※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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ルフィのもの

 私はただ、ベッドに落とされただけ。シャンクスはただ、私を見下ろしているだけ。

 その状態で起きた沈黙。恐ろしい程の緊張感に呼吸さえ忘れそうになった時、シャンクスが唇を動かした。

 

 「……ナミは少し学んだ方がいい」

 

 淡々とした声を落としながら見つめてくるシャンクスの双眸に、1瞬吸い込まれそうになる。呑まれそうになるのを自覚して、震えそうになる自分を必死で律するのが精一杯。

 

 「ナミの気高さは、俺達位の格になった男には……甘美過ぎる。そして、海賊稼業をしているような奴らには、ナミの甘さは麻薬と同じだ」

 

 シャンクスは口角だけで薄く笑い、威圧感を放ってくる。甘ったるい口説き文句を言われるより、この緊張感の中にいる方がらしいと思わされてしまう。

 

 「そういった奴らに1度狙われたら、1人でいる限り永遠に追い回される。ナミにできるのは、より強い男を選び、それに守られて生きる事だけだ」

 

 口調は厳しくない。だからと言って諭すような優しさもない。

 突き放すような苛立ちも見受けられない。ただただ淡々と、真実として言葉を告げているだけ。

 

 「気高い精神と、孤高の矜恃。それに見合わない甘さと、何処か抜けた考え方。……その上持ち合わせている天才としか言えない多彩過ぎる才能だ。狙ってくれと世界に発信しているようなものだと自覚しろ」

 「そんな、の……!ルフィの仲間は皆、そう言うのが集まってるのよ!だから私はこれから仲間と守り合い、支え合って行く為に……生きる為に合流しようとしてるの!」

 

 自覚なんて出来る筈もない。私は2度目の人生であり、過去に得ていた知識を使って稼いだりしてるだけで、私自身に何かの価値がある訳じゃないもの。

 元々持っていた、本来ならナミちゃんがやるべきだった事をやれるだけの能力はあるけど、それは元々この身体がナミちゃんのものだから。私は、甘いんじゃなくて臆病なだけ、我儘なだけだもの。

 喪いたくないと、傷付けたくないと足掻いてるだけの我儘な子供。そんな私の性格や行動が、狙われる理由になるなんて思えないわ。

 

 「その合流を果たす前に、実際天夜叉に見付かり、捕らえられ、犯されただろ。……そして今、俺に抱かれようとしている」

 「望んでないわ」

 

 冷たく言い放つ私にシャンクスは1歩、足を近付ける。それに合わせて私の身体は、ベッドの上でゆっくりと後退するように動く。

 

 「……この場合、ナミの意思は関係無い。諦めろ」

 「やっ!私、ルフィじゃなきゃ嫌!シャンクスの馬鹿!シャンクスなんか、そのトレードマークの髪の毛全部抜けて禿げちゃえば良いのよ!!」

 

 伸ばされた手を咄嗟に振り払うように蹴り飛ばして、可能な限りの距離を取る。でも、ベッドから降りれば多分本気で襲われるのは間違いないから、ベッドの奥へ逃げる他選択肢が無いのだけど。

 シャンクスは、この海をおさめる王者として生きた男のクルーだった。そして今は、自らがそこに辿り着き同率2位として牽制し合うそれの1角。

 だから彼等は四皇なのだ。王では無く。

 縄張りを広く持ち、傘下を多く従え、王ではなく皇帝として君臨する者達だから。王とは1国を統べる者。

 皇帝とは、諸国を統べる者。つまりは、他国の王を従える存在なのだ。

 そんな相手に比べたら、確かに私はちっぽけな存在でしかない。いつかはルフィがその場所に到達すると確信してるけど、そこに到達するのはルフィであって私ではないのだ。

 ……わかっていても、ルフィにただ守られる存在ではいたくないのだ。守られて、甘やかされるだけの人形なんかでいるつもりは、私にはない。

 爪が掌にくい込むほど握り締めて、シャンクスを睨め付ける。何も勝てるものなど無いけど、気持ちでは負けたくないから。

 私は嘘でもシャンクスを嫌いだなんて言えないし、不幸だって願えない。傷付ける事なんてできる筈もないから、言える言葉だってこんな幼稚なそれが精一杯なのだ。

 

