ルフィの顔を見る余裕は無いけど、伝わって来るの。ルフィは今、笑ってる。
そんな状態なのに、魚人は言う。まるで勝利を確信したかのように、ルフィが軍門に下るとでも言うように。
どうして、ルフィがこんなに笑ってて、その答えを導き出せるのか。既に頭が可笑しいとしか思えない。
「さァ、俺達の手下になるか!?〝麦藁のルフィ〟!!そうすれば、魔女ナミも、俺達が
その時、微かにフランキーの声が聞こえて来た。〝全開〟のクードバーストをやる準備ができたみたいね。
ルフィは何もわかってないのに、全力でそれに応えてしまう。まぁ、こうなるのわかってたから急いで準備して貰ったんだけどさ。
「嫌だね~!!バ~カ!!」
満面の笑みを思わせるような顔で、声で、ルフィは言い切る。断るのはわかってたけど、まさか挑発までするとは思ってなかったわ。
だけど、帆はロビンが閉じてくれたから大丈夫。もういつでも、このサニー号は……飛べる!!
「拒否……!!したな……!?」
想定外なのか、声が裏返ってる。でも、これは間違いなく当然の現象。
ルフィが……いいえ〝未来の海賊王〟がそんな言葉に応じる筈が無いのよ。私はそんなルフィの横で、艶やかな笑みを浮かべてみせる。
何年、演じてきたと思ってるのよ。どれだけ厳しく指導されたと思ってんの。
ひつよならどんな時でも、演じ切って見せる。本当に悪女になる事が不可能なら、演じる位出来なくてどうするのよっ!
気持ちで負けるなんて、ルフィの隣に立つ以上許されない。私も、前を向かなきゃ!
「我々〝新魚人海賊団〟の勧誘を……!!……ならばお前達は〝魚人の敵〟ただの〝罪深き人間〟だ!!」
「何でお前らの手下になんなきゃいけねェんだよォ!!ベロベロベー!!」
そんなルフィにチョッパーは泣き縋り、ゾロは隣に立って共に威嚇する。ここでルフィに撓垂れ掛かるのは、絵面的に上手くいかないので、魚人海賊団にクスクスと笑う事で挑発するに留めた。
それにしても、ベロベロベーって……。まぁ、ルフィらしくて可愛いけど。
……新、魚人海賊団。そうよね、確かあの魚人海賊団のメンバーは元々太陽の海賊団の流れから外れた人達だもの。
あの太陽のマークは、誰でも入れていいものじゃないし、入れ墨ではなくて焼印。入れるのに技術なんていらないし、確かに全員が入れれば奴隷にされた人達を守るのがやりやすくなる。
だから、アーロンのマークだけ勝手に継いだのだと言うのは分かるの。でも、もう1つのマークが、どうしてもいい意味を持ってるとは思えない。
……震えるな、私の身体。そう言い聞かせてたら魚人が言葉を続けた。
「残念だ。じゃあ、ここを通す訳にはいかねェ……。海獅子ィ!!」
大きく口を開けて挑み来る海獅子。それにルフィは拳を構える。
正に1触即発。飛ぶなら、今しかない!
「やんのかァ!?」
「行って!」
私の声がサニーを駆け抜けた直後、フランキーの声が皆に届き……シャボンが急激に潰れた。酸欠になるか、圧死するか……はたまた無事に辿り着けるか。
分の悪い賭けだけど……これしか無かった。潰れてる事に対して、文句を言える余裕のある皆が少し誇らしい位よ!
普通ならこの圧で声なんてでない。なのに文句言えるんだから、寧ろ誇っていいわ。
「耐えて!!魚人島に突っ込むまで!!」
そして魚人島に突入した。けど、クードバーストの全開で飛んだから、魚人島に入った時問題が発生した。
魚人島は二重構造になっている。空気のある層と海水の二重構造になっていて、ともすれば中でまた層が別れてるかもしれないような、そんな感じ
つまり確かに魚人島には入れたけど、空気の層のその場所に入った時巨大すぎるシャボンを抜けたからサニーのシャボンを奪われたの。なのにも関わらず、サニーはその勢いのまま次の層……海水の中へと突入してしまう。
「もう1度激突するぞ!しがみつけェ!!」
その声の直後、海水の中に完全に船体が入ってしまう。それは恐ろしい程の潮の流れで……四人も能力者が居るってのに、何もできない。
でも、近くに居るルフィだけは、せめて……!!
