※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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響く歌声

 どうやら私が過去に飛んでいた……居なかったのはコチラでは僅か5日間の事だったらしい。私としては最低でも1年は共に過ごしていた筈だと思うし、あんなにも色々あったのに可笑しい……と思うけど、修行する時間が奪われなかった事に感謝するべきなのかもしれないわね。

 その5日間の間にクリマタクトを改良して貰ったのは終わっていたらしく、私としては数年振り位の再会に思わず全力で抱き締めて頬擦りしてしまった。会いたかった、クリマタクトが居ないとか本当に辛かったわ。

 クリマタクトが居ない事に対する、不便さと不安は言葉に出来ない程だった。心無しか、クリマタクトも寂しそうに見えるわ。

 その時巫女様が不満そうな顔で私を見て来た。何かなと首を傾げると、呆れたような声で言われてしまう。

 

 「……なんか、私との再会より喜んでない?」

 「クリマタクトはもう、私の1部みたいなものだもの!」

 

 それから私が皆的には行方不明だった時に起きた事をざっくりと説明したら、巫女様は何処か切なそうな顔をする。その気持ちは分からなくもない。

 

 「まぁ、ナミちゃんとクリマタクトはセットだものね。それにしても……ベガパンクがアイツかぁ……」

 

 そうよね……。この先で親友の二人に会えたとして、彼等は老齢となっているのだろうと分かる。

 その上現在の立場とかを考えたら……再会出来る保証もないのが、現実なんだよね。海軍に所属しているベガパンク……彼の情報はほぼ無いのが現状だ。

 そう言えばあの後、彼女は無事にベガパンクと再会できたのかな。していたらきっと、共にいるのだろうから、またいつかは会えるとは思うけど……。

 

 「おいおいおいおいおい!ナミちゃんや!宴の準備が出来とるぞ!」

 「主役が来なければ始められん!あの大食いを止める為にも、早く来てくれ!」

 「暗い顔をすな!ほれ、笑え!可愛い顔が台無しじゃ!!」

 

 次々にかけられる声に笑い、頷く。宴用の食べ物を早く食べたいと騒いでるエースに視線を向けて、お爺ちゃん達を困らせないのよと言いながら宴の席へと向かう。

 何があったのかを話した後で、私が帰って来た事に対して祝いの宴を開いてくれる事になったのだ。お爺ちゃん達は半狂乱となり、エースも自分が襲ったからなのでは無いかと、家出ではないかと不安に思って居たらしい。

 エースの件は訂正しなかったけどね。宴の席に参加して、用意された物を頬張るエースを眺めていれば、何だか穏やかな気持ちになる。

 

 「……正直に言うとね、多分ナミだろうって事は分かってたの。でも、同時に信じられなかった」

 「え?」

 

 私の横に腰を降ろした巫女様が、切なそうに私を見てそんな事を言う。その言葉の意味が、私には理解できなかった。

 私は間違いなく、誰が誰なのかすぐに理解出来たけどな。……誰と私を勘違いしたんだろうか。

 

 「ナミは、いつも1歩引いてたし、感情を表に出さなかったし、何より……私達が関わらない限り〝恐怖〟や〝怒り〟の感情を持たなかったわ。……ナミはずっと、ただ笑ってた」

 「それは、皆と過ごせた時だけが幸せで、他の感情は不要だっ「ナミはね、感情を失う事で生きてたの。心や身体をそうやって守ってたのよ。なのに、ここで会ったナミは、私の行動に〝怯え〟て〝泣きそう〟になったわ。人の影に隠れたりもした」」

 

 そりゃ、初対面の人に襲われそうになれば当然よと、そう言おうとして、当然じゃないかもと気付く。それは今のナミとして生きるようになってからの、当然で……確かにあの頃の私なら、仕方ないかと好きにさせていただろう。

