ミホークは私の隣に腰掛けると、私が手にしていたグラスを手に取り軽く揺らし、香りを嗅ぐ。その姿が妙に絵になって……ワイン以外も似合うんだなとどうでもいい事を考えた時、その視線に貫かれた気がした。
「ナミ」
「なに?」
「帰るぞ」
「え、うん」
何故か逆らってはいけない気がして〝何処へ〟とか〝帰るって何〟とか、色々聞きたかったのに聞く事ができなくなっていた。立ち上がろうとした私をミホークはその腕に閉じ込めて、それに驚いている間に抱き上げられてしまえば、既に冷やかしさえ起こりはしない。
その足が向かうのが政府御用達の高級HOTELだったから、そう言えばこの人七武海の1人だったと思い出す。四皇と七武海では格が違うなんて、そんな事を言ってる人達がいた事も同時に思い出して苦笑してしまう。
確かに縄張りの件に関しても、傘下の有無にしてもその格差は歴然としている。けど、トップに立つ者の力量として見れば……中には大差無い者も居るだろう。
四皇と並び立てる七武海の1人、それは間違いなくこの鷹の目の男ミホークだわ。時により、シャンクスよりも恐ろしく思える時があるこの人は、でも……事実そんなに怖い人ではないとも知っている。
部屋に運び込まれると同時に解放され、直後にいつ頼んでいたのか果物や酒、ツマミになりそうな物と甘味が運ばれて来る。……いや、この量の食べ物どうするのと少しではなく思うけどね。
てかさ、あの、この甘味、私1人じゃ絶対無理なんだけど……どうしよう。ミホークって甘いの大丈夫な人なの?
「ミホーク、これ……」
「食せるだけ食せ。他は俺が食う」
「甘味……よ?」
「……俺は、甘い物が好きだ。気にするな」
……知らなかった。いや、真面目に。
なら、初めて会ったあの日、デザートも何か作ってあげたら良かったかな?
……いや、なんで強姦魔にそんな事をせねばならんのか。冷静になれ、私。
でも、デザート作って餌付けしていたら、私が襲われる事も無かったのかな。いつの間にか目の前でケーキやパフェに手を出して平らげる姿に、そんな事を思う。
美味しい甘味があれば、変わり種の小娘に手を出すなんて無意味な事しなかったんじゃないかな。それなら私、過去に戻りたいかも。
「……ナミ」
「え?」
色々考えていたから意識がそぞろになっていた私は、呼び掛けられて驚きの声を出す。それにより、声を出す為に開いた唇の隙間にスプーンが差し込まれてしまう。
どうやらミホークが食べていたイチゴパフェらしいと分かるけど、何してるの。……あ、意外と美味しい。
「それぞれ既に口はつけた。故に安心して良い。少しは何か食べろ」
口に押し込まれたスプーンを引き抜かれるのと同時に差し出された未使用のシルバーに苦笑しつつ、それ等を手に取るとミホークは漸くその表情を微かに緩めた。それを眺めながら何故か大量にある食べ物に手を出して、ゆっくりと口に運べばミホークが言う。
「あの酒は、何があってナミの前に置かれていたのだ?」
「無言で出されたから、知らないわ」
「呑む予定だったか?」
ここで、ミホークに関係ないとか言ったら怒るんだろうな。そうなると我が身が危険、よね。
それが分かるようになったと言うか、マルコに言ってはいけない言葉リストみたいなのを教えられたので従っておこう。うん、だとするなら素直に答えた方が良いわね。
「……何も入ってなければ、呑んだかもね」
「あれは、中毒性のある媚薬が入っていた」
「……そんなの、よくわかったわね。ミホークが薬に精通してるとは知らなかったわ」
ミホークは頭脳戦タイプじゃないから、自分に必要な最低限の知識の他は世界の動きを知るって程度でしか、知識なんて必要としてるとは思っていなかったのだ。だからこそ驚いて口にしたそれに、ミホークは当然のように答えてくれる。
「1応情報は仕入れている。〝JOKER〟の新作だ」
「あの子は……変わらないわね。その薬には何か特徴があ「あの子?……ナミは、JOKERの正体を知っていたか」」
目の前にワンホールあった筈のチョコレートケーキ。その空になったお皿が無ければ、その緊張感に飲まれてたかもって思うような重苦しい空気。
私は自分の目の前にある、苺がこれでもかと入ってるショートケーキをフォークで切る。そのひと欠片を刺して、そっとミホークに差し出す事でその空気を変えようと試みた。