 「わかった……」

 

 シャンクスは私にそう言ったと思うと、流星錘を解いてくれた。それにホッと息を吐き出した時、シャンクスが私の着ている服に手を伸ばす。

 ハッとして押さえようとしたその手を軽く振り払われて、告げられる。問い掛けのフリをして、これに拒否権は無いと伝えられた。

 

 「借りてる服を引き裂かれたいのか?」

 

 身体が硬直した僅かな隙を見逃さずに破く事無く綺麗に脱がされたそれは、けれどもベッドから手の届かない所に投げ捨てられてしまう。それにより震えてしまう身体を抑えられずにいれば、シャンクスは裸体を晒す私をじっと見据えてきた。

 

 「……お前な……。卑怯だろ、それは」

 「シャンクス……」

 「俺が、怖いか?」

 

 問い掛けてくるその声が、異様に優しい。でも、望まない行為をされるとわかっていて、怯えない筈が無いでしょ。

 泣いて、喚いたら辞めてくれなら、それくらいしてみせる。でも、きっとそれをしても宥めながら、甘やかしながら、シャンクスは私を抱くだろう。

 逃れる手段が見付からない。抵抗する方法すら分からないのよ。

 視線を向ける事さえ出来なくなって、震える声で答える。情けない自分を晒す他、選択肢が無いのだ。

 

 「……うん……。怖、い」

 「……素直になったな。だが、煽ったのはナミだぞ」

 「え?」

 

 シャンクスの言葉に驚いてその顔を見れば、傷付いた瞳をしていた。先程までの王者の風格なんて、もう欠片も残っていない。

 ただ、傷付いた少年が泣くのを我慢してる姿にしか見えないのだ。そんな姿を見てしまえば、手を伸ばさずには居られない。

 理解してるのに、認めたくなかった。わかってるのに、否定して来たのだ。

 それでも本当に、私はシャンクスも愛しているのよ。愛しい男が傷付いていて、どうして突き放せるだろう。

 何故か、苦笑するルフィの顔が脳裏に浮かんだ。ルフィは今の私を見ても、苦笑するとでも言うのだろうか。

 でも今は、いくら考えてもその答えは出ない。だからまずは目の前にいる人に集中する。

 

 「シャンクス……ごめんなさい。そんなつもり、なかったの」

 「知ってる。ナミはルフィを愛しているから、他を拒絶してるだけなんだってのは。そして、元々の言動が甘過ぎるから、男が勝手に期待しちまうんだってのは……わかってるのに、な」

 「シャンクス……愛してるわ」

 

 泣かないでなんて言えない。我慢してばかりの、強がりな少年だから。

 泣いていいよ、とも今は言えない。今の私には、それを全て受け止めるだけの強さは無いから。

 だからこそ私は、シャンクスに想いを伝える事にした。だからと言って、全てを受け入れるつもりなんてさらさらないけど。

 抱かれるつもりは無い。でも、傷付けたり苦しめたりする気もないの。

 我儘なのは理解してるけど、嫌なものは嫌なのよ。そう思った時、シャンクスが困惑した様子で私を見据えて来た。

 

 「ナミ?」

 「私はシャンクスも愛してる。……認めたくなかったけど」

 「おい、地味に傷付くから、後半ボソッと付け足したの取り消せ」

 「無理よ。本当の事だもの。私、シャンクスを師匠としてとか、兄としてとか、家族としてとか、友人としてとか、色々言い訳してたけど……ちゃんと男として愛してるって気付いてた」

 

 私の言葉を受けて、シャンクスの表情がパッと明るくなる。両手を大きく広げて、満面の笑みを浮かべるけど、その先の言葉を言わせるつもりは無い。

 

