※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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アルバーナ

 涙が落ち着いて、代わりに羞恥心で動けなくなった私に気づいた様子で、ゾロは私を抱いていた手を離すとくるりと背を向けた。何だろうと思ったら、おぶされと言うので、何とも言えないむず痒さを感じる。

 それでもその優しさを突っ撥ねるだけの理由も無くて、痛みなんて気にしないで走ろうと思ってたのに、ゾロのそれに甘えさせてもらう。軽々と背負われるとその怪我の治療をしたのは自分なのに、何故か怪我の存在を疑いたくなる。

 

 「ゾロ、痛くないの?」

 「ナミが、手当してくれただろ」

 「重いでしょ、私」

 「……これ以上痩せたら、問題だと思うぞ」

 

 そんな会話をしながら、変な方向へ向かおうとするゾロに指示を飛ばして行く。ゾロは私を背負いながら走り、そして呟くように言った。

 

 「……敵と戦った後、感情を持て余したら俺のところに来い。酒くらい、付き合ってやる。……抱え込むな」

 「ゾロ?」

 「傷付けた事を気にすんなって言っても、無駄だろ。なら……酒と共に全て忘れてやるから、俺に吐き出しとけ」

 

 ゾロは、私をどうしたいのか。落ち着いた筈の涙がまたこぼれ落ちそうになって、それを必死で耐える。

 気付かれてるなんて、考えもしなかった。戦う以上、敵は倒す為にあるし、戦いに負ければ喪う事になるのだと言う事は分かってるから、納得してるつもりになっていた。

 それでも、傷付ければ痛い。傷付くよりも、傷付ける方が……痛い。

 死なないだろうか、苦しまないだろうか。何か後遺症が残ったりしないだろうか。

 そんな事が脳裏を掠める。その躊躇いを理性で押し殺して、表面的には取り繕って戦ってきたのに……シャンクス達の他に、それを指摘した人は居なかったのに……。

 

 「ナミは、俺を誘導してろ。んで、感情を乱すなら酒の席にしとけ」

 「……だれの、せいよ……」

 

 掠れて震える声は、泣きそうなのを耐えるので精一杯な私の弱さを露呈してしまう。少しでも気を緩めたら、優しくされたらきっと私は泣いてしまうだろうと分かっているから、私は最低限の言葉しか口に出来ないままに背負われて移動する事となった。

 ゾロは時折変な方向に進もうとしながらも、私を背負った状態で宮殿を目指して走り続けてくれる。皆もきっとそこにいると信じて、走ってもらう他にできる事は何も無かった。

 宮殿の入口に到着するとほぼ無傷のサンジ君と、1瞬誰だか分からないレベルでミイラ男状態になっているウソップ、そして傷だらけなのにウソップを気遣うチョッパーと、泣いているビビの姿が見えた。ルフィ以外全員が揃っているのを見れば、ホッとして力が抜けそうになる。

 

 「てめェ!なんでナミさんのおみ足に直接触れてんだよ!」

 「そこかよ!?ンなもん、ナミを背負ってんだから仕方ねェだろうが!」

 「ならなんで背負ってんだよ!?」

 「見りゃ分かるだろ!ナミが足に怪我したからだよ!」

 「何ィ!?ナミさんに怪我させるとは、3枚におろしてやる!」

 「お前ェには俺の怪我は見えねェのかよ!?」

 

 ……取り敢えず、私を下ろしてから喧嘩して欲しい。無駄な目立ち方したくないです。

 でも、2人のそれにより自然と笑えて来て、心は随分と救われている。ゾロの肩を軽く叩いて下ろしてもらってからビビの元へ移動すれば、ルフィがクロコダイルと向き合ってるのが見えた。

 

 「後は宜しくな!終わりにするぞ、全部!」

 「ルフィ!」

 

 思わずルフィに声をかければ、1度負けちまったと潔く認めたルフィがクロコダイルを追い掛けて行く途中で1瞬視線を向けてくれた。そして帽子を投げ寄越し、それこそ狙撃手になれそうな安定の投げ方であったようで、私の頭に麦藁帽子が落ちてくる。

 その帽子に触れた時には、ルフィの視線はすでにこちらには無くて、それでも仲間と共に声を揃えてよしっと言ってルフィの背を見送る。ルフィが〝終わらせる〟と言ったからには、必ず終わると誰1人疑う事無く思えたから。

