夢の町レインベース。そこに到着するのと同時に、ルフィとウソップが駆け出して行き、残りのメンバーでそれを静かに見送った。
1番楽をしていた筈の私が、何故だか1番消耗してる気がする。本来なら、チョッパーがこうなってる筈なのに、なんて情けないのか。
チョッパーは雪国仕様の体だし、まだ幼いからと思えるけど……。このままでは私、足手纏いになるわ。
「ビビ、少し休んどきなさい。この後は走り回る事になるわよ」
「……なんで、言いきれるんですか?」
「ルフィが町に行ったからよ。騒動を起こさないでなんて、ルフィが居られる筈ないもの。安心して、いつでも走れるように準備しておいて」
私の言葉に全員の声が揃う。何処が安心できるのかと。
そう言われてもねぇ?
皆の呼吸が落ち着いた頃、案の定ルフィが海軍に追われながら走って来た。それに皆で頷き合って走り始める。
未来が分かる事を言わなくても、例え未来が見えなくても、ルフィの事はだいたい分かる。でも、本当に大切な事は分からないから、もっと理解できるようにならなきゃこの先には進めない。
ルフィと言う生き物の事を、もっとしっかりと把握して……真っ直ぐに突き進むルフィの隣を共に進んで行きたい。だから、私はまだまだ強くなる必要があるし、賢くなる必要がある。
海軍から逃げながら私達は〝鰐の家〟で集合する事にして別れて走る。逃げ回る途中ウソップと2人になり、どうしようかと思った時ウソップの機転で敵を退ける事が出来た。
集合場所となる鰐の家……即ちカジノの入口で敵に囲まれてしまえば、クリマタクトを握る手に力が入る。1般市民を巻き込まずに、海兵だけに雷を落とせるか……。
もしくは私とウソップをこの場で姿だけかき消して逃げ込むか。でも、ウソップにそれをどうやって伝えたら良いか分からない。
どうしたらいい。何とかしないといけないのは分かるのに、どうしたらいいのか考えが纏まらない。
焦り混乱する私と、敵に囲まれて冷汗をかくウソップ。どちらにしてもウソップは守らないと、そう強く思いクリマタクトを構える。
そこにまさかの蹴り技で敵を倒してくれたのはゾロで……。それにホッとしたのも束の間、ルフィがケムリンに追い立てられながら姿を見せる。
仕方ないとカジノの中に逃げ込み、私は人混みの中にさり気なく紛れ込む。その傍をルフィがクロコダイルー!と叫びながら駆け込んで行くのを見送る。
さぁて、どうしたものかしらね。とりあえずルフィ達がVIPルームに突入するのを見送り、クロコダイルとロビンがこの場を通る筈だと知識を頼って待機する。
ただ立ってるのも時間の無駄かと近くのバーに寄って、飲み物を頼む。それから徐ろに立ち上がると友人でも見つけたように装って、お代をちょろまかしておく。
これだけ迷惑かけられてんだから、少しくらいいいと思うのよね。……あ、このお酒美味しい。
クロコダイルとロビンがその時姿を見せて、VIPルームへと消えて行く。その通りすぎる姿に、自然とほぅっと息がもれる。
「やっぱり綺麗。お母さんと瓜2つね」
その後少しの間を置いて、仲間は居ないけど仕方ないかと2人の後を追って行けば、そのタイミングでドアが閉められそうになっていたので、呼ばれたんだけど?と艶やかな笑みを浮かべてみる。それにより通して貰えたので、無事に後をつける事が出来た。
本当なら、サンジ君やビビの到着を待ちたかったんだけど……。そんな事を言っていたら、ルフィを助け損ないそうな気がしたのよね。
そう思っていたけど、到着した先では何故か仲良く皆捕まっていて、その中にはケムリンまでいて喧嘩しているのが見える。更にはその皆が捕まってる檻の前でクロコダイルは優雅に寛いでいて、ロビンはその姿が見えない。
途中でロビンは外への道を行き、ビビを迎えとは名ばかりに捕らえる為に……って所かしらね。だとしたら確か、この後は。
原作の記憶を無理に掘り起こす。頭痛がしようが目眩がしようが構いはしない。
少しでも情報が欲しい。いっそ割れてくれたらどれだけ楽だろうと思うような頭痛の中でビビが攻撃を仕掛けて、弄ばれて、ルフィ達の牢の鍵を水の底に落されるのが見えた。
なら、それを盗めば良い。それこそ私の得意分野。
レインテンポを使えば、クロコダイルをルフィが殴れる筈だもの。私はルフィを助けさえすればいい!
「もう少し待て……。まだ、主賓が到着してねェ。今俺のパートナーに迎えに行かせた所だ」
「……それは、ちょうど良かったわ。サー・クロコダイル」
私が姿を見せれば、牢の中から私を呼ぶ声が聞こえて来る。それに対して、クロコダイルは怪訝そうな視線を向けて来る。
当然よね、私の情報はクロコダイル達に無いのだから。暫し互いの視線が絡み合い、私はそれにふっと笑う。
「不思議?情報に無かった仲間が居て。私はMr.2が船に来てた時、船内に居たから会ってないのよ」
「……そういう事か。何故無言で俺に攻撃を仕掛けなかった?」
「……気付いてたでしょう。私が後をつけてる事。それならどちらにしても奇襲にはならないもの」
「頭は、悪くなさそうだな。お嬢ちゃん」
会話をしながらも立ち上がる気配も見せない。それでも私は、どうにかして胸元に潜り込む必要がある。
普通に攻撃したのでは、無意味。なら、ゆっくり歩み寄り何とか接近戦に持って行くしかない。
クロコダイルの能力がロギアである事、私がただのお嬢ちゃんだと言う事、この条件からクロコダイルは私を甘く見てる。だから、今が最大のチャンス。
「ナミ!辞めろ!何するつもりだ!」
「ルフィ……。大丈夫よ。ルフィさえ無事ならなんとでもなるんだから、今は大人しくしてて」
「随分と信頼ある船長のようだな。麦藁のルフィ」
私とルフィの会話にクロコダイルが言葉を挟む。それに視線を向ければ、暫し無言で居たクロコダイルが肩を震わせた。
「信頼……」
呟きは嘲りに満ち満ちている。どれだけの絶望を見たのか、どれだけ心を折られたのか、その瞳に1瞬宿ったのは孤独だろうか……?
