ルフィ達が海に飛び出した直後、ロープを邪魔そうに見たルフィに嫌な予感がする。確かに繋がったままでは普段と同じには動けないだろうけど、陸で戦うのとは訳が違うのだ。
「邪魔だなー。このロープ」
その言葉と同時に三人が示し合わせたかのようにロープを投げ捨ててしまうから、私は船縁迄駆け寄り叫ぶように声を出す。海流に飲まれたら、二度と帰れなくなっちゃう!!
「え!?ちょっと待って!!命綱はつけなきゃダメよ!!逸れちゃう!!」
「!!ナミさんが俺の心配……しんぱ……ブバッ!!」
「お前ェらちょっと時間稼いでくれよ!強ェの1発で仕留めるからよ!」
「んな事してる間に俺がやっちまう」
「お前は斬るから駄目だ!!飼うんだぞ、俺はあのタコ!!」
そんな声が聞こえて来て、そんな些細な言い争いしてる場合かと怒鳴ろうとした時、タコの足が此方を目掛けて攻撃して来た。咄嗟にクリマタクトを構えて、でも海の中に雷を通したら……ルフィはともかくゾロとサンジ君まで危険に晒すと気付く。
それにより動けなくなった私の代わりに動いたのはフランキーで、肩からロケットランチャーなる物を発射した。それに少年達が瞳を輝かせるけど、相手はタコ。
足は八本あり、その足を弾いても次の足が襲いかかって来る。それに対してはチョッパーが対応してくれた。
「〝ランブル
「凄いっ!チョッパー!!」
思わず声を出した私も含めて皆が喜ぶ中、侵入者だけは目玉を落としそうな勢いで驚くだけで特に他に反応はない。戻って来たチョッパーを抱きとめた時、けれどもその足の威力により吹き飛ばされるサニー。
それにより海山にぶつかりそうになれば、ロビンが動く。海中でも1瞬ならと言って、能力を使ってくれたのだ。
「〝
巨大な手がかいざんとサニーの間に出現して、激突を防いでくれる。ルフィに頼まれたのに、私は何も出来ずに見ているだけだ。
なんて情けないんだろう。……ルフィ達はどうしてるかな?
そう思って視線を向ければ、その間にもルフィ達は戦い続けていた。そして、サンジ君がシャボンを残して飛び出して行く。
……正確には、その動きにシャボンが着いてこられなかったようだが。ゾロが足を1本斬り落とせば、ルフィがそれを不満そうにしながら巨大化させた右手に武装色の覇気を纏い、タコを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたタコの中からサメが出て来て、何かいつもそうだけど……あの子もこの先で亀の恩返しみたいにお礼でも言いに来るのかなと少し思う。洋服着てるサメとか、絶対何が起きるわ。
ただ、あの切り落とされた足……あれがあればどれだけの料理を作れただろうかと考えたら、回収できなかった今回のそれが妙に惜しく思える。ルフィの食費を考えれば、あれば良い足しにできたのに……。
それにしても……と、目の前で戦い続ける3人を眺める。相談したり作戦をたてて動いてる訳でも無いのに、息ピッタリなそれは、圧巻の1言に尽きる。
「……強く、なったのね」
私も、強くならなきゃ。そう思って笑う私の傍で、声も無くその戦いを見てる侵入者は、もう既に何に驚けばいいのかもわかってはいないのだろう。
シャボンの中に無事帰っているサンジ君と、あれだけ負担をかけたのに無事に形を保ってるルフィのシャボンを見て少し嬉しくなる。本当に、皆が無事でよかったわ。
紐がないから引っ張ってはあげられないけど、声をかけて急いで戻ってもらおう。手を上に上げて、横に振ろうとした時、サニーがガクンッと嫌な動きをした。
まさか……そう思ったのも束の間、三人が下降流に飲み込まれて行く。それには皆も慌てて追いかけようと言うけど、それ以前の問題が発生する。
サニーもその下降流に巻き込まれてしまったのだ。その圧により吹き飛びそうになった身体を何とか支えると、圧に慣れるまでとか言ってる余裕は無いからと声を張り上げる。
「……!!ヤードを堅く保って!!船体を左へ!!大陸棚にぶつかる!!」
「ぬお!!よしきた!!」
即座にフランキーが動き出してくれたけど、今は動ける人数が少ないのだ。皆も倒れていていい時間なんて無い。
「皆しっかり!!気を抜いたら船ごと大破するわよっ!!」
「え~!?」
「振り落とされんじゃねェぞ~!!」
私の言葉に叫ぶチョッパーと、皆を鼓舞しながら作業を進めてくれるフランキー。こんな時、年長者がいてくれる事が本当にありがたい。
「常に海流の真ん中をキープして!!」
「くっ……!!なんてスピードだよ!!」
「……大丈夫、行けるわ!この先視界が悪くなる!慌てないでいつも通りに!!」
そうして流れの中で操舵に神経を集中して居るから、ルフィ達を心配してる余裕は無い。とりあえず海流が落ち着くまでは、サニーとこの場に居る皆を守るのは私の役目。
落ち込んだり慌てたりするのは、その後よ!
