新聞記事の事があり、船から降りるなと叱られた私はまずは掃除から手を付け、サニーでの生活基盤を作って行く事にした。なんと言っても、時間は有限なのである。
そんな私にフランキーはハンバーガーを食べながら呆れを隠さないけど、色々落ち着いたら執筆に入る予定でもあるのだ。結果として、シャンクスは新聞で私に1目惚れしてクルーにしたのに、のらりくらりと逃げ回られたと語っていた。
その結果手配書にある二つ名の内、泥棒猫は〝男の心を盗む〟事からついたなんて意味のわからない話が蔓延してくれたのには、溜息を禁じ得ない。でも、七武海の2人が嫁だと騒ぎ四皇の1人が女神だと讃え、四皇の幹部を弟と公言してる女なんてそうなるわよね。
客観的に見れば世間の言い分が正しいけど……。その上、明日には恐らくクロコダイルのそれも載るのだろう。
今朝の新聞を見たフランキーが怒髪天を衝く勢いであったので、明日の記事如何によっては私の生命に危機が迫ってると言えなくも無いだろう。……これで案外フランキーは〝妹〟には甘いのだから、ここは素直にサニーに居るべきかなと苦笑したのも当然だと思ってる。
サニー全体を掃除するのに丸一日かけてしまったけど、後悔はない。と言うか船を1人で大掃除して1日で終えられたのだから、寧ろ褒められるべき案件である。
コーティングしてあるから掃除もやりにくいかと思ったけど、そこはレイリーから聞いてシャボンの中を掃除する事が出来たのはありがたい。コーティングされた後は汚れない仕様であった事が、この短時間で掃除が終わった理由でもある。
2年放置された船の大掃除なら、それこそ1週間あっても終わる気がしない。埃は上に乗ってる程度ならそれ程取るのも大変じゃないけど、海水の上にあるから塩と水分が空気中に含まれてるのもあり、埃が貼り付いてしまうから落とすのに苦労するのだ。
部屋の埃を払うのは楽でも、キッチンのガスコンロ周りは掃除が大変なのと同じ理屈である。油とか含んで汚れた埃って取れないでしょ?
その他にもやる事は当然あった。新たに購入した本をしまったり、植物を植え替えたりするのにも1日かかったけど、それもある意味不可抗力として認識してる。
2年誰にもお世話されてなかったから、最悪枯れてると思っていたのに、蜜柑が元気でそれに驚いた。すると、それも熊がやってくれたと教えられてはどう反応していいのか分からない。
「船を守る……という事は、その船にある備品も守る事が必要と判断されたようだよ」
「……そっか。有難いわね」
「そう言えば、ナミの料理は絶品だと聞いたが……馳走しては貰えないのかな」
「お口に合えば良いのですけど、サンジ君のと比べられたら泣きますよ」
レイリーは毎日数時間顔を出してくれて、誰かが来たら教えてくれると約束してくれた。その時ついでにこうして食事やお茶を共にして行くけど、フランキーが言うには私が食事を忘れない為らしい。
勿論数時間ずつ居るのは、このコーティングしてある船についての説明をしてくれる為だ。フランキーは船大工で、私が航海士だからこそ専門的な話もして貰えて分からないところを私とフランキーが容赦無く尋ねれば、それを楽しそうに聞いて対応してくれた。
「その疑問には驚かされたな。今まで気にした事は無かったが……」
「わからない、ですか?」
「いや、確実でなくても良いのならわかる。これ迄に近い事は経験してるからね」
そんな感じで多くの事を聞いて、細かいメモも貰い……そして時は過ぎた。フランキーが完成させてくれたペンダントトップに私は貰ったビジョンブラッドを入れて貰い、ロビンの物にはアクアマリンを、ベルメールさんとノジコにはオレンジサファイアを入れる事にした。
これにはちゃんと理由もある。ロビンのはフランキーの色で決めたんだけど、ベルメールさんとノジコのは、私がルビーだからと言うのが理由。
サファイアとルビーは色の違いで名前が変わってるだけで、元は同じくら石だから。価値としてはピンクのが高いけど、私の髪の色を贈る方が喜ばれるんじゃないかと、蜜柑の色の方が落ち着くんじゃないかと言われてそう決めたのだ。
