どれくらいルフィに抱き着いていたのか、記憶が定かでは無い。ただ、ルフィの腕の中にいると凄く安心するのは確かな事。
優しく頭を撫でてくれるルフィに擦り寄った時、ルフィがそう言えばと言って話し始めた。それはルフィとしては当然の事なんだろうし、私もそれを邪魔しようとは思わない。
「俺、この魚人島で必ず会いてェ奴が居るんだ」
「ふーん。誰!?人魚姫?」
「いや……ジンベエだ!!」
ケイミーとの会話を聞きながら、ルフィは本当にこの二年の情報が無いのだと知る。そうでなければ、この島で会いたいなんて難しい事は言わないだろう。
ジンベエ……か。私は、彼をどう思って居るんだろう。
自分の事なのに、よくわからない。知識ばかりがあって、感情がそれに追いつかないような、そんな感じがするの。
「2年前、エースが死んで……でも俺がへし折れずに済んだのはあいつのお陰だ。ジンベエに会いたい!!」
ルフィがエースが死んでと言った時、生きてる事をその時知らなかったからそう言ったのか、それともルフィの中で死んだものとしてやっていくつもりなのか判断出来なくて、じっと見つめてしまう。そんな私にルフィは優しく笑うだけ。
ルフィに追いかけようと唇を開いた瞬間、ウソップが震える声で問い掛けた。それは、言われてみれば当然の問い掛けでもある。
「おいルフィ?〝ジンベエ〟ってまさかおめー、
「うん、友達なんだ」
「お前、何なんだよっ!!」
ウソップの言葉は正しい。もう、正しくと言うか、文字通り正論って感じがする。
でもまぁ、これ言うと私に飛び火しそうだしと思って黙ってたのに、チョッパーがボソッと言う。余計な事を。
「七武海と言えばさ、ナミ、
チョッパー、どれってのは失礼よ。誰に言い直しなさい。
そんな事を脳内で思ってる間に、ウソップとケイミーまでそれに参加する。皆は、私が嫌いなのかな。
「あー……あの記事な。俺も驚いた」
「そうだよ!ナミちん!あれどういう事!?」
「アレってなんだ?」
上から、ウソップ、ケイミー、ルフィである。え、分かるからいい?
現実逃避しても何にもならないので、私は反論しようと口を開く。けど、なんか……私が悪いみたいに言われるのは我慢ならないわ!
「あれは、皆が勝手に……!私はそんなつもりないもん!!まだまだ冒険したいお年頃何だから!!」
「……〝もん〟ってお前……少し幼くなってねェか?」
ウソップの言葉に五月蝿いと言ってルフィにくっ付くと、ルフィはにししって笑うかと思ったのに、ベリッと剥がされる。嫌な、予感がします。
だって、ルフィが不愉快そう。ムーッて言い出しそうな顔してる。
「ナミ、何だよ。何があったんだ?」
「ルフィは新聞読まないもんな!あのな、ナミ「ナミちんね、七武海と元七武海から〝俺の女〟とか〝俺の妻〟って言われてて、今大騒ぎなんだよ!」」
言葉を遮られて続きを言われたチョッパーはパッパグのように落ち込み、ケイミーはそれに気付かない。そっか、サンジ君に口説かれてるの無視して話してたのもケイミーがサンジ君に興味ないからだけじゃなくて、素で気付いてないんだわ。
うん、ケイミー手強い。見習わなきゃ!
