今回は昔から良く知ってるメンバーでの買い物という事で、皆はお留守番になってるらしい。そうしないと、全員ゾロゾロ着いて歩きそうで危険なんだって。
……でも、そうよね。シャンクスやベックは当然として、ヤソップやルーも幹部ってより大幹部だもの。
そんな皆にこれだけ甘やかされてるのに許されてるのは、幼い頃の私を見知ってる人が多いから……かな。そんなに甘やかされてたら、駄目になりそう。
1人でも立って歩けるようにならないと、皆を……ルフィを守るって決めてるんだから。大切な人を喪わない力が欲しいのに、私は弱くなってる気がする。
でも、皆からの愛情を疑うつもりも、否定するつもりもない。いつかその分なにかを返せたら良いなって、そう思う。
「皆、ありがとう」
「ナミにはお頭が迷惑かけてんだから、気にしなくていいぞー!あ、美味い店がそこの角にあるから行こう」
「それ、酒場だろ!?今の時間開いてねェよ!!」
ルーの言葉にヤソップが叫べば、シャンクスが近くのホテルを示した。そこなら朝食もあるだろうと。
そうして五人で歩いて行けば、騒ぐ三人と慌てる私と笑いながら宥めるベックと言う構図が出来上がる。子供の頃から変わらないそれに、帰って来たような気がしてしまうのは仕方ない事だろう。
ただ、昔と違って私が食べられる物に制限を持ってしまったり、見た目が子供じゃなくなった所が違いなのかも。そう思ってふと笑えば、ベックの指が唇に近付いていて、その指が唇にそっと葡萄を押し込んで来た。
……美味しい。咀嚼しながら驚いてベックを見ると、いつの間にか果物の盛合せを頼んでいたらしく、皮を向いたり食べやすく切ったりしては私に差し出してくる。
私は雛鳥です。ピヨピヨ。
……ごめんなさい、調子乗りました。ついでに言えば、何が起きてるのかと混乱してます。
「ナミも果物なら食えるだろ。その葡萄は俺も食ったが、美味かったからナミが喜ぶかと思ってな」
「ありがとう。種も無いし、皮も食べられるのね。驚いたけど、美味しいわ」
「品種改良が進んでるんだな。……俺には少しばかり甘過ぎるが」
「そう?凄く美味しいと思うけど」
ベック、甘いのダメだっけ?
そう思っていたら、今度はサクランボを口の中に押し込まれた。あ、これも美味しい。
「おーい!肉も食えよ!お頭の奢りだぞ!」
「そうだぞ、呑め呑めー!!」
「ルーはともかくヤソップ!?何呑んでんだ!?もうヘベレケじゃねェか!!」
肉を頬張るルーと飲み潰れてるヤソップにシャンクスが慌ててるのを見て、あははっと笑ってしまえばベックがホッとしたように笑う。どうしたのかと思ったら、肩を抱き寄せられた。
「ナミが笑えなくなってないなら、いい。このメンバーで来て、良かった」
「まさか、その為に?」
「お頭への罰も兼ねてな。まァ、店に迷惑かけるのは心苦しいから対処してくるさ。ナミはゆっくり食ってたらいい」
そう言って立ち上がったベックを見上げて、程々にしてあげてねと声をかけつつ葡萄を1粒口に含み笑えば、クルリと振り向いたベックが身を屈めてきた。何だろうと内心で首を傾げてる間に、重なる唇。
そのまま、口に含んだばかりの葡萄を器用に奪われてしまう。何をと問いかけるより早く、色気を振り撒きながらフッと笑ったベックが葡萄を咀嚼して飲み込む。
ただ、葡萄を食べてるだけでこの色気。永遠にその領域には、辿り着けない気がしてしまう程のもの。
「やはり俺には、甘過ぎるな」
その言葉の意味は、明らかに葡萄では無くて……。でも今それを指摘する勇気はない。
そんな事をしたら、流石に不味い。優しい兄が、即座にフェロモン垂れ流しの野獣に変わるのが分かるから。
「ナミ」
「はいっ!」
「……お頭を甘やかすな。そんな事してると、気付いた時にはお頭の子を何人も産まされてるぞ」
「なっ……!?」
そうしてそっと立ち去るその背に、私はもう何も言う事が出来なかった。私は無心で果物を食べ続け、程無く戻ったベックが何故か疲れ果てた様子のシャンクスを伴っていたので首を傾げる。
するとシャンクスが愚痴のように説明してくれた。どうやらヤソップを連れ歩くのは不可能との事で、ルーに好きなだけ食べて支払いをシャンクスに回して良いからと言って、ヤソップを任せる事にしてきたらしい。
「俺、無一文にされそうだ」
「……なら、私の買物は自分で「それなら、ナミには俺が買ってやる。俺から、服を、ナミに、な?」」
「駄目だァァァ!!」
「駄目なの?」
なんで?
