大騒ぎになっている広場に、舟から落下して来た巨大な人影。それには何となく見覚えがあって、何処だろうと考えて凝視してしまう。
良く見れば、深海でスルメに殴り飛ばされて泣いていた海坊主だと分かった。落下した直後から今も泣いていて、その海坊主とデッケンの会話から、しらほしを殺す為に今迫って来てる巨大な舟をぶつけようとしているのだと分かる。
魚人島を包む巨大なシャボンが、それにより破壊されようとしていて……これはちょっと不味いかなと思う。シャボンが消えれば、能力者は勿論魚人を含まない我々は全員深海の圧に耐え切れずに死ぬ事になる。
しらほしがあの舟に触れたら、その動きは止まるんだろうけど……その為にはここからしらほしを動かす必要がある。戦えない、甘いだけの巨大な人魚に、何かをさせようなんて無理があるわよね。
「守るって……難しいわね……」
いつも、私は守ろうとして失敗している。家族も、村の人も、エースも……結局自力で生き抜いたと言えると思う。
今回のしらほしだって、守る手段が分からないのよ。この広場なら守りやすいけど、それでは全てが海底に変わった時、もう守る手段が失われてしまうのだから。
そんな状況の中でも逃げる者、叫ぶ者、暴れる者、ただ呆然と見上げる者がいて、戦いを辞めない人達も多く居る。それ等を撃退しつつどうしようかと考えていたら、意識が散漫になり転びそうになった所をジンベエちゃんに支えて貰った。
「ジンベエちゃん?」
「……お前さんだけは……怪我させられんからのォ」
「ルフィとエースを想って下さって、ありがとうございます」
笑う私にジンベエちゃんは笑うと、私の背後に立って戦う。……想像もして無かった。
私が魚人と共に背を合わせて共闘する日が来るなんて、少しも……。でも不快感はないのだから、本当に時が多くの傷を癒しくれるのだと自覚されられるわね。
そう思った直後、はたと気が付く。しらほしが、いない!!
「しらほし!?」
私のそれによりスルメが空に視線を向けて、教えてくれたしらほしの居場所。それは魚人島から離れて、深海へ向かってると言う事を意味していて……。
しらほしは、あの巨大な舟を自分に引きつけようとしているのだ。……私がしらほしの立場なら絶対やるだろうと分かるけど、でも、しらほしは私と違って戦えもしないのよ!?
危険すぎると思っても、私にはしらほしの元へと向かう手段が無い。それに、この場を離れればこうして私達が戦っている海賊達が次に牙を剥くのは、戦えない魚人島で平和に生きていた市民なのだ。
「……ルフィ!!」
「分かってる!!」
頷いたルフィは近くの邪魔な相手を殴り飛ばして、私の傍に来る。その時、しらほしの声が響いた。
「貴方様の〝マト〟はわたくしの命ではございませんか!!」
巨大な身体は、その声もどうしたって大きい。だけど、だからこそ離れていてもよく分かる。
しらほしは震えている。……怖くない筈が無いのよ。
これ迄生きて来て、戦った事も無い。守られて、匿われて、閉じ込められて生きて来たお姫様なのだから。
「わたくし1人の命を奪う為だけに!リュウグウ王国の皆様まで巻き添えになさるのは、おや!!おやめ下さいませ!!わたくしなら、こちらに!!」
泣き虫で臆病な少女が、泣きもせず、自国の国民を守る為……無抵抗なその身を晒す。これで戦えると言うなら、これ程の悲壮感は無いけれど、繰り返すけどしらほしは戦えないのだ。
戦えないのに大きいと言うのは、狙いやすい相手であるという事になる。まだ、しらほしは強大なその力を目覚めさせて居ないと言うのに。
「よわほしのやつ!!遠くへ行くなっつったのに!!……ナミ!少し見習えって言ったけどよ、やっぱり真似すんなよ!」
「……まぁ、見習うつもりは無かったから大丈夫よ。ただ、今回の事は私がしらほしでもやると思うけど……」
「そんな所同じじゃ無くていい!馬鹿ナミ!」
「馬鹿!?失礼ね……。うちの1味は女がブレーンなのに」