 抵抗するのも無駄と、諦めて全て受け入れて……。でも、それをしたらこの世界の決められた運命により、大切な人を喪うと知り、抗う事が必要でだと気付いたのだわ。

 そして、私が傷つく事で悲しむ人がいる。苦しむ人がいると……記憶には無くても覚えていたから、いいえ、学んでいたから、私は抵抗したのだろう。

 性的な事が苦手なのはきっと、過去の影響もあるんだろう。だけど、ルフィと付き合う前は……やっぱり何処かで諦めていたんだろうなと気付く。

 この身体を傷付けたりする事に対する罪悪感があったし、痛みと苦痛に対する恐怖から抵抗したけど……そうよ、他の理由は無かった。私としては、どうでも良かったんだわ。

 ルフィと付き合ってからも、最初の内はルフィに悪いからってだけで……。私自身はどうなっても別に良いと、何処か投げやりに諦めてた。

 その後も力が及ばないのは当然だけど、やはり自分をどうでもいいと思っていたから……だから、抵抗が弱かったのかも知れない。でも、なら次に襲われたら抵抗出来るかと問われたら……無理よねと自覚する。

 相手が皆強過ぎるし、形は違ってもそれぞれ大切な人でもある。それに、この世界に生きる人達で、有名な彼等を大きく傷付けて、ルフィに何か良くない事が起きたり、運命を大きくねじ曲げる可能性が怖いのだ。

 

 「そう言えば、過去に飛んでたから思い出して百火繚乱を歌ったら……ドフィに泣かれて、ロシーに消えないでって言われたわね」

 

 気持ちを切り替えたくて言葉を口にしたら、巫女様が嫌そうな顔をした。その上で、溜息混じりの言葉を向けられてしまう。

 

 「選曲が悪いわ。そもそも、ナミが歌うには良くなかったわね」

 「なんだその歌。聞いてみたい!」

 

 私と巫女様の会話に入って来たエースの言葉で小さく口遊んで終えようとしたら、しっかり歌えよと唇を尖らせるエースに、巫女様が爆笑してギターを抱える。まさかと思ったらどうぞ?なんて言われるから歌う他の選択肢を奪われてしまった。

 

 「宴には合わないと思うわよー?」

 「リクエスト来たんだから、諦めなさい」

 

 そう言って笑う巫女様は、何処か寂しそうに見えて……この歌で傷付けないかと不安になる。私は、大切な人に笑っていて欲しいだけなのに。

 それに、帰ってからずっとシリアスな巫女様に何だかなれないのだ。勿論〝前〟はあんな変態行動は取ってなかったから、それだけこの世界の住人が好きすぎなんだろうけど。

 公表されてる全キャラの年齢と身長、好物と誕生日を記憶してるとドヤ顔してたのをふと思い出す。そのお陰で私も、結構詳しい方だとは思うけどね。

 

 「ナミが歌いますは〝百火繚乱〟です。宴には合わぬかと存じますが、その責めはリクエストしたエースにございます」

 「うわ!酷ェ!責任丸な「では、どうぞ、ごゆるりとお聞きください」」

 

 エースの言葉を遮り滔々と挨拶して見せた巫女様は、演奏を開始してくれた。ギターを手にしてたと思ったのに、まずは笛で演奏するのだからたまらない。

 それでも、曲が始まれば歌うしかない。それも、大切な人が私の為に演奏してくれているのだから。

 

 「ーーー」

 

 過去の時間軸では、夢を見る度に泣いた。皆の元へ戻りたいと願って。

 

 「ーーー」

 

 可笑しいわよね。私には心なんて、ずっと無かった筈なのに……。

 

 「ーーー」

 

 これが運命だと言うのなら、変えてしまいたい。どうかこの家族を幸福にしてください……と、その願いを込めて祈るように歌った。

 

 「ーーー」

 

 何を守れるのかな。消えた筈の時を彷徨い、私に出来る事はあるのかな。

 

 「ーーー」

 

 この道が滅びへと繋がっていない保証なんて何処にもありはしないのに、私は短剣を片手に駆け抜けた。どうしても、あの家族を守りたかったから。

 後悔だけはもうしたくない。喪って嘆くだけなんて、もう嫌だと覚えてもいないのに、そんな事を思った。

 

 「ーーー」

 

 目の前で消えて行く生命を、何も出来ずに幾度となく見送った。虹の彼方には、皆が居るのかな。

 人も動物だから、虹の袂に居てくれるといい。有名な物語のように、健康な姿で大切な人を待てるなら……きっと孤独にも耐えられるし、待たせても居られるから。

 

 「ーーー」

 

