そのまま私はソファの背もたれに抱きつくようにしている間に、ウトウトしてしまっていたらしい。誰かに、肩から布をかけられた事で意識が浮上する。
「んっ……?」
「起こしたか。……まだ寝てていい。このまま連れ帰ってやるから」
その声は酷く優しい。でも、相手を誰何する必要は無い位、その声に慣れてしまってる。
ただ、その言葉を受け入れる事は出来ない。私はルフィのものだから。
冗談にしても、もう少しわかりやすい事を言って欲しい。勿論本気なら断固拒否させて貰うつもりだけど。
「ドフィ?何言って……」
「本気だと、そう言ったらどうする?」
その言葉で覚醒した脳がドフィを突き放すように動く。けど、ドフィはそんな私の手首を1纏めにすると当然のようにソファに押し倒してきた。
「ドフィ!?」
「……ガキの頃は、流石にやり方もわかってなかったから押し倒すのが限界だった。若い頃は、思い出せていなかったが……本気で孕ませるつもりだったんだぜ?」
ギシッとスプリングを軋ませ、私の身体を押さえ付けながらソファに自ら乗ってきたドフィは、触れるだけの軽い口付けを落としながら囁いてくる。声だけで人を孕ませさせる事が出来そうな甘い低音が鼓膜を震わせるけど、言ってるのは恐怖に身を震わせるしか無いような言葉。
冗談じゃないわよ。確かにいつかは子供だって欲しいけど、それは、海賊辞めた時か海賊やりながらでも育てられる実力と自信を得てからの話し。
今は時期は勿論まだ熟してないし、何より相手がドフィなんて考えた事もない。少なくとも今は、ルフィ以外の男の子を宿す予定なんて無いのよ!
「冗談言ってじゃれてないで、離して!もう……。私お風呂に入りたいのよ。長い事空にいたから、身体が冷えちゃったみたいで寒いの」
「……だから、温めてやろうと言っ「ハイハイ、いいから離して。……で、お風呂借りるわよ?」」
「あァ……分かった」
ドフィが本気だったのは分かってる。レイリーさんの言うように妖艶に攻めにいけば、襲うのが好きなタイプの男は引いて1回で終わるのかも知れない。
でも……ドフィはそれをやれば喜んで、本気で私を連れ去る気がした。本能的な何かが警報を鳴らしたから、冗談はやめろと繰り返して逃げる事にしたけど……。
下手に本気で逃げれば本気で追われるのは経験上分かってるから、とりあえず考える時間を得られる手段にしたのだ。お風呂にお湯を溜めつつシャワーを使えば、身体が冷えていたのは本当なので妙に熱く感じる。
どうやってドフィを説得したら良いのかしら。会う度に抱かれてるのだから、今回は何事も無く終えてしまいたい。
それにしても、起き抜けにあの声は不味い。この世界の有名所は、皆声が良すぎるのよ……!
アニメで見ていた時と同じ美声が、私を襲うのだ。皆……声が、良すぎるっ!
シャワーでそんな文句を1緒に洗い流して、でも解決策が何も思い浮かばない現実に脱衣場で打ちのめされる。どうしたらいいのかしら?
何より困るのは、あの巨大な体格に育ったドフィがどうしてもあの頃の少年の面影を残してるところに問題がある。……つまり、可愛いのだ。
座ると引き摺りかねない長さになった髪の毛は、前よりも絞るのに苦労する。……どうしても、切っちゃダメかしら?
「いつまで脱衣場にいるつもりだ。まさか、逆上せたのか?」
「……髪の毛が」
1応嘘偽りなく髪の毛の水と戦っていたので、それを素直に言えば、1瞬の間を置いてドフィの爆笑する声が聞こえてくる。それが妙に癪に障るのは、どうしてかしらね?
