巨大な物
魚人島を出た船は、いよいよ〝
その為に深海魚を目視できるようになった三日目、ロビンが見張りになっていたのをいい事に散々貪られたナミは1週間ダメって言ったのにとプリプリと怒りつつもそれを受け入れて、結局は甘やかしてしまった。そんな訳で、その後も傍に居るとヒトデかタコのように絡み付いて来るルフィから逃げる目的で、ナミはチョッパーを見張りに立ててのんびり入浴中なのである。
自衛する事を覚えたナミに、チョッパーとロビンは協力的だ。とは言え、風呂場に到着してから、まだ3分と経過してはいないが。
「どお?〝シャワー・テンポ〟新技よ?チョッパーも入る?」
「俺いい!一昨日体拭いたから。……それよりその雲、甘くて美味そうだな」
雲を見て美味しそうだと言うって事は、綿飴食べたいのかな。そう言えば綿飴の機械いつの間にか壊れてたけど、フランキーが昨日直してくれてたのには見掛けたわね。
直ってるならザラメさえあれば後は箸でもあれば作れるかと、1人で頷く。もしも箸が嫌なら、何か別な物で考えよう。
「綿菓子機の故障はフランキーに直して貰えたから、後でサンジ君からザラメ貰えばちゃんと本物を作れるわよ。……後で1緒に作る?」
「良いのか!?」
「勿論よ。あ……チョッパー、その雲から少し離れててね」
そう言いつつ私は浴槽に身を沈める。それと同時に覗きに来ていた二人が雷で焦げる事となったけど、覗いたのが悪い。
それでもチョッパーは珍しく前向きで、その雲は食べたくないから後で1緒に綿飴作ろうと、少し引き攣った笑顔で頷いた。それに私も頷いてから、窓の外へと視線を向ける。
「実際これ迄に色々なお風呂に入ったけど、やっぱり〝家〟のお風呂が1番落ち着くわね。……あ!」
「ん?」
「しらほしとお風呂に入りそびれちゃった」
しらほしやケイミーとお風呂入るの楽しみだったのに。なんか、残念な事をしちゃったわ。
「また、来た時で良いだろ」
「え?」
チョッパーから言われるとは思ってなかった言葉に、少し驚く。その奥では炭になってる二人がまだ転がってるけど、それはこの際どうでもいい。
「だって、魚人島通らねェと新世界と前半の海は行き来出来ないんだろ?全部の島回らねェとナミの夢叶わねェんだから、また来るしかないと思うぞ」
「でも……ルフィの望む形で1周したら、ルフィは海賊王なのよ。そうなったら……もう冒険を辞めちゃうかも知れないじゃない」
ルフィが1周回り終えて海賊王になって、その過程でサンジ君の夢の場所が見付かってる可能性は高い。ロビンの夢である〝消された歴史〟も恐らくラフテルでわかるわ。
フランキーは海賊王の船大工として共に回るというのが夢だったから、ルフィが海賊王になったらその瞬間に夢は叶う。ブルックはその後もう少しだけ1緒に回れるけど、きっとその後はラブーンの所に残ってしまう。
夢が叶わないのは、確実なのは私だけ。それ迄の所でゾロとチョッパーが叶うかどうかは本人次第な感じだけどね。
そう考えたら、1周回り終えた時その先も共に進めるかなんて……。そう思って落ち込む私に、可愛い声で心底呆れた空気を醸し出す。
「ナミって、馬鹿なのか?」
「何ですって!?」
聞き捨てならないわねと睨めば、チョッパーが可笑しそうに笑う。そして、サンジ君達を叩いて起こしながら言った。
今は消し炭構ってる場合じゃないでしょ!?とは、言えないので大人しく見てるけど。
「ルフィが海賊王になったからって、冒険やめる訳ない。知らない場所がある限り、ワクワクするって回り続けるし、懐かしいからって行った事のある所を何度だって回ると思うぞ。……そん時にさ、ナミが居なかったら、遭難しちまうだろ」
