ログポースをいくら見ても、目の前に見えてる島は示されて居ない。つまり、今目の前にあるこの島は、私が空島で調べて来て情報を得た島々のどれでもないと言う事。
未来が分からなくなったから、せめて少しでも知識をと思ったのに、こんな出鼻をくじかれるなんて……。少し落ち込みつつ、でもルフィが行きたいと言うのならと気持ちを強く持ち島を見据える。
でも、ルフィは火山が噴火したのを見て大はしゃぎだ。そんな興奮状態のまま、早く行こうと急かすから、ついその腕を掴んでしまう。
「だから!!よく聞いてルフィ!!
「ふぅん?」
「異常な事が当然の新世界においても異常なのよ!!」
気のない返事をするルフィに、どうしてわかってくれないのと思う。でも、ルフィの心は既に目の前の島に囚われていて、それどころじゃないのだろう。
「何でもいいから上陸するぞ!」
「無理よ!これ以上近付けない!!」
「だって見えてるんだぞ!?もう、指針なんかどうでもいい!!」
「見てよルフィ!目の前は火の海なのよ!!サニーが持たないわ!!」
私とルフィがそんな会話をしてる時、ブルックはラブーンの親族を思って泣いていたし、サンジ君は試作品の料理を手に戻って来ていた。試食かなと思った時、海に視線を向けたサンジ君が重々しい空気で言う。
「おいルフィ、残念な知らせがある。折角釣ってきた深海魚、ナミさんに言われて速攻で切り出した分を除いて、海で全部丸焦げに……「ギャアアアア!!」」
あんなに大きなお魚だったのに……残念ね……。そう思って眺めていたらルフィはこの世の終わりのような声で叫ぶし、ウソップは魚が海で燃えた事に怯える。
「船も時間の問題だ!」
「いや、サニーはスーパー敗けねェ!!」
「敗けないんだ。サニーは凄いわね」
思わずサニーの柵を撫でて笑えば、チョッパーが怒り出す。でも、凄いじゃない。
普通に考えたら燃えて無くなるわ。それなのに、サニーは木製なのに燃えないのよ?
「ナミ、何か感想可笑しいだろ!?この海がおかしいから、流しそうになったけどよ!!見ろよ、あの魚の骨!!骨!骨ェ!!」
「え?呼びました?」
この海だと、きっと生態系も大きく通常とは異なってるわよね。雨の中でこれだけ燃えてるんだもの。
これだけの熱源があるのなら、人魂系の炎じゃないから素直に偉大なる航路だからよねと納得するしかないのか。それとも原因究明できるものなのか。
調べてみたいわ。ロビンなら、1緒に調べてくれるかしら?
そう思って顔を上げた時、鳴り響く電伝虫の鳴き声。慌てて皆で中に入るけど、サンジ君は料理をしに行くマイペースさ。
その中でルフィは泣いてる電伝虫を心配していて、何か……可愛い。ロビンが緊急信号の半数以上が罠であると告げるのに、ルフィはいつものようにしっかり名乗って電話に出てしまう。
「『助けてくれェ~!!あァ……寒い……ボスですか……!?』」
「いや、ボスじゃねェぞ。そこ、寒いのか!?」
「『仲間達が……次々に斬られてく……!サムライに殺される~!!』」
「おい!!お前名前は!?そこどこだ!?」
「『誰でもいいから助けて……ここは〝パンクハザード〟!!ギャア~!!』」
そうして切れた電話に、ウソップ、チョッパー、ブルックが泣き叫ぶ。そんな中でルフィは事件の臭いがすると言っていて、これはどうにも止まらないわねと諦めた私は甲板へ戻る事を決める。
ならば……とサンジ君へ視線を向けたのは当然だろう。絶対ルフィは諦めないもの。
「サンジ君、お弁当を……四人分お願い。ルフィだけ行かせられないからお目付け役の分もね」
「四人?」
「ミニメリーで偵察……なら、なんとかなるでしょ。少し考えもあるし。フランキー、ミニメリーはすぐ出せる?」
「あァ!スーパー任せろ!」
「私は航海士としてここから動けないから、残りのメンバーで誰が行くか決めといて!宜しくね」
そう言い残して表に出れば、即座に雷雲が出せるかを確認する。出して見れば特にいつものそれと変わらない様子なので、良かったと胸を撫で下ろす。
これなら雲の道を作れば問題無いわね。……ルフィ、コレ見たら喜ぶかな。
じっとクリマタクトを見て、まだロビンが心を開いてくれてなかった頃を思い出す。あの頃のそれを利用すれば、サニーで揃って行くのは無理でも、ミニメリーだけなら島に行けるだろうから。
でも……気になるのは寒いって言ってた事なのよね。この炎を超えた先にある火山の島が、寒いなんて……有り得るの?
