出航すると言うルフィに、船の下からハチが申し訳なさそうに聞いて来る。それは、街の片付け等を手伝う為に案内が出来ないが問題ないかというもの。
それに対してルフィは明るく笑う。だから私もそれに頷いて同意する。
「いいよ!来る時の冒険も面白かった」
「そーだそーだァ!!いらねェや、案内なんざ!!男の旅はいつでも地獄行きだァ!!」
「そーだァ!!戦争だこちとらァ!!」
「ヤケね……」
ルフィの断りのそれにウソップとチョッパーが叫ぶけど、まぁ、仕方ないわよね。ロビンの冷静な突っ込みに、漸くルフィは私から離れると見送る人達に挨拶する為に船縁へと飛び乗った。
美しい人魚達からの見送りの言葉に、サンジ君がはしゃげばそれにゾロが突っ込みを入れてまた喧嘩になる。そんな彼等を完全に無視して、王子とルフィは硬く手を握り合った。
「感謝の言葉しかない……!ありがとう!!旅の無事を祈っている」
「うん。……あ、ナミはやらねェぞ。俺のだからな!」
ルフィの言葉に、何を言ってるのかと頭が痛くなる。なのに王子も、何故かそれを否定しないから無理にルフィのそれに付き合わなくても良いのにと思う。
ノリの良い人なのかしらね。真面目なタイプかと思ってたけど、四角四面なタイプじゃ無いなら、国を治めるのもそう難しくもないかな。
「恩人から奪うつもりは無い。ただ、少しばかり憧れてしまっただけだ」
「いーオンナだろ!にししっ」
「そうだな。〝海賊王〟の隣に立つに相応しい」
そんな会話の途中、他の王子達も会話に混ざればルフィも楽しそうに笑い出す。人種とか過去とか、そう言った多くのものを超えてルフィは平然と誰とでも仲良くなる。
それは恐らく、相当に稀有な能力だろうなと思って笑えば、ルフィが私に視線を投げて笑う。でもそれだけでまだ出航はしないのだと分かるから、頷く事でそれに応えた。
ルフィはそこから見送りに来てる人達に視線を戻すと、ただ1人に視線を固定する。ルフィに狙われたら最後、
聞いた話によれば、ゾロは刀と生命をルフィに返されて仲間になるか、拒んで死ぬかで仲間になったらしい。そして、サンジ君も拒んだのにまとわりつかれて最終的に折れたと聞いている。
私もずっと拒んで、結局ルフィに助けられた事で仲間になってる。チョッパーも拒んだのに、まさかの五月蝿ェとそれを1蹴されて仲間になっているのだ。
ロビンは自分から言ったけど、それは腰掛のつもりだったのに、1度受け入れたルフィは二度と手放そうとしなかった。その為の救出劇で……漸く腰掛けではない仲間になったのだ。
ブルックも迷惑かけられないと姿を消していたのに、見つけ出して捉えて、仲間になった。比較的素直に仲間になったのは、ウソップとフランキー位なもの。
だから、
軽くさそうとか、疑問符がついていれば別だけど、ルフィが仲間になれ!と命じた時、それは逃れられない現実となる。……漸く、十人目か。
「ジンベエ!!」
呼び掛けるルフィ。それに対して
いつの間にか、それを見ても何も感じ無くなっている。ルフィがいるなら、今ならアーロンが仲間になると言われても納得できそうな位、心が穏やかだわ。
きっとそれは、この指輪が大きく影響してるとわかっていて、だからこそ指輪を見て思う。……今度、巫女様達に会ったら、自慢してやるんだ!