 皆の望んでいた、平和な世界になったかな。皆はそれでも目覚める事なく、天に居て……還っては来ない。

 

 「ーーー」

 

 炎は私から全てを奪ったけど、でも炎に罪は無いと知っている。けれどその炎の奥に、今もあの日の私が……私達が佇んでる気がするの。

 

 「ーーー」

 

 やりたい事とか、きっと私にもあったのよね。初めから無理と諦めて、手を伸ばす事無く砕けた夢の痕が、私の辿って来た今の人生に刻まれている。

 

 「ーーー」

 

 遺されてしまった。生きろと言われ、幸福になれと望まれた。

 それが辛くて、苦しくて、でも……それを伝える術もない。独りは嫌だと嘆いてみても、その声は誰にも届かないのだ。

 

 「ーーー」

 

 でもだからこそ、残された人達がそれを選び進めるかは、分からないわ。だって……喪った事への後悔が強く残ってるから。

 それでも、無視していいと思ってる訳でも無いの。大切な人の願いだと知っているし、逆の立場ならきっと同じ事を願うから。

 

 「ーーー」

 

 大切な人を喪った後も前も、変わらずに傍に居てくれるのはいつもの武器達。月光の中で蒼く光るそれは、何を意味しているのか。

 

 「ーーー」

 

 守りたいと思うのは、皆の叶えられなかった夢の世界。その為に、刃を振るい我が身を濡らすのだとしたら、それは構わないと思えるの。

 

 「ーーー」

 

 皆の待つ光へと駆け抜けた。眩しくて見えないような道の中で、ただ、いつかまた皆に会う為だけに今を生きているの。

 

 「ーーー」

 

 思いを全て皆に残したままだから、きっと心が散っても先へと進めるのね。もしくは……私の心が、散るまでもない程に壊れているから進めているのかな。

 

 「ーーー」

 

 焼け堕ちた道の中で、喪われた大切な人の生命。その人達の夢が空を焦がしているから、星が瞬くのかな。

 

 「ーーー」

 

 いつかは私も、あの星空の元……皆と共に居られる時が来るのだろうか。もう、誰も巻き込みたくはないと、強く思うばかり。

 歌を終えるとエースは呆然と私を見ているし、お爺ちゃん達は苦しそうな顔をしているしで、私は対応に困ってしまう。だから……私静かに立ち上がると風に当たってくるとだけ言い残してその場を離れた。

 空島の外れまで歩き、空を見上げればまだまだ上があるこの謎に、深く考えちゃダメよねと思う。風が優しく頬を撫でて、私の髪を靡かせる。

 どうしても上空であるから、肌寒くて……前に空島に皆で行った時は、暑いくらいだったのにと思えば不思議でならない。空島にもそれぞれ、季節が決まっているのかな。

 その時ふと、脳内に流れた曲。それは、私が前世と呼ばれるそれを知ったからだろうか。

 題名は何だったかなと考える。確かアニメだかゲームだかの曲だったとは、思うのだけど……。

 新選組をモチーフにした作品で、ヒロインの血を使うと鬼になると言う設定だったと記憶している。なのに、曲名が……うーん……。

 

 「あ……〝真実、the light lasting〟だわ」

 

 思い出せば後は早い。脳内で流れ始める曲に合わせて、そっと声を出す。

 それは、誰かに聞かせる為ではなく、ただ、知らされた過去を自分の中で消化する為のものでもあるのだろうと思う。ただ、どうしてかな、泣きたいと……そう思うのは。

 

 「ーーー」

 

 人生が1冊の本だとするならば、その最後のページを私は大切な人と共に過ごせた。それはきっと、限りない程の幸福だろう。

 

 「ーーー」

 

 皆と過ごせた日々は優しくて、明るくて……。私はその幸福を、痛みにはしたくないと願う。

 

 「ーーー」

 

 きっと前世でも、生まれたその時だけは愛に包まれていたのだと思う。今世ではその頃の事は分からないけど、ベルメールさんとノジコからの愛に包まれていたのは間違いない。

 

 「ーーー」

 

 前世でも、今世でも変わらない事はある。それは、大切な人達と共に歌う事が、歓びとなって私の胸に灯りを灯している事。

 

 「ーーー」

 

