※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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逢いたい

 必死でドフィを引っ張り上げて、少しつらそうにしているドフィを早く解放したくて、必死にその紐を解く。指が思うように動かないもどかしさに苛立ちつつ、ドフィの目隠しも取った。

 

 「ドフィ、良く頑張ったわね。……助けに来るの、遅くなってごめんね。さぁ、ロシーとお父様を引き上げましょう。手伝っ「寝てろ、ナミ」」

 

 その声と同時に腹部に強い衝撃が走る。何が、おきて……?

 誰に教わったのかと言いたくなる程に見事な当身をされた事より、私の意識は深く沈もうとする。どうしてと思ってドフィを見るけど、ドフィは微かに唇を動かしただけだった。

 もしかしたら声に出していたのに、私が音を聞き取れなくなってしまっていたのかもしれないけど。ただドフィから、恐ろしく静かな瞳が私に向けられていたのは間違いない。

 

 「もう……大丈夫だから、ナミは少し休め。ありがとう。ごめんな、無理させて」

 

 次に私が目覚めた時、私の左右にご両親が寝ていて、上にロシーが乗っていた。そして、いるのは明らかに荷台であり揺れているのだから驚きもする。

 どのくらい意識が無かったのかな。ドフィが見当たらないけど、動いてるって事は……まさか!?

 

 「ドフィ?」

 「……ナミ、起きたのかえ?」

 「馬車、操縦……」

 「ナミがしてるの見てたから、覚えたえ」

 

 これがスペックの違いか。まぁ、初期七武海は特に力入れてたらしいし、その中でもドフィとミホークについては肝入りなのは有名な話だったものね。

 私はそんな事を考えつつもロシーを落とさないようにそっと身体を起こして、ドフィに代わろうと動こうとした時馬車が止まった。それにより交代してくれるつもりなのだと思って、ロシーをその場に寝かせようとしたら冷たい声をドフィから向けられてしまう。

 

 「……ナミ、寝てろ。起きるなえ」

 「ドフィ?」

 「寝るのが無理なら、せめてじっとしててくれ」

 「どういう事?」

 

 私の問い掛けにドフィは溜息を落として、静かな声で言う。けど、眉間に皺がよっていて……なんだか酷く悲しそうな顔をされてしまった。

 

 「これ迄にナミから教わってたから、全員の応急処置はしたえ。でも、いつ傷が開いてもおかしくねェんだ。特に重症なのがナミだ。……頼むから、もっと自分を大切にしてくれ」

 「私は大丈夫よ。この位慣れて……「俺はナミの大丈夫に騙されねェぞ。慣れてようが、なんだろうが今は大怪我してんだ。命が……!危なかったんだぞ!」」

 

 ドフィが重ねるように言ったそれに、呼吸が止まりそうになる。苦しくて、切なくて……。

 ごめん、悲しませたくないと思ってるのに、どうして私ほいつも周りを悲しませてしまうんだろう。

 

 「……ロシーは分かってねェけど、俺はナミがどれだけの怪我で俺達の為に動いてたか、ちゃんとわかってる」

 「ドフィ……」

 「俺は……!俺は、ナミを喪うつもりはねェ。無理するなら、また寝かせるぞ」

 「ドフィ!」

 「……俺達の事庇って、怪我して……でも、俺達のせいで医者にもみせてやれねェ。せめて、少しでも休んでて欲しいと言う事が何かおかしいのか!?……手加減なんて出来ねェから、どうなっても知らねェけど、寝かされたいならそう言えよ」

 

 ドフィの言葉でそう言えば当身やられたんだったと思い出す。本当にドフィったら、あんな乱暴な当身、誰に教わったのよ……。

 そんな私の疑問が通じたのか、ドフィは私を見て言う。当然のように。

 

 「ナミが父上や母上を寝かせてたの見てたから、やり方はわかってる。加減は出来ねェから、怪我したくないなら、大人しく寝てろ」

 

