皆の声が聞こえる。私やナミさんを呼ぶ声が、聞こえる。
私は……ずっと守られて来た。初めて会ったあの時から、ずっと。
まるで私が共に船に乗るのを分かってたみたいに女部屋にはベッドが用意されていて、私が悪夢に魘されて目を覚ませば、優しく頭を撫でてくれた。寝付けない時は温かい飲み物を用意してくれて、つらくて震えていたら抱き締めてくれた。
まだ無理に大人にならなくていいのよって、甘やかしてくれて、困ったような顔で笑いながらなんでも許してくれて……。もしも、お母様が生きていらしたら、こんな感じだったのかなって思わせてくれた。
賢くて、優しくて、だから皆に守られてるお姫様みたいな人なんだって思ってたのに……。本当は戦えた。
私が強がって、エージェントだなんて言っていきがってたのが情けなるくらい、私は攻撃を躱す事さえ出来ないようなバナナワニを簡単に殺してしまえる実力。それを余り見せないのは、弱いからじゃない。
……優しすぎるのよ、ナミさんは。戦えないんじゃなくて、戦わなかったんだと知った時には、どれだけ守られていたのかを嫌という程に思い知らされた後。
クロコダイルに私が攻撃を仕掛けたあの瞬間から、現在までに何度……私は助けられた?
なのに、どうして私はナミさんを助けられないの。また……ここで助けられるだけの存在になるの?
そんなのは、いや。私はずっとナミさんだけじゃなくて、この1味の人達全員に助けられ続けてきたじゃない。
今度は……ここで私が踏ん張らないでどうするのよ!今、助けを呼びに行けるのは、私だけなのよっ!
この場をナミさんが離れたら、皆が危険になるもの。なら、私はこんな所で倒れている場合じゃないわ!
ビビはフラリと体を起こすと、襲い来るバナナワニの攻撃を躱して、先程ナミがやっていたように口の上に乗る事でそれを回避する。その勢いでバナナワニを踏み台に階段の上まで登ると、振り向いて笑った。
ナミがいつもそうしているように、周りの人を不安にさせない為に。余裕があるとでも言うように笑う。
そうして久方振りに、心配をかけない為に強がるのではなく安心させる為に隠す事も時にはあるのだと言う事を思い出す。だから、王族は常に笑っている必要があるのだと言う事を……思い出させられる。
「皆!もう少しだけ我慢してて!!必ず助けを呼んで来るからっ!私は絶対に皆を見捨てたりしない!!」
立ち去るビビの背を見送り、私はとりあえず鍵を開ける為に邪魔なバナナワニを倒して行く。ガラスが割れて水が入って来るのを見ながら、時間の少なさを思い知らされるけど、どうしたって戦う手段を殆ど持たないビビが心配になる。
ビビ、気を付けて。無事で居て。
祈るように、願う。ビビの無事を。
室内が水に沈めばバナナワニとまともに戦う事は出来なくなる。だから私は必死で檻に意識を集中できるように、バナナワニを切り倒して行く。
何体倒したのだろう。どれ程戦ったのだろう。
キリがないような気がして、でも諦める事なんて出来なくて……。それでも、終わりが見えないからと倒れる事も許されない。
辺りにはバナナワニの死体があり、その血液の臭いで噎せかりそう。有難い事に体力は消耗していても、私は怪我はの1つもしてはいない。
「ナミは体力が無い。いいか、消耗戦になればお前は不利だ。1気に仕留めろ。出来なきゃ途中どこかで隠れて休憩しろ。連戦とか長期戦は負け戦だと認識しろ」
脳内にシャンクスの声が響く。……でも、この場合どうしたらいいのよ。
荒い呼吸の中で、鍵を開ける為の時間が欲しいと思う。ルフィやゾロがいれば私は休めるもの。
でも、それをやる為には鍵を開ける為の余裕が必要で、その為にはワニが邪魔で……。忌々しいわね、なら……倒すしか無いじゃない。
とりあえず見える範囲のバナナワニを倒してから盗んでいた鍵を鍵穴に入れるけど、合わない。……クロコダイルは、だから余裕だったのね。
深呼吸してから針金を取り出すと、私は先を曲げてそっと鍵穴にそれを差し込む。それを見てルフィとウソップが騒ぐので、とりあえず黙ってと言ったのに黙らないから何がと思った時、影が私に襲い掛かった。
しまったと思った時には、目の前にバナナワニの口が迫っていて……けれどもその口に飲み込まれる事はなく、私はその場に座り込む事となった。皆の歓声が上がる。
ビビが、サンジ君を連れて戻って来てくれた所だったようで、サンジ君がバナナワニを蹴り倒してくれた。これなら、鍵を開けるのに集中出来る。
針金の先を曲げて意識を集中する。……これなら、うん。
針金を取り出してもう1度曲げ直して差し込む。少し弄れば手応えがあって、よしと思って仕上げに入る。
それにより鍵は素直に開いてくれて、泥棒の経験が役立ったわとホッとした時、ワニの中からMr.3が出て来て……。あれ?
この人がいるなら、私頑張って開けなくても良かったんじゃない?
