※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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助けに行く

 船がシャボンディ諸島へと到着したのは、夕方も過ぎて夜になろうと言う頃だった。この時点で私がベックの部屋にて過ごさせて貰うようになって、約2日が経過していた。

 けど、何か変わった事があったかと言われたら無い。ただひたすらに甘やかされながら、時々顔を見せてくれる幹部の皆とお茶したりしながらベックの書類仕事を手伝っていた。

 確認を終えた書類を重ねていたら、背後から声がかけられた。それに振り向けば紅茶を淹れながら、ベックが笑ってくれたので私は習慣的にベッドへと腰を下ろす。

 

 「ナミは、どんな服を希望してるんだ?」

 「スカートだと身の危険を感じるからズボンにしようと思ってるけど、他は前と変わらないわ。ビキニの上からデニム穿いて、カーディガン羽織るだけよ」

 

 ベックからの問いに素直に答えたのに、ベックは嫌そうな顔をする。その瞬間考えてる事が読めてしまった。

 正直、その気持ちは分からなくもない。でも、こればかりはどうにもならないのだから私の意見を優先して欲しいと思うのよ。

 実際私としても諦めきれなくて、色々試して見たのだ。でも、この肉体だと何着ても結果が変わらなかったと言う答えに至ったのだから。

 

 「……ナミ、もう少し素肌を隠す方向で考えてみないか。ナミなら何着ても似合うと思うぞ」

 「ベックの言いたい事は分かるけど、無駄よ。まぁ、ベックが言うなら試して見せてあげるけど、何着ても可愛いというか、色っぽいと言うか、男挑発してるから……結果変わらないわ」

 

 私の言葉にベックは、本当にお前は……と言うと苦しそうな笑い方をする。だから私はそれに対して、本当なのに酷いと言って膨れる事しか出来なかった。

 でも、考えてみて欲しい。元々ナミちゃんのあの容姿で、髪の毛だけ異様に伸びてるのが私なのだ。

 それが何着た所で美少女だし、胸が巨大だし、腰細いし、肌は白いのよ。戦う為にはある程度動きやすいのが条件なのだから、どうしてもスタイルが強調されてしまう。

 それでは何を着ても同じだと思うでしょ。この顔が可愛いのも、スタイルが恐ろしくいいのも、変え難い事実なのだからどうにもならないわ。

 

 「なら、下着はいらないのか」

 「それが悩ましいところなのよね。下着を使えるのか分からないから」

 「……そんなに襲われるのか?」

 

 その答えに溜息1つ。それが無いとは言わないけど、それが理由ならいっそモモヒキでも穿いて萎えさせてるわよ。

 

 「それが無いとは言わないけど……それ以前に、うちのクルーって、能力者の率が高いから泳げる姿の方が便利なのよ」

 「……あァ、そうなるのか。だが、ナミが助けるには腕力に問題があるんじゃないか?」

 

 その言葉に私は首を横に振る。そんなの気にしてられないのよ。

 ルフィ、チョッパー、ロビン、ブルックが悪魔の実の能力者なのだ。それもパッと聞いた時、全員ハズレだなと言いたくなるような、他の誰も求めなさそうな悪魔の実。

 9人しかいないクルーの内4人が能力者で、1人は恩恵なのか分からないけど、骨として蘇った事で残るは泳げなくなった動く骨という現実のみ。ロビンは、上手く能力使ってるなぁって感じだから良いんだけどさ。

 まぁ、能力の実用性よりも先に、ルフィに何かあるとチョッパーとブルックが泳げないのに助けようと海に沈むのが大いなる問題。フランキーが、その時ばかりはマトモに思えてしまうのだから。

 

 「ベック、もしもルーとシャンクスとヤソップが悪魔の実の能力者で自分だけ違ったら泳げるようにってならない?それとも、他にもクルーはいるからって放置できる?」

 「お頭だけで充分なるな。……そういや、ルフィがゴムだったな。……ナミも苦労してるんだな」

 

 憐れむような視線を受けて、泣きたくなる。でも、そうよ、シャンクスを若くしたのがルフィなのよ!

