溜息が落ちるのはやはり、私だと名乗る女性に対して誰も違うと言わない事が理由かな。……なんか、泣けてきたわ。
私、自分では元のナミちゃんと見た目は同じ感じだと思ってたけど、実際はアレだったのか。駄目ね、天狗になってたんだわ。
「じゃあおねーちゃん、俺となら飲むか?」
いつの間にか隣に来ていた男に声を掛けられて、その男が帽子を少し上げた時思わず〝あ〟と声を出していた。だって、会いたかったんだもん。
先に技の名前を口にしたその美声により、期待はしてたけど。実際にその人だと認識して会うと、やはり違う物がある。
「きゃー!!ウソップ久しぶり~!!何よ~!!ちょっと逞しくなっちゃって~!!」
お姉ちゃん嬉しいぞ!愛いやつめ!
そう思って座ってたウソップを、私は立ち上がった状態で抱き締める。結果その顔は私の胸元に来てるけど、まぁ……仲間だし、ウソップだし良いでしょ。
「ウぶ……。そ……そう言うお前こそ、また1段と実っちまって……」
語尾に汗マークとハートが乱立してる気がしたのは無視して、その頭をそのまま撫でる。帽子越しだけど、構わないわよね。
あら……もしかして、少し背も伸びてる?
男の子だもんね。成長期なのね。
そう言えばゾロも少し背が伸びてたもの、ウソップもそうよね。……というか、年齢的な事を考えたらウソップはもう少し伸びても良かったんじゃないかしら?
男の子とは言え、ゾロは成人してて、ウソップはまだあちらの感覚なら高校生だったのだから……。成長期が遅かった人は、二十歳くらいまで伸びると言うけど、ゾロは成長期遅いタイプじゃなかったと思……あ、世界が違うものね。
本当に、成長したのね。ただの村の少年だったウソップが、海の男って感じになった事が本当に嬉しい。
「何だァ!?待ってた男ってのはあのヘナチョコの事か!?」
「アレ、あんたが?」
ハエトリグサの巨大版を示して問いかければ、ウソップは得意そうに笑った。どうやらこの様子なら、この先も期待できそうね。
「おうよ!!新兵器〝ポップグリーン〟!!何も二年間海を眺めてぼんやりしてた訳じゃねェんだ!!」
「ウソップ……」
そうよね。あの記事を見たら、エースが目の前で死んだのだと……皆思ってる筈だもの。
ルフィは瀕死の目に合いながら、兄への黙祷を捧げに行った。そして、ルフィは私達に二年……力をつける為に時間をくれと言ってくれたのだ。
ルフィは、私達を守る為に、先へと進む為に力をつけようと決めた。それなのに私達が、ただ海を眺めて過ごすなんて選択肢がある筈も無い。
熊は私達の適性を伸ばせる所へと飛ばしたつもりだと、レイリーにそう話していたそうだ。つまりは、僅かな時を共に過ごしただけで……彼は革命軍でそうだったようにそれぞれの適性を見極めてくれて、次に会った時にはそれを伸ばせるように尽力してくれたのだ。
仲間の息子だから、そしてその仲間だから。そんな思いがあったのだとしても、ここまでして貰えるなんて普通なら有り得ない。
友人本人では無く、それの息子だ。更にはその息子の友人。
既に赤の他人と呼ぶのが正しい相手の為に、最後の願いを使ってまで守ってくれて、強くしてくれた。……優しい人なのだと聞いてはいたけど、この恩をどうやって返したらいいんだろう。
「ウソップ……」
「おいおい、二年で随分人間らしくなったな。泣くなって、俺が皆に殺されちまう」
「会いたかった……」
「そう言うけどよ、お前……船で〝兄貴〟が怒り狂ってたぞ。幻残して消えたって?」
「うっ……!だってぇ~……」
「だってじゃねェよ。……てか、離せ。胸に圧迫されて息がヤバいのもあるが、見つかると俺がマジで殺される」
そう言って私の腰を押すから、私も困らせなくは無いのでハイハイと言って離れる。そこに騒ぎながら暴れる男が現れれば、その姿にウソップが反応した。
「なにー!?狙撃キング!?なんで?」
「ウソップ、ムシムシ」
それからウソップの手を掴み、荷物を纏めて持つと歩き出す。こんな所にいつまでも居たくない。
私、暫く甘いの控えようかな……。うー……ミホークも美しいとか言うから、あの人お世辞とか言わないから本気にしてたのに……。
「お店替えましょ!ちょっとお願いもあるし!」
「待て!!貴様らァ!!俺達を誰だと思ってやがるっ!!」
「え!?ルフィ??」
「あ!!お客さんお代は!?」
騙されやすいウソップだからとは思うけど、アレが、ルフィですって?
