キスの合間にルフィは優しく笑うから、続けてお願い……と口にする。それにルフィは確かに頷いて、私の首に甘噛みをして来た。
それにより自分の声だと思いたくないような甘い、鼻にかかった声が出てしまえばルフィも少し調子に乗る。そのまま唇が胸へと移動して、その移動の途中さえ跡を遺すルフィに身体がビクビクと反応してしまう。
「ルフィ……意地悪、しないで……」
「少しくらい虐めても大丈夫だろ。可愛く鳴いと……」
その瞬間、ドアを叩く音が聞こえて……私とルフィは動きを止めた。そうだ、朝だった……と思うのは、サンジ君の声で飯だぞー!!って聞こえて来たから。
どちらからともなく笑い出して、でもルフィは少しだけ唇を尖らせる。その様子が昔から変わらないから、何だか力が抜けてしまう。
「昨夜はナミ寝ちまうし、今度はサンジが邪魔するし……俺、ナミを食いたいのに」
唇を尖らせるルフィに、けど、ルフィは食いしん坊だからきっとお腹も空いてる筈。私から誘った手前なんか、やるせないような気持ちはあるけど、ルフィに空腹を耐えろなんて言えないわ。
だからこそ、笑いかける。ルフィにはいつも、自由に楽しんでいて欲しいから。
「なら、ご飯はいらないの?」
「いる!」
「……ご飯は冷めちゃうけど、私は逃げないから、食べに行きましょう」
多分王宮の人達に無理言って、サンジ君が料理したんだろうと分かる。なので恥ずかしさを押し殺して声をかければ、ルフィはちぇー……とか言いながら着替え始めた。
納得して貰えて良かったと思いながら、私もビキニを身に着けてズボンを穿いて……そこで遅ェ!!とドアをサンジ君に蹴破られてしまう。驚いて視線を向けた私と、キョトンとした顔をしてるルフィ。
それを見たサンジ君がルフィの首に掴みかかり、その顔を変形させた。……最近サンジ君の顔が、原型留めない事を増えたわね……なんて、呑気に考えながら。
「クソゴム!!てめェ性懲りも無く、また羨ましい事してやがったのか!?」
「ん?羨ましいってもよ、ナミは俺のだから俺がナミを食うのは当然だろ。まァ、昨夜も今朝もしてねェけどさ」
「……は?」
サンジ君から、間の抜けた声が聞こえる。私は恥ずかしい会話から逃れたくて、急いで身支度を整えて行く。
「ナミ、疲れてたからな。寝かせといた」
「……この、麗しき方を、抱き締めるだけで、何もせずに抱き締めるだけで、寝てたってのか?」
「ん?あァ。ナミを苦しめる気はねェからよ」
「……本気で、尊敬する」
妙な会話をしてる二人を無視して、適当に上衣を羽織った私はサッサと歩き出した。廊下に出るとロビンがクスクスと笑いながら立っていて、並んで歩き出してくれる。
話を聞けばサンジ君の怒号などが聞こえていたと言うけど……どうせ見てたんでしょと私はつい唇を尖らせてしまう。するとロビンはさも可笑しそうに笑うと、頭を撫でて来る。
「ロビン?」
「照れと不満、いじけてる時、怒る事も笑う事も出来ない鬱憤がある時にね……ルフィもナミも、同じようにそうやって唇尖らせるのよね」
「え!?」
「昔から1緒にいるって聞いてるけど、どっちが先かは知らないけど、本当に伝染ったのね……」
癖は伝染るとよく聞くけど、まさかルフィのそれが私に……?
全く自覚してなかったので、妙に気恥しい。そんな私に、ロビンは優しく笑い……そっと頭を撫でてくれた。
途中で立っていた兵士さん達に道を聞きながら食堂へ行けば、王族勢揃いの所にケイミー、パッパグ、ハチも腰を落ち着けているのが見えた。勿論仲間達の大半も揃っている。
「待たせちゃったかしら?」
「お腹すいたと騒ぐ人が珍しく遅れてるから、特に問題は無いわよ」
そう言って笑うロビンと並んで座れば、そんなロビンの向かいにいたフランキーが心配そうに私の顔を見ているのに気付く。良く寝たから、私としてはスッキリしてるんだけどな?
