頭を叩かれた。
「診察中だって言ってんだろ!1人の世界に入るなー!」
「……ごめんなさい」
素直に謝った私の声の直後に、ビビはトトおじさんとやらに〝笑顔〟で反乱軍を止めると約束してるのが見えた。その笑顔が泣き顔に見えたのは、私の妄想なのかな。
それからビビ、チョッパー、ウソップを残して荷物等を預けて、強いメンバープラス私と言う形で黒髭の居るという話の場所へ向かう。ここで勝てれば、原作からは大きく逸脱するけど皆が助かる。
正念場だと気持ちを引き締めて進む。でも……現れたのは見た事も無い男で……。
……だれ?
呆然としている私の目の前で話が大きく展開していくのを、脱力した為か動けなくなってその場で眺めるしか出来ない。途中子供が出て来て、話はグダグダな雰囲気に。
いや、もしかしたら感動的なシーンなのかもしれないけど、私にはもう、どうしたらいいのか分からないレベルの話になっている。そんな私をマルコさんはクスクスと笑って見てるし、サンジ君には慰めるように肩を叩かれる。
騒動が落ち着くと、残して来たメンバーには悪いけどと言って2人はこの場で別れると言うので、ダメ元でマルコさんに伝えておこうと思った。
「協力を得られるかも分かりませんし、診察されるのを白髭さんが嫌がるかも知れませんが……」
そう前置きしてから、クロッカスさんの事を伝える。海賊王の船医だった人がいると……。
これで何かが変わるか、それとも何も変わらないのか、私にはそれがよく分からない。でも、何もしないでいて〝あの時〟って後悔するのだけはしたくない。
何かやっていれば、もう少しあの時って思ったり、次に生かせる失敗になったとしても、何もしなければ何も得られないから。
それにしても……そうよね、甘いわよね。それだけ大きな変更が、こんなに簡単にできる筈が無かったのよ。
「ナミ、そんなにその黒髭って奴と戦いたかったのか?」
「……そうね、戦いたかったわ。この世で私が本気で始末したいと思った希少な相手よ」
「アーロンにも仏心出てたナミが言うなら、俺かエースか、サボの為だよな」
ルフィの言葉に咄嗟に振り向くと、ルフィは妙に真剣な顔をしている。何もかも見透かされそうなそれに、私は笑って誤魔化す。
ベルメールさんとノジコ、シャンクス達、マルコさんはバレてしまったから兎も角、他には教えるつもりなんて無いもの。隠し通す、可能な限り。
そして〝未来を知ってる〟事を知られても、転生したとかそんな余計な事は死んだって言うものかと決意を新たにする。これ以上、下手に目をつけられるのは嫌だし、皆に知られてどんな形であれ拒絶されるのは……嫌だもの。
そんな事を思っていたら、ルフィが溜息を落とした。諦めた様子のそれに、少し罪悪感がうまれるけど、仕方ないと思うのよ。
「それじゃ、世話になったねぃ。また、揃って会えると良いなぃ」
「おゥ!エースの事宜しくな!」
ルフィがそう返したら、エースに頭を殴られていた。それにルフィが反撃して、変わらないなぁって微笑ましく見守る。
「そのうち、攫いに来てやるよぃ」
「……困るわ。それに、そう言って去って行ったのはマルコさんだけじゃないのよ」
何も考えずに返した私の言葉にゾロとサンジ君まで反応して、それどころか喧嘩してた筈のルフィとエースまでどういう事かって聞いてくる。……正直怖いです。
「メリー盗んで逃げてた時、口説かれただけよ。海賊から海賊船盗んだのが楽しかったんじゃないかしら?」
色々話を故意に混ぜたけど、嘘では無い。それに納得したのかなんなのか、皆が黙ってしまった。
それからマルコさんが不死鳥となり、エースを背に飛び立つ。エースのストライカーまでは、そうやって時短するつもりらしい。
その飛び去る姿を見送ってから、私達も皆の待つ街まで帰る。戦力は減ったけど、私の知る話ではこれがあるべき姿だもの、きっと大丈夫。
油断して勝てる戦いじゃないけど、勝てない相手でも無いものね。そう思ってビビ、チョッパー、ウソップの待つ建物を目指す。
殆どが空き家だからと言われて自由に部屋を使わせてもらえたのは、本当に助かる。水は無いからお風呂って訳には行かないけど、砂漠の中で夜を過ごすのは体力の温存を考えると極力避けたい。
私とビビだけ別な部屋にしたからか、隣はいつまでも騒がしかったけど、明日に備えて私とビビは早々に休む事が出来た。ビビが眠ったのを見て、私は息を吐き出す。
……つらいだろうなと思うから。ビビの気持ちは、規模は違うけど、きっと今いるメンバーの中だと私が1番シンクロする為に分かってしまう。
涙を忘れた孤独なお姫様が、少しでも安らかに過ごせる事を祈る。そして、1秒でも早く涙も笑顔も取り戻させてあげたいと心から思うのだった。