※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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竜宮城

 クジラを馬の代わりのようにして、空を飛んで来る巨大な人影にそれぞれが反応する。けど、その人が乗ってるクジラに私の視線は釘付けである。

 だって、可愛い。何アレ、ぬいぐるみとかクッションにして部屋に置いておきたい。

 

 「クジラ可愛い……」

 

 ラブーンと少し似てる。丸っこくて可愛いなぁ。

 ラブーンよりはでも、随分と小さいから種類が違うのかも?

 いや……待て待て、乗ってるのが大き過ぎてラブーンとの対比が上手くいかないぞ。あの、上にいる人、遠目でよくわかんないけど、白髭さんと同じくらいのサイズじゃない!?

 じゃもーんじゃもーんと歌うように姿を見せたその人に、パッパグとケイミーは震えてるし、多くの人達が大騒ぎしてる。王子達の姿を見た時とは、街の人達の反応が随分違うわね。

 

 「女性が良いですよねー。人魚は」

 「けったいなもじゃもじゃのおっさんだな「失敬だぞお前らァ!!平伏せェ!!」」

 

 パッパグはルフィの頬を引っ張るけど、ほぼ無意味。ブルックの言い分は、物凄くよく分かるわ。

 震えながら私の影に隠れるケイミーが可愛い。そんな事を思っていたら、見覚えのあるサメが姿を見せた。

 

 「おいメガロ。この者で間違い無いんじゃもんな?」

 「あれ?あのサメ、海中で見たわよね」

 「おい!!〝麦藁〟の人間達っ!お主らを竜宮城へ招待するんじゃもん!!」

 

 その為にサメに乗るよう言われるけど、荷物もあるしサニーもまだ見付けてないわ。そう思って思わずそれを口にしたら、ルフィもそれに頷いてくれる。

 けど、パッパグが荷物は後で全てサニーに届けるから招待に応じろ叫ぶから、どうしようかと皆に視線を向ける。するとルフィが、おじいちゃん人魚に話し掛けた。

 

 「おっさん!そこ行くとなんかあんのか?」

 「宴を開くんじゃもん!!」

 「宴!?よし、行こう!」

 

 それ迄私の意見に賛同してたのに、宴と聞いた瞬間に180度意見を変えてしまうルフィに、横から脇腹を突っついてやる。それにルフィがウォッ!!って猿みたいに鳴くから、名前の通り猿なのねぇと思わず呟いたら頬を抓られてしまった。

 でも、負けないんだから。そう思って脇腹を擽れば、ルフィはワヒャヒャ!!と笑い転げるのに……抓る指は離されない。

 

 「ルフィのふぁーか!!」

 「にししっ!何言ってるのか、わかんねェよ!!」

 「ふぁなふぇー!!(離せー!!)」

 「ナミが先に擽ってきたんだろ!」

 「……ルフィがふぁるいんふぁもん!(ルフィが悪いんだもん!)」

 

 そう言って指先に覇気を纏わせ、擽っていた脇腹を突然抓り上げればルフィの指が私の頬を離れた。私の完全勝利である。

 

 「いってェ!!」

 「私の方が痛かったわよ!!見なさい、私の可愛いほっぺが赤くなってるでしょ!?」

 「ナミは全部可愛いだろ!!」

 「……あ、うん、ありがとう」

 「…………やり過ぎて、悪かった」

 

 謝ってくれたルフィに、私は視線を向けられない。だって、言われ慣れてる筈なのに、可愛いって言われただけで、嬉しくて顔がにやけちゃいそうなんだもん。

 そんな私の頬に優しく触れたルフィが、触れるだけのキスを両頬にしていく。それが擽ったくて、でも、嬉しくて……。

 

 「そろそろ、話を進めさせて欲しいんじゃもん……」

 

 存在を忘れていた人の言葉でハッとしたけど、ルフィは私を強く抱き締めると、小首を傾げる。……いや、可愛いけどさ。

 

 「好きに話進めていいぞ?俺はナミとこうして決まるの待ってるからよ」

 「わ、私達は、でも、関係無いから荷物預かって「友人も構わんじゃもん。荷物を置いたらすぐに行くんじゃもん」」

 「そうと決まれば即動くしかねェな。放置してると、コイツらどっかにしけこむぞ!!」

 

 自国の王とウソップにこう言われては、ケイミーもパッパグも拒否は出来ず、畏れ多くもなんて言いながら荷物を屋敷に運び込んでからの出発となった。サニー号の場所がわかり次第今の荷物を運んで貰えるなら、私としては問題ないのでサメの背中で空中散歩を楽しませて貰う。

 そうして私達はリュウグウ王国一等地〝ギョバリーヒルズ〟を出発したのである。その後はロビン達の行方等について何か知らないかとウソップに聞かれて、素直にあった事を伝えたりしていく。

 その中でこのサメが人魚姫のペットだと聞いて、成程人魚姫は巨大なのかと思った時、本当に情報や知識が失われているのだと痛感させられた。これ迄頼っていた情報や知識が無くなった事が、この先にどう影響するのかと考えたらどうしたって不安になる。

