※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

276 / 462
大切だから

 歌い終えた時、背後から聞こえた足音。それにそっと振り向けば泣いている巫女様がいて、でも、私は何も言葉が出て来ない。

 泣かせたくなんてない。大切な人だもの。

 悲しませたくなんてない。愛しい親友だもの。

 それでも、言葉にしてはいけないと分かる言葉が脳内で繰り返されているから、慰める事も、涙を拭う事も今は出来そうにない。あの時……独り、遺された絶望が、胸中を渦巻いている。

 

 「ナミ……。言いたい事、あるよね」

 「……そうね。ひとつだけ」

 「1つじゃなくていい。なんでも聞くわ。溜め込まないで、素直にそれを教えて」

 

 儚く微笑むそれに、でも、思ってた事を、素直に吐き出したいと思わされる。同時に、言えば傷付けるかもと怖くもなるの。

 でも、巫女様は私にそれを言えとその微笑みで伝えて来るから、1度大きく息を吸い込んでから言う。声と同時に溢れ出す涙を、止める事さえも出来ずに。

 

 「……っ!嘘つき!1人にしないって言ったのに、皆、私を遺して逝ってしまった!!私1人でなんて、生きられる筈も無いのに!酷い、よ!」

 「そうね、ごめん、ごめんなさい……。ナミを、守りたいって、そう思って傷付けてたわ」

 

 その言葉と同時に私をふわりと抱きしめる温もりに、涙が止まらなくなる。駄々っ子のように、癇癪起こした子供のように、イヤイヤと繰り返しか出来ない愚かな私がいる。

 

 「もう、誰も、喪いたくない……!!独りは、もう嫌!!」

 「……そうね。今度こそ、ナミを1人にはしないわ。だから2年の修行を終えたら私も「来ないで」」

 

 思わず遮った私に巫女様は息を飲む。そして、傍に居るのも、もう許せないのかと涙を流すけど……そうじゃない。

 言葉はなんとも不自由で、伝えたい事の半分も伝えられない。守りたいと、生きて欲しいと、幸せでいて欲しいと願うのに、空回りして互いを傷付けるばかり。

 大切なのに、愛しいのに、傷付ける道しか見えて来ない。守りたいのに、幸福を願うのに、結果はただ傷つけ合い苦しめ合うばかり。

 

 「私はこの2年の修行が終われば、新世界に入るわ。巫女様が共に来たら、間違いなく死んでしまう。だって、私の居場所は……麦藁の1味なのよ」

 「ナミ……」

 「だから……巫女様は王子の元へ向かって。ちゃんと会って来てよ。それでさ、タイミングが合ったらでいいから、その時は……結婚式を、私に見せて」

 「……っ!!それ、は「約束してた合同結婚式は無理だろうけど、ブーケトスで私に、次の幸運をくれると約束したでしょ」」

 

 私の言葉に言葉なく頷いた巫女様は、明日にでもアラバスタに行ってみると言うから私もそれに頷いた。そして、今日はもう休むわと日も高いのに言うから、泣いたそれを残さない為だと気が付き見送る。

 1人で残された私は、風の冷たさに身体を震わせる。大切だから幸せになって欲しいと願うけど、それよりも喪う恐怖に怯えているの。

 そんな私を背後から突然抱き締める腕があって、驚いて見上げればまだ蒼い焔を纏ったその人が、優しく笑っていた。いつから話を聞いていたのか、それとも単純に今到着したのか、それを訪ねようと口を開いた時重なった唇。

 何するのかと思って、全力で引き剥がそうにも上手くいかない。腕力に差があり過ぎるのよ。

 

 「やっ……ん!やめっ……!!」

 

 息継ぎの為に離れる隙をついて言葉を口にしても、繰り返されるそれは止まる事がない。どうして突然と思った時、その腕が震えている事に気が付いた。

 何があったのかと考えて抵抗する事を忘れた隙に、深まる口付け。立っている事さえ難しくなるような、深いそれにより口の端から零れる唾液が顎を伝い落ちて行くのが分かる。

 

 「……っ!無事で、良かった……!」

 「……マルコ、さん……?」

 「エースから、手紙が届いて……ナミが行方不明になったと聞いてなぃ。慌てて飛んできたら、歌ってる姿があってねぃ……その後、会話が終わるのを待っていたんだが……突然、悪かった」

 

 巫女様に泣きながら色々言ってたのを見られていたらしい。それは、何とも言い難い程の羞恥。

 でもその前に、心配して来てくれたらしいからとその事を謝罪しようとして、ついでだからエースに会いたいわよねと気付く。白髭海賊団は皆仲良しだから。

 

 「……ご心配を、お掛けして申し訳ありませんでした。私は大丈夫です。……あの、エースに会っていきますか?」

 

 案内しようと笑った時、エースがその姿を見せた。そして、マルコさんに無謀にも殴り掛かるから慌てて手を伸ばすけど……マルコさんはエースを躱して、けれどもエースが空島から落ちないようにその腕を掴み、その勢いのままエースを内陸側へと投げ飛ばす。