 ならば今私達がやるべきは、ビビの為に諦めずに進む事だけ。ビビが泣いている理由を、解決する事にある。

 

 「狙撃手を探さないと……爆弾が……」

 

 狙撃手がと言う事を考えれば、高い位置から狙うのが定石。勿論下からも狙えるけど、上からの方が効率はいい。

 どちらの場合を考えても、隠れられる場所と言う事は、子供が秘密基地とかを作る場所と思えば良い。それならば、幼い頃にビビが遊んだ場所にそう言った所がある可能性は高い。

 

 「ビビ、子供の頃に秘密基地にしていた所で、国を広く見る事のできる場所は近くにない?物見台とかでもいいけど、それだと隠れられないでしょ?」

 

 私の言葉にビビは驚いたような顔をしてから、小さくあるわと言った。それに頷いてビビを立たせようとした時、ビビに斬り掛かる男が現れて、咄嗟にビビを抱えてその場を移動すれば、足から脳天にかけて突き抜けるような痛みが走る。

 その攻撃して来た男は、サンジ君とゾロにより始末されたけど、どうやら足の傷口が開いたらしい。ビビには怪我が無さそうで良かったと思いながら、ビビに視線で先に行けと言って手を離す。

 

 「「先に行け。すぐに追う」」

 

 2人もそう言ってくれたので、私は呼吸で痛みを鎮めてから気持ちを引き締めて駆け出す。チョッパーとウソップも共に移動して行く。

 その途中で再び道を塞ぐように立ち塞がられて、既に満身創痍のメンバーを見れば私が戦うしかないかと決意を持って足を踏み出す。踏ん張りは効かないけど、戦えない事は無い。

 私は生きて、今この場に立っているのだし、手は普通に動く。頭だってハッキリしてる。

 不可能では無い。……攻撃を躱す事が出来ないだけ。

 クリマタクトに電気を纏わせようとしたその時、思いも寄らない助けが飛び込んで来た。けれども私達は総じて、その助けに対して面食らわずには居られない。

 何故!?

 それが恐らく私達全員の、共通した気持ちだっただろうと思う。何故ならば、私達を救ったのが海軍だったから。

 私は基本的に〝海賊〟も〝海軍〟も大嫌いである事は間違いない。個人的に例えば海賊でもシャンクスは好きとか、海軍でもケムリンは嫌いじゃないとかはあるけど、総称したら間違いなく大嫌いな存在。

 勿論自分が海賊と呼ばれる存在になってるのも分かってるし、麦藁の1味や赤髪海賊団は大好きよ。白髭海賊団にだってエースが救われてるから、好意的なイメージ……マルコさんが冗談でか試しにか唇奪ってきたのは辞めろと思ったけど、他は良いイメージだわ。

 そんな状態の私にはそれは信じ難い光景だし、出来事。素直に感謝して良いのか、裏があるのかと疑うべきかの判断に困るような案件。

 今は確かに〝ビビ王女〟が1緒にいるし、手配書のある唯1の存在〝麦藁のルフィ〟が傍には居ないけど、ルフィの帽子を被ってる私がいて、更にはこの海軍を指揮してるのはケムリンの筈。ケムリンは私達〝麦藁の1味〟のメンバー全員を手配書とは関係無く理解認識している。

 私がルフィの仲間である事に驚いている様子を見せたのは1瞬で、その後はなんでか知らないけど納得した様子だったのだから知らないとか気付かなかったなんて有り得ない。だから……私達を助ける理由なんてものは無い筈なのよ。

 でも、迷ってる余裕は無いから、私は立ち止まっているビビの手を引いて走り出す。足の痛みなんて既に麻痺して、足そのものに既に感覚が無い。

 左足を地面につけた時に、縺れさせないようにだけ気を付ける。痺れて足の感覚を失った状態で走ってると思って貰えたら、わかりやすいんじゃないかと思う。

 

 「理由は分からねェが、海軍が助けてくれなきゃもっと時間がかかった!」

 

 ウソップの言葉でビビは正気に戻ったような表情になったから、手を離してビビに先導を任せる。この国で生まれ育ったビビについて行くのが1番の近道だもの。

 辺りは噴煙が立ち込めており、砲撃や銃撃による砂塵もある。渇ききった空気は喉を焼くようだし、目には容赦無く砂埃等が入ってこようとする。

 それでも足を止めるなんて選択肢は私達の誰にも無い。刃物のぶつかる音等が響き、誰も望まない……いいえ、クロコダイルしか望まない戦いが始まってしまっている事を五感の全てで感じ取る。