 先に会った王子達が宴への招待をする為だったと聞かされれば、サンジ君を残してきてしまった事に僅かではない罪悪感が芽生える。そんな時、先に招待されている仲間が既に酒を飲み始めてると聞かされれば、意識は自然とそちらに向かう。

 私以外では、酒と聞いて目の色変える仲間はゾロしか居ない。……竜宮城のお酒かぁ。

 魚人島のお酒の中でも、その王宮にあるのだから、どう考えても最高級品だろう。ならばきっと、相当に美味しい筈。

 

 「ゾロだけ狡いわ」

 「ナミ、人間は蜜柑と酒だけでは生きられないんだって知ってるか?」

 

 ウソップからの問い掛けに首を傾げてしまう。なんで、そんな事聞くのかしら?

 そもそもアルコールで体内消毒してる訳でしょ?しかも発酵食品なんだから、身体に良いのは分かりきってるわ。

 そして万能栄誉食品の蜜柑食べてるのよ。他の栄養なんて無くてもカロリーも高いんだから、それなりに生きられる筈よ。

 

 「生きてるじゃない。現に私」

 「空島でそれしか口にしてねェのかよ!?」

 「やだ、冗談よ。冗談」

 

 私1人なら、それだけで生きられると思う。蜜柑って案外栄養素多いし、お酒って発酵食品だから……とは、心中で。

 だって、言ったら怒られそう。とりあえずルフィにくっついて我が身を守ろうと、ルフィの背中に抱き着く。

 その状態で会話をして行くと、その中で皆の事も迎えに行ってるのだと聞かされた。だとするなら、あの時ロビンとフランキーの背を見送らなければ良かったわね……と溜息が出てしまう。

 まぁ、過ぎた事はどうにもならないわよね。気を持ち直して、ルフィの背中から顔を上げる。

 

 「ねー、ところでおじいちゃん「〝海神〟ネプチューン様だ!くらァ!!」」

 

 そう言って頭に噛み付いてくるパッパグだけど、直後に離れてくれたので痛みは感じなかった。でも、案外口が大きいらしい事には驚かされたわね。

 噛まれた事で驚いてルフィから離れたからなのか、ルフィが乗せてくれてる鮫の上をパッパグを連れて移動する。ルフィが傍から離れたら、なんか……寂しい。

 

 「ナミに攻撃すんなよな」

 「今のは蜜柑が悪いだろうが!麦も蜜柑を甘やかすな!」

 「ナミは悪くねェよ。もじゃもじゃのおっさんも怒ってねェじゃんか。……もう、ナミに、攻撃すんなよ?」

 「……わ、わかった」

 

 そんな会話を意識の向こうで聞きながら、私はおじいちゃんに深海なのに魚人島が明るい理由をたずねる。それに気分を害する事なく、おじいちゃんは丁寧に説明してくれた。

 それを聞きながら、この世界の神秘と壮大さに驚かされる。アダムとイヴ……か。

 同じ樹木系である事を考慮しなくても、名前だけでも無関係とは、考えられないわよね。フランキーなら、この関係性を理解できるのかしら。

 そうして話をしてると、ルフィは空腹に耐えかねて早く早くと急かし始めるので、ケイミーと回ってる時に見付けたシーチキンのサンドイッチをルフィに差し出す。とりあえず何か少しでも食べると、多分違うわよね。

 

 「買ったけど、食べ損ねてたの。少しはこれで我慢出来る?」

 「んー。これはこれで嬉しいけどよ、足りねェ」

 「やっぱりそうよね……」

 

 困ったわ。手持ちにあるのは、調味料だけなのよね。

 でもまさか人魚の前で魚撃ち殺して、刺身にしてルフィに渡す訳にはいかない。いくらルフィが好きそうな魚が目の前を泳いでいても、人としてそれは許されないわ。

 

 「でも、ありがとう!」

 「宴までもう少し我慢しててね」

 「ナミも宴では、果物と酒以外も食えよ。ちゃんと大丈夫なの渡すから」

 「ルフィ……」

 「ナミ……」

 

 そのまま見詰め合う私とルフィに、二年離れてた弊害かと肩を落としたウソップ。どうやらサンジ君の為に駆け回った後遺症として、ウソップは疲れが残ってるらしい。

 この宴で少しでも休めると良いんだけど。そう思ってウソップを見ていたら、顎を掴まれて顔の向きを変えられてしまう。

 それに驚いている間に重ねられた唇。抵抗するには場所が無いし、受け入れるには恥ずかしくて……。

 ルフィはそんな私の腰と後頭部をしっかりと押さえて、深く堪能してからゆっくりと唇が離された。真っ赤になって声も出せずにいる私に、ルフィは明るく笑って言う。

 

 「俺を見てろよ。やっと会えたとこなんだからさ」

 「もう、ルフィのヤキモチ妬き……」

 「おう!俺は俺のものを絶対手放さねェぞ!」

 

