暴れ出したルフィに動揺を隠せない敵。けれど直後に気持ちを持ち直したのか、人数の差が大きすぎる事を上げて騒ぎ出す魚人達。
そんな中でゾロが減らし過ぎだと言ったのに対して、ルフィが悪ィと謝るのを聞けば、懐かしくなる。あの時は、サンジ君だったけど。
『誰がお前の心配したよ。俺の分も残しとけって……』
そんな事、言ってたわね。まるで、あの頃との違いを、成長度合いを思い知る為に仕組まれてるみたいだ……と、少し感じる。
あの頃は、私1人で戦うつもりだったし、誰にも頼れないと思ってた。巻き込む訳にはいかないって。
私1人が耐えれば済むと思ってたし、1人でも勝てると過信してたわ。最悪の時は、私1人が死ねばいいって……。
でも、今回の当事者達は〝巻き込みたくない〟なんて言わなかったし、素直に協力を求めて、共に手を取り合えてる。こうしてみると、私……あの頃はまだまだ子供だったんだなぁ。
「こんな広場の真ん中で……でかい人魚姫を守れるもんなら、守ってみろォ!!〝撃水〟!!」
突然の声に……けど、ルフィが対処するより早くジンベエちゃんが同じ技で打消した。つまり、調整出来るだけの実力差があると言う事。
ジンベエちゃんはホーディ達の力をどうやって手に入れのかは知らんと言ったけど、ならばやはりドーピングって所かな。多分……修行とかで得たのとは違った感じなんだろうとわかる。
自らの力の増幅に、彼等はまだ理解が追い付いていない。自分の実力を理解できていなければ、力加減も出来なければ本来持ち合わせてるその能力を使い切る事も出来はしないわ。
「ゴチャゴチャ言うとらんでかかって来い!!姫の命を取れる時は、わしらを全員倒した時じゃ!!」
……私だけが残ったら、姫の命のが先に尽きる気がするけどね?
心では思うけど、口に出してそんな事は言えなくて、ジンベエちゃんのそれに反応出来ずにいる。するとブルックが、人魚姫を攻撃するなんてと怒り戦い始めた。
その同じ頃、本来なら脅威だろうと思われる相手にゾロが取り囲まれているのが見える。鉄の甲羅を盾として、武器を振りかざす魚人のチーム。
チーム分けてしてるのを見れば、確かに兵士として生きて来た経験が活きてるのだと理解出来る。筋力が人間の十倍ある魚人がそれを用いれば、確かにそれだけで恐ろしい程の驚異となるわ。
でも、それは凡人には……と言う但書きがつく。ゾロ相手に鉄如きでどうにかできると思う事がそもそも間違ってるのよね。
ゾロが新技なのか、何なのか、刀で竜巻を起こすから、物騒ね……とつい見つめてしまう。見た目が派手なそれは、仲間を巻き込む事は無いのかしら?
ゾロが戦い方を教わったのはミホークで、ミホークは単独行動するから誰かを巻き込まない戦い方なんて教えられてない可能性が高い。そう言えば……ミホークの剣術も、ゾロが戦いを教わった道場も近い思想を持ってたわね。
ワノ国と、何か関わりがあるのかな。ワノ国って聞くと、それだけでなんとなく懐かしくなるのは、きっと日本人として生きてた感覚が強いからよね。
その同じ頃、サンジ君は空を飛び、しらほしを守る戦いを開始した。ロビンは巨人と化した己の分身の足で、敵を踏みつけて行く。
フランキーは割愛して、フランキーが作った戦車っぽい物からチョッパーが顔を出せば、恐らく中からウソップが標準を合わせて砲弾の発射をしている。後、現在行方が分からないのはパッパグだけね。
「チョッパー!パッパグはそこにいる?」
「ナミ?俺は司令官だぞ!!」
「ハイハイ。それで司令官、パッパグはそこにいるの?」
「居るぞー!!」
「ん。分かった!!」
居るならいいのよ。それだけで。
フランキーの作った物の中にいるなら、問題は無いわね。そう思って眺めていたら、見覚えのある相手が姿を見せた。
戦う事を、奴隷なのだからと言って命じるホーディに、その相手は怯えを見せる。それでもその存在そのものが魚人達から見れば、既に脅威なのだろう。
怯えを隠さない魚人達。けれども同時に見える嘲りのそれは、嫌な物を感じさせるには十分過ぎる。
そんな時に、嬉しそうに笑うのはルフィだけ。ルフィは満面の笑みで、その相手に話し掛けた。
「あ!おい、スルメ~。俺だよ。乗せてくれー!!お前1度ウチのペットになった、友達だろ!!」
その瞬間、伝説の生物と呼ばれたクラーケンは、麦藁の1味のペット兼、ルフィの友達である〝スルメ〟になった。ルフィには戦っても勝てないから……そんな理由で従ってるのでは無い。
いいえ、それも勿論あるだろう。だけど、それはホーディに対しても同じ。
どちらも己より強く、どちらかに従いその従った相手に護ってもらわなければ、もうどうにもならない状況下にある中で、クラーケンはただ怯えていたのだ。そうなった時、無意識でどちらに従うのが良いかと言うのは誰でも考える。