 何もしないで受け入れる事で、諦める事で、生きるという戦い方をしていた過去。今は受け入れられないと足掻く事で、武器を手にして戦っている。

 

 「ーーー」

 

 輝く夜空を見上げて、過去と今の星座は同じなのかなと考える。ただ分かるのは、こちらの方が断然星が多くて、線で繋ぐなんてそもそも出来るとは思えない。

 思い出すのは、美しい思い出。愛しい大切な人の笑顔。

 

 「ーーー」

 

 小さな星屑が過去を思い起こさせる時もあるだろうけど、私は立ち止まる事なんてしてはいけない。ドフィが何を犠牲にここへ帰してくれたのか、それを知ってしまったから。

 

 「ーーー」

 

 大切な人達全員と、いつまでも共に在り続ける事は出来ないかもしれない。それはこの生き方を選んだ時から覚悟してた。

 

 「ーーー」

 

 月日は無情にも、明日と呼ばれる未来を塗り替えたその罪だけを私に蓄積しながら、先へ先へと進むのだろう。放置すればこの先何時どこで、誰を奪われるのかさえ分からない。

 

 「ーーー」

 

 でもね、その時が来てもこの手を離さず、傍にいる事は出来る。たとえ身体が遠く離れていても、心の手は繋がっているよね。

 

 「ーーー」

 

 これ迄私は良いと信じて来たものを貫こうとして、皆を想って、幾度も傷付けてきた。独り善がりな私は、きっと本当の意味では誰も幸せになんて出来やしない。

 

 「ーーー」

 

 1人で深い眠りにつく事を、幾度も願い、けれど大切な人が嘆くからとそれを諦めてしまった。でも、もしそれを成功させていたならば、この記憶を思い出す事も出来ずに、大切な人達との再会も果たせはしなかっただろう。

 

 「ーーー」

 

 前世の私は皆を傷付けて、多くの人の人生を狂わせた。私が傷付けられたそれよりも、きっともっと深く皆を傷付けていたわ。

 定まっていた筈の華やかな未来を奪われた家族が、私を恨んだのは当然とも言えただろうと思う。甘えすぎていた私に、子守りはもう嫌だと思って……だから、襲われたのかもしれない。

 少しばかり私を苦しめた程度で、あんなにも歯向かわれると思わなかった彼等が、私を殺そうとしたのは自然の摂理。ただ、皆を……大切な人達をその為に奪われた事だけは、どうしても許せそうもないのよ。

 

 「ーーー」

 

 この苦しみを背負いながら、自分の足で歩いて行きたい。もう、ナミちゃんの代わりを果たそうなんて、そんな烏滸がましい事は考えずに、ナミとしてやれる最大限の事を続けて行きたい。

 

 「ーーー」

 

 それだけが私に残されている、真実。傷つけた分、苦しめた分、今度こそ……周りの人を大切にしようと思うの。

 

 「ーーー」

 

 例えこの先今繋がってる様に思えるそれが千切れてしまっても、それは別れや終わりなんかじゃないわ。乗る船が違っただけの事で、私達は同じ空の下に生きているのだから。

 

 「ーーー」

 

 信じてる現在の想いは、永遠に繋がると今なら確信できる。今世でこそ、大切な人を悲しませないように、私の為にその命が尽きたりしないように、精一杯生きないとね。

 

 「ーーー」

 

 輝く夜空に浮かぶ星達で、星座は作れないかもしれないけど……愛しい人達の名を、刻めるかも知れない。星に皆を守るように願いを込めて、名をつけてしまいたいとさえ思わされる。

 

 「ーーー」

 

 人生が1冊の本だとするならば、私の最後のページには愛しい人の名が刻まれるといい。私を見送って貰えたなら、きっとそれは何にも変え難い幸福だろうから。

 

 「ーーー」

 

 確かに私は今この場で生きている。その証に、今世になってから初めて自分で望んだ夢を叶えようと思う。

 私が、私として生きている。その証を……。

 

 「ーーー」

 

 過ぎ行く日々が未来をどう変えるか、既に分からない。分からないからこそ、どれ程眩しくても皆と共にその光の中で生きて行く。

 

 「ーーー」

 

 もしまた、最期の時が来るとしたら……今度こそこの手を離さない。星となっても、愛しい人の傍にいたいから。

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