突然貰えたある意味休日。腰は痛いし、足は震えるし、いい事なんて何にもないけど……でも、ベッドの上でも海図や地図は描ける。
これがサニーに居るのなら、やるべき事は勿論やれる事も本当に多いんだけどなぁと小さく苦笑しまうのは仕方無い事だろう。思い返してみれば、今回この魚人島ではお金を得る事は無かったけど、出費も恐ろしく少ない。
服はパッパグから無償で提供して貰ったし、その中にはビキニとかもあった。ルフィやウソップ、チョッパーなんかが好きそうなTシャツも多かったのでこれから先助かるだろう。
ゾロやサンジ君も、寝巻きとして使うのに便利そうだったわね。フランキーは服をそもそもなかなか着てくれないけど、ブルックはお揃い嬉しいですとか言いそうだし、ロビンが着たら何でもオシャレに見えるだろうな。
フランキーが頼んでくれたコーティングの方も、無償でいいと言われていたらしいけど、この度王族との話し合いによりそれも払って貰える様子だからそれに頼ろうと思う。やっぱり、フランキーの大切な人に迷惑かけるのは嫌だもの。
……航海日誌は、とりあえず航海してないから良いわよね。陸にいた時の事も記録として1応いつも残してるけど、陸の情報は焦る必要なんて無いもの。
この世界の海のように1瞬毎に変わり続けたりしないから、後で船を泊めてる時にでも書いてしまえばいい。備品の確認も本当はやりたかったけど、今回は魚人島に突入する時に何がどの位壊れたのか、それだけが重要だものね。
つらつらとそんな事を考えながら描きあげた魚人島の地図は、我ながら良い出来だと思う。続いてシャボンディ諸島からここまでの海図を描いてしまおうとペンをインク壺に移動させた時、可愛らしい足音と焦りを隠さないヒールの靴音に顔を上げたまま停止してしまった。
「「ナミ!!」」
HOTELのドアを破壊しようとしているのかと問いたくなる勢いで姿を見せたチョッパーとロビンに、買い物とかは?と聞こうとして、抱きしめられてしまえば言葉なんて上手く紡げなくなってしまう。そのまま2人が私を心配しつつルフィを怒ってるのを聞いて、落ち着かせようと頑張ってみるけど中々に難しい。
この二人は、恐ろしく過保護だ。恐らく、私には特に。
でも、それが何だか擽ったくて、嬉しい。チョッパーもロビンも私に甘えてばかりだとか言うけど……実際私がいつも甘やかされてると思うのよね。
でも、ルフィをそんなに責めないで欲しい。二人もルフィの事大好きなの知ってるから、その言葉が二人の心をも傷付けそうで、それが怖い。
「良いのよ、そんなに怒らないで」
「ここは怒って当然だろ!!なんでナミはいつもいつもルフィを許してんだよ!」
「フフ……。私としては、そろそろ切り落としてもいいと思うのよ?辛かったでしょ?」
ロビンの笑顔が怖いです。でも、とりあえず宥めなきゃいけないのはわかる。
「大丈夫、そりゃ動けなくて不便だけど、自分が怒られるのもわかってて、ルフィは二人に報せてくれたのよ?感謝してるわ」
「ナミ、ルフィを甘やかしてばっかじゃ駄目だぞ」
「そうよ、ナミが甘やかすから限度を知らずにこんな……全身痣だらけにするのよ!……やだっ!!歯型まであるじゃない!!」
言われてから、そう言えば途中噛み付かれたなと思い出す。このまま食い尽くしたいとか言われたの迄思い出して、瞬間的に茹だる私に二人は無言を貫いた。
とりあえず顔の熱がひくのを待って、私は笑顔で言葉を向ける。本当に心からそう思うから。
「いいのよ。……私、ルフィにされるならなんでも嬉しいし、戦って気が昂ってたんだもの、ルフィも発散させないと困るだろうから、ね?」
「「ね?……じゃない!!」」
叫ぶ二人に、大丈夫だから落ち着いてと笑いかけて、とりあえず大人しく治療を受けて看病して貰う。二人は忙しなく焦ったり怒ったりしていて、私はそれを宥めて笑っていた。
きっと、こんな幸福はここでなければ得られない。私は、ずっとここにいたいの。
だから、強くなったのよ。皆を守って、大切で愛しく、優しいこの場所を誰にも壊させない為に。
「そもそも海賊ってこういうものだし、恋人って男がしたい時に女を組み敷ける関係性の事を言うのでしょう?……そう考えたらルフィって寛大だし、優しいと思「誰が、そんな事を言ったの?」」
「え?」
自分の、何もしなくても丸まっていく髪の毛に指を絡ませつつ言葉を口にしたら、ロビンの低い声が聞こえて来た。驚いて顔を上げれば、笑顔のまま背後に吹雪を背負う般若が立っていて……。
えっと、待って。ロビンってハナハナの能力者で、つまり能力は花の筈なのに……どうして吹雪を背負ってんの?