巫女様とビビは、公式な場に出る事も多いから白または無色透明の石の中からと思って決めたけど、真珠は砂漠に向かないし、ダイヤは恋人から欲しいかなと言う事で頭を悩ませた。結果ロッククリスタル……つまりは水晶を贈る事にしたのだけど。
クオーツだと流石に1国の姫としては、使いにくいかなと考えての消去法。そうして完成させたそれらをそれぞれ届けて貰う様に手配して自分の羽織ってるカーディガンの襟元にそっとブローチのようにそれを身に着ける。
身に付けてる写真は、手配書で良いでしょと笑って添えない事を決めた。代わりに手紙を添えたけど、それも1筆だけに留めておく。
『私と宝石違いのお揃いよ!ナミ』
これだけできっと笑ってくれる。そう信じられたから、贈ったのだ。
それに、長く書けば書く程になんか筆が止まらなくなりそうで、想いが溢れてしまいそうで……書く事が出来なかった。愛しい家族と、仲間と、親友に贈るのだから、妥協なんて言葉は私の中に存在しないのも当然。
そんな感じで1週間を過ごした私は、そろそろ自分で情勢や最近の海賊事情等の情報収集をしたくて、自分の幻を残してサニーを離れた。戻った時には幻が消えてるのは当然だから、お土産で誤魔化そうと決意して歩き出した私の足取りは、妙に軽い。
買い物を楽しみ、必要そうな物をサニーに届けてもらう様にお願いして……帰ったら怒られる気がして私はHOTELに泊まる事を決めた。うん、無駄に怒られてまた閉じ込められる位なら大人しくHOTELに泊まるべきよね。
その決断が何を生んだのかは、不明である。蜜柑の世話だけは早朝に離れたところから雨雲作って送ったりしてやっておいたけど、意地でも戻らなかった。
だって雲を見付けた時の、フランキーの怒号が恐ろしかったから。鬼も裸足で逃げ出しそうなそれは、帰ろうかなとか、謝ろうなんて気持ちを瞬時に崩壊させてくれた。
……あんなに怒らなくても……。よし、帰る時はチョッパーかロビン、もしくはサンジ君を伴おう。
つまりは私の味方。それが無理ならルフィと帰ろう。
ルフィならトラブル付だから、フランキーだって怒ってる場合じゃないもん。まったく、私ももう大人なんだからそんな扱いされるのは納得出来ないわ。
この主張をゲンゾウが聞いていれば、お前は間違いなくベルメールの娘だよと頭を抱えた事だろう。だが、今傍に居ないゲンゾウは、ナミが生きていると唯一わかる出版がある度に泣くくらいには情緒不安定である。
その詳細話は割愛するが、二年姿も噂も無ければ、男親が娘を気が狂いそうな程に心配するのは当然だろう。全くもって親不孝な生き物である。
そうしてナミは三日島で過ごした。その間に洋服のモデルを頼まれ、洋服を貰える事とお金が貰えるというそれに飛び付いて雑誌モデルを引き受けたが……それが後に新たな手配書に使われたのは当然だろう。
ゲンゾウには胃薬を送ってやれと切に願う筆者である。はてさて、ではここからまた視点を戻そう。
ぼったくりBARにも顔は出してるけど、情報を集めるには不向きだからと適当な店に入り話を仕入れて行く。するとその店の奥で騒がしい1団がいて、耳障りねと思ったが故か眉が寄った事を自覚する。
「海軍本部が場所を移したの、知ってるかい?アンタ」
「マリンフォードから移動したのは聞いたけど、その移動先については聞いてないわね」
空になったロックグラスに酒を注ぎながらBARのマスターが声を掛けてきたので、私の意識は五月蝿い1団から離れる。そんな私にマスターは
その話を聞いて溜息が落ちたのは、ここで食い止められていた海賊が大量に魚人島へと流れ込むようになったと理解してしまったから。弱い海賊は、質も悪い。
ケイミー達、無事かしら。白髭海賊団の庇護もない今、本当に心配だわ。
「あァ!?俺の聞き間違いか!?」
グラスを唇につけるのと同時に聞こえたそれに、今度は何と思って視線を向ける。そして……関わらない事を決めた。
懸賞金が安いと言って銃を放つその姿は、ただの雑魚。関わる気にもなれない。