 

 「ベック、わかってくれる!?」

 「勿論だ。ルフィもお頭も同種の生き物だからな」

 「ベックー!!」

 

 得るべきは同じ苦しみを分かち合える存在。ベックが本当に兄に思えて来た瞬間でもある。

 呼びながらベックに抱きつけば、当然のように受け入れてくれる。その優しい温もりに、ずっとこうしていたいと思わされる程。

 

 「コラコラ、俺が居るのわかっててやってんならいい加減怒るぞ」

 

 そんな声に導かれて、ベックに抱きついたまま振り向くと、いじけた顔のシャンクスが居てなんか可愛く思える。……ダメよ、絆されて近付いたら、何されるかわかったもんじゃないわ!

 離れるもんかと強くベックに抱きつくと、ベックは私の思考を読んだのか、上着を私に掛けて優しく抱き締めてくれる。守ってくれるのだと伝わるそれに泣きそうになって、スリスリと甘えればシャンクスからは猫がいるなと笑われてしまったけど、気にならないもん。

 

 「ナミ、コッチおいでー!」

 「やだ!ベックといる!」

 

 本当に猫に言うように言われたので、猫らしく甘えさせてくれる人にくっつく。離れてあげないよーだ。

 ベック体温高いなぁ。筋肉多いもんね……。

 

 「ベック!人の猫奪うなよ!」

 「人のって……コレはお頭の猫じゃなく、ルフィの猫だろ。既に他人の飼い猫だ、諦めろ」

 「良いじゃねェか、俺が貰うんだから!」

 「飼い主の了承はどうでもいいが、猫の意思を無視するのは認められねェ」

 

 途中からなんか意味のわからない会話を始めた2人を眺めて、私の思考は2人から離れて行く。そろそろ船を降りて皆と別れるのかなと思う。

 船は諸島に到着したのだから、いつまでもお世話にはなれないわよね。寂しいけど、家族では無いのだしこれ以上甘えられないわ。

 それを声に出そうとしたらベックが、明日の朝皆で朝食を囲んでから買物に行こうと笑いかけて来たので、それが答えになった。どうやら、今夜はまだ1緒に居られるらしい。

 

 「でも、いつまでもお世話にはなるのは……「ナミは、俺とデートしてくれるんだろ。もう店は閉まってる。だから明日、行こうな」」

 

 ベックはこうして、私がここにいてもいいのだと言う理由をくれる。私を甘やかしてくれるのだ。

 それにありがとうと言えば、シャンクスが俺もいるぞーなんて言うから、わかってるわよと笑いかける。するとシャンクスが私の頭を撫で始めたから、どうしたのかと思う。

 

 「……この見た目で、そっちの中身が壊死してるのは考えてみりゃ既に悲劇だな」

 「そう思うなら、速度を合わせてやれ」

 「それは無理だ。そんな事したら、奪われちまう」

 

 ベックの言葉にシャンクスは苦しそうに返事をした。それにベックは、本気で分からないと言いたげに首を傾げてみせる。

 

 「それで幸せなら、充分だろう」

 「ベックは海賊たる自覚が足りねェ!海賊なんてもんは、欲しいものを奪うもんだろ!?」

 「そんな事をすれば、折角のお宝も砕けちまうだろうが」

 

 そう言ってベックは煙草の煙を吐き出す。その様子は妙に真剣で、シャンクスが少し落ち込んだ様子を見せているのが印象的。

 ……何の話してるんだろう。とりあえず、私が会話に入れなくなるのを見越してか二人は私の頭を撫でたりして構ってくれてる。

 

 「少なくとも俺は、大切なお宝が砕けたり傷付くのを見る位なら……手元になくとも構わねェ」

 「それは悪かったよ。今後扱いには、気を付ける」

 

 ふむ、どうやらベックの大切なものをシャンクスは乱雑に扱い怒られたらしい。全く、人の物は自分の物以上に大切に扱うのが本来だろうにシャンクスったら、いくつになってもダメな子ね。

 そう思って呆れた視線を向けそうになるけど、シャンクスも反省してるみたいだし、私は余計な事言わない方がいいわよね。それにしても、突然の話題変化によくシャンクスもベックも平然と対応できるわね。

