翌朝太陽が登りきるよりも少し早い頃、私達1行は挨拶を済ませて先へと進もうとした。そこへユバの水が出たからと言って、トトおじさんがルフィに託してくれる。
それはルフィにとっても、感動の事であったらしく、大切に水を首からぶら下げた。それが何だか妙に可愛い。
でも、そんな事を言ってる場合じゃない事は分かってるんだけどね……。私はルフィと1言名を呼んで、水風船に海水を入れた物を投げ渡す。
「クロコダイルは砂だから、水で固まると殴れる筈。他は、砂だから……ロギアだから、ね?」
「ね?って言われてもよ。とりあえず、これで殴れるんだな?」
ルフィの言葉に私は素直に頷く。それに対してルフィは卑怯だとか言う事はなくて、貰っとくと言うから念の為と言って後2つ渡しておく。
この程度の量ならいくらルフィでも弱ったりはしない筈だから。それから私達はお世話になったトトおじさんと言う人に別れを告げて、町を出発する。
町を出て暫く無言で歩くのは、時間が無い事を皆が理解しているのと、ビビが昨日〝笑顔〟で全てを背負う姿を見たからだろう。その姿を見て、私が村の人達やルフィ達にどんな思いを抱かせていたのか、何となくわかった気がした。
そして、もしも私がビビの立場でも同じような事をしただろうって事も。そういう意味では、私とビビの思考回路は似てるのかもしれない。
ただ、ビビは規模が違うし、王族として責任のある立場で生きて来た。そこが違う。
私には何も責任なんかなかった。多分逃げたって構わなかった。
だけどビビには逃げるって選択肢は無くて、王族だからって理由で誰にも頼れない状態にいる。王族は、笑顔が戦闘服だから、それを崩す事さえ許されない。
町を出てどの位歩いたのか。無言のままに歩き続ける私達を包む空気は重い。
そんな時突然ルフィが、枯れた木に寄り掛かるようにして座り込んだ。何があったのかと私達は足を止める。
でも、ルフィのそれをワガママだと判断したビビとサンジ君がルフィの元へ行き、叱ったり宥めたりしながら説得を試みる。だけど私はそれは違うと思うのよ。
ルフィは確かに普段はお馬鹿な事してるけど、芯はしっかりしてる。単なるワガママでこんな風に歩かなくなる事は無い。
何か理由があると思う。でも、私にはその理由が思い出せない。
私が思い出せたのは、断片的にルフィがクロコダイルによって牢へと捕えられる事と、爆弾が町に仕掛けられている事、そして……私の敵は女だと言う事位。ただ、もしも〝読んでいた〟通りなら、ルフィはクロコダイルに勝つし、ビビとはここアラバスタで別れる事になる。
どうやって勝つのかは記憶にない。でも、勝てなければその先に進む事は出来ないもの。
ビビとどんな別れ方だったかとか、そんなのは思い出せないけど、次にどうやってか行くはずの空島にはビビじゃなくてロビンが共に行く事になるから……。でも、大切な所は何も思い出せない。
倒れる程の頭痛で思い出せたのが、私の敵が女だって情報だけってどうなのよ。あの頭痛の時妙な事考えてたから、そのバチが当たったの!?
そんな事を考えてる間にも、サンジ君がヒートアップして行くし、ルフィは何も言わない。その直後、ルフィがビビに言葉を向けた。
それは明らかに言葉を武器としていて、サンジ君はその言葉を聞いて黙る。その代わりにビビをこれ以上苦しめないで欲しくて口を挟もうとしたら、サンジ君が視線で止めてくる。
……女の子に甘いサンジ君がビビを庇わずに、私を止めたなら、何かある。そう思った直後にルフィとビビは、殴り合いの喧嘩を始めてしまう。
ルフィならビビを1撃で確実に倒せるから、明らかに手加減してるとは思う。でも、その目的が分からない。
ルフィ……何をしたいの?
成り行きを見守るしか出来なくて、それが悔しくてたまらない。早く状況を理解しなければ。
まず、ビビの考えが甘いから怒ってるのかと考える。だけどそれなら、私の事をもっと日常的に怒る筈だわ。
ルフィはそういった意味では、私に甘くない。だから、甘い考え自体が悪いとは考えてない筈よ。
その時ルフィの言葉が耳に突き刺さる。そこまで来て、漸く私は理解する。
「お前の命1個で賭け足りるかっ!」
「なら、他に何を賭けたら良いのよ!!他に賭けられるものなんて私、何も……!」
ビビの震える声で、ルフィのやりたい事、言いたい事が分かった。……こんなんじゃダメだわ。
ゾロは、分かってたみたいだし、サンジ君だって1言目で理解してた。ウソップやチョッパーも、何も言わなかったんだから何となくでもわかってたんだと思う。
私だけが……何も理解出来なかった。こんなんじゃダメ、強くなるだけじゃダメなのよ。
「俺達の命位、1緒に賭けてみろ!仲間だろうが!!」
ルフィの言葉はいつも核心をつく。普段は馬鹿ばっかりしてるから忘れがちだけど、ルフィは私達の船長であり……いつかは海賊王になる男なのだとこんな時思い知らされる。
ビビが泣き崩れる。それをそっと支えるように抱き締める事しか、そのままルフィの言葉を待つしか、私には出来なかった。
会話が落ち着いて、ビビの涙が落ち着くのを待って、私達は行先を変更する。クロコダイルがいる町を……レインベースを目指す事になったのだ。
歩いて行こうとするビビを捕まえて、マツゲに2人で乗るとように言うけど頑として聞き入れない。この、頑固娘め。
仕方なく私だけマツゲに乗って先へ進み始める。暑さは変わらないけど、歩かないで済む分私は楽……な、筈。
余りの暑さに、楽してる筈の私が何故か1番弱ってる気がする。見ればチョッパーも辛そうではあるけど、頑張って歩いてるし、ビビは無表情で男達と同じペースで歩いている。
流石は生国と思わなくもないけど、それ以前に自分が情けない。とりあえずチョッパーには、アイスボールをぶつける事で応援して行く。
ビビにもと思ったのに、ビビはそれさえ拒否するのだから何とも言えない気持ちになる。なんかね……私が肩から血を流してアーロンと戦ってた時、皆はこんな気持ちだったのかなって思ってしまう。
そうなると、本当に申し訳無かったなって。他人のふり見てわがふり直せって、こういう事かしら?
