結局泣くチョッパーに私が勝てる筈もなく、純粋過ぎるチョッパーは逢いたいと言う思いが先行して、私達が2年で随分変わったんだなと思ってしまった。つまりは単なる早とちりしてしまったのだと説得される。
その流れで当然チョッパーは、ロビンも偽者だと納得してくれた。なので私は溜息を禁じ得ないけど、許す以外の選択肢を持たないのである。
「え!?じゃ、あいつら偽者か!?だからナミが2人いんのか!!」
「呆れた……。そもそも人の身長は加齢を理由に、もしくは大怪我等で足を失ったりとかでもしなければ縮まないのよ!まぁ、姿勢が悪くて縮むとかはあるけど、成長期である皆が縮むのは医学的に有り得ないの」
「あ!そうだよな。……ナミは相変わらず凄いな」
「チョッパーが今回の件に関しては、お馬鹿さんだったのよ。そもそもロビンは20年も世界政府から逃げ抜いたのよ?袋に詰められて連れて行かれるなんて……考えられない」
言いながらデコピンすれば、チョッパーは恥ずかしそうにする。その様子が本当に可愛くて、心は癒されていく。
可愛いわ。ただひたすらに、可愛い。
「そうか!!なんか違うと思ったけど、懐かしい匂いもしねェし……」
「そもそもよ?サンジ君が、私やロビンに何かあって動かない時点でおかしいわ。世界が滅んでも私とロビンは守るわよ、サンジ君なら。見ず知らずの女の人にもあんなに優しいのに、私やロビンに何かあっても反応しないとか……偽者以外の何よ」
「「あー……確かに」」
声を揃えた2人に小さく笑う。でも、ロビンとそんなに似てたのかな?
ただなぁ、アレをルフィだと思ってた時点でチョッパーの似てる発言は信用出来ないわ。全く……疑わないにも程があると思うわよね。
……という事で、チョッパーにもルフィの偽者を信じた件についてはしっかりと叱っておいた。けど、ウソップからは胡乱な視線を向けられている。
「どうして自分のは落ち込むのに、ルフィのは怒るんだよ」
「自分の船長を見間違えるとか、許される筈無いでしょ。それとも……あんた達にとって〝船長〟ってそんなに価値がないの?」
「「すみませんでした!!」」
その後2人は真似された事に怒り、有名人だと喜び始める。全く……危機感持って欲しいわ。
でも、確かに仕方ないとも分かってる。これを望んで、彼等は海に出たのだから。
「……船長のルフィの名が随分売れたから、仕方ないわよね」
「えへへ……。俺、サイン考えとこ!!」
「俺もう考えた!」
「私達ね、悪い意味で有名人なのよ。わかる?」
「名前が売れてるの、ルフィだけじゃねェからな?わかる?」
ウソップが私の真似して言ってきたそれに私は頷く。わかってるわよ。
「ゾロの名前も轟いてるし、ブルックが今回別な意味で有名になったものね」
「「わかってねェ!?」」
そんな会話をしながら私達がサニーへと向かってる丁度その同じ時、ルフィは自ら騒動の渦中へと進み、ゾロとサンジ君は合流して喧嘩をしていた。ロビンとフランキーはサニーで待っていて、ブルックは最後のコンサートの真っ最中。
勿論そんな事を私達は知る由もなく、呑気に時を過ごしていたのだけど。そんなブルックは想いを込めて歌って行く、大切な人達に届く事を願って。
あの戦争の事を思えば、無い筈の胸が痛んだ気がしてブルックは表情の無い今に感謝する。もし、表情があればファンとして今集まってくれてる人達に、無用な心配をかけてしまうから。
「続いて……〝夢現乱舞抄〟」
ナミさんが出したこの歌は、戦争の事を思い起こさせる。いつも見えない何かと戦っているように見えたナミさんが、心配でならなかったのですが……今はただ、ご無事を確認したい。
出版が無ければ、気が触れそうな程に心配したのです。ルフィさんが参加していただけで、その結果を知っただけでも衝撃だったというのに……。
