翌朝目覚めると何故かミホークの大仰なマントを私は抱いていて、シャツとスラックス……っぽいものを身に付けたミホークがワインを傾けながら、ショートケーキを口にしていた。何故、ワインとケーキなのか。
朝から甘い物のコンボを口にする姿に何故これでその肉体美を維持できるのかと微かに考える。いや寧ろ、朝だから可能なのかな?
「おはよう」
「あァ……よく眠れたようだな」
「……お陰様で」
「俺が離れると眠りが浅くなったので、貸しておいた。どうやらナミの中で俺は随分と優しい存在らしいな」
その言葉に何も言い返せなくて、洗って返した方がいいかしらと問い掛けると、そのまま有無を言わさずマントを奪い取られる。それをサッと身に纏うと、楽しげに笑い妙な事を言う。
「ナミの匂いがする」
「貸して、綺麗に洗って返してあげるから。何の匂いもしないくらい綺麗に洗ってあげるから!!」
「断る。コレなしで歩くのは趣味では無いのだ」
趣味の問題だったのか。そう言えば初めて会った時はシャツ着てなかったもの、そうなのかも知れないわね。
そう考えると春になると現れるコートの下に何も着てない変態さんと同じような姿だったのかと気付く。違うのは下半身は身に付けてた所と、その身体が恐ろしい程の肉体美を誇ってる所だろう。
それにしても、何度か見たけど本当に傷1つ無い見事な身体には、恐ろしい程に見事な筋肉がある。こんな人に……力で敵う筈が無いわよね。
「どう考えても、勝てないわよね」
「俺がナミに勝てるとは思えぬ」
「え?」
「ナミが愛らしくねだるなら、世界でも与えてやりそうだ」
その眼差しが本気だと伝えて来るから、私は細く息を吐き出して首を横に振る。そんなもの、望んでない。
私が欲しいのは、仲間との未来。そして、仲間と私の夢が叶う瞬間を望んでるの。
その全てが叶った後で、もし……許されるなら……巫女様達ともう1度、笑い合いたい。そしていつか、愛しい家族に囲まれて、蜜柑と潮の香りに包まれて眠りたいわ。
「そんな物騒な事、望まないわ」
「……もう暫く、共に過ごすか」
「嫌よ。付き合いきれないわ」
「腰が、細くなり……胸が、成長したな。腹筋もしっかりと固くなっていて、足の筋力もそれなりだ。その分前よりも締りが良く「黙れ」」
何故言葉を遮られたのか本気で分からない様子を見せるそれに、ガルルルルと唸りそうになったのは当然だろう。シャワーを浴びて気分を落ち着かせてから、身支度を整えて忘れ物が無いかのチェックを済ませるとミホークを振り返る。
その身支度を整えてる時に髪はミホークが拭いてくれたけど、そこは割愛する。髪が長くなったんだもん、不可抗力よ。
「このままここにいるの?」
「そのつもりだ。……無事に旅立つのを見送るくらいしてやろう」
「ありがとう、ミホーク」
「……何かあれば呼べ。助けに行く。それと、これも付けておけ」
投げ渡されたのはミホークのマークが入ったチャームで、視線を追えば短剣に付けられてるシャンクスのそれに行き着く。1緒につけていいのかなと考えつつも、頷いて装着すれば牽制にはなるだろうと薄く笑われてしまう。
短剣が重くなりそうだし、動かすと音がするようになってしまったから少し邪魔とか言ったら……怒るかな。まぁ、何かの時に役立つの……かな?
