皆の声が張り上げられていても、広すぎる深海では谺響する事も無い。サニーガンリキライトも海上を照らすには十分過ぎる物だったけど、この深海では力不足。
チョッパーが泣きながら三人を呼べば、皆も口々に色々言い始める。でも、その気持ちは分かるのだ。
だからと言って、何をする事も出来ない。震えそうになる身体を抑え込んで、私は皆に声をかける。
「船は停滞できないから、何も見落とさないで!!」
その時光につられて、クラゲが集まって来た。光を放つ巨大クラゲに、形だけなら水クラゲと似てるわと思う。
巨大だけど、デザインはほぼそのままね。つまり、近付いちゃいけない感じがするわ。
光る辺りは、毒を持ってるクラゲと同じだから、近付くのは良くないけど……刺激しなければ大丈夫よね。その時クラゲの触手が1本、シャボンを突き抜けて入って来た。
「うおっ!!手が入って来た!!……と、友達になりてェのかな?」
「!!触ってはダメよチョッパー!!恐らく毒を持ってる!」
私が叫ぶより早くロビンが反応してくれる。それにホッと胸を撫で下ろした時、フランキーが何かに気付いてちょっとだけクー・ド・バーストをした。
それによりシャボンが少しだけ縮んだけど、食べられてしまえばそこで終わるのだから文句は言えない。フランキーは魚が迫っていた事に気付いて、そうしてくれたのだ。
その魚は先程チョッパーが触りそうだったクラゲを食べていたので、とりあえず難は逃れたけど……。その魚がクラゲの毒でひっくり返ったのを見れば、チョッパーが騒ぐ。
「やっぱり、神経毒を持ってたのね」
ロビンの言葉を受けて、深海は怖いとチョッパーは言う。けど、そんな中で守ってくれるシャボンも、安定して立つ事の出来る船も無いルフィ達は大丈夫なのかと思えば、泣きそうになる。
足が地についていないと言うだけで、人が感じる恐怖は否応にもなく増えるのが確認されているのだ。だから絶叫マシンも、足がつかないものは怖いと言われてるじゃない?
……現実逃避してる場合でも、泣いてる場合じゃないわ。必ず3人を見付けて、皆で魚人島に行くんだから……!!
深海の生物は極端な進化をしてる事が多い。極端に目が見えるか、本当にほぼ見えないか。
何かを減らせばその分何かを増やせる。それぞれが生きる為に独特の進化を遂げているので、同じ対処法で勝てると言うものでもないのだ。
そんな時、侵入者の姿が見えないと言う話になり、騒然となる。振り落とされた訳では無い筈だか……あ!!
「思い出したわ!アレ、億超ルーキーよ!」
「「「はァ!?」」」
「濡れ髪のカリブー……ドロドロの実の能力者。最近の海賊調べておいたのよね。スッカリ忘れてたわ」
テヘペロって誤魔化そうとしたらロビンにしか効果が無くて、他からは泣き叫ばれたり、何の為に調べておいたんだよと、忘れてたら意味ないだろと言われてしまう。けどさ……。
「……私も億超えてるし、政府の基準って当てになるの?」
「……それは……」
言い淀むウソップに、私は言葉を続ける。知ってる情報と現実を伝えれば、それ程取り乱す事も無いでしょ。
「多分ロギアなのと、自分より弱いと判断したら誰でも手に掛けるから懸賞金高めなだけよ。あの3人は覇気を使えるのは勿論だけど、私も覇気を使えるからイザとなれば何とかなるわ」
「そうだった……ルフィと並ぶとも劣らない実力者だったな、ナミって……」
「まァ、なかなか戦わねェから知られてない事実だよな」
私の言葉にウソップとフランキーがそう言って頷く。でも、それでもやっぱり嫌なものは嫌だったりする。
「それでも、女部屋に忍ばれてたら嫌だわ」
「忍んでたらすぐにわかると思うわよ。私とナミの〝寝てる〟姿を見て、正気でいられる男はほぼ居ないと思って間違いないもの」
「確かに……どういう意味であれ、お二人が〝寝ている〟時は最強ですからね」
ブルックが言葉を続けた直後、フランキーが樽の中に潜んでいたカリブーを発見してそのまま中に閉じ込めてしまう。私がそれにペンキで『罪人在中』と書いて置けば、間違ってねェなと皆も納得してくれた。
中から何やら騒いでるけど、今は無視だ。……それにしても、寝てると最強って、どういう意味かな?