あんな想像するのも恐ろしいその場で血に濡れて壊れている貴女の姿が、私の知る最後の姿なのですから。良くぞ、生きていてくださいましたね。
「ーーー」
まるで貴女は1陣の風のようだ……と、そう感じる時があるのです。ルフィさんと共に、時代を駆け抜けるのが当然だと言わんばかりの。
「ーーー」
闇の中にいた私に差し伸べてくれた優しい光。そんなお二人の運命が大き過ぎて、私は何ができるのかと考えさせられるばかり。
戦場で貴女はきっと舞ったのでしょう。夢のように美しいその姿で、ルフィさんを守る為に。
「ーーー」
どれ程硬い岩でも、困難でも……短剣を手に気高く前を向く貴女が、紙面の向こうに見えた気がしました。戦場の焔よりも煌めく貴女は、己の価値を理解しない。
もっと、自分を大切にしてください。貴女が傷つく事を望む人なんて、少なくとも貴女の身近にはいないのです。
「ーーー」
ルフィさんの為に本来ならば勝てる筈も無い、生き残れたのが不思議なその場所で、比喩ではなく雷鳴を轟かせる貴女。戦場でその生命の華を咲かせ、人々をまたしても魅了したのでしょうか。
「ーーー」
土煙の中で地平の先を見据えて、他人を傷付ける痛みにより流れ落ちた自らの泪を踏みつけ、表面を取り繕い戦いに身を投じる貴女が痛い。本当は、大切な人の前でしか泣く事のできない、強がりで傷付きすぎた儚い少女でしかないのに。
貴女とルフィさんは、私の光です。その場に居ても、私は役に立てなかったでしょうが……傍に……居たかったのですよ。
「ーーー」
戦いの果てに待つものがなんであるのか。破滅しかないのだとしても……貴女は天を仰ぎ、覚悟を胸に戦う。
本当は誰一人傷付ける事を好まないのに。陽だまりの中、蜜柑を手に麦藁帽子を被って笑うのが貴女には、良く似合う。
「ーーー」
風に舞う花が乱れ舞うように、貴女の戦う姿は美しくも動きを読めない。貴女の願いは、何なのでしょうか。
人の事しか祈らない。人の事しか考えない貴女の幸福を願う事は、罪なのでしょうか。
「ーーー」
見張りの為に起きていたあの日、1人月明かりの中舞う貴女を見ました。剣舞を月に捧げる貴女は余りにも神聖で……静かに五感を研ぎ澄ませる貴女がやけに遠く感じたものです。
「ーーー」
自らの血で染め上げた赤き衣を纏い、大丈夫と微笑む貴女。けれどもその赤き物が他人のものならば、貴女は嘆くのですよね。
残酷な優しさを持つ、鈍色の天使。その香りに鉄が混ざらない事を、私達は願っています。
「ーーー」
私のこれ迄の人生、それにあった喧騒も、静寂も、そして今の栄華も泡沫のもの。それでも、手の中に残るものは必ずあるのです。
「ーーー」
お二人が光の中に連れ出してくれたように、私はこの生命かけてもお二人と、その大切な人を守りましょう。その暖かく優しい笑顔を守る為に。
「ーーー」
諦めて、忘れ去っていた熱き旋律を思い出す。浅い夢から醒めて、手を伸ばした先にあるお二人の笑顔を守る為ならば……私は修羅となりましょう。
「ーーー」
ひとたびの縁、あの絶望を繰り返したりはしないと誓う。海賊王へと続く歴史の中、共に刻み付ける覚悟です。
「ーーー」
無常の中、独り奏でる時は終わったのですから。今はもう、潰える事等想像もできない光が私の胸に宿っているのです。
「ーーー」
皆さんの為、1撃を。それが私の存在意義です。
「ーーー」
砕け散り二度と戻らぬと思えた夢の跡。それを踏みつけ泣いていた日々は遠い過去。
「ーーー」
私は皆さんから聞いたのですよ、ナミさん。貴女が涙を流さずに泣きながら、夢を……全てを諦めようとしていたのだと。
天を仰ぎ、覚悟を胸に魔女を演じ、激しく強く乱れ舞うように戦う貴女を守る事が、ルフィさんへの恩返しともなりましょう。私は……麦藁の1味の音楽家です。
そうしてライブの幕を1度は降ろして、けれども鳴り止まぬアンコールのそれを受けながら、シャッキーさんと連絡を取り合う。悲鳴のように聞こえて来る、ファンの皆様からの声。
