ルフィとゾロは、そのまま何処に飛ばされていたのかを話し始める。それに耳を傾けようかと思った時、ウソップとチョッパーがメモ帳と羽根ペン持って近付いてきた。
「塩分濃度が何だって!?俺達には教えてくれ。海の神秘について!!」
「うんうん!」
「へー、熱心なのね~……。つまり大きな下降流の必要条件と言うのは、冷たくて重い水なの!極寒の地には海氷があって、その氷ができる時塩分は「「「「不思議な海流があるって訳だな!!」」」」だから、最初から黙って乗ってりゃいいのよ!!馬鹿!!」
メモ帳迄用意しておいて、話を聞かないなんて……酷過ぎる……!!
うー……。皆馬鹿なんだから!!
あーもう!本当は色々折角だから全力で説明をしようと思ってたのに、酷い……。
そんな私にブルックがスススッと近付いてくる。再会してからのブルックは、余程歌いたいらしい。
「ヨホホー。歌いませんか!?ナミさん!!」
「ナミ!そう言ってる間に見えて来たわ!」
「本当!?」
慰めるようにブルックが言ってくれたそれに振り向いた時、ロビンからかけられた声に反応して私はロビンの元へ駆ける。皆もその反応は似たり寄ったりで、船首に近付いて覗き込んでは大騒ぎだ。
この世界は地球でのそれを何倍も大袈裟にしたものが広がっているのが殆どで、だからこそ……言葉を失いそうになる。知識なんて、想像なんていつも無意味なんじゃないかって思わせて来るのだ。
「……あれが〝下降流のプルーム〟」
それはまるで、海中の巨大な滝。1瞬背筋が寒くなる程の速度で流れているし、底は当然ながら見えない。
光が届かなくなる海域に魚人島はあるのだから、それは当然なんだけど……やっぱり不安もある。何も見えなくなっても、私はちゃんと航海士としての仕事をできるかな……?
サニーの本体や、コーティングが持つのかも不安になる。敵は、自然という名のものになるのだ。
私の腕に、私の判断に、皆の命がかかってる。サニーの強度に皆の命運がかかってるのだ。
「本当に平気なのかな。この流れに乗って」
「船の心配はするな!!サニー号は宝樹アダムより生まれた最強の船だ!!」
その言葉に振り向いた時、縛られたままの侵入者が騒ぎ出した。引き返せと。
怯えを隠さずに、こんな所に居るなんて聞いた事は無いとか、悪魔とか、人間の敵とか色々言ってる。つまり、これは重要な出会いなのだろう。
そう思いながら話を聞いてみれば、下に怪物が……クラーケンが居るという。見てみれば、確かにそこには空想の生物と言われたクラーケンが居る。
引き返せと、数日やり過ごせと縛られたまま騒ぐ男にルフィは五月蝿ェと1言。それは妙に鋭い。
あぁ、ルフィはこの侵入者あまり好きじゃないんだなって、それだけで分かる。なら、仲間になる事は有り得ないわね。
「いい事考えたんだ、俺!あいつを手懐けよう!!」
「ルフィ、ここは海底なのよ。船から出たらルフィ何も出来ないし、船からだとシャボンが割れちゃうから駄目よ。諦めて」
「なんだよナミ!もう少しなんか無いのかよ!?」
「ルフィ……危ない事しちゃ、やだ」
「いけナミ!その調子だ!」
ウソップが背後で物凄く応援してくれている。でも、海で戦う手段があるなら、戦わせてあげたいのだけどそんな手段ないのよね。
ギュッとルフィに抱きついて、お願い……と言ってみると、ルフィが腰に腕を回して抱き締め返してくれる。でも、ルフィは頷かないのだ。
色仕掛けでルフィが言う事を聞いてもらえる筈ないとわかってたけど、抱き締めて、頭撫でて、その上で楽しそうに頷いたのには微かに期待させられる。でも、もう、自分と未来を信じてますって感じでキラキラされると、何言って無駄なんだなと痛感させられるのだ。
「大丈夫だ!ちゃんと手懐けて船引いてもらおうな!」
ウソップが必死で言葉を紡ぐけど、ルフィは海の中である事だけが問題なんだよと言ってその会話が噛み合わない。それと同時刻に、ロビンはクラーケンのスケッチをしていて、それを見たフランキーがその絵を覗き込んでいた。
ウソップは泣きながらルフィを止めようとしているけど、ルフィはそれを完全に無視している。……うん、なんか、帰って来た気がするわ。
「ほう!!なかなかウメェもんだな」
「滅多に出逢えるものじゃないから」
「ロビン、絵も描けるの!?今度挿絵とか頼……」
フランキーの声に反応して私は二人に近付く。写実的な感じかな?