そう思って島を睨んでいたら、ルフィが背後から抱き着いてきた。それに小さく笑ったのは、当然と言えると思う。
「どうしたの?」
「ありがとう。本当に、連れてってくれるんだな」
「……当然でしょ。それを理由に、この間私を苛めた癖に」
そう、事もあろうにルフィは1週間触れるなと言った私に〝俺はナミの中に行きたい。何処へでも導いてくれるんじゃ無かったのか〟とのたまったのだ。そして、それに押し負けたのだから私の弱さと来たら……。
そんな事を思い出して少し赤くなったけど、それでも私はルフィを突き放せない。だって私は、この温もりが何よりも心を落ち着かせると知っているから。
「あれは……!……そうでも言わねェと、ナミ本気で触らせなかっただろ」
「当然でしょ。お化け嫌いだって言ってんのに、お化けになろうとするんだもの。……死んだら素直に、私と天国に行くのよ?」
「へ?」
私の言葉にルフィは首を傾げる。でもね、ちゃんと本気なの。
死んだからって、冒険し足りないってこっちに戻られたら、私泣いちゃうんだから。いつもお化けヤダって言ってるんだから、少しくらい聞いて欲しいわ。
「お化けになって、この世界に残るより……きっとあっちの世界の海で遊ぶ方が楽しいわ。……その時も付き合ってあげるから、お化けになるのは禁止!」
「……ナミが1緒に行くなら、導いてくれるなら、化けてる場合じゃねェな!にししっ」
「そうよ。あっちの海には海賊王も居るんだし、楽しい冒険が沢山できる筈だからね。こっちで満足できるまで冒険して、あっちでも冒険するの。それなら……お化けになる必要無いでしょ」
「おうっ!!ならまず満足する為に、目の前の島で冒険だなっ!!」
私の知っていた最悪と言える未来を防げた事で、ルフィや私の大切な人達は今皆こっちで生きてる。喪ってしまったのは、白髭さんくらいなもの。
だからこそ、思うの。ルフィを1人で、先に逝かせる事は出来ないって。
靴を脱いで、芝生に直接足を乗せる。雨水で足が濡れても、冷たいと思わないのは流石に身体が冷え過ぎよね。
「……サンジ君にお弁当頼んであるから、出来上がったら呼んで。私、冷えちゃったから、お風呂入ってくるわ」
私の言葉にルフィは頷いて、でも離してくれない。何だろうと首を傾げたら、重ねられた唇。
後頭部を押さえて、私が逃げないようにってそんな事を考えてるのがよく分かる。でも、逃げる気なんて無いのに。
そう思って私はルフィの首に腕を回す。ルフィになら、殺されても本望と笑える自信があるわ。
でも、腕を回した時に、いつもより少しある身長差に驚いて、それが今ヒールをはいてないからだと気付く。何だかそれが妙に愛しくて、私はここが皆のいる甲板だと言う事をすっかり忘れていたのだった。
ルフィの唇が静かに離れて、優しく笑うから、私はその笑顔に魅入ってしまう。私は結局、ルフィのどんな顔も好きなんだわと妙な事を思いながら。
「確かに、冷えてんな。ちゃんと暖まって来いよ」
「うん、ありがとう」
そう言ってルフィから離れた時、サンジ君を除くほぼ全員がその場に居る事に気付いて、私は声なき悲鳴を上げつつ女部屋から適当に引っ掴んだ着替えを手にお風呂場へと逃げ込んだ。残されたルフィが楽しそうにケラケラと笑ってたのを気にする余裕さえ、私には皆無である。
お風呂場でシャワーテンポではなく、単なる雨雲を作り出して水を被っちゃう位、冷静では無かった。……このままだと風邪ひくわ。
湯船に浸かり、浮かべてある蜜柑を突っついて少し気持ちを落ち着かせる。フランキーが樹脂で作った小さな麦わら帽子の形をしたオモチャを蜜柑に乗せてみると、あら不思議、ピッタリだわ。
「ねぇ、蜜柑君、ルフィって酷いと思わない?」
当然答えはない。でもお風呂で浮いてる蜜柑は私が指先で弄ったタイミングで向きを変えたから、頷いたんだと思う事にして、帽子を元の位置に戻してからお風呂を出る。