チョッパーの言葉で、そうね……と納得して頷いた。チョッパーがその後に、ルフィがナミを手放す訳無いじゃんかと続いたそれに気付けなかったけど。
夜空の中にいるような気持ちにさせられる。まるで空……それも宇宙にでもいるかのような気分で、私は外を眺めていた。
「夜空みたいな深海を見ながら入浴なんて、最高に贅沢」
「でも、ナミ居なくて甲板大丈夫かな」
地味に不安になったけど、離れてから7~8分程度しか経過してないのに何かある筈もない。そんな短時間で、しかも深海で問題起こせると思う方が不自然だわ。
そう思って笑う。不安なんて不吉なものは、私抱かない方向でいたいの。
「上昇海流に乗る前に出るから平気よ。海獣が出たら、あいつらが倒してくれるでしょ」
「それもそうだな!!……あ、さっきの雲って幾つも作れるのか?」
「できるわよ。触ってみる?」
言いながらチョッパーに雨雲の小さいのを作って見せれば、楽しそうに雲に触って、降ってくる水に冷たいと笑うのを眺める。お湯にもできるから、浴びたくなったら言ってねと伝えれば、チョッパーは雲を掴もうとして失敗したりしながら頷く。
服を脱いでくれたら、全身洗ってあげるのにとその姿を見て思う。その時、船が大きく揺れ始めて、変な音と雄叫びが聞こえてくれば嫌な予感もしようと言うもの。
「船揺れてるし、甲板騒がしいな……!!」
「やっぱり、任せちゃ駄目だったかしら……」
仕方なくお風呂を中断して、身体を拭くのもそこそこにバスローブを羽織ると表へと飛び出した。すると目の前にあったものを確認して、これは騒ぐわと理解する。
「大変!!あれは〝
ロビンが説明してくれてるのを聞いて、なのにルフィはワープゾーンとか言ってるから1瞬脱力しそうになる。違う、ここで脱力してる場合じゃない。
「皆!!急いであの渦から離れるわよ!!」
「ホラ、航海士登場だァ!!逃げるぞ馬鹿共!!」
そうウソップが叫んだ時、サニーの周りを確認する為に視線を動かした私は悲鳴を上げる。だって、なんか変な巨大な魚があったから。
「何、あの魚!!」
「あっ!釣ったんだ」
あっけらかんと、いや寧ろ楽しそうにルフィは言う。それにより私は、怒りが再燃するのを感じた。
バスローブ羽織ったりする時間もあったとは思うけど、私が甲板から姿を消してからまだ僅か10分弱。どうしてこうなるの!?
「何やってんのよ!!あんなの船に繋いでたら、身動き取れないでしょ!?ホラ、魚が渦に巻き込まれてくわ!!」
「やべ!!取り返すぞ!!」
「違う!!切り離すのよ!!」
「「「「え~!!」」」」
何馬鹿言ってんのと思って怒鳴る私に、ルフィだけなら兎も角、ゾロ、サンジ君、ウソップ迄もが嫌がって声を出し、ええええー!!と声が谺響する。サンジ君は料理してみたかったんだとして、ゾロとウソップはこっちの意見に従うと思ってたのに……!!
何が彼等をここまで結束させたのか。こやつらは、食欲の権化なのか!?
そんなにゾロは酒が飲みたくて、ウソップは魚が食べたいなら、もういらないって位口に突っ込んでやりたい!ルフィにもいつか、もう食べられないって言ってる所で無理に食べさせてやるんだから……!
まさか、この時の怒りの決意が実現される日が来るとは、この時は想像もしていなかった。ただ、この時は目の前にいる馬鹿共に怒りの言葉を向けたのみである。
「魚と生命と、どっちが大事なのよ!!目を離したたった10分で良くもこんなにトラブルを呼び込めたわね!!」
原作のナミちゃんに謝らなきゃいけないような、ギザギザの歯になる勢いで怒る私は、最近はやったらこんな顔してるわと思う。でも、そんな呑気にしてられないので、視線を操舵手擬きのフランキーへと向けた。
フランキーは船大工だって?知らないわ、今のフランキーは操舵手擬きよ!!
