水が欲しいな……なんて思った時、大量の食事と飲み物を抱えたルフィと、それに付き従うような形でジンベエちゃんが姿を見せる。ルフィが皆ここに居たのかと言えば、それぞれがなんで居るのかを1言ずつ告げて、中心に座るルフィに視線を向けた。
その時についでだからとその手にしている食事から果物を貰って口に運べば、ルフィがじっと見詰めてくるからその視線が絡む。そのままじっと見ていたら、ルフィに手招きされるから素直に近付く。
「ルフィ?」
「ん……」
隣まで移動したのに、ルフィはまだ手招き続けるから首を傾げてしまう。その時ルフィの手が私の後頭部に触れて、そのまま髪の間に指が滑り込まされたと思ったら、顔が近付き……唇が重なる。
舌が滑り込んでくるのかと思っていたら、押し込まれたのは丸っこい果物で、それを押し込まれた直後に離れる唇が妙に寂しい。思わずルフィの唇を見詰めたら、それが静かに笑みの形に変わる。
「……足りなかったか?」
「ん!?」
ハッとして、口の中にある果物を庇うようにしてルフィから離れるけど、でもその果物の為に抗議さえ出来ない。……あ、これ、サクランボだわ。
美味しい。まだあるなら少し食べたいかも。
「それ、ナミ好きだろ」
「うん。果物は大抵なんでも好きだけど、これ、美味しいわね。まだある?」
「あるとは思うけどよ。……こっちも食うか?」
そう言って差し出された梨を手にして、ありがとうと言ってから皮を剥き始めればルフィが口を開いて待機してる。つまり、寄越せと言ってる訳だ。
でも、食べたいならいつもみたいに丸齧りすればいいのに。皮を食べたくない気分なのかな?
「……私にくれたんじゃないの?」
「そうだけど、俺も喰いたい。あー……!!」
「わかったから肉でも食べて待ってて。剥いたらあげるから」
大きく口を開けて待つルフィにそう言って、うさぎに剥いたそれをお皿に並べれば、ルフィが不満そうに私を見る。仕方ないなと、1つ摘んでルフィに向ければ再び開かれた唇。
そこに押し込むように入れれば、何故か手首を掴んで指まで食べてくるルフィに、声にならない悲鳴が出る。指を舐めてから解放したルフィを睨めば、にししっと笑われてしまい毒気が抜けてしまうのだから私も大概よね。
「ルフィの、馬鹿……」
「美味かった!俺肉食うから、後はそれ食っていいぞ」
なんだか食欲は失せた気がするけど、とりあえず仕方ないかとうさぎのひとつに手を伸ばしたら、チョッパーが物珍しそうに見ているのに気付いた。……そっか、兎だから。
「……チョッパーも食べる?」
「いいのか!?」
「勿論。……昔から林檎とか梨とかは兎にしちゃうのよね。まぁ、嫌じゃなければどうぞ」
「ありがとう!!これ、可愛いな!」
嬉しそうに食べるチョッパーを見て癒されていたら、サンジ君の石化が緩やかに解除されて行くのを目視する。ウソップは流石にいらないのか、嫌そうに顔を顰めてるのであげない方向で考えつつも、ジンベエちゃんには梨を差し出す。
「お1つ、如何ですか?」
「有難く」
そうして梨を齧りながら私を見たジンベエちゃんは、直後にルフィが私を抱き締めたのを見て、何故か開きかけていた唇を閉ざし無言になった。……梨、美味しくなかったのかな?
不審に思って手を伸ばしてひとつ食べてみるけど、ちゃんと美味しい。……何が問題だったのかしら?
「……甘くてな。驚いただけじゃ」
「え?あ、声に出てました?」
「不思議そうにしとったから、そうかと思ってな。……さてルフィ、この二年に起きた大きな事件の話をするぞ」
そうしてジンベエちゃんはルフィに赤犬と青雉の元帥になる為の戦いや、白髭海賊団のオトシマエ戦争についてを語り出す。その度に驚くルフィに、本当に何も知らなかったのねと苦笑してしまう。
あ、このキウイも美味しい。黄色のは甘みが優しくて、緑のは酸味が効いてて最高だわ!!
