サンジ君と血液型が合わない事を謝るケイミーに、それはこの場にいる全員が同じなのだからと言って見るけど、実際ケイミーが謝っているのは、問題の法律がある事が理由なのだろう。サンジ君を助ける力が無い事が、ケイミーの心に暗い影を落としている。
でも実際問題として、ケイミーの気持ちはわかる気がするのよね。売られそうになったのを助けて貰ったのに、何も返せないってなったら……気にしないでいる方が難しいだろうと思うもの。
そもそも人魚は通常、誘拐された瞬間から本来ならば運命は決まってる。なのに、好きな人と友人達が助けに来てくれた。
それも、出会った時からずっと助けられてばかりだった事を思えば、何か恩返しをしたいと……そう願って当然。なのに、迎えに行くつもりがそれさえ出来なかったとなれば、こんな風に困ってる時位何か力になりたいと思うだろう。
「ケイミー、大丈夫よ」
「ナミちん」
「人のいる所に案内して貰えるなら、後は男達が頑張るから……ね?」
「うん……」
私は駆け回らないわよと言外に伝えて見れば、ケイミーは力無く笑う。だから私は、ケイミーに笑って欲しくて言葉を重ねて行く。
「私には、そうね……可愛い洋服売ってる所と、甘い物置いてるお店教えて」
「ナミちん?」
「ケイミーと1緒に、買い物したいな。二年前はできなかったもの」
その瞬間ケイミーが泣きながら飛び付いてくる。それを抱きしめながら、ルフィに視線を向けたら頷かれたので、2人で少し遊びに行こうと決めた。
「そう言えばルフィ……さっき刺されたでしょ。ちゃんとチョッパーに診てもらって」
「サンジが先だろ」
「剣士が斬るのではなく、軽く刺したって事が問題なのよ。毒とか……そういう系が心配だって言ってるの」
「んー……ナミがそう言うなら」
ルフィはそう言ってチョッパーに刺された腕を見せるけど、見せられたチョッパーはそれを軽く消毒しながらやはり毒だと言う。ただ、ルフィの体内にある免疫がそれを勝手に治癒の方向に持っていってるらしくて、問題にはなってないらしい。
そこからインペルダウンで出会った毒の奴が理由だろうと笑うルフィに、そうだろうけど……と思いながら複雑な気持ちになる。ルフィは毒が効かなくなったけど、その分寿命を随分消耗してる筈だから……。
ルフィ……私を置いて逝かないで。逝く時は、私も連れて行ってと心の中で叫んでいた。
リュウグウ王国、港町サンゴが丘。その場所に向かいながらケイミーと話をすれば、最近は人間が来なくなっているのだと言う。
その話を聞いた時皆は首を傾げたけど、私は1人納得してしまった。あの時私達がやられたような事を全ての人間が居る船を対象に行っていたのならば、観光客も海賊も、この場に来る筈が無い。
海賊ならば二択を与えて、観光客なら始末していたと考えるのが妥当。だとするならば、今新魚人海賊団には恐ろしい程の人間の傘下が存在しているだろう。
「面倒な事になりそうね。……でも、献血のお願いをするなら寧ろ、人間が少ない事が役立つかも知れないわ」
「どういう事?」
「少ない方が、同族意識の高まりもあるし、他の誰かがやるでしょって言う考えが起きにくいの。だから血液型の合う人がいれば、多分断られないわ」
「ナミって、時々怖いくらい冷静だよな」
ウソップが思わずといった様子で言うから、それに小さく笑った。冷静でなければ、喪ってしまうとわかってた時期が長いからか、それとも過去の経験が理由なのか、私には判断ができなかったから。
港町に到着と同時に、拠点に出来そうなオススメの宿を聞いたら、マーメイドカフェの裏口から1旦入って、休めそうな所を探してくれると言う。ケイミーの言葉に感謝して話を進めて貰えば、なんとオーナーの部屋を貸して貰える事になった。
サンジ君が部屋へと運び込まれて、そのまま三人が血液を求めて人探しに飛び出して行くのを見送る。伝令係として、私とケイミーがその場に残ったのはある意味当然だろう。
全員が動くとそれはそれで問題だし、ケイミーはシャボンがないと身動きが取れないもの。そして私は……か弱い美少女航海士だから、当然待機よね。
「……貴方、もしかして……ナミって名前かい?」
「え?はい、そうで……」
振り向いた時、背筋が冷たくなったのを感じた。だって……初めて会う筈なのに、私は彼女を……知っているから。
カタカタと震えそうになる身体を強く抱き締めて、遠のきそうになった意識を懸命に保つ。……この人は……。
「……初めまして、だね。……兄が、申し訳無い事をした。謝って済む事じゃ無いとわかってるけど、謝罪をさせて欲しい」
「憎まないの?」
「え?」
心底不思議そうに、女性は私を見て首を傾げる。でも、冷静に考えて、私は怨まれる対象となり得ると理解してるわ。
勿論、この件に関して私が謝罪する予定は無い。ここで頭を下げる事だけは、絶対許されないとわかっている。
「私が、貴女の兄を……監獄に送ったのよ。八年、共に過ごして、その間ずっとその機会を伺ってたわ」
「……怨まないよ。ただ、私を知ってる事には驚いたけど……まさか、先読みの巫女とかって噂は、真実なのかい?」
「私、は……」
言葉に詰まる。だって、どうしたって、怖い……。
