私が1人、脳内お花畑をやってる間に、ジンベエちゃんとルフィは臨戦態勢を整えてしまう。それにハッとして慌ててルフィを呼ぶけど、もう手遅れな気がしなくもない。
「……共に戦った仲だと、油断したわい……。そういやお前さん……
「ルフィ……!!ジンベエ!!ちょっと待ってよ。何言ってんのあんた達!!」
今は親しみ込めてとか言ってる場合じゃ無い。とにかく止めなきゃ!!
そう思うのに、ルフィもジンベエちゃんも止まる気が無さそうだ。どうして二人共、人の話を聞かないのよ!!
「俺は竜宮城に行って、仲間助けて、ホーディってのブッ飛ばすんだ!!」
「それを待てと言うとるんじゃ!!」
「コラコラ、何でケンカが始まるんだ」
「やめろよ、お前らー!!」
サンジ君とチョッパーも止めようとしてくれるけど、全てを無視して竜宮城まで行こうとするルフィを見たジンベエちゃんがルフィに攻撃を仕掛けて、そのまま戦闘に入ってしまう。魚人空手はちゃんとしたものなら、ゴムにもダメージを与えられるのだ。
吹き飛ばされるルフィを見て、慌てて駆け寄ろうとする。そんな私にルフィは視線さえ向けずに命じるから、私は途中で足を止めるしかなくなってしまった。
「ルフィ!!」
「ナミ!下がってろ!手ェ出すな!!〝ゴムゴムのJETスタンプ〟!!」
「修行の成果は、こんなモノか!?」
「やめて~!!」
「そこまでよ」
私の叫びに呼応するように姿を見せたのは、ロビンだった。けれども戦う二人の間に姿を見せれば、二人はもう止まれない。
慌ててロビンの元へと駆け出そうとした私の肩を掴んで後ろに引いたその腕は、サンジ君のもの。私が驚きバランスを崩したその隙に、サンジ君が代わりにロビンへと向かい駆け出した。
「ロビン!サンジ君!!」
「おい!!そこ退けロビン!!」
「誰じゃ!!退けい!」
「ロビンちゃんが危ねェ~!!」
ロビンにサンジ君が飛びつこうとした瞬間に、消えたその姿。その結果サンジ君を媒介としてルフィとジンベエちゃんが互いに防御も出来ずに殴り合う形となり、挟まれたサンジ君もズタボロである。
男達はそれぞれが怪我をしていて、明らかにダメージを受けてるけど、今はそんなのどうでもいいわ!ロビンは、ロビンは無事なの!?
「ロビン!?無事!?」
思わず叫んだ私にクスクスと笑って頷きながら、ロビンは森の奥から姿を見せる。どうやら先程のそれは、分身だったらしい。
無事で、良かったわ。そう思って私は、迷い無くロビンに駆け寄り飛び付いた。
「フフ……事情は分からないけど、味方なんでしょ?喧嘩は駄目よ」
「ロビン!!無事で良かった!」
「心配掛けちゃったわね。もう、大丈夫だから……ナミ?」
「なぁに?」
抱き着いていた私の頭を優しく撫でてくれていたのに、突然低く、険悪になるその声。何が、ロビンの怒りの琴線に触れたんだろう。
言われてたのに、上着を着てないからかな?