そんな事を思いながら水に埋まる室内から脱出する。……もう、私がクロコダイルと会う事は無いだろうと思えば、ホッとしてしまうのも無理は無いと思う。
いや、だって、勝てないもん。社長は油断して寝ちゃった事で、競争に負けたウサギさんタイプなだけだもの。
ちなみに陸亀は余り知られてないだけで、本気で走ると結構早いので普通に兎に勝てます。危険度中の上クラスの時にその姿を見られますが、危険度が高になると甲羅の中に籠るので見られません。
以上、疲れきってるナミの雑学コーナーでした!……ダメだわ、私壊れ掛けてる、少し休まなきゃ。
陸によじ登り、水を絞っていたらケムリンとゾロが争い始める。その後ルフィがケムリンとじゃれ合ってる間に、チョッパーを呼ぼうと蜜柑洗剤を少し取り出して泡立てる。
それによりチョッパーが来てくれたので、今上がったばかりのそこで手を洗ってから、チョッパーが引き連れてきてくれた巨大な蟹に乗り込んで行く。その時目の前に見える商店で適当な物を購入して、数秒遅れて私も蟹に乗る。
全員揃って、この街を出ようと少し笑う。皆が頑張ってくれたから、私達は今ここに誰1人欠ける事なく揃っている。
ケムリンはルフィとの会話の後、追わないで居てくれる事にしたらしく、蟹の上で呑気にチョッパーの話を聞く事が出来ている。それにより私が上着を脱げば蟹は物凄い速度で移動を開始してくれたので、これなら間に合うかも知れないとホッとする。
その移動の途中で、乗り込む直前に入手した物を手渡して行く。ルフィには取り敢えず肉を差し出して、皆には適当に選んでと笑う。
その中でゾロだけは食べ物じゃなくて酒に手を伸ばすから、酒も購入しておいて良かったと小さく笑う。ジュースをチョッパーに差し出せば、嬉しそうに笑うからその頭を軽く撫でておく。
それぞれがここに至るまでの状況確認を済ませて、軽食だけど食事を済ませれば、休息とエネルギー補給には充分なっているだろう。これは確かに時間にしたらたいした長さは無いけど、いつ戦いになるか分からない今だからこそ、飲食と休憩が取れているか否かは重要になる。
「ナミ、いつもありがとう。肉、美味かった!」
「ルフィにサンドイッチじゃ無駄だろうと思ったからね。……大人しくしててくれてありがとう。ルフィが無事で良かったわ」
私がルフィに笑いかけた時、ビビに砂が巻き付いたのが見えて咄嗟に手を伸ばす。けれどもルフィの動きの方が早くて、アイツかと叫んだルフィはビビを私達に投げて代わりに砂に連れて行かれる。
その事に慌てて蟹の手綱を握るチョッパーに止めるよう声を掛けるゾロの声が響くけど、ルフィはそれを許さない。
「お前ら先に行け!俺1人でいい!」
その言葉にゾロでさえ言葉が続かなくなる。私がルフィの名を呼ぼうとした時、ルフィは明るく笑った。
「ちゃんと送り届けろよ!ビビをちゃんとウチまで!」
その信頼の篭った声に、逆らうなんて誰にも出来はしない。名を呼ぶ事さえ出来ないままに、私は小さくなるルフィの姿をギリギリまで見つめていた。
そこで動揺するウソップ。それに続くように、慌てて自ら蟹を降りようとするビビを咄嗟に抑える。
そんな事をしたら、全てが台無しになる。私は……ルフィを、仲間達を信じてる。
その時ゾロがビビに現実を突き付けて、容赦無く突き放す。それに続くように、サンジ君も言葉を重ねるけど、最後には手を差し伸べている。
修羅を生きる事を自ら望み突き進むゾロと、地獄の中にあってなおその優しさを失わない尊さを持てるサンジ君との、ここが違いなのかも知れない。震えるビビを抱き締めて、不安そうなチョッパーに視線を向けると、ウソップが呆れたような声を出した。
「本当にナミはいつでも、誰かを心配してるよな。少しは気を抜いてもいいと思うぜ」
「ウソップ、ありがとう」
優しいなと、小さく笑っていたらゾロとサンジ君の方もまた余裕は無かったようで、内心の動揺から気が昂り喧嘩を始めてしまうから、取り敢えずビビから離れて2人を殴って止めておく。でも、2人のそれは内心ではまだまだ燻っている様子で、おさまりそうにない。
結局2人を止めたのは顔色を死人のように悪くしているビビだった。そんなビビに2人はバツが悪そうにしているけど、何も言葉を返せないから私が代わりに言葉を向ける。
「ビビは反乱の心配してなさい」
ビビの額を言葉と同時に小突けば、涙目で額を抑えるのでそれを見た皆の空気が明らかに緩む。手網を握っていて食事を取れないチョッパーに、果物のサンドイッチを差し出して食べさせながら私達は先へと向かう。
戦いを嘆く者。戦う者。
戦いを煽る者。その真実を知り、阻止しようとする者。
それぞれの想いは行き違い、首都アルバーナで激突する。制限時間は迫る。
反乱軍アルバーナ衝突まで、後約5時間。
そんな状態であるとは知らないルフィを除いた麦藁の1味は、漸くサンドラ河へと到着した。河をどうやって渡るかと見えた時から話はしていたけど、ハサミは踊り子の衣装効果で上がった速度を利用して半分程まで渡ってくれていた。
それでも残り半分。泳ぐしか無いかと皆の気持ちが固まった時、食人ナマズが狙ってくる。
それに舌打ちして短剣に手を伸ばした瞬間、ルフィにより手懐けられていたジュゴン達が現れて助けてくれた。それからジュゴン達により河を渡らせて貰えた私達は、アルバーナ側の岸へと無事に到着したのだった。
あの時は馬鹿な事をしてと思ったけど、ルフィってやっぱり強運の持ち主よねと小さく笑い、砂漠に視線を向ける。制限時間は後……4時間。