※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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バナナワニ

 クロコダイルは語る。ユートピア作戦について。

 ビビはその話を聞きながら体を震わせて、感情を爆発させないように耐えている様子が見受けられる。そんな中で、クロコダイルのクハハハハという笑い声が谺響する。

 私は、何をしてるのよ。情けない、なんの為にここに存在してるの。

 ルフィ達を助ける為に、別行動したのに、結局捕まってしまって……。私、は……!

 クロコダイルはビビを挑発し、嘲る。お前もこの作戦に参加していたんだぞと言って……。

 

 「……そして、心に皆こう思っているのさ。俺達がアラバスタを守るんだ……!アラバスタを守るんだ!アラバスタを守るんだ!!」

 「やめて!!なんて非道い事を……!!」

 

 耐えきれずにビビが叫ぶと、クロコダイルは愉しそうにクハハと笑う。私は椅子の後ろで縛られている紐を解く。

 こういった事には、慣れてるのよっ!隙を見て、ビビを先に行かせなきゃ。

 

 「泣かせるじゃねェか……!国を想う気持ちが、国を滅ぼすんだ……!!」

 

 ゾロが冷静な声で外道だと言い捨て、ルフィが檻の中で怒りに身を震わせる。その様子を微笑ましそうに、ロビンは静かに眺めている。

 クロコダイルがビビに何故国を手に入れたいか分かるかと問い掛けると、ビビは既に冷静ではなく食ってかかるように言葉を口にする。椅子ごと倒れて、必死に動く事で戒めから解かれたビビは、クロコダイルのどこへ行くのかと言う問い掛けに答えようと口を開く。

 

 「貴方は、可哀想な人ね。サー・クロコダイル」

 

 言わせない。情報を与えさせはしない。

 どうしてこう、この子達は素直なんだろう。教えていい事といけない事がある。

 敵に情報与えたら、簡単に阻止されるに決まってるのに。……そんな所も愛しいけど、そんな事言ってられる状況でもないからと私はクロコダイルを見据える。

 

 「……お嬢ちゃん、気は確かか?」

 「えぇ、確かよ。貴方は可哀想な人。何も信用出来ない〝臆病〟な〝小物〟でしょう」

 

 挑発して、気をこちらに向けさせて……そうすれば先程の質問は無かった事に出来る。ビビの作戦を知られずに済む。

 クロコダイルは静かに私の前に立つと、静かに手を伸ばしてくる。とっくに解かれている私の手は、咄嗟に短剣に伸ばしてその手を切り裂いていた。

 

 「……その剣、海楼石か!」

 

 クロコダイルの腕に浅く入ったそれが、数滴の血液を流させる。すぐに傷は消えたけど忌々しそうに私を睨むその顔が、厄介だと言っている。

 だから私は傷付けた事に対する動揺を隠して、悠然と微笑む。余裕を見せて、傷付ける事が怖いなんて悟らせないように。

 

 「そうよ。だからこそ、これで突き刺させばどうなるかしらね?」

 「やれると思うのか?」

 「私、素早さだけがウリなの」

 

 挑発的に笑えば、可笑しそうにクロコダイルは笑う。空に移動出来るのかと。

 砂となり高いところへと移動してみせるクロコダイルに、月歩を使えば何とかなるけどどうしたものかしらねと考える。そこでクロコダイルはビビに告げる。

 これから〝アルバーナ〟で〝父親〟と会ってくると。それにビビが動揺しているのを愉しそうに見て、見せ付けるように鍵を取り出そうとする。

 でもね、その鍵は私が貰ってるのよ。そんな事を思いながら眺めていれば、クハハとクロコダイルは笑う。

 

 「悪かったな、坊や達。君達の牢の鍵を無くしてしまったようだ。ここでお姫様に、君達か国民か選んでもらうつもりだったのになァ?」

 