ルフィもまた、ジンベエに対しておう!と応えただけ。これでやり取りできる時点で、抗う気もないけど、抗える筈が無くなったのを実感する。
「よし、帆を張れェ~!!出航するぞォ~!!」
ルフィの声に皆が1斉に動き出す。私もまた、それに合わせて動き出せば、ルフィが魚人島を振り向いて叫ぶように言う。
「またな〝魚人島〟~!!」
魚人島からはまた来いとの声がかかる。それに続くように人間を好きになったと聞こえてくれば、胸が微かに暖かくなった。
私はまだまだ魚人を好きだとは言えないけど、魚人だから嫌いなんて言うつもりは元々無かったけど……それでも好きだと言われて悪い気はしない。この小さな1歩が、この先を共に歩めるかの分岐点になりうると知っているから。
気遣うように、ロボとタヌキも好きだと言う声が聞こえて、ブルックが骨は?と首を傾げるから、それに笑ってしまう。問題はチョッパーが、タヌキじゃないと半泣きでいる所だろうか。
そこへケイミーやハチ、パッパグの声が聞こえて来て、ルフィは嬉しそうに笑う。そんな中で骨も好きなんて声が聞こえて来て、ブルックが少し投げやり感を含ませてお気遣いどうもなんて言うから、私は可笑しくなって口元に笑みが浮かぶ。
「やっと、笑ったな」
「え?」
「ナミ、様子がおかしかったからな」
そう言って人の頭をぽふぽふして去って行くゾロに、時々こうして兄貴っぽい事するのよねと思う。それは嫌とかではないけど……なんか、気恥しい。
それに、ルフィは嫌がらないかなと少し思う。何でか、ゾロの事もルフィにバレてたし……。
そんな事を考えていたら、進み始めていたサニーが大きく揺れた。何事かとそちらを見れば、船縁に張り付くしらほしがいる。
全身が濡れてるのに、泣いてるのが分かるしらほしに、そうか……と思い至る。しらほしにとって、ルフィは世界を広げてくれた、強くて優しい、初めての〝友達〟なのだ。
「ルフィ様、いつかまたお会い……お会い、できましたなら……!!」
「おわ~よわほし!!」
「しらほしちゃ~ん!!」
言葉を紡ぐしらほしの登場に、ルフィも驚く。それと同時に、サンジ君はハートを飛ばす。
そんな中で、しらほしは愛らしく涙を滲ませる。そんな状態で、しらほしは二人の言葉を無視して懸命に言葉を続けた。
「その時は……もう、泣き虫卒業しておきますから……!!……また、楽しい〝お散歩〟に連れ出して下さいませ……!!」
「散歩~?また、母ちゃんの墓に行きてェのか?」
ルフィの問い掛けに、しらほしは首を横に振る。それはそうだろう。
しらほしは生命を狙われなくなったのだ。護衛になる兵か兄と共にならば、この魚人島で自由に動き回るのは問題なくなった。
そうなれば行きたい場所は魚人島以外だとわかる。でも、ルフィの中でしらほしはまだまだ泣き虫な引きこもりの女の子でしか無いらしい。
「……今度はもっと遠くへ……!!海の上の、本物の……〝森〟という場所へ!」
「そうか~。お前、海を出た事ねェんだもんな~!よし、いいぞ。今度会ったら、連れてってやるよ!」
「お約束を!」
涙を拭いながら、しらほしは小指を差し出して来た。それを受けて、ルフィはなんの気負いもなく笑う。
指を伸ばしてぐるぐると巻き付けている。サイズが違うから、そうするしかないのは分かるけど……なんだかおかしなそれに、けど黙っては居られそうにない。
だって、ルフィがその約束を果たすには私も必須だもの。勿論、ルフィが他に航海士を見付けるから私をいらないと……そう言わない限りは。
「おお、任せとけ!!約束だ!!」
「ルフィ、それ私達にも責任ない?」
「ルフィさん!!約束とは
ブルックが私に続いて反応する。それを受けて、少しだけ不安そうにしてるしらほしに笑いかけた。
そんな顔しないで欲しい。私はそんな思いを込めて、ルフィの横へ立ってその指に自分の小指を触れさせた。
「じゃあ、しらほし。私も約束!」
「俺もだよ」
「じゃ、俺も」
皆が次々とそう言って寄ってきて、しらほしの指に自分の指先を触れさせて行く。ブルックはこれだけ結んでおけば大丈夫かと笑い、参加しなかったゾロとフランキーはその様子を笑って眺めている。
そんな中でルフィは楽しそうに、しししっと笑うからそれが答え。ルフィが決めた事に私達が従わないなんて選択肢は無いのだから。
「じゃ、お前も泣くな」
「……はいっ!!」
私達はそうして〝約束〟をした。そんな別れをした私達は、笑顔で船を進めて、しらほしはそれをずっと見送って居てくれている。
出口が見えてきた時、ルフィが突然背後から抱き着いてきたから、首だけで振り向くと耳を甘噛みされる。それにビクリと身体が震える私を無視して、ルフィはそのままで言葉を告げて来た。
