※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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演奏会

 本来ならば共に歌ったり、演奏をしたりする皆が黙ってブルックの歌声に、その演奏に、耳を傾ける。すると頭に傷を持つクジラが、そっとサニーを頭に乗せて泳ぎ出した。

 嬉しそうにブルックの演奏に合わせるように鳴くそれは、きっと共に歌っているのだろう。そう思わせられる程に、心地良さそうにその瞳を細める。

 ブオオ……と鳴くそれは、本当にラブーンのそれと良く似ている。その時船が僅かな振動を受けて、その後安定した調子で動き出した。

 

 「おい!!乗せてくれんのか?」

 「ブオォオ……」

 

 嬉しそうに笑っているそれを見て、私は肩から力を抜く。上昇海流に乗って泳いでるこれに乗っている分には、問題なんてない筈だから。

 正直ありがたい。本当に皆と居ると普通なら想像も出来ない事ばかりが起きる。

 この頭に傷を持つクジラ達は、恐らくはラブーンの親族やその親族に近しいクジラ達なのだろう。必死に取り戻そうとして、この壁がなければ……と体当たりを続けたか、ともすれば僅かなその穴を通り抜けようと努力を続けたのかも知れない。

 もしも、チョッパーが言うように何周もすると言うのならば、その時提案してみよう。ラブーンも共に航海すると、ブルックはそう約束しているのだから。

 会って終わりじゃない。なら、次の航海で、共に……と。

 深海まで共に来られるのならば、魚人島経由で家族の元へ行ける可能性は十分に有り得るわ。そう思って笑う私は、きっと情けない顔をしてる。

 それを誤魔化すように皆に言ったのは、別な言葉。今はまだ……そんな不確定過ぎる言葉を口に出せないから。

 

 「このまま連れてって貰いましょ!皆上昇海流に乗るみたい」

 

 ブルックの歌声が続く。そしてビンクスの酒と言う歌が終わり、曲が終わって、クジラ達はそれだけでは足りないとばかりに催促するように鳴き出す。

 ブルックはそれを受けて、別な曲を奏で始めた。それは、私が皆と離れてる間に出していた曲の1つだけど……暗くない?って思ったら慌てて止めようとしたのもわかって欲しい。

 

 「月明の映し絵は柔らかく」

 

 けれども題名を言われてしまえば、もう邪魔は出来ない。ただ、私が慌てた事で1瞬皆の視線が私に集まったけれど、その程度特に問題は無いと思う。

 ブルックの演奏が始まり、直後に歌い出す。それは、妙に優しい声。

 

 「ーーー」

 

 歌い出したそれを聞いて、心から思う。この歌、ブルックが歌うとシャレにならないわと。

 あの夜と言うのは、ルフィに開放されたあの長すぎる悪夢の時代を指すのだろうか。だとしたら、確かに開放されただろう。

 

 「ーーー」

 

 涙を落としているのは、ブルックの中で誰なのだろうか。私は離れていた期間のルフィしか、思い浮かばないけれど。

 人生経験の多いブルックには、多くの人が浮かぶのかも知れない。隠れて泣くその人を想っているのだと、ブルックの歌声が伝えて来るの。

 

 「ーーー」

 

 戦いなんて無ければいい。どんな理由があっても、必ず誰かが傷付くから。

 でも、戦わなければその苦しみの中で息絶えるしかない事もあるからと、私達は戦う事を選んだ。それは、自分達の夢を……叶える為であり、譲れないものを守る為でもある。

 

 「ーーー」

 

 ブルックも同じような気持ちなのかな。だからいつも、戦う力を持つのに、戦う事を怖いと言って避けているのかな。

 

 「ーーー」

 

 どうして、皆争うんだろう。人を傷付けても、何も得るものは無いのに。

 どうして……と、わかっていて問い掛けるのは、傷付ける事を厭うから。私達が海賊らしくないと言われる所以は、きっとここにあるのね。

 

 「ーーー」

 

 今回も私達は戦ったけど、結局私達は私達側の正義を押し付けたに過ぎないんじゃないかって思う時もある。彼等が迫害されて来た苦しみを、戦い以外で受け止める手段があれば良いのにと、思ってしまうの。

 

 「ーーー」

 

 皆が笑ってくれるから、正気を保ててる。皆が手を差し伸べてくれるから、過たずに進めるの。

 綺麗事だけでは生きられないと知っている。それでも、そんな夢みたいな事も願い続けて足掻き続けていけば、叶うんじゃないかって……信じるだけなら、許されると思うから。

 

 「ーーー」

 

 どんな暗い夜でも、心に残るのは、皆の笑顔。そう思って聴いているのに、何故かブルックは私をずっと見てるし、皆も何故か私を見て頷くのだから理解できない。

 ブルックの為にあるような歌なのに、どうして私を見るのかな。ブルックは歌詞を間違えたりしてないわよ?