 成程、流石は社長。鍵が無いからって、動揺してギャグにならないとか凄いわ。

 クールで素敵ですね。画面越しなら。

 でも、残念ながら今は対峙する敵だから全くもって素敵じゃない。困ったわ、コレだと下手に動けない。

 騒ぐルフィとビビの声を聞きながら、ここで私が無理に戦う選択肢だけは無いわねと思う。さて、ならどうやって見逃してもらうかよね。

 先程挑発したし、利用価値があると思われてるし、どう転がるか分からなくなったわ。でも、必ず外にいる事が役に立つ筈よ。

 焦るな、冷静に対応すれば道はある。その時クロコダイルがビビに問い掛ける。

 未来の無い小物海賊か、国民か、それとも父親か。選べるのは1つだと。

 

 「betするのは気持ちだ。どれを選んでも確率は低いがな。……ギャンブルは好きかね?」

 「……えぇ、大好きよ。だから、この子をいじめないで貰える?」

 

 座り込んで動けなくなってるビビの前に立つと、クロコダイルを睨み上げる。それを見てクロコダイルは、成程と呟いた。

 

 「……お嬢ちゃんは、俺に勝つつもりでいるのか」

 「いいえ、私はギャンブルに勝つつもりでいるのよ。仲間も、国民も、国王も……砂塵に埋もれさせはしないわ」

 「ほォ……?面白い。何をbetする?」

 「私のプライドを……賭けてあげるわ」

 「……見せてみろ。お嬢ちゃんに、全てを本当に救えるのかどうかをな」

 

 そう言って笑うクロコダイルは、ユバを砂嵐が何度も襲った事に対して自分がやったのだと……言葉にはせずに、伝える事でビビやルフィを煽る。私はそんなクロコダイルの横に並んで歩くロビンの背を、静かに見送る。

 ルフィはここから出せと私とビビに言う。誰がクロコダイルを他にぶっ飛ばせるのかと。

 だから私はルフィに視線を向ける。大丈夫、必ず助けるからと言う思いを込めて。

 でもこの場での戦闘は不利。クロコダイルがこの場を去ってから、皆を助けて外に出るしかない。

 その時、バナナワニがその姿を見せてクロコダイルは背を向けた。バナナワニでも海楼石の牢は破壊できない筈だから、多分大丈夫よね。

 ごめんねと、心で謝ってから私はバナナワニに対峙する。ビビの武器だと相性が悪い。

 

 「ビビは、避ける事に集中してて。庇いながらじゃ、戦えないから」

 

 腕力に自信ないのよ。と、内心で呟いてから私は海楼石の短剣を強く握る。

 思い出せ……あの、美しい剣を。体格も、筋肉量も違うし、真似してもいい事は無いけど、それでも……ものに出来そうな所だけは真似させて貰ったのよ。

 2年……ただ、シャンクス達と遊んでた訳じゃない。2年、ただ、平和に村で過ごした訳ではなくて、8年、ただ、アーロン達から搾取されてた訳じゃない。

 6歳のあの日から、全く成長してなかったら、それこそシャンクスに1生馬鹿にされるわ。そんな屈辱、耐えられるもんですか!

 地を蹴り私は側面からバナナワニの頭上に降り立つ。鰐ってのは、口を開ける力は殆ど無いのよっ!

 口の上から短剣を突き刺して、そのままそれを胴体まで移動させる形で切り裂く。それを見たクロコダイルが、微かにその表情を歪ませた。

 可愛い大切な、ペットだからだろうけど……ビビを殺そうとしたんだから、殺されても文句は言わせないわ。その思いで睨めば、ふんっと鼻で笑われる。

 でも、敵となるバナナワニは1匹では無くて、全てを倒すというのは難しそうに思える。でも、そんな他愛ない事を理由に諦める事は出来ない。

 今私が表に居ることに何か意味があるのだとするならば、それは間違い無くビビや皆を守る事にある。ルフィやゾロ、ウソップとビビの心配そうな声が響く。

 その中でビビがナミさんって、強かったのねなんて言ったらしくて、ウソップがそうか見た事無かったかなんて得意そうに誇張して話してるのが聞こえる。そんな事してる場合かと思いながらも、私は2匹目のバナナワニに挑みかかる。