あんな、小者が?
私の、愛しい男に見えると……。ウソップは、そう言うの?
「ウソップ……あれの何処が、ルフィなのよ?」
「す、すみませ、ん!!俺が間違ってました!!」
「分かればいいのよ、分かれば」
怒りをそのままに、雷雲となるシャボンを発生させて歩けば背後から銃弾が飛んで来る。けど、それを躱しながらウソップを見ればウソップも普通に躱していて……うん、もうウソップは人間を卒業したのねと内心で思う。
内心で思ったそれが、ブーメランだと気付かないままに私のは1人納得して頷いていた。銃弾普通に躱せるとか、ウソップも安定の強さを得たのね……。
お店を出て歩きながら空島にいた事を話して、ウソップがいた島についても話を聞く。2人で買出しをするならと、ボンチャリを借りて漕ぐのを任せてしまう。
酒場のそれは直後に雷が店内を覆い尽くした筈だけど、あの程度なら死なない筈よ。お爺ちゃん達が、死なないけど1定時間動けなくなる程度の威力で用意したんだから。
「……でね、私としてはトマトは必須だと思うのにフランキーはいらないって言うのよ!!葉物野菜があるからこれ以上いらないって!」
「うーん、大玉は育てるの難しいって聞くから、ミニトマトにしといたらどうだ?」
「ルフィがいるのよ?大きくなかったら足りないでしょ。葉物野菜だけだとお腹に溜まらないから、ルフィが騒ぐのを解決できないのよ。でも根菜は流石に難しいもの」
「そうだな。うーん、トマトか……」
そんな感じで呑気に話してたかと思えば、ウソップが燃料用のコーラを買う時に我慢出来なくて値切る私の様子を眺めて、変わって無かったと呟いていたりと、比較的平和に過ごしてる。そんな中で私はウソップに、クリマタクトの改良とフランキーを宥めるのを手伝って欲しいと願ったけど、どちらもOKして貰えた。
「それにしてもよ、ナミの偽者は驚くくらい似てなかったな」
「え?」
「ルフィのは驚いたけど、ナミの偽者はそうだと思いもしなかったから、迷わず助けに入ったろ」
「……ホントに、似てなかった?」
「…………なんだよ、その、泣きそうな顔。っとに、自分の事だけ自信ねェな、相変わらず」
ウソップは可笑しそうに笑うけど、私は不安なのだ。ウソップが騙されるなら、ルフィもアレを私だと思って、抱きしめたりするかもしれない。
色々な男と関係を持ったのに、その程度許してやれと言われるかも知れないけど、寂しいというか、悲しい。ロビンとかビビなら、気にならないのにな……。
「だって……」
「ナミは、世界で2番目に可愛いと思うぞ」
「二番目?」
「あァ、そりゃ誰もカ……っ!?なんでもねェ!!」
真っ赤になったウソップを眺めて、心から思う。……何だろう、尊い……。
そっか、ウソップにとってこの世で1番可愛いのはカヤちゃんか。成程って、あれ?
「それだと私随分上位じゃない?」
「ナミは可愛いって言ってんだろ。自覚しとけよ。流石にいつも命懸けで守ってるヤツらに対してナミの無防備さは不憫だぞ」
「……無防備じゃないわよ。それなりに強くなったし」
「前より!?」
何よ、その驚き方。元々はか弱い美少女航海士で、クリマタクト無しだと村娘Aだったのが、今は美少女航海士に格上げになったって程度よ。
クリマタクトが無い時も戦えるようになってきたから、村娘Aってのは違う気がするけど。護身術を使える、村娘って所かしら?
「マルコから、五千万以下の奴らに負ける事は有り得ないってお墨付き貰ったわ」
「……俺、やっぱり弱小組なのかな」
「へ??」
突然落ち込み始めたウソップに、私はどうしていいのか分からなくなる。何処かで少し休む?と聞こうとした時、ウソップが驚いた様子で何処かを見ていて、その直後嬉しそうな声でその相手の名を呼んだ。
「チョッパー!!」
「あら、チョッパーはロビンとはぐれたのかしら?」
「ん?ホントだ。なんかロビンを呼んでるな。あっぶねェ事してるな。緊急事態か?……おーい、チョッパー!!どうしたー?」
「おーい、おーい」
チョッパーに会えたのは嬉しいけど、というか到着してたのねと思いながら見てた。けど、ロビンの事を大声で呼ぶのは危ないわ。
ロビンは世界から狙われてるんだもの。チョッパーがそれを分からないとは思えないのに……どうしたのかしら。
でも、ロビンがもう来てるのはこれで確証になったわ。つまり、私がフランキーに叱られるリスクが減ったって事よね。
「ウソップ~!!」
チョッパーもこちらに気付いて嬉しそうに駆け寄ってくると、トナカイ姿でウソップと向き合う。そのサイズの変化に流石に驚かされるけど、それでも変わらない愛らしさがある。
そうよね、チョッパーって今17歳だもの。あの頃は15歳だった訳だし、これくらいの成長は当たり前よね。
ここで動物年齢で考えてはいけない。この場合ヒトヒトの実の影響もあるから、チョッパーは人の年齢で換算されるのだ。
「何だよおめー、でかくなったな。乗り心地も割増だな、コリャー。元気だったか?」
そっとチョッパーの横に移動してその首に抱き着くと、顔の位置が並んでる事実に気付く。わー、フカフカー!