 そう思って二人を尊敬しつつ、重い空気を払う為に話題を変えようと目論む。そして思いついた話題として、夜ご飯何かしらねと笑いかければ二人の空気が弛緩した。

 それによりベックから、蜂蜜入りのホットミルクは用意されるらしいぞと言われた言葉に、流石に太るからね!?と叫んだのはご愛嬌だろう。なんでそんなに、蜂蜜を与えようとするのか。

 私を蜂蜜漬けにしても美味しくないわよ。むしろ丸くなって、可愛さも半減しちゃうんだから!

 その後夜の食事やお風呂を終えて、お世話になったお礼にとこれ迄に通った所の海図と、ドフィと居た島の地図を描いておく。それをまた何かやってるなって程度で流してくれる皆の優しさに、私は甘えてばかりだ。

 肩にベックが何か掛けてくれた事で意識が現実に帰ってくると、ベッドに腰掛けたまま煙草を吸う家主。なのに私が振り向けば即座にその瞳を優しく細めてくれるのだから、頬くらい染めてしまうのも仕方ないだろう。

 

 「何かあれば、いつでも頼れ。ナミの事は、何処にいても助けに行く」

 「ベック……?」

 「ナミが助けを求めてくれた時、助けに行けなかった事を……これでも悔やんでる。だから、受け取ってくれ」

 

 そう言ってベックから差し出されたのは、電伝虫の番号と〝daddy(パパ)〟と書かれた1枚の紙。

 間違いなくこれはビブルカードだろう。でも、シャンクスは連絡先を渡すのは無理だって、ルフィの関係があるからって言ってたのに……?

 

 「ベック、これ……」

 「俺の名前も赤髪のマークも無い。〝兄貴〟でも〝祖父〟でも〝父親〟でもないから、誰だか推察しにくいだろ」

 「あ……だから、こんな……」

 「ナミだけが分かればいい。いつでも連絡寄越せ。世界の果てに居ても、ナミの事は助けに行く」

 

 どうして、こんなに大切にしてくれるんだろう。私、ベックに何もしてないのに。

 寧ろ迷惑かけて、甘えてばかりなのに。どうして、こんなにも……。

 勝手に涙が落ちるそれを止められずに居ると、ベックは困った顔で笑って、そっと抱き締めてくれる。それに縋るように腕を回して、掠れる声で言葉を向ければ優しく笑いながら頭を撫でてくれた。

 

 「ありがとう。大切に、お守りみたいにして持ってるようにするわ」

 「……必要な時は使えよ。そうしなけりゃ持ってる意味が無いからな」

 

 そんな言葉に頷けば、身代金要求をそれを見てかけてくれたらそれだけでも価値はあるか……なんて物騒な事をベックが言う。ベックに身代金要求とかしたら、そいつらは色々な意味で終わるだろう事だけは間違い無い。

 でも、動揺して「いくらでも支払うから、頼む!命だけは……!」と慌てるベックって想像出来ないけど、それについてはどうするんだろう。犯人からの要求を冷たく突き放しりしたら、人質の私ってピンチよね?

 

 「……ベック、演技なんかできるの?」

 「必要とあらば、な」

 「想像できないわ」

 

 喉の奥で笑って答えてくれたベックに、私もクスクスと笑う。そうしてひとしきり笑ってから、ベックから離れると残りのそれを描きあげてしまおうと机に向かった。

 そんな私にオレンジティーを持ってきてくれるベックは、どうやら私に付き合って今夜は寝ない予定らしい。寝ていいのにと言えば、読みかけの本があるんだと言うそれにそれ以上追求はしなかった。

 ベックが私を警戒してる訳じゃないのは明らかで、ただ私が起きてるなら付き合おうって話なんだと分かる。でも本当に、そんなに甘やかさないで欲しいと願うのは贅沢だろうか。

 そうして私とベックは、妙にゆったりとした夜を過ごしていた。先日ルーとこっそり焼いていたクッキーを取り出したら、ベックが立ち上がり新しい紅茶を淹れて来てくれたので、二人でそれを摘んだりしながら。