可愛い物好きなロビンだから、メルヘンな感じで描いてたら、絵本とかの挿絵を、写実的なら小説の挿絵を頼めないか……な……?
ロビンの描いてる絵を覗き込み、私は言葉を途中で止めた。……フランキー、褒めてたよね?
これがあれか、あばたもえくぼか。惚れた弱味か。
とりあえず見なかった事にしよう。そして忘れよう。
巫女様より情報、原作者様がSBSにてロビンの描いたクラーケンのスケッチ載せてますので、興味のある方はご自分で確認して見てください。私は本編に最近全然出られないから、ちょっと顔出してみただけよ?
まったねー!!……と言う訳で、気持ちを切り替えたナミは船長の意見を完全に無視して船員に指示を飛ばす。
「舵を切って!進路南へ!!」
「おいナミ!!何言ってんだ!!真っ直ぐタコに向かえっ!!」
「何言ってんだはコッチの台詞よ!!馬鹿言わないでよ!あのタコが握ってる船見て!!ああなりたいの!?」
私の指示に対して怒りを見せるルフィ。でも、私だって譲れない。
この船には能力者も多いから、ここで戦われては困る。水深の関係でも既にリスクは十分あるし、能力者はそれだけで常に他の人より死のリスクが高いのだ。
「まーまーナミさん!!俺がついてブハッ……ついて……るぜ!!」
「耐えたァ!!よくやったサンジ~!!」
「リハビリの効果と、今はナミがコートを着てるおかげだな!」
そんな騒がしさの中、ルフィが不愉快そうな顔で私に腕を伸ばして来た。どうしたのかと思いながら、それをそのままにしていれば強く抱き締められて、ルフィの吐息が、耳に直接かかる。
「ナミ、どうして俺の意見に反対するんだよ。いつも、オレのやりたい事やらせてくれてただろ?」
「ルフィ……」
「二年離れて……俺の事、嫌いになったのか?」
ウルッとした眼差しで見られれば、幼い頃のルフィを思い出してしまう。今はもう、子供なんかじゃ無いってわかってるのに。
なのに、勝てない。だから、勝手に赤くなる頬をそのままに、私はルフィへと乱暴に言葉を投げつけてしまう。
「ば、馬鹿言わないで!大好きよ!」
「……ナミ?俺の事……好き、な……だけか?」
瞳を覗き込まれて、首を傾げられて、私は蚊の鳴くような声で負けを認める。だって、ルフィに勝てない。
「ルフィを、愛してるわ……」
「なら、俺のやりたい事……認めてくれるよな」
「そ、それは……!船の安全を考えたら認められないわ!ルフィと私だけにリスクがあるなら止めないけど、皆の命もかかってるんだから!ここは私も〝航海士〟として譲れないわ!」
「ナミ~……」
うるんとした眼差しを向けて、ルフィは捨てられた子犬みたいな顔で、甘えたような声を出す。幼い時からこれに私が弱い事を知っているのだ。
それにより言葉を詰まらせる私に、ウソップが背後から声を出す。それはもう、必死な感じで。
「負けるな!ナミが皆の命背負ってんだぞー!!」
「やるのはいいが……策はあんのか?ルフィ」
そんな中でゾロはルフィの言葉に従い戦う気満々だ。ダメだわ、この三馬鹿!!
その時背後から、騒がしい船の1団が迫って来たのに気付く。自称使い捨ての鉄砲玉を必死に助けに来るなんて、有り得ないでしょうに。
それに気付けないくらい動揺してるのか、侵入者は助けに来てくれたと喜ぶ。……まぁ、ルフィ達の言動見てたら帰りたくて演技なんか忘れるのも分かるけどね。
そんな事を思った直後、その船がクラーケンの1撃で破壊され、中に居た人達が全員フワフワと浮かび上がっていくのを見る。……能力者も、浮かぶって事は……船のコーティングがそれぞれの身体にくっついて浮上させてくれてるのかな?
