※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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戦後処理

 ルフィは1命を取り留めると同時に、困った顔で誘いを断るジンベエちゃんに掴みかかる。私はなので少し距離を置いてサニー号へと乗り込むと、皆は恐らくこの場に居たくないだろうと判断して出航の準備を進めた。

 チョッパーはルフィに安静にしてろと叫ぶけど、とりあえず動けないので言葉だけでは抑止力なんてある筈もない。この船では、実力行使が出来なければ意見なんて通りはしないのである。

 出航に関しては、当然のように皆も従ってくれた。その出航はしらほし以外の王族が、注目を集めてくれてたので案外気付かれないで出来たのが有難い。

 しらほし以外の王族は、海賊達を解放したり、魚人街の閉鎖を発表して騒ぎとなっていたのだ。ただ、しらほしだけはそれに参加せずに、私達の動きに付き合ってくれてる。

 実際問題、まずは新世界用の記録指針が無ければ本当の意味での出航が出来ないのだから、とりあえず海の森へ進むのは当然の事。コーティングし直して貰わないと、この先困るもの。

 そんな慌ただしいその船の上でも、ルフィはジンベエちゃんに絡み付いていて、ああなったルフィから逃げられる存在が居るとは思えずに笑ってしまう。本当にこの船はいつも賑やかで、心が温まるわ。

 オトヒメ王妃暗殺の真犯人にして、突如明るみに現れた魚人族の〝闇〟。海賊、ホーディ・ジョーンズの魚人島侵略計画は、奇しくも島に立ち寄った〝人間の海賊団〟の手によって阻止された。

 

 「皆様、何故逃げるように、広場をお出になられたのですか?」

 

 気球方式で逃げる予定が、結局メガロの御世話になっているので、ついてくるしらほしを振り払えなかったというのもあり、しらほしはオドオドした様子で話しかけて来る。でも仕方ないわよね……何せメガロは人魚姫のペットだもの。

 

 「バカ言ってんじゃねェよ。あんな見世物みてェな場所で戦わされて……あのまま広場にいたら、ヒーローにでも担ぎ上げられちまう」

 

 本気で嫌そうにゾロは言う。最後に軽く身震いして言葉を締めたのだから、本気でと言うか……余程嫌なのだろうと分かる。

 

 「考えただけで、寒気がする」

 「おヒーロー様では、駄目なのでいらっしゃいますか?」

 

 言語としては色々おかしいけど、しらほしの言動は可愛い。これで大きさが普通なら、きっともっと狙われやすく、とっくに生きてはいなかっただろう。

 王となる者は大きいのが普通なのかな。でもだとしたら、ルフィってどうして小柄なんだろう。

 勿論1般人として見たり、比べたりしたら、ルフィだって十分に大きいけどさ。でも、やっぱりそう思ってしまう。

 あ……でも、エースも父親に比べて随分小柄だから、これから大きくなるんだろう事を考えたら、ルフィもそうなのかも。……ルフィを見上げる日も、来るのかな?

 

 「あのな……!ヒーローってのはてめェの酒を人に分け与えてやる奴の事だ!!俺ァ酒を飲みてェ!!」

 「だから何なの、アンタ達のその理論っ!!」

 

 少しホワホワした思考の中にいた私は、ゾロの発言に思わず突っ込んでいた。ルフィは酒じゃなくて肉だっただけで、結局同じ反応だったわよね。

 仲間だからって、そんなに似た思考してなくて良いと思うのよ。……まぁ、ゾロは長い付き合いだし、仕方ないのもあるかもだけど。

 

 「何で断るんだよォ、ジンベエ~!!なァ1緒に冒険しよう!!絶対楽しいから!なっ!!」

 「そうだ、仲間になれ親分!!」

 「元七武海がいたら心強ェ~!!あとルフィは、絶対安静な」

 「じゃから今は(・・)無理だと言うとるだけじゃ!!誘ってくれた事は本当に嬉しく思う」

 