 ……私か。私の真似したのか。

 思い返してみれば、怪我してるのに動いて怪我を悪化させようとしたりしたお父様を気絶させて運んだわ。後は過呼吸になってたお母様を殴って、寝かせたり……。

 その度にドフィは怒ってたけど、ちゃんと説明したら分かってくれて、その後似たような事があった時は、静かに見てたから納得してるんだと思ってたら……。覚える為に見てたのか。

 だとするならこれは、今度ちゃんと戦い方教えておかないと、かな。中途半端な知識では、逆に怪我をしてしまう事もあるから。

 基礎だけはベルメールさんのおかげでちゃんとしてる。その他は私の戦い方は癖があるからダメだとしても、基礎を教えて後は自分で工夫して貰えば生きて生きやすい筈だわ。

 それにしても、どこに向かってるのかな。ここは、何処なんだろう。

 

 「……進むえ」

 「何処へ、向かってるの?」

 「人の居ない、人里から離れた、自然の多い所だえ。小さな村くらいが少し離れた所にあるのが理想だえ。母上が病気を治して、ロシーが抵抗する力を手に入れるまで、安定した生活が欲しい」

 

 ドフィはそう言って馬車を動かし始めた。私は身体を枠に寄りかからせてロシーを抱いたまま、ドフィの後ろ姿を見詰める。

 どうしたって眠る事は出来そうにもないから。そしてドフィの背中に向かって声をかける。

 

 「……ドフィも、色々考えたのね」

 「ナミなら、どうするか考えただけだえ。自然が多いなら、飲める水もある。食べられる物もある。肉はそうなれば生きてるから狩ればいいえ」

 「ドフィ……」

 「全部、ナミが教えてくれた。何も無くても、作ればいい。生きるのに必要な基礎さえ身に付いてれば、どうにでもなると……」

 

 ガラガラと音がする。当然それに合わせて、振動が伝わる。

 風が髪を揺らして、頭を冷やしてくれる。そうして漸く見えてくるものもあると気付いた。

 良い環境とは言えないけど、怪我人と病人を1人で運んで、皆で揃って生きられる。あの時ドフィ達を庇った事は、きっと間違いでは無かった。

 ドフィは少しずつ口調が改善してる。多くのものを、事を、ドフィは自ら吸収して成長してるわ。

 ……この1家が降ろされたその場所が、ドレスローザであったなら……こんな事にはならなかっただろう。強く賢い、それでいて冷静な優しい男に育ったドフィがいずれ自然恋愛で姫の1人と恋に落ちて、王位を継ぐ。

 そんな形で……ドレスローザも、この家族も幸福な未来が待っていた可能性がある。だとするなら現状のこれは、海軍の責任だわ。

 ベルメールさんの存在がなければ、ゲンさんが居なければ、海軍そのものを憎みそうになる。どうして海軍は学ばないの?

 ロビンの事も、ドフィ達の事も、フランキーの事も、ローちゃんの事も、全て海軍が悪い。正確には、世界政府が悪いのだけど。

 深い溜息を落としつつ、髪が風に靡くのをそのままにさせる。腕の中にいるロシーの温もりに、生きていてくれた事にホッと息をつく。

 

 「ナミは、この先もずっと……俺達と生きていくんだろう?」

 

 ドフィからの突然の問い掛けに、私は声を詰まらせる。約束できないから。

 私はそれに、帰りたい。ルフィに、逢いたいよ。

 勿論、この家族が安定した生活をできるようになるまでは傍に居たい。けど、まだ時を移動するその力がどうして作用してるのかさえ理解出来てないのだから、当然未来に関する約束なんて出来る筈も無いのだ。

 だから私はドフィに素直に応える。嘘は、言いたくないから。

 

 「約束できないわ」

 「……どうして?」

 「私は、未来から来たの。ドフィの方が、本当は歳上でね、本来の私はまだ……影も形もないのよ」

 

