さて、この先足がないけど、どうするか。砂漠で全力疾走とかキツいじゃ済まないもの。
そう思った時、私達の目の前に現れたのはユバに向かう時には姿を消していたカルーで……。そうか、あの時私がマルコさんやチョッパーとやり取りしてる間に、ビビはカルーを別行動させてたんだ。
本当に……導かれてるとしか思えないわ。有難いとホッと息を吐き出して、作戦をたてる。
移動手段が手に入ったならば、立てられる作戦は幾つかあるもの。でも、今この場で最善であり最重要なのは……最弱でありキーマンでもあるビビを、どうやって反乱軍と無事に会わせるか。
倒して来た敵を考えればまだ出会ってない敵は、自ずと見えて来る。Mr.2だけがオカマであるが故に1人で、他は2人1組。
Mr.3のペアは終わってる事を考えれば残るはMr.1、Mr.2、Mr.4となる。ビビを除けば、人数がキッチリ同数になるわね。
「ビビはカルーとここに残って」
「ナミさん!?」
「ビビ、聞いて。反乱軍を止められるのは、ビビしか居ないの。敵の残りの数は私達と同じ。なら、1人が1人を倒せばいい。無理な作戦じゃないのよ」
ビビは嫌がるように私に飛び付いて体を震わせるけど、今は〝可愛いビビ〟ではなくて〝王女ビビ〟に戻って貰う必要がある。だから私はビビの肩を掴んで、その顔を真っ直ぐに見据える。
「ビビは、王女でしょう。私の作戦を最後まで聞いて」
「……ナミ、さんっ」
泣き出すのを堪えるように震えるビビに、私はふっと笑う。可愛いこの子を、守りたい。
「私達はくじ引きで2人ずつに別れて行動する。敵も2人1組だから、運が悪くなければ、全員1対1の戦いをすればすむわ」
私の言葉に全員が頷いてくれる。だから私は頷いてから言葉を続ける。
「その時全員がビビに成りすまして進む。そうすればその中にビビが居ないとは誰も思わないわ。そうして私達が敵を引き付けてる間にビビは反乱軍と正面から会う。この作戦ならば、BWに邪魔されないで目的を達成出来る」
全員が決意を持って頷く。この時皆の心は1つだった。
その後、厳選なるくじ引きの結果、マツゲとウソップ、サンジ君とチョッパー、そしてゾロと私という組み合わせに決まった。もし、2人組の所とオカマがぶつかったら、ウソップの所へ片方が加勢に行く事で話は決まり、全員が超カルガモ隊に乗る。
これから、最終総力戦が始まる。
細かい打ち合わせを終えて、私達は超カルガモ隊の力を借りる形で駆け抜ける。そこに敵からボールが投げられると、ゾロの1声でそのボールから離れた面々は、予定通りに動き出す。
最初に抜けたのはサンジ君とチョッパー。それを追って2人が姿を消したのを見て、ウソップが攻撃をしながら意識を逸らす。
逸らしてもらった意識の合間を縫うようにして、私はゾロと西ゲートに向かう。その背後からは、やはり2人が追ってきた。
ここまでは計画通りに進んでる。後はウソップとマツゲが、成功する事を祈って駆け抜けるしか無い。
ある程度進んだ所で私が止まるようにと声をかければ、ゾロは少し慌てながらも超カルガモ部隊を止めた。どうやらゾロはあまり操縦が得意じゃないらしい。
さて、そろそろ良いわよね。私は挑発するように、追いかけて来た2人に声をかける。
「あなた達勘が良いわ。そう!私こそがビビ王女」
「何言ってやが……言ってるの?私が真のビビだわよ!」
慌てて噛んだ上に、言葉自体が妙な事になってるけど、ゾロの努力は認めたいと思う。そして、ビビのフリをする事に明らかに失敗したゾロとタイミングを合わせてフードを外し、笑う。
「「残念。ハズレ」」
言いながら前に歩み出たゾロを尻目に、私はカルガモ部隊達と仲良く数歩後ろに下がる。この子達巻き込むのは嫌だもの。
「さぁゾロ!やっておしまい!」
ゾロはこんな時でも律儀に振り向いて怒ってみせるけど、敵さんは少し疲れたように、けれども苛立った様子でこちらを見る。そうして私達の戦いの火蓋は切って落とされた。
この場で私がじっとしていて、2対2で戦った場合……私はゾロを盾に使わなければならなくなるし、明らかに遠距離戦と分かれば私が敵なら私を狙うわ。そうなれば当然、ゾロへのリスクは跳ね上がる。
ならば、片方ずつ互いに対応するのが上策。体力を消耗しない程度の速度で駆け出す私の後を追ってくる気配に、予定通りと思ってどちらが来てるのかなと振り向き……あれ?