「こんな樽の中にどうやって!?」
「さっきナミが言ってたろ。能力者だ。これで間違いなくロギアだと確認出来た。捕まってたのも、そうなるとワザとだったんだな」
ブルックの言葉にフランキーが答える。すると樽はフランキーに出してくれと必死になって騒ぎ始めたけど、それどころじゃないわ。
……煙が、見える。コートが邪魔に思える位には、汗ばんで来た。
チョッパーが突然ぐったりしたのも大きい。皆が騒ぐ中、私はコートを脱ぎ捨てて柵から外を見る。
「間違いないわね。これは〝熱水鉱床〟!!ここは海底の〝火山地帯〟よ!!」
暑さに加えて、僅かながらも光がある。太陽光では無くても、光であれば成長出来るから、この辺りは深海生物の稚魚等が多く生息している場所でもあるけど、今は光が見える事に問題があるのよ。
「活動の跡があるわ!……皆、気を引き締めて!ここは深海生物の産卵場所であり、稚魚の多い場所。つまり、気の立ってる母親が大量に居るし、雌を求めるオス達もそれなりに生息してる場所よ!!」
「噴火の可能性もあるって事じゃねェか!!ここから離れよう!!」
暑さでやられてるチョッパーはチョッパーの部屋に1度入ってもらい、クーラーをと思ったけど今は余計な事して空気を消費できない。太陽光が無いから光合成で空気を作ってもらうって事もできないし……。
少し考えて、皆に指示を出しながらクリマタクトで冷風を発生させてチョッパーに当てる事にした。その様子を確認した皆は、大きく頷いて動き始める。
それはそうだろう。何せ次から次へと、数多の生物が襲いかかってくるのだから。
地球ではただ、熱源の近くで育っていただけの無害なチューブワームも、ここでは肉食だし、顔の無い巨大な蟹が襲って来たり、尾田っちの趣味なのかも知れないけど、よく分からない生物まで発生した。いつもならルフィが楽しそうに対応してくれるけど、今はそのルフィが居ないのだ。
ウソップの狙撃と、フランキーの兵器で何とか対応してるけど、大半は逃げる他の選択肢がない。そんな中で悲観的になって行くチョッパーに、ウソップが怒りを見せた。
空気も減って来てるし……早く魚人島に行かなきゃ。最悪の場合、ケイミーに探してもらおう。
ケイミーなら人魚の友人もいるだろうから、手分けして探してもらえるかも知れないわ。ルフィ達だって、魚人島を目指しているだろうし……。
「あれ何だ!?ものすげェ光ってるけど、魚人島かな!?ルフィ達がいるかな!?」
「まだ、三千mも潜ってないから違うわよ」
その光の正体に気付いた時、それは死と隣合わせだった。アンコウがそこに居たのだ。
当然地球のアンコウとは違い巨大であり、船を丸呑みできるような生物である。少しずつクードバーストを続けて来て、もう逃げ切れるのか怪しくなって来ているけど、サニーを壊させる訳にはいかない。
けれどもそこからは、次から次へと伝説級の災害が襲って来る。アンコウを殴って止めてくれたのは、巨大な人型生物の海坊主。
けど、その海坊主に気を取られてる間に幽霊船が現れて、その幽霊船からの指示で海坊主が船を叩き壊そうとしてくる。不味いと思ってフランキーに声をかけるけど、燃料切れでクードバーストが出来ないと言われてしまえば、一か八かで私が戦うしか……!
その時、海坊主を殴って止めたのがクラーケンで、それにより絶望感が増す。そっか、さっきのアレで……1緒にここまで落ちて来たのね。
でも、なら、ルフィ達も近くに流れて来てるかも。探さなきゃ……!
「おい!!もういいぞ!!やめろ!!」
その声に、全員の意識と視線が集中する。良かった……生きてた、皆、無事だわ……!!
「よくやった」
ルフィの言葉に嬉しそうにするクラーケンに、本当に飼い慣らしてるしと思えば笑ってしまう。2年の修行期間にルフィは、どうやら動物慣らしみたいな事ができるようになっていたらしい。
「ルフィ~!ゾロ~!サンジ~!」
皆の歓声が上がる。ひとつのシャボンの中で三人が綺麗に収まっていて……もう、安心し過ぎて膝から力が抜けてしまった。
帰って来た三人から話を聞いて、思わずルフィに抱き着いてしまう。そんな私と同時にチョッパーも心配したんだとルフィに抱き着くから、流石にルフィも困り顔だ。
「心配かけないでよね!!」
「ルフィ~!不安だったぞ~!!俺~うおーん!」
「二人とも泣くなって。特に、ナミ」
「だって……」
安心したら勝手に出てきたんだもん。私、悪くないもん。
そう思ってルフィを見たら、ルフィが困ったように頭をかいた。どうやら本気で困ってるらしい。
「ナミ泣かせると、風車のオッサンに叱られちまう」
「……ゲンさんに?」
「おう!ナミの笑顔奪ったら、どこに居ても殺しに来るって言ってたぞ」
「……あの、親馬鹿!!」
ルフィにそんな事言ってたの!?