 騒がしい声に視線を向ければ、大怪我なのにジンベエちゃんに絡み付いて離れないルフィがいて、ウソップとチョッパーもそれに参戦してる。つまり、チョッパーは動けるくらいには回復したらしい。

 そんな皆に、ジンベエちゃんは〝嬉しい〟と言っているのが聞こえる。だから私は船縁に背を預けて、そっと目を伏せた。

 ジンベエちゃんは仲間になる。その時私は、冷静に普通の仲間として居られるだろうか。

 そう考えて、原作のナミちゃんは戸惑いもなく笑顔で受け入れてたんだろうなと思えて、少し切なくなる。私は……駄目ね。

 ジンベエちゃんが仲間になるのは賛成なのだ。彼は明らかに善人で、ルフィの友人で、ルフィが仲間に誘う位に優秀な何かを秘めてる筈なのだから。

 私が賛成したから、ルフィは迷いなく現在ジンベエちゃんを誘ってる。わかってるのに、戸惑ってしまうの。

 

 「ナミさん」

 「ブルック?」

 「先程は、すみませんでした」

 「え?」

 「簡単には聞いていたのに……貴女の過去に深く関わる相手と気付かず、心無い言葉を口にしました」

 

 その時になって、漸く気が付く。ブルックは、ホーディと初めて会った時の事を言ってるのだと。

 でも、どうしてそんな風に突然言ってきたんだろう。私、そんなに酷い顔してたかな。

 

 「三人で捕まった後、ウソップさんに叱られました。ゾロさんにも1言、謝っとけ……と。ナミさんの為だけでなく、私の為にもと」

 「ブルックの?」

 「……そんな顔させては、流石に胸が苦しいですよ。ナミさんが、このまま消えてしまうような、そんな気持ちにさせられるのです。……苦しむ胸、無いんですけど!ヨホホホホホ!!」

 「……ごめんなさい。そんなに酷い顔してたのね。大丈夫よ。ルフィが望む事に対して反対はしないし、頭ではわかってるから」

 

 でも……そう、怖いのだ。アーロンとは別人だとわかってるのに、どうしたって共通してる所が多くて。

 私は、誰も怨みたくない。アーロンも色々抱えていて、つらかったのだと知ってるの。

 なのに……私は弱いから、憎んでしまいそうになるの。それにより、憎しみに囚われてしまいそうな自分が……怖いのだ。

 私は、どうしてこんなに弱いんだろう。どうして、こんなにも我儘で身勝手なのかな。

 私は、醜い。……どうして、ホンモノとこんなにも違うんだろう。

 

 「ナミさん……」

 「大丈夫よ、ブルック。気遣ってくれてありがとう。私は気にしてないから、そんなつらそうにしないで」

 

 表情は分からなくても、後悔と罪悪感で押しつぶされそうになってると分かる。それに、本当に何も表情が変わらない訳じゃないのよね。

 よく見れば時に表情が変わるし、雰囲気や纏う空気が変わる。だからこそ、伝わらないと思ってるのだろうけど。

 その優しい心を無駄に傷付けないで欲しい。私の為に、苦しまないで欲しいの。

 

 「ブルック、ありがとう」

 「ナミさんは、優し過ぎますね」

 「あら?私は、優しくなんてないわよ」

 

 ふふっと笑った時、ジンベエちゃんの声が聞こえて来た。それは、まだやる事があるとルフィを説得する為の言葉だった。

 それによりブルックは、何かを言いかけていたのに辞めてしまう。でも、きっとここでこの会話が打ち切られたのは、悪いことでは無かった筈だわ。

 

 「もう1度、誘ってくれんか……〝麦藁の1味〟に!!」

 「……!!絶対だぞ!!お前!!」

 「オイオイ、男が仁義を口にしてんのに、追い込むんじゃねェよ」

 「随分好かれたわね」

 

 尚も食いつくルフィをサンジ君が宥めれば、ロビンが笑う。ゾロは無言のまま笑っていて、ブルックもその様子に笑い出した。

 