シャンクスお金ないなら、別に無理しなくていいわよ。別に洋服位なら、買えるだけのお金持ってるもの。
そう思って首を傾げつつ、残っていた林檎を剥いてシャンクスとベックに差し出すとシャンクスは半泣きな顔で兎を頭から食べて、ベックは可笑しそうに笑いながら兎の耳を齧った。耳だけ先に食べる人、初めて見たわ。
「……成程、お頭は頭から兎を食べるのか」
「ベックは、耳から攻めるんだな」
たかが林檎で形作られた兎の食べ方で言い争うそれに、狐蕎麦の狐をいつ食べるかで言い争う人達と同種かと1人納得する。そうして果物の盛合せを食べ切ってから、三人でホテルを後にした。
お店に入ってからベックに言っていたのもあり、露出の少ない物を着てみると二人が硬直した。何を着ても無駄と言った意味にベックは気付いた様子だし、シャンクスはその後調子に乗ってか自分の趣味だろう物をやたらと着せたがる。
「やだ、それ動きにくい」
「俺が護ってやるから気にしなくていい」
「私、帰るんだってば。シャンクスの手は届かないわよ。……それに、その姿を見るのはシャンクスじゃないって事、忘れてない?」
私の言葉に成程と頷いたシャンクスは、けれどもその服を買ってしまう。何してんのよと思ったけど、次に泊まる時はこれ着てくれなんて言われたから……拒否出来なかった。
……そうよね、ベックの服を借りるのも不味いし、子供の頃の服は着られないし……。あれ?
「そう言えば、なんで子供の頃の服が船に残ってたの?」
「ナミの服だからな」
「誰も着られないんだから、雑巾にでもして使って捨てなさいよ」
「んな事出来るか!ナミが着てたんだぞ!?見てたらナミとの事を思い出し「ベック、海に捨てといて」」
バカバカしい。子供服なんざなんの役に立つのよ。
雑巾にするのが面倒なら、さっさと捨てて欲しい。あ、でも海に捨てたら環境破壊になっちゃうかな?
「古新聞と1緒に出しておく。安心しろ」
「ありがとう」
ベックの答えに笑ったら、何故かシャンクスがベックにとりすがり、泣き出したけどそこは無視して洋服を揃えて行く。前から持ってたのは、皆サイズが変わってて使えないのは確実だものね。
あ……これ、ルフィの洋服と似てる。でも、服じゃなくてカーディガンなのね。
サイズはもう少し大きい方が助かるけど、あるかな?
ルフィの前で着たらどんな反応するかな。お揃いって喜ぶとか、似てるって驚くくらいしてくれるかな?
そう思ってウキウキしながら視線を巡らせると、目の前にヒョイと差し出された同じ服。サイズは私のそれで……つい差し出して来たベックを見上げてしまう。
「こっちがナミのサイズだろ」
「サイズ、教えた事、ないと思うんだけど」
「俺の服を着てる姿を見れば、体格差から計算出来る」
……そうなの?
まぁ、ベックだもんね。そう思って深く考えるのを放棄した私は、ありがとうと頷く。
そのまま手を伸ばせば、それより早く店員さんにそれを預けられてしまう。ベックって、それこそ未来が見えてるんじゃないかな?
とりあえず寒い時用のモコモコしたのと、ちゃんとした所に着ていけるデザインの物と……それから……。そんな感じで服を指折り数えながら揃えて行けば、ベックとシャンクスは騒ぎながらも手伝ってくれる。
「本当は皆のもいつもなら揃えちゃうんだけどね」
「構わないぞ。揃えても。服くらいで騒ぐつもりはねェからな」
「お金の問題じゃなくて、物理的に無理なのよ。会うの二年ぶりでしょ?皆体型変わっちゃってるもの」
私の言葉に1瞬動きを止めて、シャンクスは私の胸を見て、ベックはそうだったなと頷く。なんだと言うのか。
確かルフィはそんなに変わらなかったと記憶してるけど……あれ、でも、身長私よりは高いのよね?