なんで、両方!?ゾロは何してるの!?
おかしい。流石にこれは不味いわ。
どうにかならないかと走り回りながら様子を見ているけど、解決案は浮かばない。よりにもよって1番強い奴だなんて、酷いと思うのよ。
まさかビビを最弱とか言ったから、バチが当たったの!?
でも、この1味の中ではどうしたってビビは1番弱いと思うのよ。そんな子が……1人でこの国の闇を暴こうとしてた。
……今回は、クロコダイルに作戦を口に出して伝えてないから、もしかしたら上手くいくかも知れない。ビビにコーザが気が付くかもしれない。
そうしたら、後はコイツらを倒せば爆弾の処理するだけで全員助かる。ビビに、何も喪わせずにすむのよ……!
脳裏にイガラムさんの爆発が思い浮かぶ。あの時のビビの姿が、同時に浮かぶ。
もう……あんな想い、させたくない。傷付けたくないし、苦しませたくないのよ。
考え事をしていたからか、裾を踏んで転びかけた時私と敵の間にゾロが入り込んで、まるで当然のように庇ってくれる。それにも関わらず、斬撃は飛び距離のある所にある筈の石を斬る。
理屈としては鎌鼬が起きる速度であれば、近い事は可能なはずだけど、人間の腕力で鎌鼬を起こす事の出来る速度で物を動かすのはほぼ不可能。更には鎌鼬をどう発生させるかを選んでとか言うのは不可能と言うのが、地球での研究結果。
そういう意味では流石は悪魔の実が普通に存在する異世界よねと感心しつつ、満足気に笑いながら私を背にして敵と対峙するゾロを見て溜息が出る。でも、ゾロがこちらさんと戦ってくれるなら、予定通り私の敵は女と言う事になる。
「ゾロ、任せたわよ」
「何かあれば叫べ。助けに行く」
「……それなら、死んでも叫ばないわ」
「ナミ!」
「後で会いましょ」
ゾロの言葉を軽くかわして私は駆け出す。斬撃の飛び交う中では、私の戦い方では邪魔になる。
雷落としたら、ゾロまで巻き込むし。……それにしても、この状況で私を助けに来ようとするとか……ゾロは私を甘やかし過ぎだと思うのよ。
ルフィなら間違いなくそいつ任せた!で、終わりよ?
ある程度の距離離れたのを確認して、私は立ち止まる。それに合わせて、相手も足を止めたのが分かる。
「あら、鬼ごっこはもうお終い?」
「えぇ、ここまで離れれば私もゾロを巻き込まないで済むし、私もあの斬撃に巻き込まれないで済むわ」
「……確かに、あの斬撃に巻き込まれるのは、嫌ね」
「……相棒に、苦労させられてるのね」
「お互い様じゃない?」
同時にふふふと笑うけど、どちらも決して雑談して微笑んでる訳では無い。互いに互いの動きを牽制してるだけ。
「ボスの情報網から逃げてた子猫って、貴方よね?可能なら生け捕りにしろって言われてるけど……お嬢ちゃんになんの価値があるのかしら?」
「……サー・クロコダイルは私を求めてる別な男に、私を売り飛ばしたいだけよ。悪趣味よね」
「ボスの正体を知ってるだなんて……イケナイ子ね」
その時辺りから聞こえてくる音から判断して、反乱軍を入口で止めることは失敗したらしいと分かる。ならば、ビビは無事なの?