シャンクスから貰ったチャームと共にある為か、触れ合いカチャカチャ、シャラシャラと音がする。歩くだけでも暫くは音をたてそうだと思えば、歩き方変えなきゃかなと思わされる程。
首に鈴つけられた猫の気分。でも、チャーム自体は可愛いと思う。
それぞれのイメージカラーに近い宝石もついてるチャームは、それだけで結構な値打ちもある事が伺える。どうしてもお金に困ったら換金してしまえるわねと考えて頷くと、ミホークから冷めた視線を向けられた。
「売るなよ?」
「ひゃい!?」
「赤髪のもそうだが、俺のもこの世に1つしかない。売ればすぐに分かる上に、恐ろしい金額で世界を巡り始めるぞ」
「うっ……」
「……わかり易い事だな。仕方ない……これも、持って行け」
言葉の通りに、本気で仕方なさそうに渡されたのは番号が書かれた紙で、まさかと見れば頷かれる。ビブルカードに、ミホークの電伝虫の番号が書かれているらしい。
……ロケット、買おう。もしくはペンダント。
そう決意して、私はミホークに別れを告げるとHOTELを後にした。とりあえずシャッキーの所へ顔を出そうとドアノブに手を伸ばせば、ちょうどフランキーが店を出てきた所で。
「……ナミか!!」
「フランキー、よね?あらまぁ……ロビンの反応が楽しみね」
「そんなに男に磨きがかかってるか?寄せやい、俺に惚れてもいい事ァね「私、ルフィ1筋だから」知ってるからその笑顔やめろ」
自分でも溶けてるのが分かる。フランキーを見たら、もう少しで会えるんだなと実感できたのは大きい。
ルフィ元気なんだろうな。まぁ、ルフィが来たらすぐに出航なんだろうけど。
何せトラブルを引き起こす神様みたいな人だから。あれはある意味才能よね。
「俺様はこれからサニーの様子を見に行くが、お前ェはどうする?」
「なら、付き合うわ。私も色々備品の状態チェックして買出しにと思ってたから」
「アーウ!!俺様もチェックしたら必要な買出しがあるから、荷物持ちに付き合うぜ!」
「ふふ、ありがとう。頼もしいわね」
私が笑えば何故かフランキーはいつもの変態なそれではなく、妹を気遣う兄貴の顔をする。そんな顔されるような何かがあったかなと首を傾げたら、手荷物からショールを取り出してフワリと巻き付けてきた。
「……若い娘が、素肌晒すな。……っとに、無事に再会させるまで守らねェと、何かあったらその瞬間に1味が崩壊するからな」
「え?何を守るの?」
「気にすんな。行くぞ」
「うん」
そうして私はフランキーと共にサニーへと帰った。その道中でブルックの活躍の話になり、だから私の売上が伸びてたのかと納得しつつ足を進める。
その先で、待っているその人に出逢うまで、私達は随分と呑気に過ごしていたと思う。ペンダントトップが欲しいのよねと話す私に、宝石は別として中に物が仕込めるペンダントトップはフランキーが作ってくれると言うのだから驚きである。
「え、良いの?」
「あァ、ロビンと揃いで良いだろ。そのピアスもそろそろ草臥れて来てるみたいだしな」
「ありがとう」
「ロビンもナミと揃いなら喜ぶだろ。……宝石が問題か。何がいいか」
「ロビンに似合いそうなの幾つかあるから、後で見せるわ。気に入ったのあったら使って」
笑う私にフランキーは見せてもらってから検討するが……なんて言いながら、デザインについては後で意見を交わそうと言ってくれる。ロビンと私の好みを反映させるなら、花のモチーフが良いわよね。
ピアスは海水にも散々やられてるし、だからこそ弱ってはいる。でも、外す予定は無いのだけど。
だって、折角ロビンとお揃いで買った物なんだから。あ、でも……。
「ねぇ、それ、五個作れる?」
「は?五個も作ってどうすんだよ」
「前に仲間として船にお姫様が乗ってた事があるの。彼女に1つと、その近くにいる私の親友に1つ、それと姉に送りたいの。ダメ?」
「……まァ、そのメンバーなら良いんじゃねェか?トップだけ送って、後はそれをどう使うかは各自任せられるし、宝石は各自好きなのつければ良いだろうからな」
ネックレスにしてもいいし、コサージュのようにしてもいい。懐中時計のようにポケットに入れていても構わないし、部屋の中で飾ってもらっても良いだろう。
お揃いである。その事実が、きっと大切なのだ。
「ノジコにはオレンジダイヤでもつけて贈ろうかな」
「……姉には本当に金に糸目つけねェな」
「ベルメールさんには同じ宝石でピアスでも贈「六個、作ってやるから……送ってやれ。ナミが同じそれを身に付けてる写真つきでな」」
その言葉にありがとうと笑いながら俯けば、大きなその手で頭を撫でてくれる。完全に人間を辞めただろうと思えるそれが、何故か安心させてくれるのだから人生とは不思議なものだと痛感した。
その途中でどちらにしても必要になるとわかっている道具だけは買いながら歩いて、ついでに簡単な料理ができそうな食材や掃除道具を揃えて行く。それを台車に乗せて、フランキーと共に歩いて行けばサニーが見えて来た。
サニーに到着すると、その目の前には1人の男が座っていた。それは、あの日私達を助けてくれたバーソロミュー・熊……その本人である。
「……待っていた……」
「おめェ、そこで何を!!」
「熊!!……自我はあるの!?ねぇ!?」
「ナミ!?」
血を流しながら剣や弓を身体に突き刺したまま、バチバチと機械特有のそれを放ちながら座る姿に思わず駆け寄ろうとすれば、フランキーは攻撃しようとしていたのを止めて私を掴む。でも、熊が!!