「誰に、泣かされたの?……大丈夫よ、綺麗に始末してあげるから」
「ロビン?」
「涙の……跡があるわ」
そう言ってロビンは私を抱き締めると、顎に指を置いて強制的に首の角度を変えて覗き込んでくる。眼福だけど、お願い聞いて、私の勝手に泣いただけです。
想定外の怒りの理由に、対応が遅れてしまう。ロビンって、本当に般若の面が似合いそうよね。
その間にもルフィとジンベエちゃんが言い争いをしていて、サンジ君がそれに割って入った。そして、ハチの怪我の理由を推察したサンジ君のそれにより、ルフィをヒーローに仕立てる形での救出劇が計画される。
物を盗み出す事が出来そうな人間が居るかとの問い掛けには、迷わず私が挙手をした。念の為ロビンにも協力を頼めば、ロビンも即座に頷いてくれる。
そうしてジンベエちゃんが囮となり捕まり、人魚姫は安全な岩場で待機して他の王族との合流を待つ。ルフィはジンベエちゃんからの助けを求められた時に登場して、王族達を助ける為にメガロの中に隠れていると言う計画。
その間に、天竜人からの書状と鍵を入手するのが私とロビンの役目。フランキーとチョッパーはサニー号を動かして突入して貰い、サンジ君には捕まってる3人を救出後サニーに合流して貰う計画。
ただ、今回は戦いになるのでケイミーにはハチの看病という形で残ってもらう事にした。3人と1緒に居るだろうパッパグには、悪いけど強制的に戦場へご案内だ。
「皆……気を付けてね……」
「大丈夫よ。私達、これで結構強いのよ?」
私が笑えば、ハチもまたケイミーを安心させるように頷く。その怪我では戦いに参加するなんて言える筈も無いから、引き止める側に回ってくれたらしい。
ケイミーを守る為に誰かを待機させるのは、人数的に考えて難しい。ここは魚人島だから、アーロンパークとは違って敵の数だって多い筈だもの。
「ナミは10歳の時に、アーロンさんと同じ位強かった。鍛えて来たんなら、もう俺よりずっと強い……心配いらねェよ!ニュー!!」
「はっちんが、そう言うなら……」
笑って宥めるハチに、ケイミーは暗い顔で頷く。そんなケイミーの頭を撫でながら、私は笑って見せた。
「……ケイミー、ハチの事宜しくね。全部終わったら、今度こそ皆で宴を楽しむ為にも、ちゃんと怪我を治してあげて」
「うん!分かった!待ってるね、皆!!」
「「「「おう!!」」」」
ルフィ、サンジ君、チョッパー、フランキーが声を揃える。それを見て私はロビンと共に移動を開始した。
私とロビンはジンベエちゃん達と共にメガロに乗ったけど、その直前に姿は隠しておいた。しらほしが明らかに風船の囮に捕まり、わざと捕まる予定が普通に捕まってしまった他は予定通りに話が進んで行く。
問題は捕まる予定に無かった、しらほしの存在だけど……。それならそれもまた利用すればいい。
「しらほし、捕まっちゃた事はもうどうにもならないわ。だからね、大切な役割を果たして欲しいの」
「は、はいっ!」
姿が見えないからだろう。少しオドオドしてるけど何とか頷いてくれる。
近くにジンベエちゃんがいるから、もしも声が聞こえてもジンベエちゃんと会話してると思われるので、好都合である。人望のある人だとは言っても、海賊のジンベエちゃんよりも……人気の高い、戦えないお姫様の方が人の心に訴えかけるには都合が良いわ。
「どうしてももう、耐えられないとなったら……ルフィに助けを求めて。それは、しらほしの仕事よ」
「わたくしの……」
「大切な役割よ。……できる?」
「はい、ギリギリまで、耐えて……限界になったら、ルフィ様を呼びます!」
「ありがとう。任せたからね」
そうして移動させられた広場の周りには人集りが出来ていて、王族全員が捕らえられている様子は緊急性の高さを物語る。私とロビンは小声で最終確認をしてから、予定通りの時間は貰えないとわかっていたので大急ぎで行動に移った。
ヒーローになるのは嫌だと言っていたルフィも、肉を貰えるならと、ジンベエちゃんが頼むから協力するんだと言っていた。それにしても……ヒーローに対する謎な偏見が無ければ、本当に正義の味方とか全力でやりそうよねと思う。
でも同時に、そんなものを目指してたら、私は仲間にならなかっただろうとも思えるのよね。誰にでも優しくて、悪を憎んで、弱者を庇い怪我をして……そんなヒーローには、ならないで欲しい。
誰かの為に生きるなんて、元来わがままで自分勝手なルフィには、どうせできやしないのだから。自分の目的の為に進み、途中仲良くなった人達を守る為にその力を使う。
そんな人だから、共に進めるのだと思う。遠く離れてる相手に何かがあった時、心配するとかは良いけど助けに行けなかったと悔やみ涙を流すのは……何かが違う気がするから。
そんな事を考えながら天竜人の書状を入手して戻る途中、大切そうに保管されている薬の存在に気付いた。……麻薬……とは、また少し違う感じがするわね。