流れは必ず緩やかになる。大丈夫、問題なんて何も無いわ。
その為に学んで来た。その為に、修行もしたの。
「もう少しよ!!気を抜かないで!!……船体を右に倒して!!」
そうして指示を飛ばして、流れが落ち着き始めた頃には1人、また1人と崩れ落ちるようにして倒れて行く。最後まで気を張り、意識を保ってくれていたのはフランキーとブルックだった。
年齢重ねてるのと、トップとして指揮していた時期の有無がこんな所で生きて来る。サニーが海流から降りて動きを落ち着かせた時、私も膝から崩れ落ちるようにして座り込み、二人に声を掛けた。
「ありがとう。コレで暫くは休めるわ。……少し休憩したら、三人を探しましょう」
「……小娘は休んでろ。ずっと声張り上げてたんだ、休むのも仕事だと思え」
「飲み物、お持ちしますね」
「危ないから、動かないで。それに今、下手に灯りをつけるとリスクしかないから……目が慣れて来るまでは、少なくとも全員休むべきよ」
急激に暗くなった為に、恐らく全員暫くは何も見えない状態にあるだろう。瞳孔が開いてくれるのをゆっくり待つのが、この場合最適だと分かる。
呼吸が落ち着いてきた頃、近くなら見えるようになって来たので、私はとりあえずコーラと珈琲、それと麦茶を取りに船内に向かう。フランキーとウソップはコーラで、チョッパーと私は麦茶で、ロビンとブルックは珈琲って所かな。
サンジ君の城であるキッチンを荒らしたくないので、今は常備されてる3種類の中から皆が選ぶ形を取るように調整する。そうして甲板に戻ればロビンも目を覚ましたところで、飲み物をその手に握らせながら声を掛けた。
「目が覚めたのね。とりあえず目が慣れるまでは動かないで。これは珈琲。飲んで少し休んでて」
「ありがとう」
「はい、ブルックにも珈琲ね。見える?」
「はい。ありがとうございます」
近くまで行って声をかければ、頷かれたのでお盆を差し出す。そこからブルックが珈琲を取るのとほぼ同時に、コーラが1本お盆から消えた。
「貰うぞ」
「どうぞ」
フランキーはそう言って手にしたコーラを飲みながら上甲板に移動して行くから、目視できる範囲でルフィ達を探すつもりなのだと分かる。続いて目覚めたチョッパーにも、ロビンにしたのと同じように手に麦茶を握らせながら話しかければ、それを飲みながらチョッパーも目が慣れるまでは大人しくその場に座っていた。
私も麦茶を飲みつつ皆を探すけど、こう暗くては捜索のしようがない。だからって、ここでは灯りをつけるなんて危険すぎるし……。
そう思っている間に皆が動き出す。起きないウソップの様子を見たら、何かが頭に当たってたらしいと分かる。
……あら、コブだわ。そう言えばこの世界の人って、コブが数秒で治るのが比較的あるあるよね。
「チョッパー、ウソップの頭、後で診てあげて」
「ナミ……その言い方は不味いと思うぞ?」
「ん?なんで?……ウソップの頭、コブがあるのよ」
「うん……そうなんだろうけど……。いいや、ナミには悪気も悪意も無いみたいだから」
現在位置を確認する手段が欲しいわ。多分、この暗さだと水深も6千mは超えてる。
シャボンから出たら、水圧で潰されて死んでしまうような深さだわ。そうじゃなければ、もう少し明るい筈。
「ルフィ……」
「探してみましょう。ある意味では、ロープが無かったからこそ、皆が無事である可能性も高いわ」
「ロビン……」
思わずロビンを見上げれば、優しく微笑んでくれる。ロビンは私にだいつも優しい。
分かってる。今は、私が船長代理をしなければいけないんだって事位。
「でも、空気が持つか……そんなに沢山の空気……あのシャボンに入ってないわ」
「ナミ……」
不安で取り乱しそうになる私を、ロビンが私を抱きしめてくれる。ルフィは物語の主人公だから、大丈夫な筈だとは思うけど……私と言うイレギュラーがいる限りそんなの当てにならない。
こんなにも未来が分からない事が、不安を呼ぶなんて思わなかった。ルフィ……無事でいるの?