だとするなら、とりあえず彼等が死ぬ事はないと見て良さそうね。後味が悪い事にならなくて良かったわ。
あ、モームは無事に逃げ出せたみたい。……本当に、気を付けなきゃ駄目よ。
「モーム、アンタ、弱いんだから……」
「「「「ぬああああ~!!」」」」
私の呟きは、侵入者、ウソップ、チョッパー、ブルックの叫び声と重なりかき消されてしまう。そのまま船が破壊された事を嘆いたり怯えたりする声が続くけど、まぁ……説明してあった筈だから、これでわかって貰えたわよね。
海底という程ではなかった事は、彼等にとって救いだろう。船のシャボンが壊れたけど、それが船員の顔について守る形で海上に向かい浮かんで行くのを見ていれば、何かに似てるな……と思うけど、何だか分からない。
「クラゲみてェだ」
「ウッセェロロノア~!!」
「あ、確かに似てるわ!」
謎が解けて私の中では全てが解決した。それに、深海に到着していなければ、サニーはダメになっても人が死ぬリスクは少ないらしいのもこうしてわかっただけで、めっけもんである。
「泥棒猫がァ~!!」
「こっち来たー!!」
叫ばれた直後に迫って来たクラーケンの足。それを見て私は、タコ焼き何個作れるかしら?とか、タコ料理がいくつも脳内を駆け巡り、そうじゃない……!と、自分で自分に突っ込みを入れた。
そんな中で、ルフィとゾロが戦おうとして、ウソップがそれを止めると即座にチキンボヤージでその攻撃を回避した。こうなったら1旦この場を離脱するしかないわね。
「フランキー!クー・ド・バーストで下降流に突っ込みましょう!!それで逃げ切れる!」
「いや……そりゃ、考えたが……1つ問題があるっ!!」
私の言葉をフランキーはそう答えるから、なんか嫌な予感がした。そして人間とは、嫌な予感は大抵当たるものである。
可能なら、ルフィが嫌がって五月蝿くなるとか、その程度でありますように。それなら、ルフィは殴ってでも大人しくさせるから。
「クー・ド・バーストやガオン砲は、大量の空気を発射する兵器だ。だがここは海中!!空気量は限られてる!!空気を飛ばせば、この船のシャボンが萎んじまう!!」
「そっか……!じゃぁ、どうしよう!?」
「どうもすんな!!あいつとは戦うんだ!!」
「やめてくれよ!!シャボン玉が割れちまうよ、ルフィ!!」
チョッパーが阿呆な事を言い続けるルフィに泣き付くけど、ルフィは不愉快そうに私を見るばかり。でもね、ここは必要な事だから。
仁王立ちでルフィを睨む私に、ルフィも睨み返して来る。今は可愛いとか言ってる場合じゃない。
「船長の言う事全てに、ただ頷くだけの人形が欲しいなら他を当たって!!私は、皆の命を預かってる航海士なのよ!!」
「ナミ!お前「そんなに戦いてェんなら!!策を授けちゃうぜ、麦藁のルフィィ!!」」
そう言って侵入者が珊瑚を使って、ルフィを含む戦いたい人間をシャボンで覆った。確かにこれならルフィ達は戦えるし、船も無事だわ。
うん、これなら戦わせてあげられるし、良いわよね。……その珊瑚、なんなのよっても、答えないかな。
それよりも今は、うん。これなら……。
「……これなら、戦っても大丈夫ね。後はここは海中だから、地上と違って流れがあるから、ロープだけつけて行ってね。それがあれば最悪こっちで引っ張れるし」
「ナミさん!!そんなに俺の事が心ぱ「ナミ、行ってくる」」
私がそれに頷くより早くルフィは私を抱き締めて、1度シャボンの中に私を入れる。私は行くつもりが無いので慌てたけど、ルフィは楽しそうに笑うと私に顔を近付けるから、そっと瞳を閉じてそれを迎えた。
重なった唇が、熱い。ルフィは軽く触れて、そのまま深く中に侵入し、蹂躙する。
身長差が無いから、首が痛くなるとかって事は無いけど、冗談抜きで恥ずかしい。漏れそうになる声を何とか押さえている私に、ルフィはなんだか楽しそうなのがまた気に入らないわ。
「んっ……!ルフィ!やめ……!ぁ……」
皆が居るという現実の羞恥に耐えかねて、逃げようとした私の頭をがっしりと掴んで、ルフィは再び唇を重ね直す。それが恥ずかしくて、なのに……離れたくなくて……。
そっと離された唇の隙間で、ルフィが笑う。そして再び言葉を告げて来た。
「行ってくる。サニーは、任せた」
「うん、行ってらっしゃい」
そうして私が逃げるようにシャボンから出ると、侵入者が私とルフィを見比べて口を金魚のようにパクパクと動かしてるから、不思議になってルフィを振り向く。するとルフィは何だか嬉しそうに笑っていて、余計に謎は深まる。
そのまま視線を移動させるとゾロは困ったように笑って肩を竦めて、サンジ君は切なそうに笑っていた。動揺する私にロビンが優しく頭を撫でてくれて、この疑問は解決しないままに終わった。
侵入者は私がロビンに背後から抱きしめられたのを見た直後に、バタ足コーティングと言う潜水服だと皆に説明を開始する。それにより納得した3人と、戦う事になるじゃないかと苦情を言うウソップになったけど、ウソップは侵入者から何かを耳打ちされて、意見をコロリと変えて送り出した。