サボにとっては大切な人である。ルフィのお父さんから見たら、大切な仲間なのだ。
優しい人だと聞いている。サボを育ててくれた大人の1人だと聞いているのよ……!!
「……任務、完了だ……」
「熊!!待って!せめて手当てを「ナミ!!分かるように話せ!!」」
「熊待って!フランキー、離してよ!熊の手当が先で「そんな危険な事させられるか!!お前ェは自分の価値を少しは理解しやがれ!!」」
フランキーの言葉に私は息を飲む。自分が航海士である事と、ルフィの恋人である現実。
シャンクスの女神として名を馳せている事と、宝玉としての立場。そして、ドフィが勝手をした事と、それに対応する為にミホークがなにかしてくれるだろう事を思えば……確かに下手には動けない。
でも彼は、私達を助けてくれた。その上、ルフィのお父さんやサボの大切な仲間で……。
そんな葛藤の合間に熊は立ち去ってしまう。乱れる事の無い足がどこへ向かったのかなんて、私にはもう分かりはしないのだ。
「ナミ……知ってる事を、話してくれるな」
「うん。でも、詳しくは、レイリーに聞いて」
「……レイリー、か。分かった」
私がレイリーを呼び捨てにしている事の意味を正しく理解したらしいフランキーは、それ以上何も言わずに居てくれた。なので、私はわかってる限りの話をして残りは当事者に聞いて欲しいと伝える。
それにより即座にレイリーを呼び付けたフランキーはサニーのチェックをしつつ待ち、私もまた色々なチェックを行いメモをして行く。必要な物は想像よりは少なかったけど、想像してなかったいくつかの物を買い直す必要に迫られたのは、チェックして良かったと思わされる要因となる。
姿を見せたレイリーに話を聞けば、私も知らなかった多くの事を教えられた。まずは、サニーの存在が1年前に政府に知られて攻撃を受けたのだと言う事実を知る事となったのだ。
その時にデュバルやハチは大怪我をして離脱。その為にハチは魚人島に帰っているらしい。
そんな中でもかすり傷ひとつ無い状態でサニーが残っていたのは、熊が奮闘してくれたからだと知る。ベガパンクにより改良された熊には、あの時私の治療を受け入れる筈も無かったのだとそれにより知る事となった。
「君達を飛ばす以前に政府と契約をしていて、あの日君達を飛ばす直前にDr.ベガパンクと、契約していたそうだよ」
「ベガパンクと……」
「ナミ、ベガパンクについて何か知っているのかな?」
レイリーは咎めるような声ではなく、ただ、淡々と事実確認を私に行った。それだけなのはわかってるけど、私の脳裏には昔の彼が現れてしまう。
五人で過ごしたあの日々を、思い出してしまうのだ。強くて、弱くて、優しくて、不器用な彼を……私は覚えている。
「今のベガパンクは知らないわ。昔の彼は、大切な人には少し嫌味で、それ以外には当たり障りのない人で……でも、誰よりも優しい、弱い人だったわ」
「弱い人?」
「大切な人の為に、狂える弱さを持ってる人」
言葉にすれば、彼の最期を思い出す。泣きながら笑い、そして、炎の中で散っていった儚い姿を。
今世で私の正体を知っていたなら、賢い彼が……科学に精通していた彼が、どんな想いでそれをしたのか。そうしなければならない理由があったんだろう。
その事実をいつか、知る事もあるのだろうか。会って、話を聞きたい。
守られているのは、いつも、私の方よ……。ねぇ、今の貴方は、幸せなの?
「やりたくない事はやらない。僕は、納得するまで絶対に動かないって知ってるだろ。その頭、蜘蛛の巣張らせるには早いんじゃないの?」
「だから、もう少し言い方ってのがあるだろ!!虐めるな!」
「この程度言われ慣れてるだろ。嫌いな奴に、僕がこんな言い方しないのも知ってるんだから良いんだよ」
「二人とも喧嘩しないで。2人共大好きだから、ね?」
「「わかったよ」」
少し照れたような顔をする所まで、そっくりだった2人を思い出す。2人は私に激甘だったわ。
そんな他愛ない会話を思い出して、泣きそうになる。どうしていつも、守ってくれるのかな。
私は何も……してないのに。私がいつも、守られていたのに。
震える私の頭をレイリーがそっと撫でてくれる。その様子にフランキーは調整して来ると言って姿を消してしまい、私は甲板でレイリーと二人にされてしまった。