 その時室内に水が流れ込み始めて、不味いと焦る。バナナワニも1匹ずつではなくなり、数匹現れれば先程と同じ戦い方をする事は出来ない。

 私が1匹のバナナワニを沈めている間に、他のバナナワニに立ち向かったらしいビビが尻尾で攻撃され、吹き飛ばされて床に倒れる。それを見て食われるぞと皆が叫んでいるのが聞こえて、ビビに視線を向けると慌てて移動する。

 ビビを、殺させない……!

 

 「お嬢ちゃんは、少し厄介そうだな。だが……プライドを賭けると言っただけの事はあるか」

 

 そんなクロコダイルの声が聞こえたと思った直後、電伝虫が鳴る音が聞こえた。それにバナナワニが反応した隙に、私はそのバナナワニを片付ける。

 全身にバナナワニの血液が降り注ぐ。それを被ってしまう事自体が、まだまだ弱いのだという何よりの証。

 だって、シャンクスは返り血なんて浴びて無かった。同じように接近戦なのに。

 遠い……。今もまだ、あの頃のシャンクスにさえ、遠く及ばない。

 その時通信の向こうで、サンジ君がやられたような声が聞こえる。皆が心配して、クロコダイルが高笑いして……私は、バナナワニと対峙してる。

 その時、ビビはバナナワニにより砕かれてしまった階段によじ登り始めていた。危ないその動きに、皆が悲鳴のような声でビビを呼ぶけど、私はバナナワニが邪魔で助けにも行けない。

 

 「この部屋に水が溢れるまでまだ時間がある!外に助けを呼びに行くわ!!」

 

 そのビビの言葉に反応したクロコダイルが、ビビにくだらねェ事をするなと言って地面に叩き落とせば、瓦礫の山となっていたそこでビビは意識を失ってしまう。私が対峙して居るのとは違うバナナワニがビビを狙う。

 ……させない!

 

 「本当に、諦めの悪いお嬢ちゃんだな」

 

 背後から聞こえたその声に反応して振り向けば、クロコダイルがいて……。戦うしかないかと、細く息を吐き出して床を蹴る。

 クロコダイルは私の短剣鉤爪で受け止めると、小さく舌打ちした。それでも……クロコダイルは手加減してくれてるのが分かる。

 

 「余裕ね、お兄さん。……あまりの実力差に、嫌になるわ」

 「クハハ!それが分かっていて、その態度か!」

 「逃げる事は出来ないもの。私は、私のプライドを賭けた。……負けられないのよ」

 「……ここで水死体になり、奴らに喰われるには惜しいな。だが……俺も暇じゃねェんでな」

 

 睨み上げる私に、クロコダイルは精々足掻けと言い捨てて去って行く。……体が、震える。

 強い、雑魚だからと相手にして無いから、油断されてるから生きられたのだと思い知る。不思議ではあったのよ。

 あの戦争の中でも普通に強かったクロコダイルに、何故アラバスタ時点のルフィが勝てたのか。実力的な事だけじゃ、勝てる筈は無かった。

 ……油断とか、気持ちとか、そういった多くのものが重なって、倒しても倒しても起き上がるゾンビのようなルフィに対する苛立ちと焦りもあって、クロコダイルはルフィに負けたんだろうと、今は分かる。確かにルフィの気力と根性は恐ろしいものがあるし、体力だって底無しに思えるもの……。

 初めから油断無く本気で来られていたら、既に誰1人ここに生きて立っている存在は居ない。それが分かるような実力差。

 それでも、諦める訳にはいかないから。私はビビの元へ向かおうとするバナナワニの片方をとりあえず沈めて、ビビを助けに向かおうと気持ちを引き締める。

 私には、震えている時間も、泣いている時間もありはしないのだから。

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