 それはきっと、仲間も夢も何もかもを想像しているのだろう。そんなルフィが眩しくて、そして誇らしい。

 そのままルフィを見詰めていた私に、到着を報せる声がかけられて、サメから下りる。すると目の前には有名な歌にあるように、絵にも描けないような美しい光景が広がっていた。

 ルフィもカッコイイと喜び、ブルックがパッパグの家と比べて叱られている。そんな中で私は、何処を見たらいいのかも分からない勢いで辺りを見渡していた。

 

 「キレーなお城~!!」

 

 そうして竜宮城の正面玄関を入った所で、ゆるりとしていけと言われた私達は、その直後におじいちゃんが叱られているのを眺めてる間にルフィを見失った。まぁ、相手はルフィだものね。

 それで話が終われば良かったんだけど、問題はゾロの姿が見当たらない事にある。先に来てるって……言ってたわよね?

 嫌な予感がしたその直後、未来でこの島を滅ぼす可能性が高いからと、ルフィ不在のままに攻撃の矛先が向けられてしまう。でも、そんな意味のわからない理由で捕まってたまるもんですか!!

 クリマタクトを取り出して、短剣は可能なら使いたくなくて背中に移動させてから構える。クルクルとクリマタクトを回転させながら、他の部分のクリマタクトも合体させつつ、襲い来る兵士達を撃退して行く。

 ケイミーとパッパグを守りながら戦う私と、背中合わせに戦うウソップとブルック。2人が声高に捕まるつもりは無いと宣言するそれが、強くなった事を教えてくれる。

 二年前なら、逃げるか降参してただろう。実際スリラーバークでは、私とウソップは逃げ回るしか出来ていなかった。

 ここに居る兵士達は、正直簡単に倒せるけど、巨大なおじいちゃんだけは簡単にはいかない。けれども向けられた三又の槍が、容赦無く私達を襲う。

 それに合わせて私とブルックが対応しようと構えた時、その間に割り込み庇ってくれたのはゾロだった。捕まっていると聞いていたゾロは、けれども戦いの音(祭囃子)が聞こえた事で牢破りをして来たらしい。

 そんなゾロに、私達はつい喜んでしまう。とりあえず致命傷を与えずに戦闘不能にして、タイミングを見て逃げるのがベストだろうと考えていたからだ。

 ゾロがいればそれも容易いと判断した私達は、程々に撃退しようと再び臨戦態勢に入った。けど……大臣らしき人物が〝必ず仕留めろ〟と言っていた事が理由なのか、ゾロは止まる気配を見せない。

 私は戦いながら、現状分かってる事をゾロに伝えて、クリマタクトを振り回しつつ心からの言葉を呟く。果実酒系なのか、芋や米なのか……どれにしても最高級品だろうと思うのに……!!

 

 「竜宮城のお酒、楽しみにしてたのに。お酒、タダじゃないのよ。タダ呑み出来るチャンスだったのに」

 「あァ……美味かったぞ」

 「やっぱり、ゾロだけ狡いわ。ずる~い!!」

 「相手は人間!!シャボンを破壊すれば奴等に勝ち目は無い!!シャボンを全員でついて破壊せよ!!」

 

 ゾロに蹴りを入れると同時に、そんな言葉が聞こえて来た。なので私は、先程戦いながら見付けていた巨大なバブリー珊瑚の元へ向かう。

 ゾロも居るなら、私が無理に戦う理由は無いわよね。寧ろゾロがいれば、私も含めて他には誰も必要無いわ。

 そしてそのバブリー珊瑚で、槍を構える多くの兵士達をも包み城内の水を勢い良く抜き去ってしまう。そうなればもう、私達に負けはない。

 

 「えへへ、こんなに大きなバブリー珊瑚、見つけちゃった」

 「な、なんと……!!水の中に入れるつもりが、逆に水を抜かれてしまうとは……!!」

 

 そう言って嘆く声を聞き流して戦い始めれば、それはもう本当に僅かな時間が経過した後に結果が出てしまっていた。その事にウソップとブルックは怒りの声をあげて、ケイミーとパッパグは怯えを隠さない。

 ゾロだけが開き直り、私は呆れてしまう。私はただ平和に、観光とショッピングを楽しんでただけなのになぁ。

 

 「やっちまったモンはしょうがねェじゃねェか!!ガタガタ言うな!!」

 「しょうがねェで済むか!!魚人島に立ち寄って、うっかり〝竜宮城を占拠〟って!!どんな極悪海賊だよ!!」

 「こんなだよ!!じゃあ、やられれば良かったのか!?」

 「頃合で逃げようって、何度も言ったろ、俺は!!」

 「逃げ方が分からねェ上に、ルフィがいねェじゃねェか!!」

 「そうなんだよ。ルフィがいねェんだよ!!あいつ、どこ行った!?」

 

 そんな風に喧嘩してるのか何なのかよく分からない二人を横目に、やっぱりお酒見当たらないなぁと思う。うん、こうなったら仕方ないわね。

 私は腹を括って、近くにいた兵士の元へ足を進める。今、私にできる事はひとつだけだもの。

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