そう思って完全に力の抜けてるルフィに、意識さえなさそうなルフィへと手を伸ばす。その時ルフィの視線が、私に向けられた。
ルフィは力の入らない筈の腕を微かに動かしてくれて、手が微かに触れ合う。そうして掴んだ手を元に私が近付いたのか、ルフィを引き寄せたのかも分からないままにルフィと近づいて、全力で抱き締めた。
そこで、私の意識は途切れている。ルフィだけは、必ず……。
「……っ!!……ちん……!」
なに、か……聞こえ、る?
可愛い声だけど、ノジコやロビン、ビビとは違う。誰の声だろう?
「……ナミちん!!」
必死な声が聞こえる。懐かしい……声。
でも待って。その、呼び方、は……?
「ゲホッ!ゴホッ!カハッ!!」
「ナミちん!!」
張り付く髪の毛が重い。急激に体内に入ってくる空気が苦しくて、酸素が多過ぎて呼吸が上手くいかずに咳き込む。
そんな私の背を擦りながら、声を掛けてくれるのは、2年ぶりに会えた友人だ。仲間ではなく、家族でもない、貴重な友人。
「ナミちん、無事で良かった……!」
「……ケホッ……ケイ、ミ……?」
「うん、皆で助けたの。無事で良かったけど……」
「けど?」
「ルフィちんから、離れて貰える?着替えとか、した方がいいと思うの」
言われてみれば、どうやら私はずっとルフィを抱きしめていたらしい。その後話を聞けば、助けた時も私はルフィを抱いてて、その後治療もあるし服を替えたりもしたかったらしいんだけど、私がルフィを離さなかったらしい。
それを知れば、赤くなりながら手を離したのは当然だろう。冷えてると思うなんて言われた私はそれを言い訳にして、即座にシャワーを貸してもらう。
お湯を出して頭から被ると、そこで私は漸く自分が冷え切っていた事と、腕が痺れてる事に気付く。筋肉が痙攣するくらい必死で、ルフィを抱き締めてたんだわ……。
「……情けない、な」
思わずこぼれ落ちた呟きは、シャワーの音に掻き消されて誰にも届く事は無かった。シャワーを終えて脱衣所に立つと、着替え等が揃えられていて本当に有難いなと思う。
よく見ると其れは私の着ていた物と酷似していて、素直に驚く。だって、このセットになったのって、修行の後からだもの。
「ズボンとビキニのセットまであるわ……」
ケイミーは人魚なのに、どうしてこんなの持ってたんだろう?
てか、これ、私の服っぽい。どういう事?
とりあえず着ちゃおう。そう思って着替えたら、髪の毛を絞りながらケイミーの所へ足を進める。
「ケイミー、この服……」
「あ、ナミちん!それ、ナミちんのだから、気にしなくて大丈夫だよ」
「どういう事?」
「ナミちんが持ち歩いてたのと似た袋が漂ってたから持ってきたの。多分ナミちんのだって思って。だからそれ先に洗って乾かしておいたんだよ。その中に皆の服もあったから本当に良かった」
……あ!買物した袋だ。
多分その中の1つが船から飛び出したのね。ウソップ達と買い物した時、1応簡易的なそれを揃えていたのが役立ったんだわ。
全部部屋に運んどいたつもりだたのに、甲板に出したままにしてたのがかあったのかしらね。まぁ、結果役立ったから良かったけど。
「ありがとう。助かったわ」
「……ねェナミちん」
「どうしたの?」
「ナミちんって、どうしていつも美味しそうな匂いがするの?」
「……誤解を呼ぶから、他でその発言はしちゃダメよ?」
そうして私は、ケイミーから詳しく話を聞いた。すると私からいつも蜜柑の香りがする事と、髪が艶々してるのが気になっていたらしい。
実際この世界の人は、ヒロイン補正とかでは無く、女の人は基本的にムダ毛があまり無いみたいなのよね。でも、いつも海水に浸かってるから、髪質を保つのが難しいのは間違いない。
なので私は蜜柑で作ったシャンプーとリンス……いや、トリートメントかな?それとボディソープを見せながら説明して、ノジコとベルメールさんが通信販売してるのでそれを教えた。