 「ルフィがホレ込んだ男だ。……皆待ってっからよォ、ジンベエ」

 「ああ……すまん……」

 

 フランキーの言葉を受けて頷いたジンベエちゃんに、私も漸く笑えた。ルフィが悲しまないなら、喜んでくれるならそれでいい。

 私も、今すぐじゃないのなら、心の準備が出来る。今すぐと言われても、1晩位時間貰えたらちゃんとできるだろうから、大丈夫ではあるけどね。

 ジンベエちゃんはエースとも仲良くしてくれてたし、白髭さんを慕ってた。真っ直ぐで、優しい仁義の人。

 そんな人を、拒む理由も権利も、私には無い。ルフィの人選に、間違いなんてある訳ないし、私はルフィに既に賛成だと伝えてあるのだから、今更悩むのがそもそも駄目なのよね。

 

 「……それにしても、突然ちゃんと受け入れたから驚いたわ。ルフィなら、最後までごねるかと思ったけど」

 「俺は……ナミの時も、ちゃんと待ったろ」

 「え?」

 「ナミと同じ瞳をしてた。決意してる瞳だから、我儘言っても無駄なのは解る。それによ……」

 

 言葉を切ったルフィに首を傾げると、ルフィが私の所へ歩み寄ってきた。殆ど変わらないその視線の高さが、なんだか愛しい。

 当然のように私の髪を指先で弄び、ルフィは言う。何の気概もなく。

 

 「ナミは帰って来たし、仲間に正式になるのは時間がかかったけど……それでも、あの時からナミは俺のだった。なら、ジンベエも同じだ。もう、俺のだから待てる」

 「ルフィって、大物よね」

 

 どれ程凄い発言なのか、ルフィはわかってるのかな。きっと、わかってないのよね。

 ルフィのこれは、計算じゃない。本気の発言なのだから、恐ろしくもなるというもの。

 

 「うーん……。でもな、ナミの事は、俺が初めて見たその瞬間に俺のって決めてたんだよ。だからナミが逃げても、必ず探し出して俺のにするつもりでいたんだから、ジンベエとはやっぱり少し違うかもだけどな」

 「……私が結婚とかしてたら、どうするつもりだったのよ?」

 「ん?その時は、旦那ごと仲間にすれば良いだろ。その時は俺の女には出来なくても、仲間にするのは死んでも諦めねェよ」

 

 有り得ない程に傍若無人な発言に頭が痛くなる。そんな私の頭に麦藁帽子(ルフィの宝物)を乗せて、ルフィは笑う。

 

 「だから、後でゆっくり話をしような。1人で考え込むなよ。そういう時のナミって、録な答え出さねェから」

 

 それから、帽子預かっててくれよ!と笑って、ルフィが皆の元へと飛び出すのを見送った。頭の上で風に揺れる懐かしい帽子は、相変わらず優しい。

 その時ゾロがすぐに出るのかと聞けば、しらほしがもっと話をしたりしたいと言いながら泣き出す。それにサンジ君が反応して1週間位マーメイドカフェに泊まりたいと言い出せば、ウソップも賛成だけどと言いながらツッコミを入れた。

 ルフィはそれを笑って聞いていて、私を見て1週間位か……なんて言うから、嫌な予感がしたのは当然だろう。……流石に、1週間抱き潰されたら生きていられないからね!?