「……何言ってんだ?ナミは俺のだぞ」
ルフィからのそんな些細な言葉で赤くなる自分が、なんか、恥ずかしい。でも、嬉しいの。
ぎゅっとルフィに抱き着くと、ルフィが腰に回してる腕に力を入れる。多分落ちないようにだろうけど、それがまた嬉しい時点でどうにもならない。
「……て事は、鷹の目のおっさんと、ミンゴだな。……でも、元って事は……?」
「クロコダイルだよ!ビビを苦しめてた!」
「……そういや、あの時もナミにキスしてたもんな。ナミ……消毒」
そう言って重ねられた唇。てか、その後色々あったのに、今更思い出して消毒って……嫌じゃないけど、皆いるから恥ずかしい。
触れる程度で終わると思ってたのに、後頭部を押さえられて、深く入り込んで来てる舌に翻弄される。それにより漏れそうになる声を必死で押さえていたら、唇が離れた時ルフィが笑った。
「俺のやる事、全部受け入れてると……歩けなくなるぞ」
「ルフィにされる事は、嫌な事なんて、ないもの」
「……ナミは俺を、どうしたいんだよ。この場で襲うぞ」
「私のそういう姿を皆に見られても良いの?」
「それだよな。問題は」
良かった。ルフィが見せたくない派で。
そうじゃ無かったら、私抵抗しきれない気がするもの。その後ケイミーが顔を真っ赤にしてるのに気付いて、ルフィにシャツを返してから慌てて湖に飛び込むと他の人魚達に笑顔で受け入れて貰えた。
視線を向ければサンジ君が、何故か滝のような涙を流してたけど、直後に人魚達から遊びましょと声を掛けられて復活していたから大丈夫だと思う。そうして私が泳いだりしてる間にルフィとケイミーはジンベエと魚人島についての話をしていたようで、説明しなくて良くなった事に少しだけホッとする。
私もある程度は知ってるけど、やっぱりどうしても複雑な所はあるから。ルフィの友達だと言うなら、私はそれを否定するつもりも反対するつもりない。
ただ、ルフィが騙されてるんじゃなければいいの。誰かにとっては悪人でも、他の人から見たら善人だって事もあるから。
ちゃんと会えば……変わるのかな。会って話をしたら、何か……変わるかな?
前に見た時は戦場で、話なんかする余裕無かったもの。でも、あの時もルフィを命懸けで護ってくれてたわ。
「「「「「ケイミー!!」」」」」
思考を遮るように、ケイミーを呼ぶ声が聞こえて顔を上げる。どうやら、メダカの五つ子ちゃん達が情報を持って来てくれたらしい。
王国の船が来ると言っていて、偶然にも〝不法入国〟になった私達を捕まえに来たらしいとの話になれば、ゆっくり観光したいだけの私としては、それに見つかりたくはない。どうしよう。
「ナミちん以外は隠れて!」
「ナミは?」
「人魚の皆に紛れてたらわかんないよ。大丈夫!」
ルフィの言葉にケイミーはドヤ顔。それを受けてサンジ君が叫び、そのまま近くにいる人魚さんに抱き込まれた。
「ナミさんはやっぱり人魚なんだー!!」
「人間だから。水中で息できないから」
「そこ!?」
水中でも息ができるなら、どれ程良かっただろう。きっと私が人魚でもベルメールさんは普通に育ててくれたと思うし、アーロン達からの扱いも変わったと思うのよね。
奴等は同族至上主義だったから……。シャンクスも私を売ろうなんてしないだろうから、問題無いしさ。
……ルフィが溺れた時、困る事無く助けられる。それがありがたいと思うの。
「今からでも、人魚になれないかな。うちの船、能力者の割合多過ぎなのよね」
その上その能力の大半は、能力としてだけ見たらハズレ以外のナニモノにも思えないようなもの。既に死んで生き返った以上は、ブルックの能力は生きていられる奇跡の実って所にしか価値がない。
……生きててくれたから出会えたんだけどさ。そういう意味ではチョッパーのもそうよね。
ヒトヒトの実は、動物や物質が人の形になれるって事の他は何もないもの。いや、暴走した姿とか見ればこの先進化する可能性は十二分に秘めてるけどね。
でも、それはそもそもがドーピングによる奇跡。本来ならば三段階しかない筈なのを、これだけ増やしてるんだもんね。
ロビンは賢いからあの能力を戦闘でも使ってるけど、通常なら隠密系の能力でしかないわ。そして……ルフィのゴムゴムの実。
その時思い出したのは、ルフィにその実の能力使って抱かれた時のそれで……。……二年で何の修行してたのよっ!って思ったらとりあえず潜って頭冷やすしか無かった。
水中から見上げた空は、描かれた物である筈なのに、本当に美しい。湖面に差し込む光が乱反射して、中から見ると本当に素敵だなと思えるのだ。
気持ちが落ち着いて水面へと顔を出せば、王子様と呼ばれる人達が本当にルフィを探しに来たのだと気付く。水面に顔だけ出した私に王子達は気付いた様子で、けれども本当に人魚だと思われているのか、特に反応はな……。
「おや……貴方は?」
「え?」
「見かけた事の無い顔だと思いまして」
「か……彼女は、うちのカフェに最近入ったばかりなの!」
人魚の1人がそう言ってくれて、それにより納得した様子を見せるけど、何故か王子達の視線が私から離れない。手配書の事を、思い出されたら困るんだけど。
何だろう。それとも何かおかしな所があるのかな?