「……ナミ、美味いか?」
「うん。ルフィも食べる?はい」
スプーンを差し出すとルフィはそれをパクリと食べて、頷く。でもどうやら肉の方が良いらしくすぐに肉を食べ始めたのだから、ダメな子だと言わざるを得ないだろう。
でもまぁ、喜んでるみたいだし、それでいいかな。そう思って果物を食べたり食べさせたりしながらジンベエちゃんの話を聞いていたら、何故かジンベエちゃんの顔に青筋が立ち始める。
「聞いとるか!?」
「うん。10日に及ぶ決闘をした大将2人の勝者が赤犬で、青雉は現在行方不明なんでしょ」
「ナミから聞くと話短くていいな!!」
「これでも大分纏めておるんじゃがな……。ええか、お前達。この二年の〝新世界〟でも最もデカい変化を2つ覚えておけ」
そうしてジンベエちゃんは、改めて赤犬が〝元帥〟となった事を語る。ルフィは青雉の安否を気にするけど、だとするならやっぱり青雉は悪人ではないのね。
そう思いながら話を聞けば、どうしても白髭海賊団が負けたその話が出る。この2つが、世界的に見ても大きな出来事だから。
黒髭がその後勝手知ったる縄張りとして、簡単にその海域を制覇した事を告げられれば、掌に爪がくい込むのを自覚する。今では、四皇と呼ばれるのは〝白髭海賊団〟ではなく〝黒髭海賊団〟なのだと……。
その上で〝能力者狩り〟に奮起している彼等の話を聞けば、この1味においては狙われる人も居ないだろうとホッと胸を撫で下ろす。ただし……。
「エースの悪魔の実……メラメラの実と、マルコの悪魔の実は間違いなく狙われるわね。メラメラの実はもう復活してるって聞いてるから、黒髭海賊団は間違い無くそれを狙って動くわ」
「エースの、実……。なら、俺が先に見付けて手に入れる!!そうしたら、次にエースに会えた時返してやれるよな!?」
ルフィの言葉に私は言葉を失う。確かに、それが出来たらどれだけ良いだろうか。
けれどもエース生存を知らない人達は、そんなルフィの言葉に泣きそうな顔をする。そんな中で、ジンベエちゃんは重々しく声を紡ぎ出した。
「ルフィ……エースさんは、もう……「生きてる!!エースは、生きてるよ」ルフィ?」
不思議そうにルフィを見詰めるジンベエちゃんに、私が代わりに答える。その間にチョッパーが慌てていたのは、ウソップが突っ込んでいた。
「エースは、あの後蘇生しました。私が戦場を離脱せずにいたのは、心臓マッサージをする為でしたから。サッチさんの協力もあり、その後はシャンクスに守られながらの治療を行い、エースの蘇生に成功と言う形です」
「な、んじゃと!?」
「しかし、悪魔の実の能力は失われ、その関係で約1年、私はエースと共に空島で修行を行い、エースはその後オトシマエ戦争に参加。安否不明となっております」
ジンベエちゃんの反応は予想の範囲だったので言葉を続ければ、少し考えるような仕草をしてから食い気味な様子で尋ねて来た。それは確かに、もっともな疑問だと思うけど……。
「エースさんが……だが、ならば何故、新聞にそれがでとらんかったんじゃ!?」
「確実ではありませんが、エースは隊長を降りた……と言う可能性があります。実力不足を理由にすれば、それもまた可能かと。マルコが言うには、サッチさんも隊長を降りているそうです。その方が大きな後遺症があると黒髭に認識させられるというのも、大きな理由だと聞いています」
「そうじゃったか……。エースさんは、生きて……」
そのまま男泣きするジンベエちゃんに、だから確実じゃない話なのよ?とは言えなかった。そうしている間に、ルフィは食事の為にと傍を離れており、ジンベエちゃんから既に意識さえも離れている。
「ルフィ君に至っては〝黒髭〟ティーチとの因縁も深い。充分に……ルフィ~!!聞いとんのかワレァ!!」
当然のように聞いてない。ルフィは今、次の食べ物に夢中である。
あら、お菓子食べてる。そう言えば、ルフィって甘い物も好きよねー。
「貴様船長じゃろうがィ!!情報を身につけろ!!」
「あー、いいよジンベエ。俺達が聞いたから」
「船長たる者、船員の命を預かっとるのと違うんか!!ルフィ!!」
「え?船長って話聞かねェ奴の事じゃねェのか?」
怒鳴るジンベエちゃんに対して、宥めるサンジ君と首を傾げるチョッパー。あら、いつの間にサンジ君回復したのかしら?