ルフィの服は少し見繕ってもいいかな。でも、ルフィのだけってのは……それに、なんでサイズ知ってんだってなるかもだし。
身長がそんなに変わらなくても、胸板とかどうなったかわかんないものね。そもそもルフィの場合あの服、サイズ変わっても着られるし……。
「ナミの仲間は、若いからまだ成長期なのか」
「そうなのよ。私は二十歳になったけど、ウチの三強だって二人は21歳だし、ルフィは19歳よ?狙撃手はヤソップの息子だからルフィと同じなの分かるだろうし、船医なんて……聞いて驚け!やっと17歳になった所なんだから!」
「「ナミと言う前科があるから、驚けねェな」」
声を揃える二人になにおぅ!?と殴りかかるけど、二人は可笑しそうに笑うばかり。まぁ、私も本気で殴ってる訳じゃないし、本気でなんて殴れないし……。
でもさ、前科ってなによ。悪い事したみたいじゃない。
「だが、ニコ・ロビンを含む数人大人も混ざってたろ」
「うん。でも、ロビンもまだ普通に胸とか成長する歳だし、フランキーは服いらないし、ブルックは既に生態系不明だから」
「ちょっと待て、服いらないってなんだそれ」
シャンクスの突っ込みは真っ当だと思う。でも、フランキーには服いらない。
必要ならロビンが揃えるわよ。……あ、でも、ロビンが恥じ掻かないようにある程度サイズが分かったら揃えておこう。
「サイボーグだから、フランキー。海パンだけで生息してるの。あれはそういう生き物」
「「ナミ、うちに帰って来い」」
嫌そうな顔で、心配そうな声音で、父親とか兄のような空気を出しながら声を揃えた2人。そんな2人に内心で笑いながら、表面的には素っ気なく返す。
このままずっと甘えていたくなるから、辞めて欲しい。……皆と居るのとはまた違った楽しさがあるのだから困ってしまう。
「嫌よ。赤髪には、ルフィが居ないもの。あ、それも可愛い。でもなぁ、このデザイン動きにくいわよね……でも、可愛い……」
悩ましいわ。そう思っていたらベックが似てるけど動きやすそうなのを差し出して来るから、そっちを買う事にしておく。
そのうち私の趣味を把握したのか、ベックが的確に服を選んでくれて、シャンクスは多分シャンクスの趣味だろう物を選んで勝手に購入していた。そうして服を買い揃えた私は、下着を買うか悩みつつ水着を売ってる店に入る。
当然ビキニを幾つか購入した私に、二人は本当にビキニなんだなと苦笑する。でもね、普通の下着と違ってサイズが変わってもある程度使えるし、助かるのよ?
人のいない島しかないような所で、サイズが変わってしまった時本当に困るんだからと思いつつ、やっぱり少しは下着も必要かなとその店を見てしまう。でもなぁ、男の人にはつらいだろうし……。
そう思って、水着の販売店を出た所にあった喫茶店で少し考え込む。ケーキと紅茶を注文してくれたそれに感謝しつつ、どうしようかなと頭を悩ませていたらベックがケーキを少し先に取って食べて、シャンクスが紅茶を1口飲んでから私に寄越す。
「ありがとう……」
2人は私の言葉に笑って、シャンクスは珈琲を口に運び、ベックは煙草に火を付けた。どうやら私の休憩だけが目的の喫茶店だったらしい。
荷物は相変わらずシャボンに入れられるから、重くないので助かる。それでも結構歩いたから、休めるなら休みたいとは思っていたのだ。
ケーキと紅茶を楽しんだ後、本当に下着どうしようと考えながら近くのお店を見てしまう。可愛いデザインのそれを見れば、心は踊るけど……。
「「良いから行くぞ」」
いつの間にか会計を終わらせていたシャンクスと、私の思考を読んでるらしいベックが声を揃える。そのまま戸惑う私を連れ込むような形で、気にしてない様子で1緒に入店する二人に、恥じらえ!と私が叫んだのは当然だろう。
しかし、入ってしまえばもうどうにもならない。嫌そうな顔をするかと思ってた店員も、他の客も二人に視線を向けて頬を染めるから、そう言えばいい男なんだったと思い出す。
身近過ぎて、分からなくなるのよね。と言うか、そういう生き物だと思ってたし。
「ナミ」
「なぁに?」
「これ、可愛いと思っ」
シャンクスが差し出したそれを見た瞬間、問答無用で、全力で顔を殴っていたのは不可抗力だ。だって、夜用の、大切な所に穴の空いてるデザインだったから。
紐の方がまだマシである。そんなの、つけてないのより恥ずかしいわ!
「そんなの可愛くない!」
「お頭……。そんなのつけたら、ナミが孕まされるぞ」
「俺の前でつけてくれれば良いだけだろ。泊まった時用に買っとこうな」
「お頭が孕ませるだけだろ。辞めとけ」
「下着売ってる所で、そういう話しないでくれる!?」
そう言って二人を店内から追い出した後、私は1人で楽しく下着を選んでいた。その関係で試着をしようと数枚持って試着室へと入った所で、試着室の中に白いものが立ち込めて来る。
慌てて試着室を出ようとしたけど、ドアが外から閉められていてどうにもならない。そして、私の意識が沈む中で女の人の声が耳に届いた。
「ドフラミンゴ様に、お望みの猫を捕獲しましたと連絡して」
不味いと思っても、神経系の痺れ薬らしく声も出せない。朦朧とする意識の片隅で、追い出してごめんと二人の顔を思い出していた。