やられた事を考えたら、怨まれる筋合いなんて無いとか、色々思ってしまうのは事実だわ。でも、それでも私は、確かに彼女の兄を追い詰めた。
奪われた生命があり、私もあの村で育った以上は、彼らの為にも逃げる事は出来ない。出来ないけど……恐怖で震えそうになるのを自覚する。
アーロンを、鮮明に思い出してしまうから。似てる要素なんて、欠片もないのに。
「私は、そこにある水晶で未来を見ては、未来に絶望していたよ。未来なんて、知らない方がいい」
その言葉で、未来が分からなくなったばかりの私は息を飲まされる。わかる事が、私には便利な事で……助かる事だったから。
人によって考え方が違うのはわかってたけど、この人は知りたくないんだわ。私は、知って……その上で必要なら変えたいと思って生きてきたから、何だか目からウロコな気分。
「私は確かに、ある程度未来が見える事があったわ。もう、その能力は失われてしまったけど」
「え?」
「私は運命を変えすぎて、これ以上そういう事ができないように、その能力を奪われたの」
「運命を変えた……?」
呆然とした様子で、呟くように言葉を告げるそれに首を傾げる。どうしたのかと思ったら、彼女はシャボンに乗ってふよふよと私に近付いてきた。
それにはケイミーも驚いた様子で、でも気を利かせたのかサンジ君の元へと姿を消す。そうしてアーロンの妹は、私の肩に手を置くとその表情を微かに歪ませた。
「私は、未来を見る度にその残酷な運命に怯えて、取り乱して、そして……震えていた。恐ろしすぎるそれに、立ち向かおうなんて考えた事も無かったよ」
「立ち向かうしか選択肢は無いでしょ?」
「運命を知っただけで、その恐怖に身が竦むだろう?」
「そんなもの、気にしていられないわ。だって、立ち向かわなければ喪ってしまうもの」
喪えばもう、取り戻せない。私は家族も、家族にとって大切な人も、喪いたくなかったし、喪わせたくなかった。
その為に何か代償が必要なら、いくらでも支払うつもりでいたわ。死んでしまったら、その先は無いのだから。
「強いね。……変えようなんて、考えた事も無かった」
「いいえ、弱いから変えたの。だってね、運命を変えなければ私の母は殺されて、私の姉が孤独と後悔の中で苦しむのはわかっていたもの。……私の弟が殺されて、私の恋人が無力感の中で壊れる事を知っていたのよ。それなら変えるでしょ」
「1つ選択肢を選び変えたら変わるような、簡単な未来じゃないだろう。分かれ道の右に行かなければ良いなんて、アンタが見てたのは……そんな簡単な話だったのかい?」
「いいえ。でも、変えるしか無かったの」
その為に船に乗って海に出たの。だからこそ、殺されるのを覚悟の上で、シャンクスに師事したのよ。
私が求めているのは、私の大切な人が、生きている未来。そして、笑っていてくれる事だけなのだから。
「……私の母は、貴女の兄に殺されるのが決まっていたの。私と姉の目の前で」
「……なん、だって……?」
「その為に、守る為に、力を求めて……でも、敵わなかったから、私は自らアーロンの望む物を差し出す事で、母の命を……何とか繋いだわ」
「唯一の人間の少女。それには……そんな理由が?」
私は頷く。するとアーロンの妹はソファに戻ると、顔を上に向けて両手てその眼を覆うようにしたと思ったら、そのまま静かに泣き出した。
その大きな身体から流れ落ちる雫は、それに見合う大きさ。涙のサイズが悲しみに比例する訳では無いけど、今、彼女を責める事は私には出来ない。
「本当に、すまなかった……」
どれ程の時が流れてからなのか、そう言って真っ直ぐに私を見たアーロンの妹はシャーリーと名乗った。なので私もナミと改めて名乗り返し、互いに知っていた未来と、それに対して行った事を語り合う。
するとシャーリーが私を強く抱き締めて、苦しそうに泣くから……多きなその身体で、取り縋るように嘆くから、私はその身体をそっと抱き締める。そうしてシャーリーが落ち着くまで、ゆっくりと時を過ごした。
そうしてる間にルフィ達が入れ代わり立ち代わりこの地区は全滅と言いながら戻って来て、まだ行ってない地域を教えてルフィ達がそれを受けてまた飛び出すのを繰り返した。そうやってやっとの思いで見つけ出して来た双子の海賊が来てくれたので、チョッパーは治療に入りルフィ達と共にその経過を見守る。
「ここはいいから、ナミとケイミーは買い物とか行って来いよ。ただ、気をつけて行けよ?クリマタクトは手に持って行ってくれよ?」
「本当に頼むぞ。何かあったらパワーアップしたルフィが何しでかすか……俺は、何も出来ないから期待するなよ!!」
チョッパーとウソップの言葉に頷いて、ケイミーと共にケイミーオススメのカフェ等で休憩しながら本屋さんとかも巡る。ケイミーが気に入ってる貝殻の形をしたリュックサックを売ってるお店を見付けて、何色が可愛いとか話して、買わずに通り過ぎた。
意外と果物とかは豊富で、小豆のアイスを見付けて購入して二人でそれを半分こしてみたりする。そうして楽しく過ごしつつ、パッパグがオーナーやってるお店に到着した。
そこにあるのは確かに可愛い。……あ、カーディガンもあるわ。
でも、高い。どうしよう?
