ルフィは戦う。私達が広場の方を解決すると信じて。
それも、当然の事として思ってるから、私達を案じる言葉も何も無い。そんな絶大なる期待を裏切るなんて……そんな事、出来る筈も無いじゃない。
そんな時に聞こえて来た、ルフィ勝利の通信。だと言うのに逃げようとする魚人海賊団のメンバーを同じ魚人海賊団に所属する幹部の魚人が攻撃し、逃げる事を許さない。
「死もまた復讐だ!!」
その言葉に私の身体はビクリと揺れる。何言ってんだと思ったのが大きい。
死ぬ事が復讐になるなんて……1体誰が思うと言うのか。愛する人が目の前で死んだとかでも無ければ、それ程強くは残りはしない。
「死して尚人間を呪え!!惨劇は我らの血肉となる!!怨念が消える事はない!!受け継がれ、復讐は必ず果たされる!!」
その言葉により、私は身体の向きを変えていた。イカレてると言って怯えを見せる魚人達に、他の幹部が手を下して行く。
……死んで残せるのは、後悔と無念よ。絶望に苛まれ、無力にうち震える事になるばかり。
それさえ、実際に残るとは限らない。ここでこの魚人海賊団のメンバーが死んでも、それは次に何かを繋げるなんて事にはならないのよ。
「戦いに死ねん奴らは、今ここで!!俺の手で死に、人間への怨みを残せ!!」
「「おやめ(いい加減にし)なさいよ!!あなた(アンタ達)、味方にィ!!(仲間でしょ!?)」」
私とブルックは同時に言葉を放ち、それぞれが別な魚人を庇っていた。そして再び声が重なる。
目の前で無駄な殺生が行われるのを、見たくはない。誰だって、大切な人には生きていて欲しいのよ。
この人達だってそれぞれに、友がいて、家族がいて、傷付けば、喪われれば嘆く人がいるのよ。誰にも関わらずに、死だけを望まれるような人はまず、存在しないと言っていい。
「「あなた(アンタ)ねェ……!!」」
ブルックは元々ブルックが戦っていた相手だけど、私はチョッパーの敵を結果的に奪っていた。でも、今は止まれない。
遺された人がどんな想いを抱くのか。遺した時に何を思うのか……。
何も知らない癖に、平然とそんな事を言われたくはない。人の死に鈍感になってる奴らに、そんな事を言う権利は無いのよ!!
伝えたかった事の1/100だって伝えられないままに、後悔ばかりが残る。幸福を願っても、誰かを憎んでも結果は同じ。
伝えられないままに消えるその想いに、伝えれば良かったと後悔するばかり。満足して逝けるのなんて僅かで、結局は遺す事になる大切な人を脳裏に描きながら消えるしかないのだ。
遺された時の絶望は、今も私の中に燻っている。遺した時の苦しみと、自分が死んだからと言って先に逝った誰かに確実に逢えるとも分からない苦しみと切なさを、その虚無感を……忘れる事はきっとできない。
「「死んだ事も無い癖に、偉そうに!!」」
「ナミ……?」
チョッパーの声が背後から聞こえる。皆の視線が私とブルックに集まるのが分かるけど、ここで言葉を止める事は出来ない。
ブルックはこの世界で1度死んでる。それも最後に死んだのだ。
その場に遺された仲間は居ないけど、独りになる苦しさを知り、そして……生きているかも分からない大切な人達の安否を知る事も出来ず、その悲痛な思いは誰にも届かずに霧散した。何も……残せはしないのだ。
「「死んで怨みを遺す!?バカバカしい!!何も残りません(らないわ)よ!!」」
怒りに満ちたブルックの声が谺響する。私は相手に雷を落とす。
敵を庇い守る事は、今不要だろう。わかっていても、放置できない。
「生物皆!!死んだら骨だけ!!」
「そう……伝えられなかった最期の想いは、結局何も生みはしない!!後は生きてる人が都合良く解釈してるだけなんだから!!死んだら……何も……残せやしないのよ!!」
「説得力が違うぜ、ブルック。……ナミは、今度詳しく聞かせろよ」
フランキーの言葉にブルックは視線も向けずに居る。けれども、私はその言葉に是と答える訳にはいかない。
説明の仕様がないもの。転生しましたとか、頭おかしい意外のなんだつてのよ!?