「誰が、ナミに、恋人とは、男が好きな時に女を組み敷ける関係性、だなんて……教えたの?」
「過去の経験から、そう、判断したんだけど……?」
あれ……?でも、確かに親友達はそんな感じ無かったわ。
うむ、つまりは必ずしもそうでは無いのかも。だとしたら、幸せな恋人達と1般的な恋人達の違いかしら?
幸せな恋人達は共にデートしたり、笑いあったりして、合意の上で性行為を行うって事?でも、だとしたら、私は今幸せな恋人達って枠になるわよね。
そこまで考えた時、デートの途中でルフィから貰った指輪を見て、二ヘラっと笑ってしまう。本当に幸せだなと思うから。
怒っても、いじけても、ルフィは許してくれるし……私を他の男に貸し与えようとか、私を殴ったりとか、何もしない。ただ、恥ずかしいと言っても声を聞きたがるのだけは酷いと思うけど。
元々、声を出すのは良くないって言われて来たし、そうすると……ルフィは海賊だから背徳感みたいなのを感じたくてそれを願ってるのかしら?あ、そう言えばミホークやシャンクス、ドフィなんかもそうだったわね。
……だとするなら、やっぱり海賊だからなのかな。うん、きっとそうね!
私の発言に怒り狂ったチョッパーとロビンに問い詰められて、自分の恋人定義と行為中の声や反応について吐かされた私が、その後どれ程怒られたりしたのかは……割愛しよう。その結果、どうやらこの世界では海賊だからではなく声を出すのは良くない事ではないらしく、寧ろ……。
「えっと、つまり……声を聞くと、ルフィが喜ぶの?」
「……端的に言えば、そうね。恥ずかしくて耐えられないからって抑えちゃうのは可愛いからいいけど、声を出すのが罪というのは、間違いよ。皆に聞かれたくないから抑えるとか、そういう概念でいて大丈夫。……寧ろ声出させようと虐められると思うから、抑えないで甘えた方がマシだと思うのよね」
後半はボソボソっと言われたので、上手く聞き取れなかったけど……。うん、まぁ、いっか。
そうしてロビンとチョッパーにより、恋人の定義を教えられて驚いて居た時、ふとロビンのピアスに気が付く。お揃いじゃなくなっていたから。
「ロビン、そのピアス……」
「え?あァ……ナミとお揃いのをね、壊しそうで怖いから別なのも欲しいって呟いたら……フランキーが……その……」
目元を少しだけ赤くして、ロビンが視線を逸らす。その仕草が愛らしくて……元が美人だからこそのギャップに私が悶えそうになる。
これは、フランキーも虜になるわ。私が男なら、ロビンは誰にも渡さなかったのに……!!
「ロビン、可愛い!!」
「ナミの方が可愛いわ」
思わず言った私の言葉に、ロビンは真顔で返して来た。……解せぬ。
でも負けない。私のロビンへの愛は強いんだぞ!!
なんと言っても会う前から大好きで、会ってからは愛しくてたまらないんだから。私はずっと、ロビンに会いたかったんだもの。
「私が男ならロビンは誰にも渡さなかったのに!!」
「同じ事を、よく、私も本気で考えるわ」
「これが伝説の、相思相愛!?」
「貴女とルフィも普通に相思相愛だから、別に伝説じゃないわよ」
「二人の会話って面白いなァ」
チョッパーがそう呟いた時、ロビンが私の指輪に気付いてニッコリと笑った。そして、良かったわねと優しく言葉をかけてくるから、それにありがとうと頷きそっと自分の手で指輪を守るように手を握る。
そんなこんなで話を終えた時、ロビンとチョッパーが私をサニーへと連れ帰ると言うので、動けないけどと1応自己申告したら二人は同時に首を傾げた。何を言ってるのかと言わんばかりに。
「「ナミの事は抱いて運ぶつもり(だ)よ?」」
それからチョッパーの人型は目立ち過ぎるという事で、とりあえずロビンに横抱きされて運ばれる事になった。私の身体にもう少し力が入るなら、背負う方が道も塞がなくて良いけど、なんて笑うロビンに私は勝ち目を見いだせない。
なのでホテルの鍵を返却したりするのは、チョッパーの仕事となった。その後ロビンに抱えられたまま私達は帰り道で買い出しという名のショッピングをしたり、途中の喫茶店でケーキを食べたりして過ごす。
「う~……」
「どれで悩んでるの?」
「栗と、桃!!後、苺は絶対食べるんだ!……でも、苺は普通のケーキか、ロールケーキかで悩んでて……」
どうやら二つは食べると決めてるらしい。確かにケーキメニューは豊富で、悩ましいとは思うけど。
動いてるし、ケーキを3~4個位ならチョッパー食べられると思うんだけど。どうしたのかしら?