 身体を強く抱き締めた私に、ルフィが男の顔で笑うから、思わず首を横に振る。そんな私を庇うようにロビンがそっと抱き締めてくれるから、思わずその胸に頭を預けてしまった。

 

 「お待ちを!!〝麦藁〟の方々!!ネプチューン王!船に追い付きました!!」

 「『そうか。……ルフィ君!!宴の仕切り直しをしようじゃもん!!』」

 「宴~!?よし!ハチとケイミーも呼びに行こう!!」

 

 そうして私達は、お城の兵士達を引連れて1旦ハチとケイミーの待つ海の森へと船を進めた。そうして私達が準備してる間に、再び宴の準備をし直すと言うので私達は数時間の猶予を貰ったのだ。

 ……この時リュウグウ王国が決断した罪人を服役させて、法の元で暮らさせると言う手法は日本では江戸時代に始まった。服役すべき期間が終わった後も、手に職を持ち、自立する事で再び犯罪に手を染めないように、そして、周りの人に役立つ事で受け入れられるようにと考えられたそれは、現代まで引き継がれている制度の1つである。

 それをやったのが、池波先生の著書、鬼平犯科帳で有名な長谷川平蔵氏であるが、その話は割愛しよう。こうして魚人島リュウグウ王国にあった、魚人街は封鎖された。

 竜宮城の監獄塔に〝新魚人海賊団〟幹部及び、バンダーデッケンは投獄された。魚人島の正面入口から、巨大過ぎる海坊主……もとい、ワダツミは国外追放を言い渡され、クラーケンであるスルメにより遠くへ運ばれる事となる。

 私達に与えられた数時間の間に、国民は疑って攻撃したりしたのに、助けてくれた恩人へと動き出す。それは、血を渡す事さえできなかった罪悪感もあるだろう。

 けれども本当に彼等は感謝しているのだ。もう居ない筈の、白髭の影をルフィと言う1人の少年に見ている。

 国民は総出で、宴の話を聞くと同時に即座に動き出していた。魚や貝を大漁にとれたと喜び、捌いて王宮へと届ける者達。

 怪獣の肉が好物だと聞いた肉屋は肉を抱えて、お菓子工場から大量のお菓子やケーキを届ける。酒も特級品を当然として届ける者達が、城へと押し掛けていた。

 そんな事は露知らず、私達は畏れ多くて行けないと言うケイミーとハチを宥め透かして、ケイミーに張り付いて離れなくなったパッパグも共にサニーへと乗り込んでいた。ケイミーとハチは結局ルフィに押し負けた形だ。

 船で行くとばかり思っていたのに、クジラちゃんが迎えに来たのには男された。それにより動揺してる隙をつかれて、フランキーの師匠の弟さんはサニーのメンテをしてくれると言う名目で、参加を最後まで拒まれたままでの出発である。

 でも、竜宮城に到着して二体のヒラメに乗りわける時に問題が起きた。ルフィが、離れてくれないのだ。

 

 「ナミは俺とだろ」

 「ヤダ!ルフィが1緒だと、ルフィ悪戯してくるから私はロビンと居る!!」

 「ナミちんの傍に居たいけど……駄目かな?」

 

 ケイミーの発言に顔がニヤける。仲良しの友達が揃って居てくれるとか、どんな天国……?

 そう思っていたらロビンが頭を撫でてくれる。その直後サンジ君が叫び出す。

 

 「そんな!女性3人が全員揃っているなら、男サンジ!お傍を離れる訳にはいきません!」

 「ハチとルフィは俺の傍から離れんな!!サンジも危険だから同じだぞ!」

 「はっちんと離れられないから……私、チョッパーちんといるしかないか……な……」

 「ニュー……俺はもう大丈夫だから、気にしなくて良いぞ」

 「俺が悪者みたいだから辞めてくれよ。……ケイミーがいるなら、ハチは別でも良いかな。サンジとルフィは俺と1緒だぞ!」

 

 そんなこんなで大騒ぎになって、結局鼻血で危険性の高いサンジ君とルフィをチョッパーと1緒にする為に、ロビンを生贄に捧げる事となった。そして逃げられたら困るとルフィが騒いだ為にジンベエちゃんもルフィ側になれば、自ずとサンジ君とノリの近いブルックがそちらに乗る事で落ち着いたのである。

 残りのメンバー、私、ゾロ、ウソップ、フランキー、ハチ、ケイミー、パッパグが隣のヒラメに乗り込む。そうして私達は漸く、宴の席へと向かう事になったのである。

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