 流れるような1連の動作は既に芸術。それに対してエースもまた上手く受身を取っていて、受身をとる事を漸く覚えてくれた事に内心でホッと息を吐く。

 でもそのまま続けさせれば怪我では済まない。そう思って大声でエースを制止する。

 

 「エース!辞めなさい!」

 「なんで止めんだよ!今ナミ!キスされ「エースは、何をした?」」

 「マルコさん?」

 

 エースの言葉を遮り、低く威圧的に言葉を放つマルコさんに私まで息を飲まされる。何が起きているのか、よく理解出来てない。

 

 「エース……お前は、何をした。俺は、同意を得るまで手を出すなと言ったよなぃ!?」

 「マルコだって、今……「規模が、違い過ぎるだろうが!!」」

 

 マルコさん、そんな事を話してくれてたんだ。でもウォーターセブンでエースに襲われた後は戦争までエースに会えてなかった筈だから、何時話したんだろうか?

 そんな事を考えてる間に、マルコさんによりボコボコにされるエースを見て慌ててエースに抱きつく形で庇い止めに入ると、マルコさんから思いっ切り睨まれてしまった。でも、エースはもうロギアじゃないんだから、やめて欲しい。

 エースを抱きしめる形で庇っていたからか、エースに腕を軽く叩かれて離れるようにと示されるけど……。でも、怪我してるし……。

 

 「ナミ、俺は戦えるし、この件でマルコにとやかく言われる筋合いはねェ」

 「エース……」

 「ナミ、エースは俺の弟分だ。勿論イゾウもな。だからこそ、イゾウにも灸は据えてきたよぃ」

 

 エースを無視して私に微笑みかけてくれたマルコさんはそう言って、それから切なそうな顔をする。イゾウさんの事、気付いてた、んだ……。

 そうだよね。でも、何したんだろう。

 怪我とかしてないといいけどと思いながら、詳細を聞こうと口を開いた時には、既にマルコさんの視線はエースに戻っていた。そして、怒りを隠しもせずに問掛ける。

 

 「……エース、俺に言われる筋合いがねェだと?」

 「あァ、マルコはナミの恋人でも何でもない。怒る権利がね「俺は、エースの兄貴として、怒ってるつもりだよぃ」」

 

 マルコさんの言葉にエースは息を飲み、そして……俯いた。それから2人の話を聞いた限りにおいては、エースは私が消えたと連絡した時に、襲った事で家出されたのかも知れないと話していたらしい。

 それによりまたやったのかと思い、マルコさんは慌てて私の捜索の為に飛んで来てくれたと言う。そこで呑気に歌ってた私を発見し、その後の巫女様との遣り取りを静観していたら……その、つい魔が差したと言われた。

 けど、正直ただの駄々っ子で、何も唇を奪うような理由に該当しそうな事はなかったと思うんだけどな。とりあえず、その後で悪びれもしないエースを見て苛立って少し乱暴な扱いはしたけど、あの位優しい方らしい。

 確かにゾロとサンジ君の喧嘩に比べたら、可愛いものかもしれない。ただ、辞めなさいと殴って止められる相手じゃないところが問題なだけで。

 ただ、そんな流れの後で、エースのあの発言だ。そりゃぁ……ボコボコにするなと言われても無理があるだろう。

 

 「エース……マルコお兄ちゃんに〝ごめんなさい〟しなさい!!」

 「俺は幼子か!?」

 「違うから、タチが悪いって言ってんだよぃ。……ナミも、マルコお兄ちゃんはちょっと辞めてもらえると助かるよぃ」

 

 私の言葉に反応したエースにマルコさんが冷たく言えば、エースはションボリと落ち込む。それから続いた言葉に首を傾げると、破壊力高いからねぃと意味のわからない事を言われる。

 そんなやり取りの中でもエースは項垂れているから、それにより私はつい許しそうになるけど……。そっか、私から見れば随分前の感覚でも、エースにはまだ5日前だものね。

 記憶の旅もしたから、何年も……ううん、何十年もの長い時を離れていた気がするけど……。そうなると、随分と気を使ってくれたのだろうかと、光の塊を少し思い出す。

 まぁ、感謝する気にはなれないけど。だって私はともかく、皆が死んだのも、お祖母様が苦しんだのも、私を襲った2人も……結局全員アレの被害者な訳だもの。

 皆、あの光の塊が私を求めて、私がそれに従わなかったが故の事。つまりは……私の責任だわ。

 あの後どうなったのかを考えれば、お祖母様が心配でならないし、元婚約者も恐らくは放火と殺人で捕まった事だろう。その前の判決も出る前だったから、容疑が放火殺人に切り替わって、その前の罪があるから執行猶予がつかなくなり、名前も何もかもが公表されてしまうだろう事を思えば……。

 悪い事したなと思う。本当に私さえ、居なければ良かっただけなのに。

 

 「ナミ、エース、2人に提案がある」

 

 そんな言葉で、はたと意識を目の前にいるマルコさんに戻すと、苦笑された後で真剣な様子を見せて来た。それに息を飲めば、可笑しそうにマルコさんが笑った事で空気が明らかに弛緩する。

 