まさか、隈でも出来てるのかしら。だとしたら、ドフィから始まったあの絶倫鬼畜共に正当な請求書を送り付けてやらなきゃ!!
「あー……。今日は、その、食事の後寝とくか?」
「なんで?」
「キツイだろ?同じ男としちゃルフィの気持ちは分かるし、ルフィはまだ若いから……その、負担は大き「してないからっ!!」」
サンジ君にしてもフランキーにしても、どうしてそう……!まぁ、私が昨夜起きていられたか、サンジ君が呼びに来るのがもう少し遅かったなら、してたと思うけど……。
そう思って赤くなる私に、ロビンがクスクスと笑う。こんな時、肉体に引き摺られてか、精神的に幼い事を自覚させられてしまうのだ。
生きてる年数だけなら、結構いい年齢な筈なのになぁ。……そう言えば、巫女様も中身変わってなかったわね。
「ロビンは、私の大切な親友よ」
「ナミ……!!」
思わず口にした言葉にロビンは感極まった様子を見せて、強く抱き締めてくれる。そんなロビンに私も手を回せば、ウソップがルフィにボソリと言った。
「おい、いいのか、あれ。お前の女だって言ってなかったか?」
「ん?どういう意味だ?」
「ロビンと浮気してるだろ。ほら、ロビンの勝ち誇ったような顔!!」
「俺流石に、ロビンとチョッパーには勝てねェよ……。ナミの姉ちゃんと母ちゃん敵に回すのに近いぞ?」
「ん?その姉貴を〝嫌いだ〟とか言ってたから、敵なんじゃねェのか?」
ゾロの突っ込みに、ルフィは首を横に振る。そんな様子を眺めつつ、私はロビンに盛大に甘えていた。
「ナミの母ちゃんからは〝ナミを宜しくね〟って言われたから、大丈夫だ。ナミの家は、ナミの母ちゃんが1番発言力あるからな」
「そういう所だけ、ちゃんと見てんだよなァ……。ほら、飯だぞ」
嫌そうに、そして少しだけ呆れたようにサンジ君が言って、私達に配膳までしてくれる。私とロビンのテーブルにセッティングしてくれるのを眺めていたら、そろそろ離れて貰えますか?なんて言われてロビンと私は渋々離れる事になった。
でも、離れると少し、寒い。ロビンの方が少しだけ体温高いからってのもあると思うけど、多分心が……。
「なんか、寂しい」
「ナミが可愛いわ。もう、閉じ込めたい!!」
「駄目だぞロビン!ナミと俺は今日、でーと!するんだからな!!」
「初耳だけど!?」
「おう!言って無かったからな!!」
ドヤッとばかりに笑うルフィに、言葉が出て来ない。でも、ジンベエちゃんはいいの?
そうよ、ジンベエちゃんに押し付けて、私は別な事やらなきゃ。やる事は山積していて、出航まで遊んでる暇なんて無いんだから!!
「ルフィ、ここを離れたらジンベエちゃんと遊べないのよ?ジンベエちゃんは良いの?」
「ジンベエは……うん。明日な!」
「そう、なの……?」
出航までジンベエちゃんにルフィを押し付けられると目論んでいたのに、なんて事かしら!?そんな事を内心で嘆く私は、ルフィがどうして先に私との時間を望んだのかをわかっていなかったのだ。
「……ナミ、準備とかについては気にしないでいいから、無理しないでね」
「ロビン?」
「大丈夫よ、帰りが遅い時は助けに行くわ」
「へ?」
「2年経っても、ナミのそういう部分は変わらなかったのね」
何故かロビンから残念な子を見るような眼差しを向けられて、私は内心でいじけながらテーブルに向き直る。すると目の前には、蜜柑ジュースでは無い飲み物が置かれていた。
何だろうと首を傾げつつ、それを飲めば何とも美味しい。それに飲んでみれば、ちゃんと蜜柑も使われているのは分かる。
「人参かと思ってたけど、違うわね」
「色は人参に近いですからね」
サンジ君は嬉しそうに笑うけど、隣で同じ物を口にしたロビンも首を傾げている。うーん、何だろう、少し苦い。
「パプリカ、蜜柑、牛乳で作ってあるジュースですよ。……肌荒れに効果アリです」
「「え!?」」
私、肌荒れしてる!?と焦って声を出したけど、ロビンも近いものがあるらしく、頬を撫でて困ったような顔をする。肌荒れは、海だと死活問題なのだ。