アーロンに支配されてた時、蜜柑農家の収入だけで毎月二十万ベリーを納めて、その他に自分達が生きてく為の食い扶持を残すなんてのは物理的に不可能だった。でも、私が分かりやすく2人の免除を願い出る事も出来なくて……その上ベルメールさんは車椅子だったのだ。
そこで考えたのが、元々私が使う為に考えて家族とか近しい人にはあげたりしながら皆で使って、余りを時々販売していたこれら洗剤シリーズを販売する事だった。他の島に出るのはなかなか難しかったので、クーちゃん経由で販売して外貨を得るのが必要だったのもある。
ほぼ全員が島から出られない状態では、正直外貨を得なければどうしたってアーロン達が島で金を使わない限り本来上納金なんて収められるはずも無いのだ。そして、村人全員が生きていけるだけのお金が動くのは、奇跡に近い。
そこで村人達は互いに必要な物は労働力や物々交換を取り入れていき、外貨とアーロン達が使った場合のお金で何とか生きていてくれたのだ。その名残で、2人は今も通信販売擬きを行ってる。
蜜柑の皮から作る洗剤シリーズは、私は自分で作ってるけど、買えるならそれもありだものね。そう思って教えたそれにより、ケイミーはキラキラとその瞳を輝かせる。
「だから、ロビンちんも同じような匂いがするんだね!」
「そうね。ロビンのもサンジ君のも私がオリジナルでブレンドしてるから、少しだけ効果と香りが違うんだけど、結局基礎は蜜柑だもの」
そんな発言が元で、ブレンドについて話が盛り上がり、ケイミーには元のそれがある状態での作り方を教えていく。すると貝殻の形をしたベッドでモソモソと動く男達。
それによりケイミーは下半身を水に入れたまま、私は普通に床のある所を通って駆け寄る。最初に目覚めたのはサンジ君で、私とケイミーを見て奇声を上げるから問題ないなとホッと息を吐き出す。
「んナミさァん!!ケイミーちゅあ~ん!?」
「怪我とかはしてな「俺をそんなに心配してくれるなんて……ナミさん、俺に乗り換える気にな「やだなァ!サンジちん!!ナミちんはルフィちんしか見えてないよ」」」
これは、何が起きたのか。奇声を上げた後、名前を呼んだサンジ君に声をかけたら言葉を遮られ、その言葉をケイミーが遮り、そのままサンジ君が泣き崩れたのだ。
でも、本気のノリじゃないから大丈夫でしょ。本気なら、こんなメロリンモードじゃなくてちゃんと対応するんだろうから。
そうじゃなければ、2年前のあの時、鼻血を出してそれどころじゃなかった筈だもの。そう思えば、落ち込んでるこれもノリだとわかる。
だから私はハイハイと適当に流して、ルフィの頬に触れる。いつもは私よりも高い体温なのに……私より少し体温も低いし、まだ目を覚まさない。
死人の冷たさとは違うから、問題ないとは分かるんだけど……。それでも、心配なのよ。
「ルフィ……早く、起きて……」
「ぅ……」
その時反応したのはチョッパーで、そちらに視線を向けるとゆっくりと身体を起こしたチョッパーが私とサンジ君を見た。それからケイミーを見て、1度だけ首を傾げてから言う。
「ケイミー……か?なら、ここは?」
「私の家だよ!久しぶりだね!!」
そうして騒いでいればウソップも意識を取り戻して、現状把握の為に色々と聞いて来る3人にケイミーは嫌な顔ひとつせずに対応してくれた。そのままスープを作り始めたケイミーは、勝手に着替えさせてごめんねと言うけど……だとするなら、ケイミーって案外力持ち?
いや、それは無いわよね。そう思っていたら、考えを読んだかのようにケイミーが教えてくれる。
「シャボン使えば体持ち上げたりするのも、力なんていらないんだよ」
そう言って笑うケイミーは何だか本当に楽しそうだった。後はとりあえず、ルフィが目覚めてさえくれたら……そう思ってその手を握ると、チョッパーがそっと隣に来てルフィの診察を始めてくれる。
本当にこの1味は温かい。今この場にいない皆も心配ではあるけど、何故か全員無事だと……そう、確信を持っている自分がいた。
この時私は、ルフィの事で頭がいっぱいで、新魚人海賊団の事をすっかり忘れていたのだった。過去が追いかけてきている事を、私は知らないままにルフィに張り付いていたのである。