クハハと笑うクロコダイルは、嘲笑としか表現出来ない言い方で言葉を投げ捨てるように言い放つ。葉巻の煙と共に。
「この世で最も不要な物だ」
その言葉が放たれた時、背後から聞き慣れた声が聞こえて来た。しまった!遅かった!
「クロコダイル!」
牢の中からビビを呼ぶ仲間の声、ビビを馬鹿にするクロコダイル、そして、それに激昂するビビ。ビビがクロコダイルに攻撃を仕掛けるから、私はクロコダイルの体が移動してビビを抑え込むタイミングで地を蹴る。
ビビを抱えてクロコダイルの隙間を縫うように移動すれば、その時何とか鍵を抜き取るのに成功する。驚いた様子のビビから手を離して、クロコダイルに向き合う。
「……早いな。六式使いか?」
「そんなに使えないわよ。それよりも、うちの可愛いお姫様を虐めないでくれない?」
「ナミさん……」
背後でビビが私に声をかけてくる。今は振り向いて頭を撫でてあげる事は出来ないけど、必ず守るとクリマタクトを強く握る。
「……紐と棒を使う2人のお嬢ちゃん、か。随分と……甘い航海をして来たようだな。お坊ちゃん達」
クロコダイルがルフィに言葉を向けて視線を逸らした時に、私は雲を発生させる。そして、室内で……いいえ、クロコダイルの上でレンテンポを発動させれば、盛大に睨まれてしまう。
実力そのものでもかなわないのは分かってるから、床を蹴って向かって来るクロコダイルからビビを蹴って移動させつつ自分もその攻撃を避けると、クリマタクトで攻撃を仕掛ける。濡れてる今は覇気を使わなくても殴れる筈!
でも、その振り下ろしたクリマタクトを掴まれて引っ張られてしまえば、クリマタクトごとクロコダイルの胸元に飛び込む事になる。不味いと思っても簡単に首を締めあげられてしまい、床から足が離れる。
「威勢の良い、賢いお嬢ちゃん……。だが、勝てない敵がいる事を学んだ方が良い。それとも……ここで、ミイラになるか?」
「ナミさんから、手を離せェー!」
ビビが攻撃を仕掛けるのが見える。だめ……その速度だとビビまで。
そう思うのに、首を締められていて声が出せない。ビビと同時に床に押さえ付けられて、けれどもビビは椅子に移動させられるとロビンの能力で動きを封じられる。その流れで椅子の背もたれを利用されて、手首を後ろ手に縛られてしまえば、ビビは動けないだろう。
「……お前は、お姫様と同じ扱いだと逃げられそうだな。動き方で格の違いは分かる。お嬢ちゃんは、それなりに戦えるだろう」
「いいえ、私は村娘Aでしか無いわ。サー・クロコダイル」
「……五月蝿ェフラミンゴの野郎と、気紛れな鷹の目が行方知れずになった女を探していると聞いたが……その特徴と合致するな。利用価値は有りそうだなァ?」
あの2人、余計な事を。私は、か弱い美少女航海士でしかないってのにっ!
「人違いだと思うわよ?」
「価値がねェなら、ミイラにしておいた方が後腐れがねェだろうな……?」
落ち着け、侮ってくれてるんだから必ず隙が出来る筈。その時ルフィが叫ぶ。
「ナミから、手を離せ!ぶっ飛ばすぞ!」
「……そんなに、大切か?なら、持って行くか。何かに使えそうだ」
「どいつもこいつも、ナミを使うって……ナミは道具じゃねェ!」
「ほォ?〝どいつもこいつも〟お嬢ちゃんを〝使う〟ねェ。いい事を教えてくれたもんだな。所謂このお嬢ちゃんは〝使える〟訳だ」
その言葉の途中、拘束が緩む。私は足に覇気を纏わせて、回し蹴りをしてからその場を移動する。
少しの距離を保った私をロビンが能力で押さえるから、私は攻撃が出来なくなる。私がロビンに、攻撃なんて出来る筈が……!
「……大人しくなったな。女には攻撃出来ないタチか?」
「そうだ!ナミは甘ェからな!」
「「言うな!」」
クロコダイルの問い掛けにルフィが答えて、ゾロとウソップが突っ込む。それから本来クロコダイルが座る為に用意されていた椅子に、ビビと同じように縛られて座らされる。
これなら、隙を見ればなんとか解けそうね。そう思った時目の前にクロコダイルの顔が迫っていて、何かと思った瞬間に唇を奪われる。
私の反応とルフィ達の反応を確かめる為としか思えない事務的なそれに、思わず舌を噛もうとしたらその舌が逃げる。内心で舌打ちすると、クロコダイルは愉しそうに笑ってロビンに問い掛ける。
「パーティの始まる時間じゃないか?ミス・オールサンデー?」
「ええ……7時を回ったわ」
ロビンの声が静かに言葉を返した。BW社〝ユートピア作成〟開始。
長い1日が……始まる。