 可能な限り明るく話してる私に、ドフィは言う。その声を微かに震わせながら。

 

 「……なら、帰るのか。未来へ」

 「分からないの。どうして過去の時代へ来たのかも分からないから、いつまた時を超えるのかも。叶うなら、帰りたい。ルフィの、仲間の元に帰りたい……」

 「……ルフィ、か。響きは似てるのにな」

 

 そう言ってドフィは言葉を止めた。私はただ、馬車に揺られている。

 そんな中で私は不意に小さな村を見付けて、それが農村だと気付くとドフィに言って少し立ち寄らせて貰った。そこで話を聞けば、長い事使われていない山小屋がこの先にあると言う。

 それを暫く拠点と出来ないかと考えて交渉すると、村の人は揃って首を傾げた。そんな中で、老婆が問い掛けてくる。

 

 「でも、あんたどうして旅なんて……」

 「天竜人の騒ぎ、ご存じですか?」

 「あァ、怨みを晴らすとうちの若いのも飛び出して行ったよ。それがどうかしたかね」

 

 どう言えば疑われないだろう。どう話せば同情して貰えるだろうか。

 そう考えてから、基本的に素直に話をするのが最適と判断した。勿論、多少の嘘はつくけどね。

 

 「その天竜人を追い回す為に破壊された家の中に、私達の物もあり、あちらはさながら戦場でした。……狂気に満ちた人達は、条件に近い姿をしているとそれが例え別人でも容赦無く攻撃されました」

 「……まさか」

 「父に似て、弟が金髪で……父や弟が、それと勘違いされました。安全な地を求めています」

 

 途中でハッとした様子を見せた老婆は、続く私の言葉に悲しそうに瞳を揺らした。それから山小屋のところに1家で住むといいと言ってくれて、若いのが帰って来ても何も教えないと言ってくれる。

 それに頭を下げた時、話を聞いていたらしいおばちゃんが鶏を数羽、差し出して来た。足を縛り、宙ずりにされたそれは羽根をバサバサと動かしており、砂埃が舞い上がっている。

 元気過ぎて、どう受け取れば良いのか、断るべきなのか躊躇う程。でも正直、鶏は欲しいわ。

 

 「明日、子牛も2頭ほどやるから育てたらいい」

 「え、でも……」

 「それなら、うちは羊をやろう」

 「そんな!?」

 

 次々に言われる言葉に、どう対応したらいいのか分からなくなる。ここまでの事を期待して話をした訳じゃないし、この村に永住するつもりなんてないのに。

 子供がいる家族は、鄙びた村では歓迎される。でも、これは何かが違う気がするのよ。

 

 「我々の家族が、身内が、あんた達家族に、そんな怪我をさせたなら……償わせて欲しい。恐らく我々の思いは同じだよ。誰も、大切な人に傷ついて欲しくはないし、傷付けて欲しくもない」

 

 村の人達がそう言ってくれて、私はそれを受け入れる事にした。……人は弱い。

 だからこそ、群れて生きるのだ。でも……人は強い。

 どんなに苦しくても、悲しくても、物を食べて、寝て、また生きようと足掻き立ち上がれる。大切な人がただの1人でも存在さえするなら、生きて行けるのだ。

 生きる事は難しく、死ぬ事もまた、難しい。そんな事を考えた時、聞きなれた声が私を呼んだ。

 

 「……ナミ?」

 「ドフィ、残っててと言ったのに」

 「人が、集まってた。また、何かされてるのかと思って……ナミが、心配で……」

 「大丈夫よ。優しい子ね。ドフィは、いい子よ」

 

 この小さな命を、優しい心を、私は守りたいと思わされた。その想いが理由で強く抱き締めてその頭を撫でると、ドフィは微かに手を震わせながら抱き締め返してくれる。

 そんな私達の姿に、その場に集まっていた村人達は涙ぐんだりしていたようだけど、私にはそれに気付く余裕は無かった。それを知ったのは、私に撫で回されて気恥ずかしくなったドフィが周りに助けを無意識で求めて、視線を巡らせた時の事を後から文句タラタラで教えてくれたからだ。