「ナミが髪拭くの下手なんだって事は知ってるから、さっさと出て来い」
ムスッとしながら顔を出せば、手招きされる。素直に従うとタオルを手にして、妙に優しい手付きで髪を拭いてくれるから文句も何も言い出せなくなってしまう。
髪の毛から雫が落ちなくなった時、ふと笑った気配がしてなんだろうと首を傾げる。そんな私の髪にドフィはそっとキスをするから、言葉を失ってしまいそうになり慌てて声を絞り出す。
「……キザな事、するようになったわね」
「ナミにしかしてねェよ。なァ……ナミ」
言葉をそこで切るとドフィは私をひょいと抱き上げて、次の瞬間ベッドに当然のように落とされる。それに対して眠いのかなと思ってその頭を撫でれば、その頬を赤く染めた。
「お前はー!まァ……そういう反応になるだろうとわかっちゃいたがな」
「ドフィ?眠いんでしょ?今日もお仕事して来たんだもんね。偉かったわね、お休みなさい」
「本気なのはわかってるが、それが牽制でも辞めてはやらねェ」
まだ寝たくないのかと思って、頭からその背に手を移動させる。背中を軽く叩いてあげれば眠れるかと思ったのだけど、ドフィはそんな私を強く抱き締めて来るばかり。
……私、ぬいぐるみとか抱き枕じゃないから、そんなにぎゅうぎゅうされると苦しいんだけど!?
いやこの際ぬいぐるみだとしても、綿が飛び出すから!変形しちゃうから!!
そう思って睨んだら、精悍な顔が目の前に移動してくる。激情に満ちた瞳に映る私の驚いてる顔まで、しっかりと確認できてしまった。
顎を掬うように指先で固定され、ペロリと舌先で唇を舐められる。擽ったくて、同時に何するのよと思って抗議の為に唇を開けば、その瞬間しまったと思う。
指先しか使ってない筈のドフィから、顔を背ける事も出来ないで、キスされると思った時には吐息まで奪われる。歯列を割って素早く忍び込んで来た強引な舌に、口蓋の奥や、舌の裏や、感じやすい場所をくまなく探られていた。
飢えを満たそうとするかのように、食み合う唇をの間から勝手に甘い声がとめどなく漏れて部屋に満ちる。苦しいばかりなら、もう少しまともな抵抗もできるのに……!!
新たな角度を探して離れた隙間から、怪訝そうな声が問い掛けて来る。それは少し拗ねてるようにも思える程。
「なんでナミはキスがやったら上手いんだ?誰に仕込まれた?」
「え?」
「いつキスしてもナミは上手いんだよ。嫌がってる癖に。……攻める上手さは知らないが、受け止める上手さは尋常じゃねェぞ」
「えーと、誰、だろう?」
ルフィなら最初の時はそれに該当しない筈。それだとするなら、待って、私のファーストキスはエースになる筈よね。
でも、エースは拙かったし……それで行くと過去の経験?でもそうは思えないわよね。
あの二人が上手かったなら、シャンクスにあんなに翻弄されたりはしなかっただろうと思うもの。あの二人が違うとするなら、やっぱり……。
「……シャンクス?」
「この状況で、よく素直に名前あげたなァ?それも、麦藁じゃねェとは、良い根性してやがる……!!」
何故かいきなり憤慨したドフィが、まるでお仕置だと言わんばかりに、更に濃厚な口付けを仕掛けてくる。唇を甘噛みされ、舌を痛い程に吸い上げられ、絡まった唾液から恐らく先程呑んで居たのだろうワインの味まで感じてしまう。
その間にも存外器用らしいドフィの手は私の肌を撫で、鎖骨のラインを辿りながらカーディガンの釦を外す。それが終わると同時に、当然のように胸の尖りを弄り始める。
それだけの刺激で、望んでもいないのに堅くなっていくのを自覚する。まるでもっとと言わんばかりにいやらしく立ち上がってるそれに、泣きそうになってしまう。
「もっ……やぁ!!」
息継ぎの間に叫ぶように言えば、ドフィの顔が不愉快そうに歪んだ。でも、不愉快なのは私の方よ!!