「ケイミーはパッパグの飼い主でしょ?何とかならないの?いくら何でもこの金額は高過ぎよ」
「そういう事は出来なくて……あ!」
「どうしたの?」
「私、パッパグにハマグリ届けて来るから、ここで少し待ってて!」
そう言って申し訳なさそうにするから、構わないわよと笑いかける。そんな私にすぐ戻るからと叫んで、ケイミーは立ち去る直前、店員さんに声を掛けた。
「……あの、この人パッパグの友達なの。おもてなししててください。パッパグ連れて戻って来ますから」
「か、畏まりまして御座います!!」
そうしてケイミーが姿を消したので、私はぼったくりとしか思えない値段の洋服を睨み付ける。うん、少しはまけてもらおう。
とりあえず、カーディガンかショールが欲しいわ。このままだと不味い。
ロビンに泣かれる。そして、ルフィの生命が危険だわ。
「カーディガンかショールか……動きやすさならカーディガンよね」
「あの……お客様。当店の服の広告塔をして頂く事は、可能でしょうか?」
「え?」
それから話を聞けば、いつぞやの雑誌モデルやった時と同じ条件である。待ってる間暇だし、海賊の私で良いならと頷けば、店員さん達は大喜びで果物と飲み物を用意して服を着てからそれを楽しんでる所を撮影させて欲しいなんて言う。
そうして呑気に撮影会をしていたら、ロビンとフランキーが姿を見せた。どうやら騒ぎにより、私の居場所を知ったらしい。
「ロビーン!!」
「ナミ!!良かった、無事で。怪我は無い?……あら、上着が!!……変なのに襲われなくて良かったわ」
「大丈夫よ。クリマタクトもあるし」
「ナミは、優しいから心配なのよ……もう、私と1緒に行く?」
ロビンの声に本気の色を感じ取ったけど、でもここで待たないとルフィ達を心配させちゃいそう。その時フランキーがロビンに声をかけてくれた。
「おい、ロビン……」
「わかってるわよ。……ルフィ達は?」
そこで2人にこれ迄の事を伝えると、納得した様子を見せてから、フランキーはトムさんの親族を探しに行くと言い、ロビンは大切な歴史がと瞳を輝かせる。なので私はルフィ到着までここに居ると伝えて、別行動する事が決まった。
この時点で安否不明なのは、ゾロとブルックだけだけど……。それを言ったらロビンがブルックはマーメイドカフェに行ったと言うので、残るはゾロのみとなった。
「でも、ゾロなら大丈夫そうね」
「確かに、ゾロなら……方向音痴的な意味以外では問題ないわ」
そう言って果物を少し口にした後で、ロビン達が去って行く。警戒して無意識下であれど、毒の有無を確認してから口にしてた私としては助かるけど、甘やかされてるなと心底思うのだ。
その後また着替えたりしながら撮影会を続けていたら、ルフィ達が姿を見せたので、パッパグに話をした。いくらなんでも高過ぎるわよと言って、広告塔でのモデルやってた事もついでに伝える。
それを受けてルフィはにししっと笑うし、ウソップとチョッパーは納得した様子を見せる。そうしていたらパッパグがタダで服をくれると言うので、言葉に甘えて店を空にした。
そんな時、残ってた果物をルフィが全て食べ尽くし、平和な時間が始まるのかと思ったら、何かが起きますなんて何も分からない言葉を伝えられてしまう。やっぱりルフィがいて、平穏な時間なんて望める筈が無かったわよね。