「全部食べ切れるなら、別に頼んでもいいわよ?」
「……お小遣い、残り少ないから……」
その言葉に成程と思う。なら、先に伝えておけば良かったわね。
「今回は、私を運んで貰ったり荷物持ちしてくれてるから、ここの支払い気にしないで良いわ。……ロビンもね」
「ホントか!?なら、四個頼む!!」
「チョッパー、残さないのよ?」
ロビンが優しく忠告すれば、チョッパーは頷いて店員さんに声をかける。そうしてロビンは、珈琲と共にラズベリーとブルーベリーの使われているパイを注文した。
それを見て私は蜜柑と蜂蜜のケーキと、早摘みのアッサムティーを注文して運ばれて来るのを待つ。少し離れた所から聞こえて来る喧騒に、ウチの1味は相変わらず騒動と共にいるらしいと三人で笑い合っていたら運ばれて来たケーキと飲み物。
それを見て取り皿を1枚追加で頼んで、ロビンに蜜柑のケーキを1口分お皿の端に置く形でプレゼントすれば、ロビンも同じように1口パイを分けてくれた。それを見てチョッパーが羨ましそうにしてるから、取り皿が来るのを待って、私とロビンが1口分ずつそれに乗せて渡したのは当然だろう。
お礼にとチョッパーがどのケーキを渡せばいいのか悩んでいたから、私は桃を1口、ロビンは栗を1口分けて貰う事にした。チョッパーの大好きな苺を奪う気は、私とロビンには無いのだから。
そうしてチョッパーがケーキを目の前に喜んでる間に、ロビンから備品の在庫確認を済ませてしまう。その流れで、二人で必要な物を確認しつつケーキと紅茶を堪能する。
どうやらこの島は、本当にお菓子系が美味しい島らしい。約束のレシピは受けると前にサンジ君が大喜びで確認していたらしいから、その材料も購入してる事だろう。
そうなるのを見越して、少し多めに食費の予算を渡してあるのでどうにかなるかな?サンジ君なら、上手くやれるとは思うけど……。
「ナミさん!!ちょうどいいところに!」
「あら、サンジ君。マーメイドカフェはもう良いの?」
「それは昨日行ってきたからいいんだけど、果物が揃えきれねェんだよ。どうしましょうか」
言われてみれば確かに、この島では果物は案外高い。木の多い島とかだとそこで入手もできるけど、この魚人島では流石に難しいわよね。
入手が難しいと言う事は、即ち物価が高いという事。なのでケーキも、果物入りは案外高値なのだ。
「……ここでは果物を数種類で我慢して、安く仕入れられる所で仕入れてお酒に漬け込みましょう。そうすれば果実酒も作れるし、果物も長持ちするわ。その時はジャムとかも作ってね」
「勿論ですよ。そうなると……柑橘類はナミさんの蜜柑がありますから、他の果物で選びますね」
それに頷いて走り去るサンジ君を見送る。多分普通に三人でお茶してるだけだと思われただろう事に内心でホッと息を吐き出した時、テラス席に座っていた事を後悔する事となった。
何やらまた騒がしくなったと思ったら、今度は王子様の登場である。視察とかもするらしいからそれかなと三人で顔を見合わせて、普通にケーキを口に運んだ瞬間に声を掛けられた。
「お探ししておりました!ナミさん!!」
「……私?」
何故に、私は探されたのか。私に王子様が何用ですか。
流石にそう問掛けるのは躊躇われる。でも……と思ってその姿を見ていたら、差し出された長細い箱。
「お約束の品です。ナミさんに酔わされたので、最高級の物をご用意しました」
そうして見せられたのは、確かに鎖特有の音がしないプラチナの紐。流石は王子様ねと思いながらそれを受取り、ありがとうと笑えば何故か少し距離を置かれてしまった。
変な顔になってたかな?いつもと変わらない、可愛い顔だと思うんだけど。
そう思いつつ、とりあえず手荷物に入れていたペンダントトップにその紐をつけて首にかける。それを見たロビンとチョッパーが納得した様子で頷くから、ロビンにお揃いねと笑っておいた。
王子は私のそれに何故か反応してたけど、とりあえず何故か怯えられてるので余り刺激しない方向で考えている。ペンダントトップを胸の間に挟んで片付けると、チョッパーが便利だなと頷くからそうなのよと答えておいた。
食事を終える頃に店員さんに指でバツを作って呼べば、即座に寄ってきてお会計してくれる。バツはチェックと言う意味なので、席で会計してくれるお店はこれに反応するのでアメリカンフード店等ではこれが案外使えます。
できないお店は、知らない事もあるけどね。知ってても対応できない場合は、席でのお会計は出来ないと口頭で答えてくれます。
そんな訳で動けないのもあって席でのお会計を済ませた私は、またロビンに抱えられて移動を開始する。こうなって来ると、車椅子が欲し……あ!
「そうよ!人魚達みたいに、シャボン使えばいいんじゃない?ロビンに紐持って貰えば良いし、それならロビンも買い物しやすいわ!」
「あら、気付かれちゃった。なら、ここからはそうしましょう」
……気付いてて抱いてたの?そう思って視線を向けた時、悪戯に笑うロビンが、やけに可愛く見えて私は負けを認めてしまう。
せめてもの抵抗として、少しだけ胡乱な眼差しを向けてしまったけど、これは不可抗力である。ロビンはそんな私にクスクスと笑い、でも両手空いてる方がいざと言う時に助かるからと私は荷物共々チョッパーに運んで貰う事になった。