「私はもう少し……。ええ……。ファンの皆様のアンコールが鳴り止みませんので、戻ります」
ブルックはそうして光の中へと戻って行く。そしてその同じ頃、ナミ達はサニー号へと到着した。
サニー号へと到着した瞬間、大興奮なチョッパーの存在により私は叱られる事なく待機する事が出来ている。荷物を運び込む為にボンチャリから取り外したりしてると、船にロビンが居るのが見えた。
「ロビーン!!」
「ナミ!!元気そうね!」
そう言ってロビンが花弁と共に目の前に現れて、強く抱き締めてくれる。会いたかったわ……と、そう言って。
「怪我はない?」
「ロビン……」
「心配したのよ。ナミに何かあったら……そう思って、何度枕を濡らしたか分からないわ」
「ロビン、心配かけて、ごめんなさい」
「いいえ、無事でいてくれたのなら、それだけでいいの」
「君達、そろそろ船に向かいなさい」
ロビンとの会話に割り込んだのは、可笑しそうに笑うシャッキーを引連れたレイリー。それにより身体を離した私とロビンは、荷物を手にして頭を下げる。
その直後、笑顔になってその名を呼ぶ。やっぱり私、美人さんが好きみたい。
「レイリー!シャッキー!!」
「少々、島の状況が忙しなくなってきた」
レイリーの言葉を聞きながらシャッキーに飛びつくと、シャッキーが本当に可愛いわと言って頭を撫でてくれた。それに少し甘えてからロビンと共に船に向かえば、2人も着いて来てくれる。
そこではしゃぐ男達も使い荷物を片付けさせて、いつでも出航できるように準備を整える。そうしてシャッキーから話を聞けば、例の偽者を海軍が信じて集まっていると言う。
……やっぱり、私はあんな感じに……。そう思って落ち込むとロビンが嬉しそうに笑った。
「そのままそれがナミとして捕まって、貴女を狙う馬鹿達の標的になってくれたら良いのに」
「はっ!それ、名案ね!似てるみたいだから、何とかなるかも知れないわよ!?」
そうよ、私を名乗ってくれたんだから、代わりに皆を引き受けて貰えるかも!そうしたら私は安心して、ルフィとただ呑気に生きていけるわ!
そう思ってガッツポーズを決めた私に、ロビンは呆れを隠そうともしない。……なによぅ、ロビンが言い出したのに……。
「……本当に馬鹿ね、ナミったら。ナミみたいな美少女、他に居ないわ。勘違いするようなら、その程度の男なのだからいい見切りにできるわよ。それとも……あの中の誰かと、結婚したいの?」
「……あの記事は……!!」
「わかってるわよ。ナミの意見なんか関係ないんでしょ。ナミはルフィのだものね」
そう言って悪戯に笑うロビンに、私は永遠に勝てない気がして息を吐き出したのだった。そんな私達のやり取りをレイリーは静かに見守っていて、それからゆっくりと問い掛けてくる。
「ナミ、コーティング船の操作はもう大丈夫だな?」
「あ……はい!!頑張って覚えたつもりっ!まだ、操作してないから確実じゃないけど……知識面では大丈夫よ」
「なら、問題ないだろう。ナミは私の目から見ても、右に出る者の居ないレベルの航海士だ」
その言葉が嬉しくないと言える筈が無い。そんな風に言って貰えるなんて、考えても見なかった。
元々ナミちゃんが優秀だからってのが大きいけど、それでも……嬉しい。この人に認めて貰えるのは、本当に。
「おう、何だ何だ。急に緊迫してきたな。でもレイリー!!肝心のルフィがまだ……」
ウソップが準備を終えて船内から顔を出す。それによりレイリーは告げる。
「大丈夫。ルフィなら、もう上陸している」
その瞬間、その場にいた私、ウソップ、チョッパー、フランキーの顔がパッと輝き、ロビンが嬉しそうに笑い楽しみねと言った。そう言えば、ここにまだ居ない残りのメンバーは、大丈夫かしら?
集結の時は近付いている。私はそう確信して、笑った。