その意図に気付きながら、ミホークは口を開けるからケーキを食べさせつつ私も返事を返す。余計な事は言いたくないけど、言わなければ多分余計に面倒な事になるから。
「昔ね、本人なのかは分からないけど会った事があるのよ。スマイル印の媚薬とか毒を、年中利用してた時期があったから……」
嘘ではない。1秒前だって昔だし……ドフィの幼い頃のイメージが強いから、どうしたって〝あの子〟になってしまっただけだもの。
私が購入してた訳じゃないけど、実際使われていたのだから利用していたと言う言い方に偽りや間違いはない。その言葉により生まれる誤解があったとして、それは私の責任ではないもの。
小さい頃のドフィは、賢い子供であり、いいお兄ちゃんだった。本当に、その頃の雰囲気とか色々残ってるからこそ、突き放せないのだけど。
「そうか。ならば、部下の1人を挨拶に向かわせたのやもしれんな。……ナミ、深く関わるな。危険な相手だ」
「そうね。でも、私から会いたいと思って会ってる訳じゃないもの、対処出来ないわよ」
「……そう言えば、天夜叉と結婚すると言うのを見たが、それはどういう事だ」
〝どういう事だ〟は、私の台詞よ。そう言おうとしたのに、その言葉を紡ぐより早く重ねられてしまった唇が言葉を封じる。
乱暴なそれが、苛立ちを宿しているのはよく分かる。でも、なんで?
「んっ……やっ……!!」
抵抗のつもりで顔を背けようとした私の髪を強く掴み、それにより上向きで首が固定されてしまう。つまりミホークとの身長差的に、真っ直ぐ向き合うような形になってしまった訳で……。
特徴的なその瞳に貫かれたような気がした直後に、身体が勝手に震えたのを自覚する。殺気じゃない、覇気でも無い、欲望と狂暴な想いを宿した瞳がそれ以外の何かの感情を私に叩き付けているのが分かってしまう。
怯えて小娘のように震えそうになる自分を律して、ふっと笑う。瞳に色を乗せて、余裕があるふりをして。
「ミホーク……痛いわ……もっと優しく、ね?」
そっとその頬に触れながら言葉を音にすればミホークがその瞳に驚愕の感情を宿したのが分かり、同時に喉が鳴ったのを聞く。緩められた力により多少身じろげるようになったので、あえて自分からその胸に身体を預ければ隙間が無い分何もできないだろう。
その状態が、まるでミホークに甘えてるようになってる事に気付かないでいた私は、そのまま再び強く抱き締められた事に驚いてしまう。そしてミホークがその状態でベッドに移動するから、やめてと叫びそうになり無駄だとその表情を見て悟る。
「ナミは麦藁のモノだと言っていたな。何故、天夜叉と婚姻を結ぶ事になったのだ」
「私はプロポーズもされてないわ。あの記事には、本当に迷惑してるのよ」
「……助けてやろうか」
「え?……どうやって?」
助けてくれられる方法があるのかと驚いて、同時に期待してしまう。ミホークは嘘つかない!
そういう意味での信頼度は高い。ミホーク、嘘つかない!
「ナミが、大人しく俺にその身を差し出すなら……助けてやる」
「答えになってないわ!!」
「約束を先に違えたナミに、文句を言う権利はない」
「違えたって何よ……!?だって、ミホークは恋人との別れを惜しんでたんでしょ。流石に邪魔できないわ」
その瞬間、ミホークが本気で意味がわからないとその表情と瞳で伝えて来る。でも、ミホークとゾロって、恋人同士よね。
この二年でそんな事になってるとは思わなかったけど、二年共に過ごしてれば確かにそうなってもおかしくないし、海賊は男同士での恋愛も少なくなかったもの。基本的に男社会で、閉鎖的な空間で、限られた食料を共有し、命を互いに支え合い守り合いながら生きるのだからある意味当然。
確かあの城には、ゴーストプリンセスがいたとは思うけど、年齢もまだ幼いと言える頃だし、体力馬鹿なこの二人の相手をできるかと言われたら無理だろう。それに、ミホークとの関係性って父と娘って感じがするし、ゾロとは兄と妹に思えてたのよね。
勿論それは読者だった時のイメージだけど。そうなれば男の人は溜まった性欲を吐き出さないと持たなくなるって聞いた事あるから、手っ取り早く近くに居た相手とってのもおかしくはな……。
「おかしいだろう。幾度と無く俺はナミに惚れていると、心を奪われていると伝えたつもりだったがな」
「へ?」
「所々、声に出していた。……そうか、伝わっていなかったか。ならば仕方あるまい」
「ふぇ?」
妙な声が出た。何が仕方ないの?