私がブツブツ言ってる間に、飛ぼうとしてたサンジ君に気付いてルフィが怒鳴るように言う。それは、恐ろしい程に自然と向けられた信頼。
ジャれてる暇なんて無いのだと、ルフィの行動が示す。そうでなければ、暫くルフィと他愛ない喧嘩が繰り返された事だろう。
「サンジ、待て!俺が飛ぶ!!お前らこの広場を頼む!!」
「わかった!!だがルフィ!舟は水の中だぞ!!」
サンジ君の言葉に、ルフィは迷わずジンベエに問い掛ける。この島の事はこの島の人に聞くのが良いと、本能でわかってるのだろう。
「舟の中も水かな、ジンベエ!!」
「わからんが少なくともデッケンは能力者。奴が動ける程度の空気はある筈!!行くならこれを!!シャボンの出る珊瑚じゃ」
「ありがとう」
ルフィが珊瑚を受け取った事を確認すると同時に、サンジ君は言う。こうして見ると、サンジ君って本当にサポート要員なのよね。
「じゃあ、愛しのしらほしちゃんはお前に任せた!!かっ飛ばすぞ!!ルフィ!!」
「頼むっ!!」
そうしてルフィは、サンジ君の蹴り技により飛ばされて行く。それを私は見送り、必死に逃げるしらほしをルフィか追い掛ける様子を祈るように見詰める。
ルフィはしらほしを守る為に、舟へと突き進む。そして、しらほしを殺す為に追い掛ける者達と戦いを始めた。
だけどそれに意識を向けている事は出来ない。ルフィが行ったのだから、しらほしは大丈夫と信じて。
今の私はこの場をどうにかする事だけが先決よ。そう思っていたけど、泣き喚いていた海坊主が薬で強化されてしまう。
それによりスルメが倒されてしまえば、咄嗟に駆け寄ろうと言うもの。スルメもまた、ルフィの大切な友人だわ。
「スルメ!!」
「ナミ!危ねェ!!」
ウソップの声は聞こえたけど、スルメが!!そう思って駆け出した先で、今度はジンベエちゃんが狙われればハッとして動きを止めるしかない。
「ジンベエちゃん!危ない!!」
「〝七千枚瓦回し蹴り〟!!」
それにより吹き飛ばされた海坊主。その風圧で私が吹き飛ばされたのは当然で、転んでしまった私を見て怒り狂ったサンジ君が海坊主とジンベエちゃんの戦いに参戦した。
私は風圧が落ち着くのを待って立ち上がると、埃を払って長い髪が風に揺れるのを感じる。この揺れ方なら……。
湿度、気温、気圧、風速、風圧、全てを理解する為に1度目を伏せて、それからクリマタクトを構え直した。今、この場で私に扱えない天候は存在しない。
ここの環境は完璧に理解したわ。もう、大丈夫。
「〝ブラックボール〟」
「何やってんだ、この女!!」
「気を付けろ!!こいつの棒、さっきから色んなもんが飛び出すぞ!!」
「魔術師か!?」
「あらヤダ!そんな可愛くない呼び方しないでよね!!」
言いながら私はクルクルとその場で回転する。私を囲うように小さな光の玉が大量に飛び出して、警戒する魚人が少しの距離を置いた。
それは私としては好都合。私が無傷でこの戦いを終えるには、離れてもらった方が都合がいいのよね。
「〝魔法使いちゃん〟って呼んでね!……本当は計算された〝科学〟だけど。〝雷雲=ロッド〟!!」
相手を選んで攻撃できるようになったのは、これのおかげ。広範囲にただ落とすのに比べたら威力は落ちるけど、それでも単体を大量に狙って攻撃できるし、通常の敵なら十分過ぎるダメージを与えられるもの、問題は無いわ。
ルフィやブルックのように電撃が効かないとか、四皇や七武海本人やそのクルークラスの強さを持つとかでなければ、威力に問題は無い。……風や自らので髪がふわふわと揺れるのを感じながらも、縛ったりする選択肢は今の所ないの。
私が放出した時は白い光の玉に見えても、離れて少しすればそれが雷雲だと分かるようになる。それにより1人1粒のそれで、電撃により丸焦げにするのは容易いのだ。
けれどもその場でクルクルと回りながら戦っていた私の足を、突然誰かに掴まれては身動きが取れなくなる。掴まれてる感覚はあるけど、姿が見えない……!!
でも、スケスケの実はアブ……なんちゃらが食べてたからここに居る筈は無いし。どうなってるのよ!?