このまま寝てしまいたいくらいの触り心地。なのに暖かいのだから、離れたく無くなるのも無理は無いと思って欲しい。
「ほんとうだっ!前よりふかふか」
「ん?」
「久しぶりね、チョッパー!!」
「あれ?ナミ?」
不思議そうな顔で首を傾げるチョッパーに、私も首を傾げる。え、そんなに変わった?
私、太ったのかな。胸が大きくなったんじゃなくて、太ったの!?
「??……そうよ?」
「……いや……そうだ!!再会は嬉しいけど、それ所じゃないんだよ。ロビンが大変な事に!!」
「詳しく聞かせて」
先程から気になっていたのだ。ロビンを大声で呼ぶなんてそんな危険な事をしていた、その理由が分からなくて……。
そうして話を聞いてみれば、泣きたくなったのも許してもらいたい。やっぱり偽者を私と勘違いしてたらしい。
「ウソップの嘘つき、やっぱり彼女と私、似てるんじゃない。私、傍から見るとあんななんだ。私って平均より可愛いのかなとか思ってたけど、アレが似てるんだったら、普通以下じゃない」
「さり気なく失礼だぞ、それ。まァ、とりあえず……チョッパー、謝れ。やっと浮上させたのになんて事してくれてんだ」
「ええぇ!?俺!?」
「あァ、俺様に謝れ」
「ウソップになのか!?」
「当然だろ。落ち込んだナミって面倒なんだぞ!!」
面倒って、ウソップあんた。まぁ、言いたくなるのは分かるけど。
とりあえずダイエットからよね。うーん、なら……プチ絶食とかどうかしら?
そうと決まればまず、ダイエットの基本。周りに宣言して、自分の中にある決意を確定させる。
「私、明日からプチ絶食に入ります」
「「辞めろ!!」」
私の宣言を受けてウソップがチョッパーを叱り、チョッパーは私に泣きながら謝って来た。それによりとりあえずプチ絶食は辞める事にしたけど、案外効果高いのに何がダメなのかしら?
プチ絶食とはお粥、サラダ、寒天、コンニャク等カロリーの殆ど無い物の中から1つを選び、ご飯茶碗に1膳だけを食べるのを1食として考えるのを基礎とする。そして最初の日は3食、次の日に2食、その次は1食に減らしていく。
そしてゼロの日を作り翌日1食、その次2食として最終日に3食にして終える1週間かけて行う胃腸の清掃系ダイエットだ。胃腸の中に残ってた物……宿便等を排出したり、稼働しすぎだった臓器を休ませる意味もある。
勿論カロリーのある飲み物は禁止だけど、それ以外なら飲み物は自由に飲める。問題は間食も含め1切してはならない為に、これを耐えきれる人が少ないというところだ。
胃が拡張してた分をこれで縮める事もできるので、胃腸洗浄の効果の他にも色々良い効果は多くある。けど、物を食べない期間が耐え難かった為にダイエット前よりも食べるようになってしまいリバウンドする人も多い。
なので、これでダイエットが確実にできるかと言われたら答えは否と言える。本当に人を選ぶダイエット方式であり、1週間かけて身体を慣らしたり戻したりするそれを無視しては身体に悪影響が出る事もあるのだ。
なので、キッチリ守れる人しかやれない。それと、最低でも1ヶ月はやる期間を開けて同じ事を何度かやらないとそれは身体を壊す事に繋がるので、本当に気力と精神力と忍耐力が必要だと言われている。
まぁ、私は食べるの忘れるからある意味それの為にあまりやってはいけない系って事になる。なので、それがチョッパーの顔色を悪くしてしまった理由かなと思う。
そうして私は、チョッパーとウソップの必死の説得を受け入れた。代わりに私は、別なダイエットにするわと宣言して見たんだけど、何故かチョッパーに号泣される事となってしまったのだ。
気落ちした時は、何か新しい事を始めると良いって言うのに、何がいけないんだろう。首を傾げる私にチョッパーは泣き続けるのだから、困ってしまうのは当然だと言いたい。