※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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過去の事

 私はルフィが姿を消してからの事を、簡単に纏めて説明した。それにルフィは納得した様子を見せるけど、そんなに簡単に納得しちゃっていいの?

 でも、理解はしても納得はできないのか、ジンベエは動揺する。その様子を見て、私は力が抜けてしまいそうになるけど、今はそれじゃダメよね。

 ふと視線を向ければ大怪我してるハチがいて、明らかについ最近出来たであろうその傷に、眉間に皺がよるのを自覚した。そんな私に気付かないで、ケイミーは心配してるのを隠さずにハチの元へとかけていく。

 ……ハチ、鈍いわね。どうして、あれで付き合ってないのかしら?

 そのまま話を進めると、流石のルフィも焦ったような顔になる。私が平然としてる分、2人の反応が妙に大きく見えてしまう。

 

 「何と、竜宮城がそんな大変な事態になっておったとは!!」

 「ゾロ達は、じゃあどうなったんだ!?」

 

 ジンベエとルフィが口々にそう言うから、私は細く息を吐き出してから首を横に振った。嘘は言えないし、気休めは必要なないもの。

 仲間達を信じてるし、心配した所で、その心配が当たった試しなんて無いんだから。だから、私は真実だけを伝える。

 

 「わかんない。ルフィに会えたら戻ろうと思って「お父様が捕まったなんて、そんな事信じられません!」」

 「はっちん、1体何があったの!?」

 

 重なる二人の悲鳴のような声で、私の言葉が消える。これはなんと言うか……なんて思った時、ジンベエの声が響いた。

 腹筋があるからとか、そんな事だけでは無いだろう。気迫のようなものが、否応なしに感じ取れるけど……私は軋む心により呼吸するのが精一杯。

 アーロンの1味がしていた〝暴走〟を止めたであろうルフィに礼を告げるそれは、私が聞きたかったこの島に今起きている事の真相が隠れていると分かる。竜宮城に送り込まれて、襲いかかって来た〝人間〟の海賊達の存在。

 そして、その後に攻めてきた〝新〟魚人海賊団の思想と、ハチの現状。その頭目と戦うなと言ったジンベエ。

 魚人島に来てる海賊が居なかった事、そして通常ならば海賊で溢れ返っていた筈である事を計算に入れた上で、新魚人海賊団が私達にやったような事を他の海賊団にしていたと仮定する。そうなるとそれをされて、抗う事が出来る人間がいるのかと言う問題が出て来るわ。

 深海でコーティング船を壊されては、人間に生きるすべは無い。つまりは後に逃げ出す海賊がいたとしても、それは少数だろう事は容易に想像出来る。

 そうなれば人間の海賊が来なくなってる期間と通常居る筈の海賊の人数を計算した上で、逃げ出したであろう人数を差し引いたとしても大した人数にはならないと分かる。ならば、少なく見積っても3~5万人の海賊が、新魚人海賊団に使われているわね。

 もしもルフィが戦う事を選択するなら、それらは全て敵となり、その他に魚人海賊団が敵になる。この魚人島には、ハチが1度も勝てなかったと言っていた剣士もいる筈よね。

 それも恐らくは敵となるだろう。だとするなら……厄介な事この上ないわ。

 この事件の根底は、大きくて根深い。私の故郷の話を抜きにしても……。

 ジンベエが感謝と謝罪をするのを聞いていたら、続いた言葉に私は足元が突然崩れたようなそんな恐怖に近いものを感じる。血の気が引くのが自分でわかってしまう。

 

 「11年前……アーロンの奴を〝東の海〟へ解き放った張本人は……わしなんじゃ!!」

 「……っ!!ジンベエ、さん、その話を聞く前に……私もあなたに話があります」

 「ナミ?」

 