「ナミは、もう少し泣いていいぞ」
「る、ふぃ……?」
「俺は、今度こそちゃんと守る。何も失わない為に、二年耐えたんだ」
「ルフィ……?」
ルフィは真剣な声で、耳から唇を離して言葉を落とす。だから思わずその名を呼んだけど、それによりルフィの腕の力が増す。
「皆に会えない期間、自分で決めたのに、キツかった。でもよ、それを後悔しないだけの力は得てきたから……皆で進もう」
「勿論よ。……何処へでも、連れて行くわ。キャプテン」
「ナミ……ありがとう。宜しくな」
微かに緩んだ腕の力に、ルフィはどうやら本気で不安だったんだと思い知らされた。だから、クルリと身体の向きを変えた私はルフィを抱き締める。
愛しいルフィに、敬愛する船長に、不安の涙は似合わない。苦しい時、辛い時、悲しい時、泣くのを我慢して欲しくはないけど……不安なんて抱かなくていいのよ。
その頬にそっとキスをしてから、その肩を少し押して離れる。私は、航海士だから、ここからは皆の生命は私が預かってるのだとの決意を持って。
ルフィはそれを受けてそっと離れるから、軽くその頭を撫でてから船首の方に視線を向ける。シャボンがサニーを包み、海底に出たのだと思い知らされれば気持ちは自然と引き締まった。
「さぁ、皆!気持ち切り替えてね!!海に出たら安全な場所なんて無いわよ!!また暗黒の海を通るんだから!!」
私の言葉に、けれど皆は魚人島での思い出を語り合ったり、クウイゴスの木片について話したりしている。そんな中でルフィはサニーの頭に立って、ただ上を見つめ続けていた。
そんな姿に私は視線を奪われる。そして、ゾロが気にして声をかけた。
「……?どうした、ルフィ」
「……ここ、上ったらよ……シャンクスのいる海だ!!……会いてェなァ」
その言葉に、私は胸が苦しくなる。だって、ルフィは会えてないのだとここに来て漸く気付いたから。
ここに居るメンバーの中では、私だけが何度もシャンクスに会っている。空島、ウォーターセブン、戦争、そして……つい最近は、シャボンディ諸島まで送ってさえ貰った。
それが微かな罪悪感となる。けど、私は会えて良かったと……それだけを思う事が出来ないのよね。
薄情だと罵られそうだけど、私はシャンクス達に会えたのは嬉しかったけど、それに伴って起きた多くの事を考慮してしまう。そうなると、会わない方がルフィと同調出来たし、良かったんじゃないかと思ってしまうのよ。
その時私は、シャンクスやベックが傍に居るような、そんな錯覚を抱いて慌てて頭を横に振った。今のは、なんだったんだろう。
憧れの人を思い出して、ぼーっとしているルフィが、けれども突然その空気を変える。拳を強く握りしめて、何かに期待するようにキラキラし始めた。
それは少年らしいものでもあるし、でもそれ以上に船長らしいもの。……自由を愛する、海の旅人……。
「この海底を抜けたら!!世界最強の海だ……!!」
「やっとだな……。全部斬ってやる」
「待ってて下さい、ラブーン。後、半周!!」
ルフィにゾロとブルックが続く。だから私も頷いて、それに続いた。
「いいわよ。どこへでも連れてったげる!!」
「そうさ、サニー号なら行ける!!」
「好きなだけ怪我しろ、皆!!」
「食う事には、俺が困らせねェ!!」
「海の戦士も乗ってるしなァ!!」
「フフ……」
引き続く皆の言葉とロビンの笑い声。それぞれが個性的すぎて、誰が言ったのかを確認するまでもない。
そんな言葉達を聞いているのかいないのか、ルフィは前だけ見つめて両腕を上げつつ大声で言う。頭で指揮を執る参謀や軍師ではなく、存在だけで全員を動かす〝王〟らしいルフィのそれ。
「行くぞ!野郎共ォ~!!新世界へ~!!」
「「「「「「「「ウオオオオオ!!」」」」」」」」
二年前まで参加しなかったロビンも参戦して、全員で共に腕を上げる。ブルックまでの全員が力強く雄叫びを上げてそれに参加すると、誰も知らない未来が輝いているような、そんな気がするから不思議だ。
波間の向こうを目指して、知らない明日を目指して、海中を突き進む。恐怖は期待に、不安は希望へ、迷いは夢へと形を変えてその先で輝いているから。
魚人島編─完
ここまでお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。
これにて魚人島編完結となります。
HPにてアンケートを行いました結果に則り、次回の更新からはパンクハザード編になります。その為、Zの話は書かれません。悪しからずご了承ください。
原作が終わるまで、このお話は終わる事が不可能な形式となっておりますので、気長にお付き合い頂けましたら幸いです。今後とも宜しくお願い致します。