「俺はナミに惚れてる。ナミが欲しい。……優しくしてやってるだろう。何が不満だ」
「全部不満よ!そもそも私は、ルフィじゃなきゃ嫌なの!!」
「……俺の事、嫌いなったのかぇ?」
「ドフィ……」
動揺してしまう私に注がれてる視線が、語られる言葉が、気恥ずかしくなる程に甘ったるい。熱を込めて、ドフィは言う。
「俺はナミが好きだ。愛してる。俺のものになれ」
あまりにもどストレートな言葉の羅列に、何を言えば良いのか分からなくなる。混乱する私にドフィは言葉で攻撃するように、紡ぎ続けた。
「俺をまた、捨てるのか……?」
「私、捨てたんじゃ……!!」
「ルフィしかいらないと、俺を拒むナミのそれを受け入れたら……ナミは俺に代わりに何をしてくれる?」
「そ、れは……」
他なんて、何も出来る筈ない。でも、嫌なものは嫌なのよ。
泣きそうになってドフィを見て、あの時送り出してくれたそれを思い出してしまう。記憶を失うとわかっていて、それでも私をここに帰してくれた優しい少年なのだと知っているのだ。
「ナミの意見だけ押し通そうってのは、虫が良すぎやしねェか?ナミが嫌なら辞めてやってもいいが、代案を示せよ」
「ドフィ……ごめん、ごめんね……」
「謝らなくていい。他に出来る事が思い浮かばないなら、観念して俺に可愛がられていろ」
優しげな声で、残酷に紡がれる言葉。それに言葉を失い、ドフィの視線から逃れるように俯いてしまう。
「……なっ……!?」
「俺にはもう、ナミだけだ。父上も母上も他界した。残るロシーも〝行方不明〟だしな」
悲しげに紡がれた言葉に思わず顔を上げるけど、まさかロシーが生きてるなんて言える筈もない。私は、ロシーが自らドフィの前に姿を見せるその時まで、それを伝えてはならないと分かってる。
でも、そうなると今目の前で苦しんでるドフィはどうなるの?
「俺には、ナミだけだ」
繰り返されるその言葉。でも、同時に知ってるの。
だから、騙されない。ドフィは独りじゃないわ。
「ドフィには、ちゃんと〝家族〟がいて……可愛い女の子達が沢山傍に居るでしょ。騙されないわよ」
「……それは、妬いてくれてるのか」
「はぁ!?」
「いいな、もっと妬いてくれ」
折角の精悍な顔が、脂下がった笑みに緩む。それを指摘しても嬉しいからなと言うそれは、既に何語を話されてるのか不明な程。
耳朶を噛まれて湧き上がった疼きは、濃厚な蜂蜜のように全身を溶かしていく。身体は心とは別な判断をしたらしく、受け入れようと、快楽に流されようとする。
「セフレや愛妾達は全て切る。ナミがこれから毎日たっぷり満足させてくれるなら、他は面倒なだけだ」
「セフ……!?」
「あ……?あァ、元王女はファミリーだから傍に残すが、抱くのはナミだけにする。問題はこれでないな?」
「問題だらけよ!!私は今だけだってヤダって言ってるのに、どうしてずっと1緒にいて相手しなきゃならないのよ!!」
「俺が、求めてるからだ」
真剣な顔で、声で、傍若無人な発言を堂々と言い切る。それに唖然としてる間に、ドフィは手早く流星錘を外し、ビキニ毎ズボンを下ろしていく。
剥き出しにされたと気付いて慌てて隠そうとしたけど、ドフィはそれを許さない。伸し掛って来た身体に、あっという間に両膝を割られてしまう。
「いやっ!!ドフィ、辞めなさい!!」
「断るぇ。……好きな相手を欲しがって、何が悪い」
わざとだろう。幼い頃の口調を使う事で私の逃げ場を、思考能力を奪っていく。そんな時突然胸の先にちりっと痛みが走る。
身体が震えて、私は無意識で縋るようにドフィに視線を向けてしまう。ドフィはその時、私の乳首に歯を立てていた。