「二人とも昨日は大活躍でしたし、お風呂にゆっくり浸かる暇もありませんでしたから、肌荒れに効果のある物にしました。トマトの方が飲みやすかったかも知れませんね。すみません」
他のメニューでパプリカを使ってるから、多分その関係でパプリカをジュースにしたのだと分かるので、気にしないでとロビンと頷きながら答えた。それによりサンジ君が笑ってくれて、チョッパーが解説してくれる。
「パプリカにはカロテンとビタミンCが豊富だから、肌にいいんだよ。カロテンには、肌の乾燥を抑える効果があるからな。肌を作るのに必要なタンパク質は牛乳で補給出来て、ビタミンがその接着剤になるんだぞ。蜜柑のビタミンもあるから効果も高くて飲みやすくなってる筈だ!!」
「正解だ!流石は船医!!」
「そんな……!褒められたって、嬉しくねェぞ!コノヤロウ!!」
相変わらずなチョッパーに皆が和む。つまりは、カロテンとビタミンが豊富なトマトでも同じ効果が期待できると言う事だろう。
必要量が少しだけ変わるから、飲む量がトマトの方が増える筈だわ。でも、ジュースになってるトマトが苦手……って場合を除けば、トマトの方が他の栄養素も期待できるし入手が楽なのは利点ね。
見た目は人参ジュースなのに……とじっと見つめていたら、次々と他のメニューが運ばれて来て……ってあれ?気のせい?
「皆のジュース明らかに色が……」
「あァ、気の所為じゃなく、ちゃんとそれぞれ違う物ですよ。ルフィには貧血に効くやつを、ウソップには食べ過ぎに効くやつ、チョッパーには疲労回復、他の野郎共には二日酔いに効く物を作ってあります」
「サンジ君……2年でなんか、凄い成長したのね」
「ナミさんの本も、随分参考にさせて貰いましたよ。ありがとうございます」
「役立ったなら、良かったわ」
社交辞令だとわかっていても、そう言われれば嬉しい。子供の頃に農作物系の本を出した後調べた物を元にして薬効の本を出したから、多分それを参考にしたんだろうなぁ。
ルフィの前には赤い飲み物が置かれている。聞けば、プルーンと苺で作られているらしい。他にも効果のあるのはあったらしいけれど、緑色の飲み物をルフィが拒絶するだろうと苺が選ばれたと言われれば納得だわ。
チョッパーの前には、炭酸ジュースが置かれているのが見えた。色的にはレモンとか……その辺かしら?
「チョッパーのは、パイナップルにレモン果汁加えた物を炭酸水で割ってます。まァ……チョッパーのだから、炭酸水じゃなくて甘いサイダーですけど」
私の視線を受けてそう答えてくれるサンジ君に笑えば、サンジ君もチョッパーには甘いわと思う。炭酸が苦手な人は、牛乳でも良い筈よね。
そしてウソップの前には、明らかに青汁っぽいものが置かれている。……何だろう、既に悪意にしか思えない。
「……あれは?」
「三葉とグレープフルーツを炭酸水で割ったものです。グレープフルーツよりも三葉の色が強すぎるだけで、嫌がらせじゃありませんよ。胃もたれに三葉は効果的なんです」
なら、キャベツでも良かったでしょうに……と、少し思うような色合いである。でもまぁ、確かにウソップは食べすぎてたからね。
そして当然のように、他のメンバーに用意されてるのも緑だ。でも聞けばチョッパーにパイナップル使ったので、他のメンバーにもパイナップル使ったのにしようとしたらあの色になっただけらしい。
あの色の元はキュウリらしく、成程と納得させられる。キュウリの利尿作用と、パイナップルのビタミンでアセトアルデヒドを追い出すという物だろう。
因みに柑橘類をパイナップルと合わせても良い。それだと追い出す系ではなく、中和する系になる筈。
そんな訳で皆揃って体調に合わせて用意されたジュースを飲んでから、サンジ君お手製の朝食を食べてる。そうしてその後の行動について確認を取れば、各自出航へ向けて動き出す事となった。
勿論、私はルフィに連行されて、即座に王宮を出る事になってしまったのだけれど。今のところ、ルフィを止める手立ては見つかっていない。