「「恐縮です!!」断るわ!!」
「ナミ、後は俺がやるよ。ありがとう!」
そう言ってチョッパーが、そこから先の戦いを引き継いでくれる。先程襲われていた魚人達は逃げたり、離れたところで怯えたりしていて、とりあえず無事に生きてるのが見えた。
わかってるのよ。……助ける義理なんてないって事は。
でも、見捨てられないのよ。無駄に死なせたい程、何か思う所がある訳じゃないもの。
だからこそ声を上げる。この戦いは無意味と言う他ない程に、実力差があるわ。
「幹部は壊滅するわ!!降伏の意志を示す者には手を出さない!!諦めて、武器を手放しなさい!」
「何を!?」
「抗うなら……容赦はしない!覚悟して来なさい!!」
そうして私は向かってくる魚人達に、宣言通り容赦無く雷を落として行く。その直後、ほぼ同時に皆が幹部を倒してくれた。
それにより僅かに残っていた戦意さえ彼等は喪失して、逃げ出して行くから、それを追撃するように電撃を落とせば悲鳴が上がる。泣きそうな顔でこちらを見るのは、魚人も人間も変わらない。
「降伏するなら、手は出さないわ。……でも、逃げるなら……許さない。裁きを待ちなさい」
「ナミ!!……ありがとう。助かった」
「ここから先は、ジンベエちゃんに任せていい?」
「無論じゃ」
そんな会話をしていたら空から海坊主の巨体が落ちて来て、それを気にもしてないフランキーは巨大化したチョッパーに文句を言う。ロビンはそっと私に近付くと、強く抱き締めてくる。
震えるその腕が、何を訴えているのかを私は知らない。でも、私の事を想い、震えているのだけは確かな事。
「ナミ……」
「ロビン?私なら大「ルフィが帰ったら、百叩きね……」」
「どうして!?」
ルフィが何したってのよ!?
そう言おうとしたのに、ロビンはサラッと話題を変える。その時ついでに私を解放するから、何となく問い質すチャンスを失ってしまった。
「そんな事より、フランキーのあのロボットは何か役にたったのかしら?」
「さぁ?知らない」
「ナミさん、ミニスカートはいてください」
「お黙り」
突然割って入って来たブルックに、思わず冷たい声が出る。もっと他に言う事あるでしょうに。
そんな会話をしてる時、ノアが目の前まで迫ってるのが見えた。魚人達の叫びが谺響して、けれども逃げ出すのは民間人ではなく海賊達と言う不思議さ。
海賊達はこれからの裁きがあるからと、ジンベエちゃんが取り押さえて、なのに、民間人は動かずにノアを見上げる。そして祈るように、口々に叫ぶ。
声が枯れるのも、厭わないとでも言うかのように。諦める気など無いと、希望を捨てはしないとでも言うように、魂を震わせながら。
その声援が、何かを変えるとでも言うかのように。運命を最後まで戦っているルフィと共にすると決意しているのが、伝わって来る。
「……ルフィ……」
力を出し切れない海で、ルフィが無傷で戦いを終えたとは思えない。そんな状況下で、ルフィはこんなに暴れて大丈夫なのかな。
……どうにかして、ルフィの元へ行けないだろうか。ルフィを支えたいのに、私には、見上げるしか出来ないのかな?
その時、通信が国中に入る。それにより舟が止まった事が、魚人島の無事が伝わった。
なのにどうしてかな。ルフィの笑い声が、聞こえて来ない。
勝利の雄叫びも、何も……聞こえないの。そう思っていたら、皆は大喜びではしゃぎ出していて、少しそれにより呼吸ができるようになる。
それでも、指先の冷たさはどうにもならない。なんで、こんなに不安なんだろう。
「ルフィ……早く、帰って……不安に……させないで……」
「ナミ……何か、見えんのか?」
ゾロの問い掛けに首を横に振る。今の私には何も、見る力は無い。
ただ、何度か試してるけど、ルフィの動きが早すぎるのもあり、上手く見聞色の覇気で状況把握ができない。でも、戦いは終わってるなら、どうしてこんなに気配が感じ取れないの?
「分からないけど、不安で……。ルフィの気配が弱いのよ」
私の心が乱れてるからってだけならいいの。でも、もしも違うなら……。
見聞色の覇気では感じ取れない位に、ダメージ受けて意識が減ってるとか、そんなだったらどうしよう。お願い、ルフィ……無事でいて……!!