 不思議そうにルフィが私を呼ぶ。だからこそ、伝えなきゃいけない。

 アーロンに関する話を、私は恐らくは全て知ってる。そしてもし、知らない話が混ざっていても、それを聞いた後ではこの言葉を告げる事ができないだろうと分かるから……。

 

 「戦争の時、ルフィを助けて下さった事、本当にありがとうございました。その際私の事もご心配頂いたそうで……重ねて、感謝致します」

 「ナミさん!!コイツは……!!」

 

 頭を下げる私の肩を掴んだサンジ君に、顔を上げて笑いかける。憎しみは憎しみと悲しみ、そして怨みしか生まない。

 過去は変えられないし、喪った人も帰らない。なら、せめて私は今を生きなければ。

 

 「それとこれとは話が別よ、サンジ君。……でも、ありがとう。サンジ君は優しいから、怒ってくれるのね」

 「そんなもん、当然ですよ!!マリモだって、ウソップだって、俺と同じ事を言うに決まってます。マリモなら問答無用で斬りかかってたかも知れね「そうね。ウソップはブルックが分からずに言った軽口も許さなかったから、きっとそうなってたと思うわ」」

 

 私は今、ちゃんと笑えてるかな。震えずに立っているのかが、自分では分からないの。

 それでも今、サンジ君が言葉の刃でこの人を傷付けても何も解決しない。色々落ち着いてから、それにより傷付くのはサンジ君の方だと分かるから……だから私のはサンジ君の言葉を止めたいの。

 

 「ナミさん、じゃったな。ルフィ君から話は聞いとる。あの戦場で即座に言葉に従えなかった事が多くの犠牲を……1番出しちゃならんかった形で犠牲を生んだ!!謝っても謝りきれん!!」

 「エース救出にその命をかけて下さった事、エースの姉として、お礼を言わせて下さい。誠にありがとうございました。感謝こそすれ、謝罪を受ける権利等私には御座いません」

 「これ……エースが聞いたら怒り狂いそうだよな。まァ、ナミにはいくら言っても無駄だろうけどよ」

 

 ルフィの謎の言動に首を傾げるけど、ジンベエさんはそれどころでは無いらしい。うん、歳上だし、ジンベエさんって呼ぶのが正しいわよね。

 

 「ナミさんの事は……ルフィ君から聞いた他〝冥王〟レイリーからも聞いとる。ルフィ君とエースさんの大切な人じゃ……と」

 「家族ですから」

 

 そう言った時、私は自分でも驚くくらい穏やかな声が出ていた。同時に零れた笑顔は、きっと明るいものだろうと分かる。

 私は、生意気で悪戯っ子で、ヤンチャで無鉄砲で、考え無しで……なのに強さばっかりあるから人の話を全然聞かない。そんな問題だらけの三兄弟が、愛しくてたまらないのだ。

 きっともしも本当に悪い所だけしかないのなら、私は三人をこんなにも愛せなかった。傷付いた心を抱えても、苦しい環境の中にいても、彼等は真っ直ぐに生き抜いていたから、その温かな心と強さを守りたかったんだと思う。

 三人のその輝きが眩しかったの。その煌めきが愛しかったのよ。

 

 「大切で、愛しい弟達なんです。助けようと尽力してくれた事に、心から感謝しています」

 

 その時空気を変える為か、サンジ君が皆に飲物を配ってくれる。それを手にしてお礼を言うと、サンジ君が私を庇うように前に立った。

 その様子は、直前迄のメロリンモードとは別人にしか思えない程。そう言えば、人魚姫に出した巨大なカップは何処で仕入れたのかしら?

 

 「昔……俺とルフィが初めて〝七武海〟のジンベエって名前を聞いた時も、ヨサクの野郎にそう説明された。ジンベエは〝七武海〟加入と引き換えに、とんでもねェ奴を東の海に解き放ったってな……!」

 

 その時ルフィがそっと私の所に移動してきたから、飲物を飲みたいのかとカップを差し出した。それを無言で受け取ったルフィが1口それを口に含んだ時、サンジ君がルフィを睨み付ける。

 ……そんな、紅茶あげただけで殺気立たなくても。それとも、ルフィは私の知らない間に何かしたのかしら?