 「ナミ、なら……「でも!私はもうルフィのものよ。ルフィを裏切るつもりは無いわ。……多分、シャンクスが私の初恋だったし、その後もずっと想っては居たのよ」」

 

 シャンクスがそれなら俺にしろと言い出すのを防いで言葉を続けたけど、シャンクスはそれに嫌そうな顔はしなかった。それどころか、嬉しそうに笑う。

 ニコニコって効果音が聞こえそうな程。……大型犬が尻尾振ってるように見えて来るのが、怖い。

 ここで絆されてなるものか。いくら犬っぽくて可愛くても、シャンクスがした事は、許してはいけない事なんだから。

 

 「だからこそ、シャンクスに無理矢理抱かれた時悲しかったし傷ついたんだと思う。他の人の時は、そんなに苦しまなかったもの」

 「それは、悪かったが……俺も健康な大人の男なんだ。それは、理解してくれ」

 

 目の前に美味しそうなのがいたら、耐えられる訳が無いと続いたそれに、そりゃナミちゃんのスタイルだものねと思う。何せ、不二子ちゃんとスタイル同じなのよ?

 私の記憶が正しければ、どんどん成長してたからきっとその内それさえも超えるのだろうけど。……でも、容姿的な意味だけならロビンの方がシャンクスに合いそうなのに。

 

 「無理よね。ロビンの方が大人過ぎるわ」

 「……おい、今俺を他の誰かと並べて考えただろ。俺は、ナミがいいんだっての!」

 「私は、シャンクスを選ばないわ」

 

 そう〝選べない〟し〝選ばない〟と決めてる。想いを伝えたから、それで満足して貰えると本当に嬉しいんだけど。

 それでもシャンクスは本気の眼で、本気の声で言う。真剣なその顔は、誰が見てもいい男だろうと客観的に思うのは、脳裏で笑うルフィの存在が大きいと思う。

 

 「選ばせてやる」

 「……私の男は、未来の海賊王だけよ」

 「俺には、それは不可能だと?」

 「いいえ、シャンクスの方が断然近い。そんなのはわかってる。でも……私が本当につらい時、助けてくれたのはルフィだった。誰に何をされても、支えてくれて、包んでくれるのはルフィなの」

 

 シャンクスは黙って話を聞いてくれるけど、服を返してはくれない。それどころか自分まで脱ぎ始めるんだから、どうやってこの場を切り抜けるかと頭が痛くなる思いがする。

 

 「……ルフィはシャンクスを目標にしてるし、2人とも似てると思うけど、それでも……私はルフィに捨てられるその時まで、ルフィのものでいると決めてるのよ」

 「……捨てられたら、考え直してくれるのか?」

 「人の不幸を願う人とは1緒になりません!……でも、もう自分の中にあるシャンクスへの想いを否定しないわ。私はシャンクスの事も男として愛してる。ただ、それでも私はルフィのものだってだけ」

 「残酷な女……」

 

 そう言ってシャンクスは私に口付けると、そのままベッドに倒れ込む。すかさず踊り込んできた獰猛な舌が、辞めるつもりは無いのだと告げて来るけど、私もまた受け入れるつもりは無いと足に覇気を纏う。

 けれども舌を引き抜かんばかりに吸い上げられては、息苦しさに身じろいでしまい覇気が解除されてしまう。そうして逃げようとした首筋を逃がすまいとするかのように添えられた長い指が、巻きとった髪を痛い程にくしけずる。

 

 「んっぁ……!シャンクス、やだぁ!」

 「ルフィに男に抱かれた事を隠せないなら、俺に無理にされたと言えばいい。……ちゃんと今は帰してやるから……今夜は、俺の腕で鳴け。嬉しくて、暴走しちまってるから、止まれねェ」

 「んっ!やっ……!」

 