力で支配して、脅迫し、奴隷として扱うホーディと馬鹿にして蔑むその仲間。それに対して、ペットとしてかわいがってくれる人達と、友と呼んでくれるルフィのどちらかにつかなければならなくなった。
その時彼は、クラーケンとして中立を守るのかと思ったが、迷い無くルフィの軍門へと下る事を決断した。でもそれは、恐らく自然な事だろう。
自らの全てを否定して、使い潰すしか脳のない男達か、自らを認め共に楽しもうと笑ってくれる相手なら、誰でも後者と共に在りたいだろうから。クラーケンの突然の裏切りに、魚人海賊団の人達は慌てる。
けど、奴隷として扱い嘲りながら利用して来た奴等にそれを責める権利は無い。楽しそうに笑うルフィと、嬉しそうにルフィと共にいるスルメに自然と笑みがこぼれる。
「スルメ!また、宜しくね」
声をかけるとスルメはその足を伸ばして、私もルフィの所に乗せてくれる。驚く私にルフィは笑い、言う。
「いーい、女だろ!ナミとスルメは仲良くなれると思うぞ」
「ルフィ?」
「ナミ優しいから、動物といつも仲良くなるだろ」
その言葉に優しいかなぁ?と首を傾げるとルフィの腕が腰に回された。その腕が熱くて、私を見詰めるルフィの眼差しが甘くて……私の思考はルフィに埋め尽くされてしまう。
「俺が妬く位には、いつも動物とかに囲まれてる。……ナミは俺のなのによ」
「私だって、ルフィしか……見たくないわよ」
「ナミがいい女で、賢くて、優しくて、優秀でさ……俺にとって自慢の仲間だけど……だからこそ、不安になる。……もう、誰にも奪わせねェから。ちゃんと、守らせてくれ」
ルフィの言葉に、なんとも言えない気持ちになる。私が守らないといけないのに。
私はルフィのクルーだもの。船長を守るのが、クルーの役目だわ。
それに私はルフィより歳上だし、いつも大切にしてもらってる。今度こそ、私がルフィを守りたいと思って当然だと思うの。
「ルフィ……!!守ってくれなくていい。今度から、私が守るから。いつも、1人で戦わせてごめんね」
「ナミは俺をいつも守ってくれてる。今度こそ、俺が守るって決めてんだ。……そろそろ俺に素直に護られてくれよ」
自然と目尻に溜まる涙をルフィがその唇で拭い、そのまま深くキスをして来る。ルフィと、ずっとこうしていられたら……と思った時、剣を振り下ろして来るそれに私が反応するより早くルフィが殴り飛ばし、スルメも弾き飛ばした。
「邪魔、すんなよ」
その言葉で今がどんな状態か思い出して顔が赤くなる。……な、何してたの、私!!
そんな私にルフィは続きは後でなとか言って笑うけど、笑うけど……!!もう、やだ……。
スルメがサニーとしらほしを包むように待機したのを確認して、ルフィから逃げるように下へと降りる。するとルフィは楽しそうに笑ってから、スルメに言う。
しらほしを守っててくれと。それに頷いたスルメを見て、皆も安心したように笑う。
そんな時にウソップとチョッパーの居る筈の乗物が落とし穴に嵌り、それに慌てた様子を見せてたのに、結局フランキーも嵌るのだから情けなくもなる。そうこうしていたら、フランキーが中から2人を追い出した。
でもパッパグは中から出さないから、パッパグの事はそうやって守るつもりなんだろうなと分かりホッとした。戦えない子を戦場に出すのは、どうかなと思ったのは確かな事だから。
そのままフランキーが中で何かしたらしく、合体した物体がフランキー将軍と言うロボになった時には、何したいんだろうと暫し無言になったのを許して欲しい。……それにしても……ルフィ、ウソップ、チョッパーのはしゃぎようは凄いわね。
そのまま暴れ出すフランキーを眺めて溜息を落としていたら、いつの間にか魚人達に囲まれていた。でも、あの戦場にいた海賊の誰よりも弱そうな相手に対して、警戒する気にさえなれない。
「弱そうなのも居るじゃねェか!」
「さっきからイチャついてた女だろ!!適当に痛め付けてから、使ってやろうぜ!」
遅い……その動きを見て素直にそう思う。軽く攻撃を躱して、長くしていたクリマタクトの1つを取り外す。
「失礼ね。私は平和主義者なだけよ!!〝天候の科学〟の威力、味わいなさい!〝
溜めの時間がほぼ不要になったのもあり、私は近くにいた方の敵をクリマタクトで薙ぎ倒してから、奥にいた方の敵の喉元にクリマタクトの尖端を突き付ける。寸止めされた形になった魚人は反応出来ずに動きを止めたので、私は技名をあえて口に出した。
「〝
吹き飛ぶ巨体に場がざわめく。私はクリマタクトを元の長さに戻して棒術で近くのそれ等を殴り飛ばして行くけど、数が数だから少し面倒よねと思う。
前とは違い今なら、仲間を巻き込まない攻撃も余裕で出来る。なら、クリマタクトの本領発揮させてしまうべきかな?