 

 「ーーー」

 

 いつも、思っていた。戦いたくなんか無いって。

 傷つくのは構わない。自分の意地を貫く為なのだから。

 でも、傷付けたくない。苦しめたくないの。

 

 「ーーー」

 

 でもそれを超えた先で、守る為に戦うしかないのだと気付かされた。大切な人を失わない為には、戦う事が必要なのだと。

 

 「ーーー」

 

 ブルックには許されないような罪は無いと思うけど、私は許されたいと願う事すら罪となり得る罪がある。どんなに言い訳したとしても、私はナミちゃんの人生を奪ったのだ。

 これだけは永遠に変わらない私の罪。例えそれを私が望んだ訳では無いのだとしても、これはずっと抱えていくべきだと思ってる。

 

 「ーーー」

 

 なのに、皆は私を包み込む。皆はきっと知っても気にもしないと分かるの。

 その温かさと優しさが時に痛い。でも、ここが私の生きる場所なのだ。

 

 「ーーー」

 

 微笑んでくれる皆と、同じ明日を探せると気付かされた。だから私は皆の望む明日への道を、この波間の中から探し出してみせる。

 暗いだけの世界なんてないと知ってる。暗闇が深い時、その近くには目が潰れそうな明るい場所もあるのだと知っているの。

 

 「ーーー」

 

 人はいつか分かり合えると信じてるわ。人を傷付けても、その痛みは自分の中に蓄積されるばかり。

 ならば、分かり合い助け合える未来があった方が素敵でしょ。諦めなければ、未来はまだまだ無限に広がってるのだから。

 

 「ーーー」

 

 平和な時が来るのは何時だろう。ルフィが海賊王になった時かな?

 ……違うわよね。きっとそれは、新たな騒動の始まり。

 

 「ーーー」

 

 例え平和でなくとも、今こんなにも優しい幸福に包まれている。ルフィが、皆が、もう二度と独りで泣かないように、傍にいたい。

 愛されて、支えられてる。それを私も返したいの。

 

 「ーーー」

 

 皆の笑顔を、笑い声を、心に刻もう。それが私の生きる糧だから。

 

 「ーーー」

 

 誰かを殺せば誰かが助かるなら、私が死ぬ事で多くを助けたいと願って何が悪いのか。そんな呪縛から解放してくれたルフィ。

 似たような事を思って生きて来たロビンとは、だからこそ分かち合える事も多い。皆何かしらの傷があって、でもそれをルフィにより救われてここに居る。

 

 「ーーー」

 

 全ての命が大切なのだと私は思う。殺さないで、ただ、倒しただけならばいつかきっと、手を取り合える未来もあるから。

 諦めたくないの。人は本来皆優しく尊い存在だと知っているから。

 

 「ーーー」

 

 この身を捧げても、皆を守りたい。皆が泣かなくて済む未来を望んでいるの。

 甘いと言われてももう構わない。大切な人の幸福を願って、いったい何が可笑しいと言うのか分からないわ。

 

 「ーーー」

 

 皆が夢を叶えるその瞬間に立ち会う為、私達は力を合わせるのだろう。仲間になった時の誓いを胸に刻んで。

 ……曲が終わる。その直後、何故か皆が私を見て頷くから、何か可笑しいと思って首を傾げるけど、誰もその答えを教えてはくれない。

 その時ブルックが言う。私の想像していなかった驚きの言葉を。

 

 「ナミさんを思って、歌いました」

 「ブルック!?」

 「初めてこの譜面を見た時、ナミさんのようだと思ったので、いつかナミさんへ向けて歌いたいと思っていたのですよ」

 「ブルックのイメージだったのに……」

 

 私の言葉に皆がえー!?って言ってから、私のイメージだと騒ぎ出して、納得できないわと膨れる私にチョッパーが笑い出した。それにより、皆も笑い出した直後、海面からの光りが強く差し込んで来たのを確認する。

 波が乱反射して、本当に綺麗に思える。こう言う景色が私は本当に好き。

 

 「海上に出るぞ!!」

 

 ルフィの言葉を待っていたかのように船(サニー)は海上へと飛び出す。私が悲鳴を上げた問題の魚も共に。

 クジラ達のブオォオ!!と言う大合唱の中で、私達も喜んだりして大声での会話が始まる。だって、飛び出した瞬間、割れたシャボンの中でルフィが歓声を上げたから。

 

 「出たァ~!!ウオオォ!!新世界~!!」

 「天候は最悪~!!」

 