「フランキー〝クー・ド・バースト〟!!」
「いや……スーパー、手遅れだ!!」
「あ……」
「な?」
目の前で、魚が白い竜に飲み込まれた。こんな時、案外人間は悲鳴なんて出ないものである。
「うはっ!やっべ~!!」
妙に楽しそうに言うルフィのそれにより、脳が覚醒する。呆然と見てる場合じゃなくて、私はチョッパーを抱き込む形で目の前の柵にしがみついた。
それと同時にルフィが船体にしがみつけと指示を出して、色々安定するまでは何も出来ないからと私は周りを見ながら、とりあえず吹き飛ばされないように腕に力を込める。チョッパーが、そんな私に遅れて気付いて人型になると逆に私を抱えるようにしてその柵に掴まってくれた。
「だからさ、俺を守るなってば!!ナミのバァカ!!」
「だって、チョッパーは基本の状態だと物に掴まるの大変でしょ?」
「……ナミは、優し過ぎるんだよなァ」
「仲間を想うのは、当然じゃない」
クスクスと笑えば、勝てねェなんて呟いたチョッパーだけど、その時何かにぶつかりサニーの動きが安定した。そのぶつかった物を調べようと視線を向けた時、そこに居た巨大な生き物に私の身体は震える。
それと同時にルフィが叫び、ブルックが泣き出した。チョッパーは、私を心配そうに見たり、ブルックを気遣うように見たりと忙しそうにしている。
「ラブーン!!」
「ラブーン!!お前こんなに大きく……!!ぉぉお……」
「馬鹿言え!ラブーンが居るのは〝
ウソップは必死で宥めるけど、ブルックは取り乱している。とりあえず回転するような状態からは脱したので、私は海流を確認する為に立ち上がり、それに気付いたチョッパーが元の姿に戻り船縁へ移動して行った。
「奇跡的……アイランドクジラの群れに出会うなんて……!!」
「ラブーンと同じ様に、頭に怪我してるのが何頭かいるぞ」
ロビンが感嘆の声を出せば、ゾロがクジラの様子を見てそんな事を言う。それにはルフィも頷いた。
「うん。傷までそっくりだ……!!びっくりした。ラブーンじゃねェのか!!」
ルフィでさえそう言うのだから、ブルックの取り乱しようは分からなくもない。突然ビンクスの酒を歌い出したブルックに、ウソップが声をかけるけど、泣き崩れるブルックに今私は何かを言う事は出来そうにない。
その時サンジ君の声が響いた。声を張り上げる姿は、実に立派な指揮官にさえ思える。
「落ち着いてクジラ鑑賞してる場合か!!渦を抜けてもここも充分危険だ!!まず、さっきの渦で誰も飛ばされてねェか!?人数確認!!」
頼れるその様子に頬が緩む。やっぱり、こういう人が居るといないとでは違うわよね。
「ナミさん!!」
「はい」
「ロビンちゃん」
「いるわよ」
「OK!!すぐここを離れるぞ!!こんなデケェクジラに衝突されたら船は大破だ!!」
サンジ君の言葉に、チョッパーとウソップが泣きながら縋る。その様子に、やっぱりサンジだけはサンジ君だったと多少脱力してしまった。
まぁ、今は脱力しても大丈夫だけど。……うん、これは逆らわないのが1番ね。
「ナミさん、指示を!!」
「このままでいいわ!!」
「そう!!このままでいいんだバカヤロー!!すぐにクジラ鑑賞だ!!」
「皆!クジラ鑑賞しつつでいいから、動いて!」
確かにこのままでいいけど、ただ呆然としていたら流石に不味い。帆船である事をちゃんと理解して欲しいわ。
「これだけ大きなクジラの群れは、既に〝海流〟を生んでる!!流れに逆らっては危険が増すわ!しっかり帆を張って、船体をクジラ達と同じ方向へ!!」
「「「「「「「おお~!!」」」」」」」
ブルック以外が雄叫びを上げながら動き出す。その時ブルックが、泣きながら言葉をクジラ達にかけ始めた。
「そうだ、ここはラブーンの故郷……!!ご親族の方、おられますか……!?」
「危ないわよ!!ブルック!」
ロビンがブルックが飛び出さないようにと慌てて声をかけるけど、ブルックの言葉は止まらない。ラブーンに言葉が通じていたのだから、きっとこのクジラ達にも通じると思うからこそ、私はそれを黙って聞いていた。
「50年前……群れから逸れた子鯨をお探しの方……!!ご安心下さいね!!……彼は、反対側の海で……!!元気です!!今や大きく育っているそうです!どうかご安心ください!!」
だからと言って、私がその言葉に耳を傾けてぼうっとしてる事は許されない。ここは私の戦場だから。
「海流を受けて!!」
「うわぁぁぁ」
「船体を保って!!」
「おう!!」
そうして言葉をかけ続けるブルックの傍で、皆がロープを引っ張ったりして軌道に乗った。すると、ブルックが懐かしのヴァイオリンを取り出して演奏を初め、そのまま歌い出す。
ビンクスの酒を歌うそれを、私達は誰一人邪魔する事はない。そんな事、出来る筈も無かった。