皆は……どうなってるの?
……だめよ。今は目の前の敵に集中しないと。
女は武器を何も手にしていない。となれば、相手は明らかなる能力者。
私はクリマタクトを取り出して、構える。小さく深呼吸すれば頭が冴えてくる。
確実に、倒す……!
「無駄よ、お嬢ちゃん。どんなに睨んでも、勝ち目は無いわ」
余裕を見せて笑う女は、確かダブルフィンガー。どんな能力だったかしら?
あれは確か……そうだ、岩を貫けるようなトゲを自在に出せる棘人間。建物の壁を平気で貫ける棘だった筈。
文字通り穴だらけにされかねない相手。でも、負ける気はしない。
「貴方、まさか本気で私と戦う気?」
「そうよ。その為に武器もあるし、ゾロと離れたんだもの」
クールボールで空気密度を変えて、ミラージュテンポを発生させる。姿の見えなくなった私に焦る女だけど、私はその隙に場を整えて行く。
幻で私を大量発生させて、更なる混乱を生じさせれば忌々しそうに、本物がどれかも分からないままに攻撃を開始する。……実はこれ、冷静に判断されると影で居場所分かるのよね。
室内ならまだしも、ここは日を遮ることの出来ない外だもの。能力者だと勘違いしてくれてるのと、小娘だと油断してるから起きてる奇跡の現象。
「ダブルスティンガー」
「きゃぁー!」
なぁんて、悲鳴を上げてみるけど狙われたのは数ある幻の1つ。どうやら音で私の居場所を判断する事も出来ないくらい、動揺してくれてるらしい。
「逃げ回る意味は無いんじゃない?勝ち目は無いのよ。じっとしてたら、歩けなくするだけで生かして連れて行ってあげるわよ」
「それなら殺される方がマシよ。どっちに売られる事になっても、私が愛してる男じゃないもの。……私に触れていいのは、未来の海賊王だけなのよ」
「……呆れた。女海賊が、何を夢見てるのよ。弱い女海賊に待ってるのは、凌辱か死のみ」
そう言って全ての幻を同時に攻撃して来ようとするかのように、全身を棘にしてボールのように転がる女。咄嗟にそれを避けながら思う。
……分かってるわよ。アーロンは種族の違いとか、下等生物だからとか、そんな理由で手を出されないで済んだだけだもの。
弱いから、奪われた。それでも七武海の2人は〝私〟という個人を尊重する事を辞めないでいてくれたから、私はルフィ達と合流して、助けて貰う事が出来たに過ぎない。
全ては私が……弱かったから起きた事。まぁ、サンジ君との事は、どう表現したら良いのか分からないけどね。
この女性も、過去に何かあったのだろうか。そう思わされるような瞳をしている。
でもね、どんな過去があっても……ビビを泣かせる奴は許さないって決めてるの。確実に倒して、ビビを安全に暮らせるようにすると……誓ったのよ!
狭いところへ逃げ込んだ方がこの場合は良いと判断して、私は建物内に逃げ込む。追いかけて来た女に着ていたものをヒラリと掛けてやれば棘に刺さり、視界を奪われて身動きが取れなくなる。
その隙に建物から逃げ出して、邪魔でしかないスカートの裾を引裂く。呼吸を整えて、建物から私を追って飛び出して来た女に視線を向ける。
最近はルフィ達が居たから、随分楽させて貰ってたけど……私は10年、1人で戦って来た。シャンクス達に修行を付けてもらってた間は確かに、シャンクス達に守られてきたけど、その後はずっと……常に1人だった。
戦う事も、逃げる事も、私は嫌という程経験して来た。誰にも怪我をさせたくないと思っているから、なかなか戦わないけど……私は〝守る〟と決めたから。
大切なものを失わない為なら、私は修羅に堕ちようとも構わない。何も失わずに、何も喪わない結果を得ようなんてそんな夢みたいな事、考えてもいないわ。
これ迄はずっと……どんな死線も1人で戦うしかなかったから、1人で乗り越えるしか無かったから、だから私はこういう時にどうすれば良いのかは分かってる。負けるつもりは無いのよ。