 書類仕事は私が手伝ったのもあり、本当に終わっていたらしく、ベックは珍しく趣味の時間を持てると嬉しそうに笑ってくれた。だからこそ、私も少しは役立てたんだと自覚して笑えた。

 そうして、時にお茶をしたりしながらも海図等を描いて居たけど、今の私は明日の上陸を待つばかりの身である。この時、上陸したらすぐに皆に会えるような気がしていた。

 けれども原作の知識を失っていた私は、1番会いたい人が最後に到着するなんて事は当然知らない。窓から見える星にルフィを重ねて、早く逢いたいなと呑気に考えていた。

 朝日が昇る頃、漸く描き終えた海図と地図をベックに差し出せば何故か苦笑されてしまう。よく分からずに首を傾げると、ベックは可笑しそうに笑ってから答え合わせに入った。

 

 「ナミ、俺のこの船での立ち位置は?」

 「ベック」

 

 咄嗟にそう答えつつ、内心はしまった!である。でもこうなれば、最後まで誤魔化せないかやってみたくもなるわね。

 

 「それは愛称だな。役職の話だ」

 「……シャンクスのお守り」

 

 私の答えにベックは苦笑する。その瞳が悪戯な私に、コラと言ってるのはわかってるのだ。

 

 「間違っちゃいねェが、それは世間的にどうなんだよ」

 「海賊が世間なんて気にするの?」

 「ナミ、わかってて躱すな」

 

 最初の質問で答えは出ていた。けど、認めたくなかったのだ。

 あーあ、基本的なミスだわ。でも、こうなればもう仕方ないもの、ここは謝罪しないとよね。

 謝るのが何となく嫌で逃げてたけど、ベックは許してはくれないらしい。そうと分かれば仕方ないわね。

 

 「ごめんなさい。シャンクスに渡してくるわ」

 「そうだな。だが、宿代にしては高価すぎる代物だぞ」

 「……宿代なら、シャンクスに貪られたわ」

 「…………後でしばいとく」

 

 クスッと笑って答えた瞬間に、空気が変わったので驚いてしまう。声を抑えるなんて殆ど出来なかったから、その……筒抜けだったと思うのに。

 それに、あの状態の私をベックは引き取ったのだ。なのに気付いてないなんて……!?

 

 「気付いてなかったの?ベックが!?あの状態で!?……具合でも悪い?」

 「いや、貪られたのは知っていたが、宿代としてって所が許せねェだけだ。……つらかったな」

 

 そう言って、私が抱いていた海図共々抱きしめられてしまうから、ベックのそれについ目を伏せてしまう。確かに、辛かったけど、抵抗も出来なかったけど、シャンクスを責める気になれないから、私は笑って首を横に振った。

 

 「大丈夫よ。シャンクスを責めないで」

 「ナミ……」

 「……でも、それなら私の買い物代、シャンクスに出して貰っちゃおうかな!」

 

 ちょっとした冗談で言ったのに、ベックはそれくらいさせろと当然のように言うから、それには苦笑してしまう。どうやらベックは、元々そのつもりだったらしい。

 甘やかさないでよと笑えば、朝食も外で食うかと言って船を降りる支度を始める。それにより、どうやらシャンクスにたかり倒す予定らしいと気付いて肩を竦める。

 そんな私にベックは突然言った。ふわりと幸せそうに笑って。

 

 「俺の服を着ていてくれるのは、それはそれで嬉しかったんだがな」

 「……ベック?」

 「俺のものって気がするから、優越感に浸らせて貰えた」

 

 冗談言わないでと言いたいのに、無駄に色気というか、フェロモンというか、そんなのを撒き散らしながら幸せそうに言われてしまうので、私はそれに対して何も言えなくなる。ベックは……狡い。

 少しいじけた気分でベックを見詰めたら、何が食べたい?なんて聞かれて、意識が移動してしまう。その為に私は、そのいじけた状態すら持続できずに、蜜柑かな?なんて答えて、ベックから朝食だって言ってるだろと叱られてしまった。

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