……ホンモノに、早く会いたいわ。まったく、たかだか二年姿を隠しただけであんなのが出て来るなんていい迷惑。
そして、そんな奴らに騙されて集まった中に億超がいると聞いて呆れてしまう。その程度の事さえ見破れないなんて……それでどうして億がついたのかしら。
人を見る目がないのは、危険度が低いと言えると思うのよね。……まぁ、強さかそれとも民間人に手を出したかでも加算されるから、オツムのデキとは別に億なのかもしれないけど。
「手下はもっと集めるぞ。……オヤジ、酒だ!!……あァ、それと、さっきからいる
ルフィとは似ても似つかない声。手配書と差程変わってないと思う私に対してのその言葉……情けなくて、呆れてしまう。
ルフィなら、私を見たら躊躇いなく笑顔を見せてくれるし、抱き締めてくれるもの。ゴムなのに、暖かいルフィを思い出して薄く笑うと背後からまがい物の声が聞こえて来て不快になる。
「へへ……。ありゃ、上玉だぜ」
当然でしょ。そうじゃなかったら、どうして未来の海賊王に並び立てるのか。
そして、あれだけの男達と時を共に出来るというのか。私は、自他共に認める美少女航海士なんだから。
「……結構です。私、男待ってんの」
誰もこの場に現れなかったとしても、私に勝てる要素はない。誰か1人でも知ってるのが来れば、間違いなく守って貰える。
アーロンに支配されて、泣くのを耐えるしか出来なかったあの頃とは全く違うのよ。今の私は、戦えるし、皆を疑う事も躊躇う事も無く、信じられる。
マスターは小声で色々言うけど、そっか、ルフィの評価って世間ではそうなってるんだ。そんな事を思いながら、残りのお酒を口に運ぶ。
「ハハハ!!男を待ってる!?どうせ、ルフィ船長の名を聞いたら泣いて謝るような軟弱野郎だろ!!早くこっちへ来い!!」
「もう1度だけ言うわよ?」
クルリと顔だけ向けて言葉を放つ。今の私は、短剣を隠してないのよ。
つまり、シャンクスとミホークのマークを身に付けてるの。なのに、それにさえ気付けない程度のカス。
声が尖るのがわかる。表情が呆れを超えてしまいそうになるけど、そこは関わりたくないから頑張って押さえた。
「あんたじゃ私に釣り合わないから、飲まないって言ったの!おわかり?〝麦藁の〟……誰だっけ?」
「おい!!やめろ!!」
マスターが慌てた声を出すけど、もう興味すら抱けない。この程度、意識を向ける価値も無いわ。
そう思うのに、苛立ちを隠す事さえ出来ずにいる様子が伝わってしまう。こんな小物……相手にする価値も無いと言うのに。
「〝麦藁のルフィ〟だってんだよ!!」
銃を片手に立ち上がるソレは、図体ばかり巨大な邪魔な生き物。空になったグラスをカウンターに置いた所で、見知らぬ女が私の肩に腕を回して来た。
「じゃあ、二択にしてあげる!!ルフィ船長の誘いを受ける?死ぬ?」
私よりも少し体温が高いのは、興奮してるからかな。向けられた銃はよく見る安物で、流石に目の前にそれを出されるとシャンクスの言っていた、脅しの道具じゃないって言うのを思い出す。
シャンクスって大人気ないから、こんなの見たら覇気を振りまきそう。まぁ、自分の事だと何もしないで笑ってるんだろうけど。
「ちなみに私も賞金首。〝泥棒猫〟ナミって言うの。舐めないでよね!!」
言われた言葉により驚いて視線を向けてしまう。……え、私って、世間ではこんな感じで見えるの?
だとしたら、その、言いたくないけど、全然魅力感じないわ。……成程、シャンクス達は親の贔屓目とか、惚れた弱味の痘痕もエクボなのね。
「〝必殺緑星〟!!デビル!!」
突然聞こえた美声。そして現れた巨大なハエトリグサ。
あ、今度ハエトリグサも育てようかな。でも、それならラベンダーの方が有効的よね。
うん、ハエトリグサはやめよう。なんでか枯らしちゃう気がするわ。
でもこの騒ぎには、流石に驚いて立ち上がってしまう。この植物達は、どうして私には手を出さないのかしら?
そんな事を考えながら、世間的には見えてるらしい自分の姿に少し気落ちしそうになるのを耐える。もっと頑張って自分を磨かないと、ルフィの隣に居た時ルフィに恥をかかせちゃうわね。