 ルフィのそれに、最初に言葉を繋げたのはウソップだった。そこへ続くブルックの言葉。

 

 「ヨホホ!!空は雷雨!!」

 「風は強風!」

 「海は大荒れ!!」

 

 楽しそうにロビンが言えば、フランキーがすかさずそれに繋がる。まるで世界がルフィを、私達を歓迎しているかのようにも思える程に荒れ狂う現状。

 私は新たなログポースを見て、そのあまりの揺れっぷりに現在位置の把握は不可能と諦めて笑い出す。何だか私達の新たな船出に、本当に似合いだと思えたから。

 

 「指針的外れ!」

 

 少し緊張した様子で、私の言葉にチョッパーが続く。本当に、私達は何処へ向かうんだろう。

 でもそれは不安ではない。期待が大きくて、笑いを抑えられそうにない程だわ。

 

 「赤い海が見える!!」

 「ナミさんが歌ってたみたいに、本当に逆巻く火の海だな!!」

 「まるで、地獄の入口」

 

 サンジ君が楽しそうに言えば、ゾロは悪役そのものみたいな調子でニンマリと笑う。そこへ太陽のようにルフィが笑って、大きく手を広げた。

 

 「望む所だァ~!!」

 

 その後クジラ達が去って行くのを皆で見送り、私は今更ながらレインコートを着込む為に船内へ向かって歩き出す。そのついでに振り向き、サンジ君とゾロ、ウソップとルフィに視線を向ける。

 

 「海が炎に包まれてるから、その魚……早く切り出して船に積まないと全て黒焦げになって食べられなくなるわよ」

 「「「「え~!?」」」」

 「それじゃ、後でね」

 

 そう言って中へ戻ればロビンも着いて来てくれて、私がバスローブを脱いだ瞬間に般若の形相になった。……怖い。

 えっと……。私、何かしましたか?

 

 「ナミ!!なんで下着もつけてないの!?」

 「だって、お風呂から慌てて飛び出したんだもん。そんな余裕無かったわよ」

 「……危なっかしいにも、程があるわ……。そんな格好で……!!」

 

 ロビンが嘆くのを聞きながら、シマシマのビキニと股上の浅めなパンツを穿いて準備を整える。……折角お風呂に入って来た所だったのに、雨に濡れては入り直したくて仕方ない。

 はぁっと溜息が出たけど、また入り直す事は現状では困難なので今回は我慢しようと決めて、レインコートを手にする。ビキニ着てても、パンツ自体がが濡れると結局重いし気持ち悪いもの。

 

 「ナミ、くれぐれも!今後は軽率な行動は慎むのよ!!仲間とは言え皆雄なんだから!!」

 「ロビン、多分ルフィがいれば大丈夫よ」

 「……確かに、そうね。でも、中々1緒に居られないでしょ」

 

 言われてから確かに!と笑えばロビンから困った子ねと笑われてしまう。でも、何だかこんなやり取りさえ楽しくて、気分も新たに私は皆の居る甲板へと戻った。

 そこでは皆が大騒ぎで巨大なその魚を切り取れるだけ切り出して積み上げていて……沈まない?って言いたくなる勢いで積み上げているのに呆れてしまう。

 いやもう、聞くべきか。聞くべきよね。

 

 「フランキー……」

 「おう!!ナミどうした?」

 「サニー、沈まない?」

 

 サニーが傾いてる気がするの。いや、気のせいかもだけど。

 波も荒いし、本当に危険過ぎる。いくら放置したら駄目になると教えたからって、これは無いでしょう。

 

 「スーパー心配すんな!どうせすぐルフィが食うからな!!」

 「この荒波の中で、重心が大丈夫かって話しよ!!」

 

 そんな私とフランキーのやり取りに、サンジ君が急いで料理しますねと助かるんだか助からないんだかよく分からない言葉を口にする。それにふぅ……と溜息を落として、楽しそうねと苦笑すれば、ウソップとチョッパーから魚料理楽しみだなと声をかけられた。

 現在1番の問題は逆巻く海でも、大荒れの天候でも、目の前で燃え盛ってる炎では無く、その先に島が見えてる事だわ。ルフィは案の定サンジ君が料理してる間に、見えている島へ早く行きたいと騒ぎ出して居る。

 

 「少し待って、この波が常になのかと、炎がどうなるのかが分からないと安全に行かせてあげられない!」

 「俺はあの島に行きたいんだよ!!」

 「分かってる!私もルフィが行きたいなら、どこへだって連れて行くつもりでいるわ。だから、少し時間を頂戴」

 

 その時ドォンという激しい音がして、見えている島にある火山が噴火した。それに合わせるように高くなる波に少し、嫌な予感がしたのは何故だろうか。

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