やだ、なんか、怖い。なんで怒ってるの!?
「思い知らせてやろう。俺がどれ程ナミに懸想しているのかを……な」
「あ、あの……?」
怒りだと分かるそれに身を竦ませるのと、衣服を脱がされ流星錘でベッドに縛りつけられるのはほぼ同時だった。何も着てない状態で腕が固定されては、演じてる場合では無いし誘惑する所の騒ぎではない。
落ち着いて話し合おうと口にする隙もない。その美し過ぎる瞳に囚われそうになる心を叱り、暴れようと力を溜めた時毛布が被せられた。
素肌の状態にある私へと毛布を被せてきたミホークは、騒げば人前で抱くぞと言い捨てるように言ってから、空の器を下げつつ、いくつかの道具を持ってくるようにとフロントに伝える。その様子に内心で首を傾げながらも、確かにボーイに助けを求めた所で助けて貰えるより先にその人が命を喪うだろう事は考えるまでもない。
何より、ミホークは有言実行タイプだ。つまり、その人の前で私を容赦無く辱めるだろう。
そう分かりきっていて、騒ぐ程愚かでは無いつもりだ。でも、何も着てない状態で、布1枚がかけられてるだけなのだから不安にはなる。
「さて、少し可愛がってやろうか」
「え?ミホーク?」
毛布の中に手を入れて、ミホークは私の胸を片手で弄び始める。やだと身を捩ればミホークが喉の奥で笑う。
「毛布は直さぬ。暴れればはだけて見えるようになるだろうな」
「酷、い……」
「大人しく……俺に遊ばれていろ。妙な勘違いで、俺との約束を反故にしようとした罰だ」
勝手にもれそうになる声を抑えながら、身動きが封じられた状態で胸を、その尖端を弄られて泣きそうになる。善意だったのにどうしてと思っても、ミホークとしては突然約束を反故にされた怒りもあるのだろう。
それでもなら好きにしてなんて言える筈もない。私、ルフィにしかされたくないのに……。
「んっ……!」
「来たな。さて、頑張って耐えて見せろ」
その言葉で人がいても続けられるのだと理解すれば、顔が羞恥と怒りで赤く染る。そんな私の耳元で、ミホークは罰だと言っただろうと咎めるように言葉を音にして、その行為を続けて来た。
身体がビクビクと反応する。そんな自分が嫌で、でも、反応を止める事も出来ない。
勘違いしたのも、約束を破りそうになったのも謝るから……。そう思ってミホークに視線を向ける。
「やっ……!許し、て……」
思わず口にした言葉でミホークは指の動きを止めると、二人になってから覚悟しておけなんて言う。それに理不尽さを感じながらも、辱められるよりはと頷けばミホークが優しく私の頭を撫でる。
その手が妙に優しくて、だからこそ泣きたくなる。前に辱めたりしないって言ってくれたのにと小さく零せば悪かったと言いながら、優しく頭を撫で続けてくれたのでそれに私は頷く事で答えた。
するとそのタイミングでドアがノックされ、ミホークが入室を許可すればワゴンを押しながら入る人が見える。空になった器達を片付け、新たなシルバーをテーブルに置くその動きに無駄は無い。
その流れるような動きに、流石は1流HOTELなんて感心しつつ見ていれば、ワゴンの下の段にあった箱を手にミホークにどちらに?なんて聞いてる。そう言えば、ミホークは何を頼んだんだろう?
追加の食べ物にしては何かおかしいし……。そう思って見つめる私に視線を向ける事無く、ミホークはそれを自ら受け取ると出て行くその人を見送り、鍵を掛けた。
その箱に入っている物を知り、私が悲鳴をあげるのはその直後の事である。そして私は祈るように願うのだ、早くルフィに会いたい……と。