もう、いつ話したのよ!?
「あら……もう、ナミはルフィのお嫁さんだったのね」
「え?そうなのか?俺、いつ結婚したんだ?」
「娘を嫁に出す父親の台詞よ、さっきの」
ロビンの言葉に首を傾げるルフィだけど、違う、そうじゃない。ロビン、何言ってんの?
私がそう突っ込むよりも早くフランキーが口を挟む。それによりルフィは逆側に首を傾げて、うーん?なんて唸る。
「親公認か。だが、あんまり無理させるんじゃねェぞ。ナミは元々無理しやすい方なんだからよ」
「でもよ、ナミが居たら……食うだろ」
「消耗品だから、少し優しく食ってやれ」
「でもよ、ナミはいつでも旬なんだぞ。つい、食いたくな「やめーい!!もう、ルフィの馬鹿馬鹿!!」」
「え!?俺!?」
動揺してるルフィから離れて、私はクラーケンに運ばれるようになって比較的安全になった現状を確認する。これなら、とりあえず何とか無事に空気を残したまま魚人島に到着できそう。
皆が揃った。その事に浮かれて、皆は笑い合う。
この1味において、ゆっくりとできる瞬間なんてものがある筈も無い事を、この時ばかりは皆忘れていた。ただ、言葉通りにクラーケンを手懐けたルフィに、皆笑うばかりな辺りがこの1味らしいと言えるのかも知れない。
「本当に手懐けちゃったのね、あのタコ」
「おう!!上級者の航海をするんだ、俺は!!な!!スルメ!」
「イカみてェな名前つけちゃってるよ!!」
ウソップからの正しい突っ込みに、皆が笑う。まぁ、本人ならぬ本タコが嬉しそうだから、いいんじゃないかしらね?
海坊主が気絶しているのを眺めながら、大切そうにサニーを抱えてくれてるスルメに声をかける。本当に、助かったわ。
「スルメ!ありがとう。私はナミ。これからよろしくね」
私の言葉にスルメはニコニコと笑ってくれるから、なんだか嬉しくなる。平和だわ。
「ナミ」
「ルフィ?」
「誰彼構わず誘惑すんの辞めろ」
「そんな事してないけど!?」
その時、突然の振動に嫌なものを感じる。海底で、しかも深海でこれって……。
つい今しがた通って来た場所を考えたら、答えなんてひとつしかない。汗が……流れ落ちる。
「不味いわ〝海底火山〟が……!!……噴火する!!」
私の言葉に皆が大騒ぎになるけど、今は騒ぎを落ち着かせてる場合じゃない。兎に角逃げなきゃ。
「大変!!ルフィ!スルメに言って!すぐここから遠ざかるように!!」
「おう!!おい、スルメ~!」
「待った!!必要ねェっ!!もう、脇目も振らずに走り出してる!!伝説の怪物が、物凄い形相で!!」
ルフィが声をかけるより早く、どうやら私の発言を受けて即座に走り出してくれてたみたい。なのに、振動とか無かったから気付かなかったわ。
それだけサニーを大切に運んでくれてると言う事になる。ルフィを、それだけ好きなんだわ。
「助かる!!……案外気が合いそう」
大きいし、攻撃的だし、気が合わないかもとか思ってたけど……ルフィを好きになるなら、きっと気が合うわ。そう思って笑った時、ロビンが言った。
「酷い走り方」
「言ってやるな!!そんだけ噴火は恐ろしい事なんだ!!」
フランキーの言葉に私は小さく頷いて、けど、噴火を見たいと言うルフィがシャボンに張り付くから何だか気が抜けそうになる。……ルフィらしいと言えば、らしいのかも。
僅か数mの為に、船首の方へと避難を始める数名に変わらないわよと突っ込んだ時、海底火山が……爆発した。それにより、ルフィだけは本当に嬉しそうに笑っていて、でも今私はそれどころじゃ無いのである。