はっ!刺青のせい!?
でも、今は肩も水の中だし。そうなるともう、見られてる理由がわかんないよ~。
「ケイミー……」
「大丈夫。怖くないよ……。王子様達、ごめんなさい。この子人見知りなの」
「カフェで働いているのに、ですか?」
驚いた様子を見せる王子に全くだと内心で頷く。でもケイミーは引かない。
私を守るように強く抱き締めて、頭を撫でてくる。ケイミーに抱きしめられてからも、その視線が私に向けられてるのがよく分かるのだから、怯えたくもなる。
「人見知りを治す為に働いてるんです」
「それは……不躾に見てしまって申し訳ない。遊戯中、邪魔をしましたね」
「いえ、そんな事ー」
「また今度踊ろうぜ~」
「お邪魔ソ~ファ~ミレド~」
「「「「「キャー!!」」」」」
流石に自国の王子達相手だからだろうけど、人魚達から黄色い声援が飛び交う。そして王子達が背を向けた直後、それは起きた。
サンジ君からの、大量出血である。文字通り降り注ぐ血の雨に、私達は同時にサンジ君の元へと近付く。
「サンジ~!!」
「キャー!!サンジちゃん!?」
「今の血の量、やべェぞ!!サンジ!!」
「ダメだった。押し殺した興奮が爆発したァ!!」
「サンジ君!!しっかりして!!」
チョッパーから始まった言葉達は重なり、全ての言葉を正確に聞き取れた人は僅かだろうと分かる。それくらいの混乱の中、王子達が兵を差し向ける声が聞こえて来た。
迫って来る兵士達からサンジ君を庇うように抱き締めようとしたら、チョッパーから離れるように言われてしまう。今は、私が近付くとサンジが死ぬ可能性が高まるからって……。
「サンジ君……」
「ナミ、服着て、戦えるようにしとけ」
「ルフィ?」
よく分からないけど、逆らう必要も無いので自ら上がってズボンをはいて、戦う為に武器を身に付ける。まだネックレスにしてないので、ペンダントトップは袋の中に入れてあるけど。
そう言えば上着が無いわ。まぁ、仕方ないか。
そんな事を考えてる間に、血を分けて欲しいとチョッパーが声を張り上げる。献血の大切さをこんな時、痛感させられるのだ。
でも、この国には法律がある。それに違反すれば、イコールでは闇討ちされる未来が待っているのだ。
隠された真実が、悲しい法律を作った。しかしそうしなければ、魚人島の住民から人間へと向けられる憎悪は留まる事ができなくなっていただろう。
……そういう事は、覚えてるのよね。魚人島である事を伏せて、いつか真実が知れ渡った後に本にしたいと思わされるような悲しい歴史。
でも叶うなら、いつか太陽の元に移動出来るその日まで、その本は出さないでおきたい。物語の結末は、幸福な物であって欲しいから。
騒ぐ魚人海賊団に対して、ルフィは何も言わない。私はサンジ君から距離を取りつつ、その成り行きを見守っているしか出来ないでいる。
ウソップはサンジ君を抱えて、チョッパーは声を張り上げて、ルフィは魚人海賊団から三人を守るように前に立って居て……。なのに、私達はは何も出来ないでいる。
その内に新魚人海賊団まで現れては、クリマタクトを構えて立つ他にできる事もない。私なら、ルフィのサポートができるもの。
「力ずくで連れてくぞォ……〝打瀬網〟!!」
「お前らの言う事は……聞かねェって!!言っただろ!!〝JET銃〟!!」
それは、1瞬の出来事。ルフィは瞬く間に、魚人海賊団を吹き飛ばしてしまう。
でも、待って、ルフィ今……刺されなかった?
「ガルルァ!!」
「ルフィ!!後ろに海獣が!!」
ウソップの声が響くのと、ルフィが掌を海獣に向けるのはほぼ同時で、海獣はそんなルフィに戦わずして負けを認める。……これが、覇王色の、覇気……。
周りがそれぞれ驚いたり納得したりしている中で、姿を消していたケイミーが船を強奪して声を上げた。それによりその船で人のいる所へ行こうと言われれば、ルフィがサンジ君達を腕に1纏めにしようと腕を伸ばす。
「私は、平気よ」
そう言って上に乗ると、ルフィもゴムゴムの能力を利用して皆と共に船に乗り込んだ。それを確認したケイミーが船を出すけど、ケイミーは本当に申し訳なさそうにしているので、それがどうにも心苦しかった。