 「ナミ、まずはありがとう。エースに基礎が身に付いてるのは、ナミの指導だねぃ?」

 「本格的な事は教えられませんでした。申し訳無いです」

 「いや、大分良くなってる。雑だった動きが洗練されてるからねぃ。少将クラス迄なら、能力が無くても怪我もなく倒せると思うよぃ」

 

 その言葉にホッと息を吐き出して、でもまだまだ足りない事はわかってるから悔しくなる。どうしたらいいんだろう。

 エースが戦うのはどうしたって大将クラス。下手をすれば元帥の領域。

 なのに、少将レベルでは、この先が危険過ぎる。それに、私もまだまだ地力が足りてないわ。

 

 「エースは今まで避ける、躱す、受け流すと言う行為が不要だった。その癖を直すところから始めないとだねぃ」

 

 先程ボコボコにした時に、そんな事を確認してたのか。成程、シャンクスが会う度に欲しいと言って勧誘する訳だよね。

 そんな事を考えていたからか、続いて向けられた鋭い視線に身体がビクリと揺れてしまう。やる気のなさそうな瞳がデフォだと思ってたのに……!!

 

 「……何か今、失礼な事考えてないかよぃ?」

 「考えてません!!」

 「なら良いが。……ナミは、正直驚く程この短期間でエースを良く鍛えてくれた。だが、甘い」

 「……それは、考え方が、という訳ではありませんね」

 

 それはどう足掻いても直せそうもないから、違うと言ってくれたらいい。でも、違った場合それこそどうしたらいいのか不明だけど。

 そんな心境でマルコさんを見れば、真っ直ぐに私を見て頷いてくれる。茶化したりしない所が、この人らしい気がするわ。

 

 「あァ、それは勿論だが、それより以前の話だよぃ。まずはそもそも……2人とも危機感が足りてないねぃ」

 「危機感……」

 

 思わず呟いた私に、マルコさんは頷く。そしてエースへと視線を向けた。

 

 「エースはロギアじゃなくなった。だが、相手はエースをロギアと思って挑んで来る。エースにもその頃の戦い方が身に付いていて、それは簡単に克服できるものじゃねェ」

 「……それは、解決できますか」

 「解決できるか?……馬鹿言うなよぃ。やれるかやれないかじゃねェ。やるか、やらないかだ。やれないなら死ぬしかねェよぃ」

 

 その言葉に息を飲み立ち尽くす私に、マルコさんがそっと手を伸ばして髪に触れた。それは、嫌に優しい。

 

 「ナミがここで勉強している間、俺がエースを鍛える。そして、ナミが身体を動かす時は、エースの相手をして貰う」

 「では、マルコさんの部屋を1部屋用意し「その戦いで負けた方には、その日の夜、俺と戦ってもらう。つまり、睡眠時間が無くなるという事だ」」

 「「そんな!?」」

 

 私とエースの声が重なる。でも確かに、それなら私とエースが戦ってる間はマルコさんも休めるし、緊張感から戦いは真剣なものになるわ。

 私もエースも時間が限られている以上、チンタラした事はしていられない。でも、それは……キツイんじゃないかな。

 私は最悪の場合勉強するのを2日に1度にしたりして、睡眠時間を確保出来る。勉強量を考えたらそれは避けたいけど……可能ならずっと勉強していたいくらいだから、本当に避けたいけど……エースは?

 エースは元々がマルコさんとの戦いがあり、その後で私。つまりずっと休む間がない。身体を動かし続ける事になるわ。

 

 「……それは「時間が無いからねぃ。明日の朝から開始する。部屋は不要だよい。ただ、風呂だけ使わせて貰えりゃ良い」」

 「雨とか……降る事もありますし……」

 「雨だったら、戦わずに済むのか?」

 「……では、私とエースが戦っている間だけでも、私の部屋で休んでください。マルコさんが持たなくなります」

 

 私の言葉にマルコさんは甘いねぃと笑う。その顔が少し切なそうで、でも、それには頷いてくれた。

 でも、今夜はどうするんだろう?

 

 「……今夜は2人がゆっくり眠れる最後の日だ。俺は星空眺めながら寝るから、気にするなぃ」

 

 物凄く気になるけど、でも確かにそうなるわね。エースを傷付けたくないと言っていたら、負け続けるのは私になる。

 ルフィを導く為の知識が、それでは不足してしまうわ。でも、だからと言って私が勝ち続けたらエースの身体が持たなくなるし、エースも寝る為に必死になる筈で、なら全力で来るだろう。

 逃げられないし、避けられない。手加減したら、困るのは私。

 その上、無礼だわ。全力で挑む相手に、手加減するなんて……それだけは許されない。

 静かに息を吐き出して、強くクリマタクトを抱きしめる。全力で戦うしかない、覚悟を決めなければならないのだと言う事に今更気付かされる己の未熟さを痛感しながら。

 大切だからと訓練が甘くなっていたのは間違いない。それを多分マルコさんは気付いたのだろう。

 大切だからこそ、生きてもらう為に、マルコさんは少し厳しく思えてもこの手法を選んだ。それは充分過ぎる優しさだろうと……そう思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。