幹部と呼ばれる人達が、スナック菓子を食べるかのようにそれを口に運ぶ。……これかな、なんか、コイツらに対して変な感じがしてる理由は。
だとするなら、この薬が後に何かの鍵になる。少し、貰って行く方が良さそうね。
そう思って数粒その薬を貰い、その場を後にする。敵の傍を離れた時にふわりと香った花のそれに、ロビンも成功したのだと気付いて小声で私もそれを伝えた。
「私も終わってるわ。後は戦えるように準備しておかなきゃね」
姿は見えなくても仲間に自分の身体を生やすのは問題なくできるとロビンは言ってたから、多分耳を生やしてると思って言葉を口にすれば花の香りが強くなり、散ったのが分かる。その間にも広場の状況は変わっていて、ズタボロの人間の海賊が3万人と武器の扱いを出来る魚人が7万人姿を見せた。
マダムシャーリーが見た占いの結果を告げた事で、ホーディは怒り狂い攻撃を仕掛けた。そして、アーロンのマークは集める為のシンボルでしかない事を告げる。
……ねぇ、アーロン。ホーディはアーロンの弟かと思ってたけど、違うわね。
あんたの、悪意と憎しみを吸って育った、息子だわ。魚人を、同族を守る為に海賊となったあんたとは随分違う。
この場にいたら聞いていただろう。アーロンは、これを見て嬉しいと思うのかと。
……多分、ホーディを殴り飛ばすだろうな。アレで、魚人島に住む人達が大好きだったから。
愚かしいと言いながら、甘い考えを捨てきれない人達をアーロンは愛していた。戦えない人魚を守る為に、魚人は居るのだと話していたのだから。
長い事共に過ごした。だから、思い出は多い。
「ナミは、人魚みてェだな。人間である事が不思議でならねェ」
「……褒め言葉として、受け取っておくわ」
「あァ、最大級の褒め言葉だ。ナミが……もし、人魚なら……良かったのにな」
「……笑えない冗談ね。私は人間の女よ。ついでに言うなら〝海兵の娘〟よ」
「その生意気な態度も、ナミだから許してるんだぜ?結果を見せてみろ」
何度も似たような会話があった。私が泳いでいた時とか、私が1人でいる時に誰も居ないのを確認してからそんな言葉を口にしてたわね。
ホーディは、アーロンの残した悪の遺物。そして、魚人島に生きる大人達の悪意の塊。
戦場しか知らない子供が当然の事として武器を手にするように、ホーディはこの国の悪意を凝縮して生まれた怪物。悪意と言うものは連鎖し広まり、肥大化して行く。
これはその集大成。……白髭さんも気付けない程自然に溶け込んでしまえるくらい、根深い問題であったという事ね。
私があえて伝えなかったオトヒメ王妃暗殺の犯人は、自らそれを名乗り動けない状態にある王族の心をズタズタに引き裂く。それは、同じく騙されていた多くの魚人島に住む人達にも衝撃を与える。
でも、それを聞かされてもしらほしは涙を流しながら言う。知っていたと。
母との最期の約束。それを守る為に、犯人を伏せていたしらほしを〝愚か〟と呼ぶのは簡単だろう。
でも、実際他に約束を守る手段は無かっただろう。誰がその話を聞いても、怒りや憎しみに囚われ、
死んだ犯人が相手なら風化しても、生きている王国の兵士では……それも犯人を撃ち殺した英雄のような男が犯人では、怒りも憎しみも燃え上がるのは必定。
しらほしの生きる世界は狭かった。家族と兵士の他に誰にも相談できず、家族とや兵士はそれを知れば怒りなんてものではすまない感情を抱くとわかっていたのだ。
……私と違って、愛される事が当然として生きて来たからこそ、そうなれたのね。ただ箱入りのお姫様である為に、選べる選択肢の幅が、しらほしは極端に少なかったのだ。
そして、これ迄の行いを間違いだと責められて、大切な人が目の前で傷付き倒れて行く姿を見る事で、彼女は十分過ぎる罰を受けた。誰にも言わず、準備を進めさせる事も何も対策を立てさせる事も出来なかったそのツケは、彼女自身の心を言葉の刃で傷つけられる事で支払ったと言える。
私はまだ、動けない。ここで動いては、作戦が台無しになるわ。
広場にはルフィを呼ぶ多くの声が響く。……正直、こんな事になるのは、想像してなかった。
その声に押されるようにして、正に愛する父親が処刑されそうとなった時、しらほしは大粒の涙を落としながら〝ルフィに〟助けを求めた。海王類でも、他の魚人でもなく、ルフィに。
それによりメガロから飛び出したルフィがホーディを殴り飛ばしたのは、当然の事。1度懐に入れた相手が、助けを求めた時、それに応えないなんて事はルフィにとって許されない事なのだから。
ギリギリ迄耐えていたしらほしの叫びは、その場に集まっている全ての人達に届いた。吹き飛ばされるホーディを見て、あらあらと思ったけど可哀想とは思えない。
さぁて……戦いが、始まるわね。私はクリマタクトを手に、姿をいつでも見せられるように準備を開始した。