そんな事を考えていたらルフィが満面の笑みで振り返る。手には巨大なロールケーキを抱えて。
「おい、コレ食ったか!?魚人島の〝お菓子〟!!うんめ~!!肉も顔負け」
「食べてないわね」
「ならナミも食えよ!!ほら、美味いぞ!」
「ありがとう」
差し出されたロールケーキを1本丸ごと食べ切るのは無理なので、短剣で輪切りにして皆にも差し出してから自分もそれに手を伸ばす。そんな私にいつの間に起きたのか、ゾロが嫌そうな顔を向けて来た。
「おい、ナミ……」
「ゾロは甘いの苦手でしょ。無理しなくていいわよ?」
「そうじゃねェよ。お前な……」
「お酒なら、呑んでないから返すわ」
「おお、ありがとう……って違ェんだよ!!その短剣!果物ナイフじゃねェだろ!?」
お酒を嬉しそうに受け取り、栓を開けてからなんか妙な事を言い出す。同じ、刃物じゃない。
「え?……切れるんだから、同じでしょ」
「ナミさん、流石にコックとしてその発言は看過できねェよ?剣は人や物を斬る為にあります。そして、包丁やナイフは人を生かす為にあるんです」
「……そんなの、使い方次第じゃない。ダイナマイトだって、元は道を作ったりする為に作られたのに、今では兵器としての役割が強いわ。それにこの短剣は、昔からこうやって使ってたけど……?」
「剣が、泣くぞ」
言われてから短剣をじっと見つめて……うん、問題無いわよねと思う。嫌なら揺れて抵抗するし。
「嫌がってないわよ。本当に嫌なら揺れて抵抗するもの」
「抵抗、された事あんのか?」
「うん。自分の肩を突き刺して、肉を削ぎ落とそうとしたら凄い抵抗されたわ」
「「「あァ……あの時……」」」
ゾロ、ウソップ、サンジ君の声が揃う。それからゾロが見たいと言うので短剣を貸し出せば、その間にもジンベエちゃんはルフィを怒ってたみたい。
でも結局、ルフィに笑顔で出たとこ勝負だと言われてしまえば、脱力する他無いらしい。ガックリと項垂れてジンベエちゃんは言う。
「……お前ら、大変じゃのう」
「「「「そうなんだよ」」」」
私、ウソップ、サンジ君、チョッパーの声が重なり頷けば、そのタイミングでケイミーとパッパグが姿を見せる。どうやら帰ってきたらしい。
「そういや、よわほしの奴見ねェな」
「飲み慣れないお酒で頭クラクラするって言うから、部屋に送って来たよ」
笑うケイミーにその場の空気が少し緩んだ時、ルフィが何かに気付いた。その様子を眺めながら口に運んだロールケーキは、確かに美味しい。
後で作ってるそのレシピ貰えないか交渉してみよう。サンジ君が喜びそうだし、ルフィとチョッパーが浮かれるのが見えるようだわ。
今ここにいないロビンにも食べて欲しいし、今回食べられなかったお菓子のレシピも手に入れば、私もお茶するのが楽しくなりそう。
「……おいゾロ、サンジ!!」
「「ん?」」
「この城、猛獣でもいんのかな……」
「……確かに」
「なんかいるな」
三人が様子を見に行くと言うので、短剣を返して貰ってからそれを見送る。ルフィは大きな肉を片手に、もう片方には食べやすいサイズの肉を押さえつつ歩き出す。
そうなれば、必要な行動を私も取らないと。ここまで来て、変な責任問題になるのは嫌だわ。
「ジンベエちゃん、お城の権力者を誰か連れて来て。多分、なんか起きるわ」
「ん?」
「あの三人が揃ってて、何も起きないなんて有り得ないもの」
「ここは、深海にある城じゃぞ?」
「大丈夫よ。アイツらは問題起こす天才達だから」
そう言ってから後を追って歩き出したその背後で、お前もな……とか、大丈夫って何がだよって突っ込む声がした気がするけど……多分気の所為である。