自分から蜜柑の匂いがする事にホッとして、雨で冷えた身体も温まったしと思いつつ身支度を整える。適当に選んだビキニだけど、これもまた悪くは無いかも……なんて考えながら甲板に戻れば、くじ引きでロビンとゾロがルフィのお目付け役と決まっていた。
「……あれ?お供は二人だけ?」
「え?あァ、もう1人はウソップよ。そこで喜びに咽び泣いてるわ」
「あら。良かったわね、ウソップ」
泣く程喜ぶなんて。本当に強くなったのね。
そう思って笑いかけたら、ウソップが泣いてるその顔を平然と晒した。そして、私の腰に縋り付くように抱き着いてきたので、とりあえず頭を撫でておく。
「良くねェよ!!代われ!代わってください……!!」
「ウソップが航海士として、海の記録とかできるなら代わるわよ?」
「……行ってきます」
この世の終わりのような顔して私から離れると同時に立ち尽くすウソップに、でも少し羨ましいかもなんて思ってしまう。だって楽しそうなルフィと1緒に行けて、そのメンバーにロビンもいるんだもの。
「代われるなら、私本気で代わりたいわ」
「珍しいな」
「ロビンと散策とか、楽しそう」
「それか」
私の呟きに反応したゾロに返事をすれば、ゾロは納得した様子だったし、ロビンは嬉しそうに微笑んだ。それから間もなく、フランキーが問い掛けてくる。
「それでよ、あの火の海ってか、壁。どうするんだ。ミニメリーは燃えねェが、乗ってる奴は燃えるぞ」
「あぁ、考えがあるから大丈夫。出発できるようになったら、理解させてあげるわ」
結局四人は何だかんだ楽しそうに、フランキーに用意して貰ったミニメリーに乗り込んだので、私もクリマタクトを取り出して準備をする。いつの間にか、雨は上がっていた。
この様子では、今日は蜜柑にお水あげなくて良さそうね。海の中では虫もつかなかったので、お手入れもそんなに大変では無い。
そうなると残る心配はルフィ達の方だけね。チョッパーが行かないなら、タオルくらい持たせた方が良いかしら?
「お弁当持った?ハンカチは?忘れ物ない?」
「「無い!!」」
「大丈夫よ」
「じ、持病の薬を……」
「持病!?俺薬知らねェぞ!!」
忘れ物の確認すると、声を揃えたルフィとゾロ。それに対してロビンは微笑み、ウソップが妙な事を言うからチョッパーが慌てた。
そんな彼等を見つつ、ミニメリーの出発口で私はクリマタクトを使う。ミルキー・ロード発動で、雲の道を作る為だ。
それができるのをルフィとフランキーは大喜びで見てたし、ロビンは懐かしそうにしていた。ゾロは片眉上げた程度で、ウソップはそれ所じゃなさそうだけど。
「すげー!!雲の道ができたー!!空島で見たやつ、できるようになったのか!!」
「えへへ。雲だから、安定してる内に早く通ってね」
喜ぶルフィに頬が緩む。戦いでは役立ちそうにないと思ってたけど、使えるようになっておいて良かったわ。
そうしてフランキーが操縦方法を四人に説明してる間に私は甲板へと戻り、そこで出発する面々を見送る事にした。雨がやんだからか、妙に暑いけど……目の前に火があるのだから仕方ない。
大はしゃぎで飛び出す四人と、それを羨ましいと言いながら見送る私達。そんな時ブルックが問い掛けてきた。
「あの雲、島まで届いてるんですか?」
「さぁ?わかんない」
「え!?」
「だって島の陸地がサニーからだと見えないんだもん。何かにぶつかる迄は雲の道を作ったから、とりあえず大丈夫だと信じてるわ」
私の言葉に皆納得した様子を見せてくれて、その直後チョッパーがグッタリした。どうやら見送る為に、暑さに弱いのに我慢してたらしい。
私は髪を下ろしたままだと暑くて耐えられなくなって、髪をポニーテールにしつつチョッパーとの会話を楽しんでいた。けど、その背後でサンジ君が深海魚でデザート作るというそれに驚かされる。
だって、果物とか、チョコとか、生クリームではなくて、深海魚なのよ?
デザートに喜ぶフランキーとブルックに、けれどもサンジ君は辛辣である。そんなワイワイとした空間で、私は呑気に航海日誌を付け始めた。