「ルフィ……」
その時、泣きながら飛んで来るしらほしが見えた。チョッパーは巨大化していた影響で、自力では動けない状態にあるのに……である。
「うえ~ん!!え~ん!!お助けくださいませ!!ルフィ様の血がお止まりになりませんっ!!わたくし達の為に、無茶をなさって!!」
泣くしらほしからルフィを受け取り、そっと大地に寝かせる。出血が多過ぎるのか、目覚める気配すらない。
帽子を外して、身体を水平に保つ事が必要と判断して、私はチョッパーが動いてくれてる間に辺りを見渡す。……出血が多過ぎて、このままだとルフィが助からないわ。
でも、この国には〝人間に血を分かつ事を禁じる〟と言う法律がある。どうしたら、いいの!?
チョッパーとウソップがそれを騒いでいるし、ロビンはチョッパーを支えてくれてるのに、私は何も出来ないでいる。ルフィの傍で膝をついて、座り込んでしまう私に、皆呆れているのか誰も何も言わない。
「ルフィ……ルフィ……」
繰り返し、ルフィを呼ぶ。ルフィ以外の言葉を忘れたかのように。
その手をそっと握り、呼びかけ続けていたら、しらほしがチョッパーに言う。大粒の涙を落としながら。
「わ……わたくし、血液型違いますけど、赤いです!ダメですか!?」
「うん、よし!!気持ちだけありがとな!!そうだ、人間の海賊がいる!!」
しらほしの言動に、魚人島の人達はザワめく。助けてもらったのに、その恩を返す事も出来ない彼等を、けれども恨む気にもなれない。
結果がどうあれ、これはルフィが選んだ結末。怨む筋合いなんて無いとわかってるのだ。
でも、喪いたくない。私の血液型が合うなら……いくらでもあげるのに……。
「ルフィ……」
「わしの血を使え……!〝F〟じゃ!!いくらでもやるわい!!」
「ジンベエ!!」
「ジンベエちゃん……?」
「でも、法律……」
「わしは、海賊じゃ……」
そうして大騒ぎの中、大衆の見守る広場の中心で、ジンベエちゃんからルフィへと細い管が繋がれる。並んで横になるルフィとジンベエちゃんを邪魔しないように、移動しようとしていたけど、それは不要と示された。
私のいない側に横になったジンベエちゃんの機転で、私の存在が邪魔にならなくて済んだ。意識の無いルフィと、魚人島で人気の高いジンベエちゃんの間を細い管が繋ぎ、その管を赤い水が通る。
日本でも、ほんの1昔前まではこんなやり方で輸血をしていた。今は本当に緊急時に、家族とかでも無ければこんなやり方ではなされなくなったけど……。
傷付けても……傷付けられても、流れる赤い血。とても道とは言えぬ程……か細く狭い、その管こそ……。
恐れ合う偏見を……血で血を洗う戦いを、かくも容易くすり抜けて。絵空に描く幻想よりも、確かに見える〝タイヨウ〟へと続く道。
その時、ルフィの手が微かに動いて私の手を優しく握り返す。それにより顔を見てみれば、その唇がゆっくりと開かれる。
「ジンベエ……」
「あ!ルフィ様お気付きにっ!!」
「ルフィ……!」
泣きそうになるのを自覚する。良かった、意識が戻ったなら、死ぬ事は無い。
ルフィは、もう大丈夫。そんな私の背後から皆の声が聞こえて来る。
「「「「「ルフィ~!!」」」」」
「何じゃい。意識、あったか……」
ルフィの意識が戻った事で、魚人島の人達が湧き返る。ゾロとロビンはその口元に笑みを浮かべるばかりではあったけど、皆と同様に喜んでるのは伝わるので充分。
ジンベエちゃんは言葉とは違って、妙に優しい声で嬉しそうに言葉を紡いでる。ルフィの存在を、皆が心から喜んでいるのが分かってそれだけで、私の心は安定していく。
私が握ってる手をルフィは強く握り返して、少しだけ緊張してる様子を見せる。その時、王子が他界されているオトヒメ王妃に何かを報告する声が微かに聞こえた。
「なァ、ジンベエ……」
繰り返してルフィが名を呼んだ。私はルフィの手を握る力を少しだけ強めて、賛成だよと伝える。
ルフィはそれを受けてか、明るく笑う。皆が愛するその笑顔を振り撒いて、楽しそうに、嬉しそうに、言葉を告げた。
「俺の、仲間になれよ!!」