 

 「お前の事だ……忘れてたんだろ!」

 「……あ~……そうだったかなー……。ヨサク、元気かなー!」

 

 言われても思い出せなかったらしい。……そう言えば、あの二人どうしてるのかしら?

 あの時は、何もしてない私をナミの姉貴と呼んで、皆を抑え込んでくれてた。だからこそ、皆が死ななくて済んだのよね。

 サンジ君が疑問だらけだったとルフィに言ってもルフィは特に反応もなく、紅茶を飲みきる。どうやらルフィは、喉が渇いてたらしい。

 

 「おい、ジンベエ……。何か言い訳してェってんなら聞くが、言葉にゃ気を付けろよ……!!」

 

 サンジ君が殺気立つ。それにより全員が声もなくサンジ君に意識を向けるけど、私はサンジ君が続けるだろう言葉がわかってしまって、少しではなく落ち込んでしまう。

 

 「何を隠そう。ここにいる麗しき航海士ナミさんの故郷こそ、アーロンに支配された島。彼女自身、耐え難い苦渋を舐めて来た代表だ……!!」

 

 その瞬間、分かりやすくその場の空気が凍り付いた。事前に何となく聞いていたチョッパーやフランキーはともかく、人魚姫も、ケイミーも、当然ジンベエさんも息を飲む。

 ハチは強くその眼を閉じて、痛みに耐えるような顔をする。ルフィは私に心配そうな視線を向けて、それからジンベエさんに視線を向けた。

 

 「話次第じゃお前を……俺は、許さねェ!!」

 「……本当だ、ジンベエさん。俺達はナミには特に……謝っても許されねェ程の、傷を与えてる」

 

 その瞬間思い出すのは、過去の事。あの頃は苦しいとさえ思わなかったのに、今にしてみれば……過去が痛い。

 あの頃は、ただ、大切な人を守りたくて……我武者羅に足掻いていたから、痛みに気付けなかった。でも、今は多くの事を知り、考えるだけの余裕が出来て……あの頃の事が……今更、苦しい。

 

 「……ナミ。俺がいる」

 「るふぃ……」

 

 私は今、どんな顔をしてるんだろう。情けない顔、して無ければいい。

 支えるように腕を背中に回してくれるそれに、縋り付きたくなるけど、駄目なのよ。何時までも、ルフィに頼ってなんていられないわ。

 でも、脳裏には笑うベルメールさんの元に、蜜柑を手に駆けていく幼い私とノジコがいる。幼い私がノジコと蜜柑の活用法を話してた時の、楽しい記憶。

 

 『この蜜柑の皮が大切なのよ!』

 『実の方が美味しいから重要よ?』

 『確かに味は大切だから、品種を改良するのは大切よ。大切に育てて、手入れしてあげて……そうやって育てるのが大切なのは変わらないわ』

 『ナミって、蜜柑が本当に好きよね』

 

 何処か呆れたような感じで、ノジコが言う。そこに姿を見せたベルメールさんが笑いながら歩み寄って来た。

 

 『うん!大好き!あ!ベルメールさん、見てみて!綺麗な蜜柑だよ!』

 『うん、本当にね。つまり、私の育て方が良かったのよね!』

 『こら!!メインで育ててる私が1番偉いに決まってるじゃない!』

 

 冗談めかして威張って見せたノジコにベルメールさんが突っ込むけど、そんなベルメールさんの言葉にノジコが違うと思う……なんて突っ込み返す。それにより私は、幸せ過ぎる夢のような時間のそれに、大声で笑っていた。