そんな事を考えていたら、スルメが兄弟を殺されたくなければしらほしを殺せと命じられているのを聞く。それによりスルメはしらほしを強く締め上げ、その息の根を止めようとその巨体を震わせた。
けれども、迷いが見える。葛藤がスルメの心を壊しそうだと思った時、ルフィがスルメと向かい合った。
「え!?う……するめ様!?……く……苦しいです」
「スルメ!!」
私はそんなルフィの元へと駆け寄り、その背と自らの背を合わせるようにして立つ。ルフィが会話をする今、それを誰にも邪魔させはしない。
「兄弟を守る為にお前……あいつの言いなりになってたのか」
迫り来る魚人を私は棒術で殴り飛ばし、その骨を砕いていく。戦いに参加は出来なくなるけど、死にはしない。
折るのではなく、砕くのは流石に今回スルメにしている事が、魚人島の人達にしている事が、目に余るから。どうしても、その痛みがわかってしまうが故に、私はスルメに甘くなってしまう。
大切に思っていた筈の王妃を殺したのが
魚人街はスラム街と近い。日本で平和に育ってる人にはその苦しさは分からないだろうけど、それでも彼等が舐めて来た苦痛を思えば、寧ろアーロンが優し過ぎたとわかってしまう程。
だから殺さないけど、暫くはその痛みに苦しんでもらいたい。誰にでも、やっていい事といけない事があるのよ。
「守りてェよな~……。弟か?……兄ちゃんか?」
「……!?」
「ししし!!それ、俺にも守らせてくれよ!」
スルメが泣きそうになってるのが分かる。その気持ちは、痛い程よく分かるわ。
大切な家族を助けたい。でも、力が足りないのだと……嘆く事さえ出来はしないのだ。
守りたいのは、愛しい家族。その為に自分が犠牲になるだけで解決するなら、喜んで犠牲になるわよね。
ルフィはスルメの返事を待たずに、答えなんてわかってるとでも言いたげに背を向けて歩き出す。私はルフィの代わりにその場に立ち、スルメを見上げた。
「スルメ……。私ね、スルメと良く似た状態にあったのよ。それを、今のスルメみたいに助けて貰えるチャンスを得たわ」
「!?」
「大丈夫よ。ルフィは負けない。スルメも……頑張ったわね」
ルフィを信じて大丈夫よと、その言葉は心で思うに留めて笑えば、スルメはしらほしに巻き付けていた触手をそっと降ろした。そして、しらほしとサニーに近付く全てを薙ぎ倒し始める。
「スルメ!!……ありがとう!」
私が笑えばスルメも笑う。そんな私に1斉に魚人達が向かって来たのは、ある意味当然の事だろう。
魚人は水に対して楽観視してる所があるわよね。なら、それを利用させて貰いましょうか!
魚人空手とは違うけど、水は岩でも鉄でも貫く武器となる。風と水を組み合わせて作り出す水鉄砲や、水の刃は十分過ぎるダメージを与えられるわ。
勿論短剣で戦うのも可能だけど、クリマタクトを用いれば薙刀として使えるから接近戦にならなくて済むのが利点。今回は体力をあまり消耗出来ないから、長期戦用の戦い方が望ましいもの。
強い1人と戦う時と、弱い多数と戦う時とでは戦い方に差が出る。ただ、それだけの事。
その時空が突然暗くなり、何事かと見上げた時……迫り来る何かに驚かされる。巨大過ぎて何だか分からない。
「何アレ!?」
「ノア!?」
ジンベエちゃんの言葉により、私は微かに思考モードに入る。ノア……って聞いて思い出すのは、ノアの方舟……つまり、あれは、船!?
ノアの方舟の神話を元に考えれば、ルフィが魚人島を破壊すると言うのも、わかった気がした。つまり……魚人島の人達は、地上に移住する。
その為に、この魚人島という存在が邪魔になり、ルフィが破壊する。そう考えたら、納得出来るわ。
降ってくる巨大な舟が、怖いとさえ思えない。ルフィがいて、全てを守ると決めた今……それが覆るとは、私にはどうしても思えなかった。