 こうして私は、ドフィ達1家と共に村から少し離れた山の中で共に生活を始める事となった。それは、短いようで長い期間となる。

 山小屋で貰った鶏や羊、牛を世話してその代わりに乳や卵を貰う。最初にそれを理解できていなかったドフィが鶏を1羽締めてしまったけど、それも善意でやった事。

 だから説明不足だった私に責任があるしと、それ程キツく叱る事はしなかった。それが逆に、ドフィには悲しかった様子だけど。

 鶏の羽毛と羊の毛皮が、その先に待っていた寒い時期を越えるのに役立った。作っておいた手袋はあったけど、それだけではどうしたって足りない。

 裏起毛のコートのような物を作って、お母様、ロシー、ドフィ、そしてお父様にと渡して行けば皆が嬉しそうに笑ってくれた。……見栄えは悪いけど、そこは我慢してもらう方向で。

 木の実、草、茸、川魚と水、当然山には獣が居たから定期的に肉も手に入ったし、落ち着いた環境での生活は忙しかったけど生きていくのに不自由はない。時間を作っては文字の読み書きや計算のやり方等の勉強は勿論、2人に戦い方を教えた。

 武器の扱い方を知っていれば、攻撃を躱す事も難しくなくなる。武器に慣れていれば、それだけ身を守れると考えて私は2人に戦い方を教えて行く。

 

 「踏み込みが浅い!……相手が攻撃を受けてくれない時こそ体制を保ちなさい!」

 「無理だよ!ナミが躱したから転んだのに!」

 「躱されて転んだら、相手に刺されたり殴られたりするだけよ。逆を言えば、躱した後は相手の隙をつきやすいの。さぁ!続けるわよ!!」

 「……今日こそ膝つかせてやる!」

 

 すぐに泣きそうになるロシーと、すぐに熱くなるドフィ。2人は両極端に見えて結果良く似てる。

 2人の動きを読み、それを躱すと互いを殴りそうになり激突する姿にまだまだねと笑えば2人は悔しそうに草の上に寝転んだ。そのまま休憩兼ねて勉強の時間を開始すると、風が草を揺らすそれに肩から力が抜ける。

 2人が勉強をしてるのを眺めて、それぞれが答え合わせをしてくれと持って来るまではと、私も久々にのんびりと歌う時間も得られた。その日の気分で思い出した歌を歌いながら、逢いたい人達を想う。

 穏やかな日常なのだろう。このまま、彼等が幸せに生きてくれたらそれよりも望む事なんて、あって良い筈がない。

 そんなのは分かってるのに、逢いたい。ルフィに、皆に、逢いたいよ……。

 生活が安定するのに比例して思い出してしまう、愛しい人の事。私、皆の所に、帰りたい……。

 

 「ナミ」

 「ルフィ!?」

 

 呼び掛けられたそれに、有り得もしないのに私は〝ルフィ〟と言って顔を上げてしまった。そして、それを見たドフィが泣きそうに顔を歪める。

 

 「……そんなに、帰りたいか?」

 「え?」

 「ナミが、その〝ルフィ〟しか頭に無くて、大切な仲間を想って、兄のような師匠を大切にしてるのはわかったよ。でも、俺達の事は……もう、どうでもいいのか?」

 「どうでもなんて、いい訳ない!私は、ドフィもロシーも可愛くて……!「なら!……なら、ずっと居てくれよ。傍に、居てくれ。俺が、ナミを幸せにするから。ちゃんと、守るから!」」

 

 私の不安定さを感じ取って、ドフィは言ってくれる。でも、私は……確かに可愛いし、愛しいのに……我儘ね。

 自嘲しつつ目を閉じると、瞼を閉じたそれにより落ちる涙。その直後に襲って来たのは、背中を地面に打ち付けた衝撃だった。

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