 けれどそれは長くなんて続かなかった。私がアーロンに負けて、皆がアーロンの元で奴隷として過ごして……。

 私は基本的にアーロンの傍らにあり、嘲笑と侮蔑の視線と声だけが向けられる日々が始まった。それでも、皆が無事に生きてるなら、それだけで良かったの。

 海賊相手に盗み、命を狙われ、駆け回る。そうして結局、アーロンの元へと海図を描きに行くのだ。

 

 『おお……よく帰ったなァ……。……帰るしかねェか……。お帰り。……我が測量士。シャハハハハハハハ』

 『契約期間中だけの話でしょ。気安く触らないで』

 

 泣くな……!私に、泣く権利はない。

 助けを求めるな。それは皆の、死を意味してる。

 そう、何度も自分に言い聞かせて、1人になってからも泣くのを耐えようとしてた幼い自分を思い出すの。その時、ジンベエさんが淡々とした声で言った。

 

 「……随分、酷い目に合わされたようじゃな」

 「何を貴様、他人事のようにィ!!」

 

 怒るサンジ君を眺めて、私は思わず手でそれを制していた。何か思う所があり、言うなら、それは私が自分の意思で、自分の言葉で伝えなければいけないと思うから。

 

 「……魚人島の人達も、随分、酷い目に合わされたみたいね」

 

 私の言葉に息を飲むジンベエさんに、薄く笑う。どうやら、嫌味が通じたらしい。

 

 「……今、ジンベエさんが思った事と同じ事を、私も思ったのよ。言われて、嬉しいでしょ」

 「……ナミ、さん……?」

 

 サンジ君が驚いた様子で呼び掛けてくる。でもね、この世には、言っていい事といけない言葉があるのよ。

 

 「先に言ったのだから、言われて嬉しい言葉を、私に向けてくれたのよね。違うなら……相当幼稚よ?」

 

 何も言えずに動きを止めてるジンベエさんに、クスッと笑ってしまう。まぁ本当は、他に言葉が見つからなかっただけなのは理解してるから。

 だから私は、直後に意識を嫌味なそれから、真面目な話をする為のそれに切り替える。別にいじめたい訳でも無いもの。

 

 「私がアーロンにより、どんな目にあっていたのだとしても、その事を貴方は本当の意味で知る事は出来ないし、逆もまた然り。今更何も変えられないし、きっと私は過去に戻れても同じ事を選択するわ。だから、アーロンを不憫だと思う事は無い」

 

 私はこれ迄の生き方に、何1つ後悔はない。何1つ恥じる事はないのよ。

 誰に蔑まれても構わない。怨まれて、憎まれて、それで殺されたとしても……生き方を変えれば良かったなんて思えないの。

 

 「知ってたもの。アーロンが何故人間を憎むのか。魚人が迫害を受ける存在だって事。……でも、ケイミーが人攫いに捕まって、漸く私はそれを実感したの」

 「ニュ~……」

 

 そこからはハチが語る。人に憧れていた事を、そして、人に絶望的したのだと言う事を。

 それを聞きながら、ルフィは私が渡した紅茶を飲んで静かにしている。私はハチのそれに小さく頷いた。

 だってね、本当に全部知ってるから。それでも、反省してるハチには悪いけど、私はそれを許しちゃいけないの。

 

 「フィッシャー・タイガーの事も含めて、私はちゃんとわかってるわ。でも、そうね……人魚姫の事もあるし、ケイミーには知る権利がある。……そろそろ、説明してあげてくれる?」

 「知っとる!?アーロンが、タイの兄貴の事を話したのか!?」

 「ニュー……アーロンさんは、ナミにぞっこんだったから……」

 「ハチ……俺はそれ、許さねェぞ。ナミを泣かせた事は、許す気ねェからな」

 

 ルフィの低い声が、私の言葉より先にハチの発言を止める。アーロンが私にどんな感情を抱いてたのかは、もうどうでもいいと思ってる私のとは違って、ルフィは現在進行形で許してないらしい。

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