 その中で大きな爆発音が聞こえた時、ビビは思わずといった風情で立ち止まるけれど、それをウソップは許さないと言うように叫ぶ。そんな余裕はないのだと、この爆発で例えば50人が死んだとして、国民全員の命をその為に見殺しにするつもりなのかと……そこまでは言わないけど、そんな想いが伝わるような声だと思う。

 

 「バカ!余所見するな!砲撃が止まらなかったら被害はこんなもんじゃすまねェぞ!」

 「……うん!」

 

 再び走り出したビビは、けれども声を詰まらせて涙を堪えて頷くから、私はその顔を見なかった事にして更に奥へと突き進む。今は……慰めるだけの時間が無いから。

 ビビが突然足を止めた事で、目的地に到着したのだと分かるけど、ビビの途方に暮れたような顔を見れば何かあるのは分かる。何かを探すようにしているから、思わず声をかける。

 

 「ビビ、残り時間は少ないわ。こんな所で無意味に立ち止まってる暇は無いって事は分かるわよね?……何を探してるの?」

 「ペルさえ来てくれればと思ったんだけど」

 

 弱ったような声でビビが答えるのとほぼ同時に、何故か時計塔からサンジ君が顔を覗かせた。それに驚いていると、更にその上からゾロまでもが顔を覗かせる。

 そのまま上に登って貰おうと声を張り上げた私の横で、ビビは首を横に振る。その場所からでは内部に行けないのだと。

 そうして階段へ向かおうとするビビを止める。……良かった、この肉体の頭脳がナミちゃん仕様で。

 

 「待ってビビ、私にいい考えがある」

 

 ビビはその言葉に反応して動きを止めたから、ウソップにポーズを指示して計算した場所に立たせると、その上にビビを乗せたチョッパーに乗ってもらい、待機してもらう。当然上から顔を出してるサンジ君とゾロもその場に待機してもらっている。

 ウソップがその状態で、自力でサンジ君の所まで飛び上がる事は絶対に出来ないから、計算をする。サンジ君がいる位置を考えれば横風もある筈。

 そこまで飛べばサンジ君の足の力と、ゾロの腕力、チョッパーの跳躍力を利用すればできない事は無い筈。その計算をしている間に、ウソップが騒ぎ出したのでつい怒鳴る。

 

 「お黙り!今計算してるから!」

 

 時計塔の高さを目算で測り計算を終えるのと同時に、時計塔の蓋か空いた。恐らく敵がいるのだろうと分かるけど、入口が手に入ったならばやれる筈。

 

 「いくわよ!」

 

 皆に声を掛けてから、計算通りに現象が起きるように準備して、皆が分かるように……わかりやすいようにと思って声を出す。

 

 「天候は台風!サイクロンテンポ!」

 

 私の言葉を聞いてウソップが騒ぐのは、この際無視だ。

 

 「目指すは時計塔!」

 

 計算通りに飛ぶウソップを見上げながら、私はサンジ君とチョッパーに向けて叫ぶ。着地なんてそれぞれ男共が勝手に考えれば宜しい!

 

 「チョッパー!サンジ君の所までジャンプ!サンジ君!後は分かるでしょ!時間が無いの!」

 

 そこからは流石麦藁の1味としか言いようのない連携プレイ。チョッパーはウソップを踏み台に蹴り上がり、サンジ君がチョッパーを足に乗せて蹴りあげる。

 それを見てゾロが怯えるチョッパーに声をかけつつ、刀で更に2人を持ち上げる。チョッパーが最後にビビを時計塔へと投げ入れて、ビビが中に居た2人を倒して外に放り出す。

 それによりビビ以外が時計塔付近に全員落ちてきたけど、何とか計画通りに事は運んだし……何よりも、随分な時短になった筈。これで、間に合う筈よね……?

 何故か心臓が嫌な音をたてる。人間、嫌な予感なんてものは、大概当たるように出来るなんてそんな余計な事は思い出さないようにしながら、ビビの笑顔を祈るように待ちながら時計塔を見上げ続ける事しか今はやれる事が無いと言う状態だ。

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