 繰り返される口付けは獰猛で、嬉しいのだと口では言ってるけどその行動は明らかに嫉妬だと分かる。なのに酷いと嘆く事さえ、今の私には出来ないと知っているのだ。

 自分が逆の立場ならどうするか考えた時、きっと嘆くだろうと思うから。ルフィにハンコックもナミも愛してるけど、俺はハンコックを支えると決めたから……なんて言われたら、きっと身も世もなく泣き暮らすだろう。

 でも、嫌いなんだとか、そんなふうに思えないと言われ続けるよりはマシだと思ったのよ。……いつかもし、ルフィがそう言って私から離れたなら……航海士としてだけでも〝使って〟貰えるかな?

 微かに痛む胸に眉が寄るのを自覚しながら、それでも願う。使えるなら、壊れるその時まで使って、傍に置いて欲しい……と。

 そう考えた時、シャンクスが首筋に噛み付いてきた。その痛みに思考がシャンクスに戻ると、怒りを隠さない瞳とかちかあう。

 

 「こんな時位は、余所見をせずに俺だけを見てろ。……そもそも、俺にされて悲しむならまだしも、俺にされながら別な事で悲しむなよ」

 「シャン「俺はナミを傷付けるのは、本意じゃねェんだから」ならやめてよ。したくないんだってば」

 

 言葉を重ね合う私とシャンクスのそれは、キスの合間に続けられる。辞めない、抵抗するなら縛り上げて孕ませてやるなんて言い出すそれに、帰してくれるって言ったのにと怒鳴るとか……。

 本当に子供のように、でも子供では有り得ない状態で互いに言葉をぶつけ合う。……どれ程互いに想っていても、1番には持って行けないのだ。

 私にはルフィや仲間がいる。シャンクスにもまた仲間達や傘下の船団がいる。

 シャンクスは全て捨てて来いと言うけど、それならシャンクスがそれをできるのかと問えば答えに詰まるのだから、それ以上を言う権利は無い。私に捨てろと言うなら、自分も捨てて見せてもらわなければ認められない。

 私は女が男に従うべきだなんて、そんな考えは持ってないもの。他の男と会うなと言うなら、自分は他の女と会う権利はない。

 条件は同じでなければ破錠してしまう。相手に制約をかけるなら、同じ制約を自らにもかけて貰うわ。

 ルフィは私を束縛しないから、私もルフィを束縛しないで居られるの。ルフィは私を常に許して、支えて、甘やかすから……だから私もそれを返せるのだ。

 

 「私、恋人とか、伴侶とは……対等でいたいの」

 

 跡取りだから私が上だとか、女だから半歩下がってついて行くとか、そんな考えが傷つけ合う結果を産んだ。ルフィになら使われるのも構わないと思うのは、恋人だからって言うんじゃなくて……海賊王になるルフィの支えになりたいと願っているから。

 ルフィの夢を支えたい。そして叶ったのならば、その状態を少しでも長く維持させてあげたいの。

 だから私は、ルフィになら使われたい。恋人としては不足だと言われても、傍にいたいの。

 

 「ナミ?」

 「恋人や伴侶である筈の相手と、どちらが上とか、どちらに従うとか、そういうのは嫌なのよ」

 「……ルフィには従うだろ」

 「船長としてのルフィには、ね。ただのルフィには従わないどころか、私が叱って指示出してるわよ。……それに」

 「それに?」

 「シャンクスが腕を犠牲にしても構わないと、ルフィの未来に賭けたように、私もまたルフィの未来に賭けてる。私は、ルフィになら使って欲しいと思ってるわ」

 

 その言葉にシャンクスは成程と笑うと、色々ケリつけて覚悟決めたら迎えに行くなんて言い出す。それに私は、迎えに来てもついて行かないわよと笑い返して、その股間を蹴りあげる。

 その隙に逃げようとしたけど、シャンクスはされると思ってたのか覇気を纏っていたらしくノーダメージ。そのままお仕置だと重ね直される唇から、私は逃れる事が出来なかった。

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