「ナミはチョッパーに甘ェな」
ゾロがそんな事を言うので、とりあえずヒートボールをプレゼントしておく。理由はない。ノリだ。
それについて今までずっと冷静さを保っていた筈のゾロが騒いだけど、そんな事はどうでも良い。時々現在位置を確認しつつ目印の少ないこの島で、迷子にならないようにだけ気を付ける。
チョッパーには、定期的にクールボールを吹き掛けている。その為チョッパーは可愛くありがとうと言ってくれるから、それだけで幸せだったりする。
その笑顔が見られただけで自分の暑さなんて既に感じない。ああ、チョッパー可愛い!
「町についたら誰かに水を買いに行って貰わないとね。流石に全員で動いたら目立つもの」
気付いた時には水の奪い合いで喧嘩していたルフィとウソップにそう言葉を向ければ、町につけば水を飲めると理解して喧嘩を辞めてくれた。それによりまともに歩き出す2人に、まったく世話のかかると思うけど……そんな2人はまだ17歳なのだから仕方ないかと思わされる。
「若いっていいわね……」
思わず呟けばゾロから怪訝な視線を向けられた。
「そういや、ナミって本当は幾つなんだ?」
「本当はって何よ」
「18歳とは思えねェ位ババくせェ時があるのと、知識量がおかしい。ついでに、妙にガキっぽい所もある。正確には何歳なんだ?」
待てコラ、ゾロの見た目サギにだけは言われたくないわよ。とは言えないし、あちらの歳と今の歳を足すってのもおかしいから……うーん。
「ノジコとベルメールさんとドクターが嘘ついてなきゃ、私は18歳よ」
「微妙な言い方ですね」
サンジ君の言葉につい笑ってしまう。だってね、私の意識が覚醒したのは拾われて少ししてからなのよ。
「私がベルメールさんに引き取られた時、私を1歳と判断したドクターがミスしてたら、年齢変わるけど、それ以降は記憶あるもの。それによればあの時1歳なんだから、その後の事を計算するなら私は18歳で間違いないわ。そうね……ドクターが間違えてないなら、私が文字の読み書き覚えたのは1歳の時よ」
「お兄様!」
「へ?お兄様がいるの!?」
私の言葉にビビがそう言って飛び付いてきて、私は辺りを見渡す。でも、それらしい人影はない。
それに対してビビは首を横に振る。
「お兄様も文字の読み書きを覚えたの1歳の時なんだって聞いてます!やっと体が動かせるって言いながら必死の形相で覚えてたと聞いてるわ!」
……あぁ、同じような境遇なのね。もし、1歳以前から意識があったなら、嘸かしつらかったでしょう。涙が零れそうになるのを耐えて、それからビビの頭にチョップを入れておく。
「そんなに似てるなら、やっぱり結婚とか恋愛は無理よ。同族嫌悪か仲間意識になって恋愛にはならないもの」
「そんな!」
ルフィとのやり取りでショック受けてた時よりも盛大にショックを受けるビビに、なんだかなぁと思う。まぁ、可愛いけどね。
色々な事に気を向けて何とか進んでるけど、私はマツゲに運ばれてるだけだけど……本当に、この暑さはしんどい。日傘でもあれば違う筈なんだけど……。
日本の夏と違って湿度がないから、影さえあればだいぶ変わる筈。例え蜃気楼が見えたとしても……。
……蜃気楼!?
目をこらせば、間違いようのない立派な蜃気楼があって、蜃気楼があるなら多少は町に近付いたのだろうとホッとする。地図を確認して、惑わされないように進む。
この蜃気楼の怖いところは真っ直ぐ上空に映る時と、屈折して違う方向に映る時とがある所。追いかけて行くと町や水場から遠ざかる事もあるので、安易に蜃気楼の方に向かわないようにしましょう。
大切なのはコンパスと日の傾き、時計と地図です。砂漠に入る時はこれらと水分は忘れずに!
って、何言ってるの私。相当ダメになってる気がするわ。
そうして私達は疲労困憊の状態で夢の町レインベースを目指し、歩き続けた。町は朧気に見え始めている。