誰かと共に戦うなんて、ルフィと再会するまでやった事が無かった。シャンクス達は危険な時はいつも私を船内に閉じ込めてたし、戦える事は他人知られない方が良いと言ってくれていたから、それに甘えていた。
幼いルフィ達との時は、エースやサボで何とかなりそうなら、私はルフィを守る事に集中していたし、無理そうなら、私が1人で戦ってた。巻き込むような戦い方しか出来ないから……そう言って背後に居てもらってた。
だから、1人で戦う事の方が私には楽だったりする。協力して戦う事の大切さも、仲間に庇われる事も、全てルフィ達が教えてくれた。
でも、今は1人。ならば、ほんの少し前のように戦えばいいだけの事。
「その辺の小娘達と1緒にされちゃ、堪んないのよ」
「そうね。その辺の小娘は、そんな変な技も使わないし、素人とは思えない動きだわ。何より……七武海に狙われるなんて只者じゃないのは理解出来てるのよ。でもね……それだけ」
嘲るように笑う相手の目の前で、クリマタクトから水を出しつつ持ってきていた海水をぶちまける。女は呆気に取られた様子で私を見て、それから可哀想なものを見るような視線を向けて来る。
「貴方、大丈夫?」
思わず問い掛けたくなる気持ちは分かる。でもだとしたら原作のナミちゃんのこのシーンを見ていた時、どんな気持ちだったんだろうと思うと、本当に泣けてくる。
クールボールを出して、ヒートボールを出して、準備を整える。不憫そうに見てくれてる間に、少しでも進める必要がある。
見上げれば予定よりは大きな雲が出来ていて、ウソップに改良して貰っていてよかったと心から思う。そんな私に溜息を落としてから、生け捕りにするのは諦めるわ、面倒になってきたものなんて言われてしまう。
……実力だけ見ても拮抗してるだろう私を相手にするのだもの、生け捕りなんて無理な話よねと挑発すれば、すぐに高速回転しながら突っ込んで来た。至極読みやすい動きをされれば、躱すのも容易い。
戦いなんてのは、冷静さを先に失った方が負けるのよ。男の友情物語じゃあるまいし、そんな簡単に感情を乱されてたら、勝てる筈もない。
私に避けられても動きを止められないのか、直線上にあった建物の壁を円形に貫き、更には焦げ跡まで残して突き進んでいる。自分の体の制御が出来てないならば、能力者とは言えまだまだ未熟。
付け入る隙だらけねと思いながら、女が姿を現すまでに雲を更に大きくして行く。悔しそうに私を睨みながら姿を見せた女に、私は笑みを浮かべてみせる。
そして、用意していた巨大な雲から雷を女に向けて落とす。ゴムであるルフィと、空島の自称神様以外は……ある程度これでダメージを与えられる筈だもの。
……いや、勿論四皇の人外じみた強さの前では、そんなの無意味だって分かってるわよ?
それでもまだまだ意識を保ってるところを見れば、流石は社長が認めたエージェントの相棒と言わざるを得ないかしらね。怒りに燃えるその姿にもう1度雷を落として、それでも向かってくる女に私は細く息を吐き出す。
「本日の空は湿度風共に安定し、高気圧による晴れ晴れとした1日となるでしょう」
突然語り出す私に女は攻撃を仕掛けてくる。でも、見えてるそれは幻で、本物は姿を隠しているから見当違いな動きとなる。
そういう使い方だって出来るのよ。力が無いなら、天気を操れば良いじゃない!
「しかし1部の地域のみ、蜃気楼や旋風の心配が必要です。トルネードにご注意ください」
この技は相手が動かない事が大前提の大技。小鳥のおもちゃは出なくなった代わりに、蜘蛛の巣のような形をした網のような物が出るように改良されてる。
でも、それだって抑え込む事が出来なければ使えない。それに対する不安は、既に無い。
だってね、こいつらが居なければビビは国を飛び出す事は無くて、今頃自国で幸せに笑っていた筈なのよ。この国の人達も、平和に生きていた筈なのよ!
「天候は竜巻!」
「シーアーチンスティンガー!」
互いの言葉が重なり合う。トップエージェントととしての矜持と、小娘を相手にしてるという大人としての意地とが女から伝わる。
真っ直ぐに突っ込んでくるそれを避ける事無く左足で受ける。左足を貫く棘があるけど、これでこの女も動けはしない。
「この程度、痛くも痒くも無いわ。……あの子の痛みに比べたら、屁の河童!」
「強がりを」
相手もまた、逃げ回ってばかりだった私の足にダメージを与えた事で、にんまりと笑っている。確かに私の足からは血が滴り落ちているし、足の甲さえも突き抜けている棘が痛くなかったら既に神経が死んでるって事になる。
だから当然実際は肉体的に痛みだってあるし、つらいとも思う。それでも、この状況を作り出す必要があった。
絶対に逃がさない。確実に倒して、ビビを〝ビビの国〟へと帰すのよ!