ローラがアブ様と呼んでたのもあり、アブまでは思い出せるたけど……正式な名前を思い出せない。アブがこの場に居たとしても、私を取り押さえるなんてのは流石にないだろうし。
そんな事を考えてる間に近付く敵。動き回るのが私の戦い方なので、こうなっては手の打ちようがない。
「お前はスルメになるのだッヒ!!」
「いやァぁぁぁー!!」
思わず悲鳴をあげたその時、助けに入ってくれたのはブルックで、助けてくれた事にお礼を言うより早くパンツ見せてなんて言われるから、つい……殴ってしまった。これは、不可抗力である。
そうして助けてくれたブルックと会話をしていたら、フランキーがその敵を引き受けてくれた。その後私を捕まえていた魚人はブルックに踏まれまくったのを理由に、ブルックと戦い始めたので私は晴れて自由の身である。
結局私とロビン以外は全員が、幹部と戦い始めた。なので私とロビンは、それぞれ離れた所で魚人海賊団との戦闘をして数を減らす事が重要となる。
幹部を相手にしている間、雑魚とは言えども数の多い彼等を倒すメンバーが居なければそれはそれで困ってしまうから。敵の残り人数を数える間も、今は惜しい。
今は少しでも敵を減らす事を優先すべきと、雷雲の他にも竜巻や水鉄砲、分厚い雲で視界を遮ってからの物理攻撃等も加えて行く。そんな時、魚人島の1般市民の数割が逃げ出し始めた。
全員では無いのが気になるし、基本的に子供達がその場に残ってるのが気掛かりだけど……攻撃をそちらに向けない為にも、私は今戦いの手をゆるめる訳にはいかない。幹部と戦う彼等を邪魔させない為に、雷を文字通り落として回った直後、いかにも兵士と言う姿の人達が姿を見せた。
「加勢致します!麦藁の1味の皆様方!!」
「スルメ……クラーケンの怪我の具合を確認してください!無事なら、守ってあげて!」
「了解しました!」
素直に従ってくれるそれにより、私は言葉を続ける。皆を信じてるのもあるけど、こういう時は、何があっても笑ってるのが必要。
余裕があるのだと見せる事が、大切なのだ。不安を抱かせては勝てるものも勝てなくなる。
「幹部との戦いには、水をささないで!その邪魔をしようとする人達を、押さえてくれるだけで十分よ!!魚人海賊団の幹部に、うちのクルーは負けないから!!」
「はっ!!」
「……成程、軍師ね」
ロビンの言葉にしまったと思うのは、三兄弟や赤髪のメンバーと過ごした時の癖で何かあると指示を飛ばしてしまうところにある。その後から現在にかけてだって、航海士としているのだから、必然的に指示出しに回ってしまうもの。
「職業病よ!って……誰が言ってたの?軍師って?」
戦いながらロビンに問い掛けると、少年達よと微笑まれてしまう。つまりは、東の海メンバー全員だろう。
うーん。それは航海士としての、指示出しを意味してるのかな?
戦いの時指示出しした事あったかしら?……って、単独行動は辞めてー!!
「あ!3人1組で動いて!魚人海賊団は薬を使ってたりもするから、安全第一で行動して!!」
「はっ!申し訳ありません!!」
見れば個人戦が得意なのか、それとも指揮をとる人が居ないからなのか、妙な動きが時折見受けられる。……新人かな?
「左翼!少し広がって、密集し過ぎてるわ!!」
「……本当に、軍師ね……」
「ロビンもよそ見しないの!戦いに集中しないと、怪我しちゃうわよ!!」
「ナミには言われたくないわ」
そんなやり取りの中、減って行く敵の数。でも、元の数が多過ぎて、敵が減った事を認識するのが難しい。
そんな中〝人間の奴隷〟を見たジンベエちゃんが眉を顰める。その同じ頃、海坊主が大きくなって周りを巻き込み始めれば、ジンベエちゃんはその隙をついてロビンにそれの解放を頼む。
ロビンはそれを受けて動き出して、ロビンにより解放された〝人間の奴隷〟は、その瞬間からただの〝虐げられていた海賊〟へと変わる。変わったそれは、魚人海賊団と戦い始め、約3万人の敵では無い存在へと変化を遂げた。
仲間達はそれぞれ、人間を辞めたのかと言いたくなるような戦いを繰り広げていて、私だけが普通の民間人よねと思う。その瞬間、再びノアが落下してくるとの通信が入り、それには流石に慌ててしまう。
「嘘!!さっきのまた来るの!?ルフィ、大丈夫!?」
その後続け様に入る放送の中、ルフィの声が聞こえて来る。ルフィの無事を確認出来て、それだけでホッとしてしまうのは私達の悪い癖だろう。
その後に続く王子の言葉に、私は動きを止める。ホーディを育てたのが環境だと言うのであれば、ホーディはアーロンの悪意と敵意を吸収して、アーロンに憧れて、その結果アーロンと言動が近くなったのだと分かるから。
この魚人島に起きてる惨劇も、魚人島の人達が〝人間〟と言う種族を忌み嫌うその心が齎した結果だから。家族を、友を、恋人を、殺されたりした怨みを、それをした〝本人〟ではなく〝種族〟単位で怨んだその結果が、現状なのだ。
「このままじゃあ!!魚人島は〝人間を恨む心〟で我が身を滅ぼす!!麦藁……頼む!!」
けれどもそれを知っても、ルフィは当然のように笑うんだろう事が分かるの。そんなルフィだからこそ、皆が愛するのだろうと言う事も含めて、変わらない現実だから。
「過去等要らない!!ゼロにしてくれ!!この島をタイヨウから遠ざける……!!亡霊を消してくれ!!お前の手で!!魚人島を、ゼロに!!」
血を吐くような王子の叫びが、国中に谺響する。それに応える、ルフィの言葉もまた、国中に届く。
「兄ほし!!俺の、好きにして良いんなら……安心してろ!!広場に降りた時から、俺達はジンベエと1緒に、魚人島は誰にも傷付けさせねェって決めてるんだ!!」
この場にいる皆の表情も明るくなる。ルフィの言葉は、いつも私達の光となるのだ。
だから、惹き付けられる。だから、守りたくなるのよ。
「……全部、任せろ、兄ほし。友達じゃねェか!!」
太陽のように暖かく、優しい声が響く。気負いなく当然の事として笑うルフィの、太陽を思わせる笑顔が、見えた気がした。