「……ぅ……あ~……イテテ……」
「ウソップ!」
「ハー……命はあったか。……何だよ。どうした、しんみりしやがって」
そのまま軽口を言い放ち、空気を軽くしようとしてくれるウソップ。それは自らが状況確認をしたいのもあるだろうけど、本当に有難い。
ウソップに船長代理を任せ……られないわよね。私のが古参だし。
そもそも船長不在の場合は副船長が本来代理を行うけど、この船にそんな人は居ない。そうなると、次に代理を行うのは航海士と決まっているのだ。
そもそもが船長と同格に近い権限を持つのが、航海士や測量士、そして……船医である。特殊な技能を持つ人間は、それ程多い訳でもないのでどの船でも求められるからこそ大切にしなければならないし、素人には分からない部分での判断ができるので、重要視されるのだ。
「ルフィ達が見つからないの。逸れちゃったみたいね。海獣に身体を食いちぎられていなければ良いけど……」
「コエーよ!想像が!!」
私を不安にさせないように優しく抱きしめながら、そういうマイナスな想定をするのは相変わらずらしい。ウソップが何も見えないと言う中で飲み物を渡しながら、フランキーに最低でも六千は潜ってるわよねと声をかければ、七千は潜ってると返される。
その会話からチョッパーはもしかして先に魚人島に到着してるんじゃないかと明るく言うけど、魚人島迄はまだもう少しある筈。だから、先に行ってる事は考えにくいわ。
「まだ後、三千メートルはある筈よ」
「あんな小せェシャボンであいつら!!生きてても空気が持たねェし、危険すぎる!!」
「……だから、命綱つけてって言ったのに……!!」
引っ張れば戻せた筈だったのに。ルフィ……。
思わずもれる本音に、フランキーが首を横に振る。そう言えばこの1味で、私を甘やかさないのってフランキーだけかも知れないわね。
「嘆いても始まらねェ!探そう!!」
自分達を光らせる事によるリスクを考えても、今は仕方ない。このままだと、こちらを見付けて貰う事も出来ないわ。
ここは深海。光も届かず、並の生物等生存すら許されぬ……海の暗黒街だ。
「光を出せば、深海の生物が集まって来て安全では居られないけど……光が無ければルフィ達が目印にしてくれる事も難しいわ。サニー自体を明るく照らせる?」
「おう!甲板をライトで照らせば良いだろ」
「なんで、サニーを照らすんだ?」
ウソップの問い掛けにそっか……と思う。こちらから探す為に光を外に向けてるから、それだけで充分と思ってるのね。
「こちらから出してる光に直接当たるか、その光に当てられた物を見ないと光を認識できないのよ。だから目印にするにはその場所自体を光らせる必要があるの」
「それって……結構危険なのか?」
「深海の生物の大半は、僅かな光に反応して皆生きてるから、強い光に集まる傾向があるのは間違いないわ。……ただ、声には鈍感な筈だから声は張り上げても比較的大丈夫よ」
私の言葉でウソップとチョッパーは船縁から、声の限りに三人を呼ぶ。真っ暗だったその場所もサニーの目を光らせて見えるようにして、甲板を輝かせる勢いで照らしてるおかげで見たくなかった深海生物がよく見えるようになった。
でもコレで、生きていれば見つけてくれやすくなる。人間を海の中で探すよりは、船を探してもらう方が効率がいいもの。
……ルフィ、ゾロ、サンジ君……無事でいて。早く……帰って来て。