「トルネードテンポ!」
技の発動と同時に、巻き込まれないように足を棘から抜いて地に下ろせば、痺れるような痛みが走る。脳天まで突き抜けるようなその痛みに、少し失敗したかなと思う。
貫かせる位置を間違えたかもしれないと思いながら、網に捕えられた女はクルクルと回転して、私を後方に吹き飛ばしつつそれこそ竜巻として発動する。何処までも飛んで行くそれを見ながら、私も反動で吹き飛ばされて瓦礫の中に背中から飛び込む形になる。
覇気でそのダメージは受けなかったけど、少しばかり無理しちゃったかなと思う。それから起き上がり壁を突き抜けて瓦礫に埋まる女の様子を見れば気を失っていて、脈も正常だし、死んではいないけど暫くは目覚める事も無いだろうと思う。
アルバーナ北ブロック、メディ議事堂裏通りの戦い、勝者はナミ。
網の回収をしつつ何か金目の物は無いかなとその体を漁り、持っていた金品はシッカリと懐に入れてから立ち上がる。反乱の音は、戦いの音はすぐ近くまで迫っていて、ビビの事がどうしたって心配になる。
反乱軍と国の戦争状況は今どうなっているのか。皆は今どうしているのか……少しでも正確な情報が欲しい。
立ち止まるのはどう考えても得策じゃないからと、王宮を目指す。ビビが反乱を止め損なったとしたなら、生きてさえいれば王宮を目指す事くらい分かる。
自分の通った所に、足跡のように血痕が落ちてるのは分かってるけど、そんな事はどうでもいい。早くビビと合流しなくちゃ。
その時血塗れで倒れているゾロを発見して、慌てて近付く。口元に手を持って行けば呼吸をしているのは確認出来て、ホッと息を吐く。
「ゾロ!」
自発呼吸してるならば問題は無さそうだけど、声を掛けても反応は無くて、取り敢えず体の向きを変えて様子を見てみる。どうやら、傷は体の前面にしかない様子だからその体を仰向けに戻してから、荷物の中に入れてある消毒液をダバダバとかける。
女の子はオキシドール位持ち歩いてるものよねなんて思いながら、残りを片付ける。それによりゾロは呻きながら意識を取り戻したので、痛覚があり神経に問題は無いと理解する。
その勢いのままでガーゼに薬を付けて、その傷口に塗り込むようにガーゼを押し当てると情けない声と共に覚醒したらしい。でも反撃して来ない所を見れば、状況は把握してくれてるらしいとわかり、記憶障害等もないと分かれば体から力が抜けそうにもなる。
体をゆっくりとだけど起こしてくれたゾロに抱き着くようにして包帯を巻き付ければ、それを受けた後ゾロが小さく呟いた。
「ありがとう。助かった」
「気にしないで良いわよ。でも、応急処置でしかないから、後でちゃんとチョッパーに診て貰ってね」
私は言葉を向けながらも、ホッとして気持ちが緩むのを感じていた。……ゾロが無事で良かった。
その時ゾロは不愉快そうに眉を顰めると、ヒョイっと私の足を持ち上げた。それに驚きの声を上げる私を、ゾロは睨み付けてくる。
凄むようなそれに言葉を失っていたら、ゾロはわざとらしく溜息を落として来る。
「なんで応急処置の道具持ってて、自分のは放置してやがる。俺のより、この足をどうにかするべきだろ」
「……大した事ないから、大丈夫よ」
「ほォ?」
言いながらゾロは私の傷口に手を伸ばすから、ごめんなさいと謝る。無傷でもその力で握られたりしたら結構痛そうだから、本当に触らないでと心から思う。
そんな状態で治療しろと言われて、私は仕方無く治療する事にした。その間ゾロはじっと私を見ていて、何かあったかなと思う。
包帯を巻き終えた時、ゾロが困ったような顔で問い掛けてきた。
「ナミは、なんだってそんなに自分を顧みねェんだ?」
「ゾロ?」
思わず振り向けば、視線で治療を続けるよう言われてしまい視線を外して治療を再開する。そんな私にゾロは責める風でもなく、ただ本当に困ったような声音で問い掛けてくる。
「どう考えてもナミは馬鹿じゃねェ。それなのに、どうしてそんなにも自分の事を蔑ろにするんだ?」
「……そんなの、ゾロだって」
「俺は、望んでやってるから良いんだよ。強い相手と戦い、世界1の大剣豪になると決めている。だから、問題はねェ。寧ろその為なら、どんな戦いだって喜んで飛び込んでやるよ。だけどよ……ナミは違ェだろ」
海が突然凪いだかのような静かな声で、ゾロは言う。それに耳を傾けながら、私は治療を済ませると使った物を片付けてしまう。
「見てりゃ分かる。戦いなんかしたくねェ、誰にも傷付いて欲しくねェって願ってる。その癖、自分はどうなっても良いとか考えてるだろ。……それは、ナミを大切だと想ってる奴全員を、傷付けてるだけなんだって事、自覚しとけ」
私の治療が終わったのを確認したらしいゾロは、私の顔を1度見て溜息を落としてから、有無を言わさずに抱き締めてくる。何事かと思って焦る私に、ゾロの声が降る。
「……俺は何も見てねェから、その顔、どうにかなったら声掛けろ。それまでは……汗とか血の臭いで嫌だろうと我慢してろよ」
何かが、顎を伝って落ちて行くのを感じる。でも、どうしてこうなってるのか分からなくて……私はそれを抑えられない。
いつから私は、こんなにも弱くなったんだろう。どうして、ゾロはこんなにも優しいんだろう。
優しく頭を撫でてくれるその手が、微かではない戸惑いを含んでいるのが分かって少しだけ……切なくなる。慣れない事をさせてると分かるから、早くいつものように笑わなきゃと思うのに、よく分からない感情に振り回される。
皆が生きていてくれるなら……私はそれ以外に何も望みはしないのに……。もっと、強くならなきゃいけないのに。
私の感情と涙が落ち着くまでの暫くの間、ゾロは何も言わずに私をただ抱きしめて、頭を撫で続けてくれる。その温もりに、私は甘える事しか出来なかった。