そうしてチョッパーを撫でていた私に、フランキーが問い掛けてきた。それに即座に反応したのは、私では無くチョッパーだったけど。
「……だが、船にいたメンバーならブルックはどうした?」
「
「おめェも人とは言えねェだろ」
「お前もだよ!!もういいよ!!」
「まぁまぁ、皆落ち着いて。……捕まえた奴らの言い分としては、チョッパーは〝ペット〟の枠だったみたいなのよ。それで行くと、私とサンジ君は〝人間〟で、フランキーは〝サイボーグ〟の枠だと思うわ」
その言葉に全員が黙った。フランキーはそうなると……って少し考えてる様子だけど、ブルックって手配書がまだ生きてた頃のだから、同一視して貰えてない可能性が高いと思うのよね。
次に手配書が出れば、今度こそ全員認識を改めて貰えるとは思うんだけど……。サンジ君もそろそろ顔写真になるだろうし、ブルックも骨になってからのそれが出る筈。
「ブルックはいつものように、死体だと思われたんだと思うわ。だってブルックって、寝てたら鼻ちょうちん以外生き物として判断できるところ無いじゃない?」
「ナミおめェ、穏やかに、優しい感じで言ってるが……案外酷い事言ってるからな」
「捕まえた奴らの思考的な意味で言ったのよ!?」
叫んだ私に、他の誰かが何か言うより早く、聞き馴染みの無い声が聞こえて来た。それにより皆で辺りを見渡したのは、当然だろうと思う。
声はするのに、姿は無い。敵だとするなら、厄介だわ。
けれどもチョッパーが落ちているソレに気が付いて、何だろうかと皆が少し遠巻きに眺める。チョッパーが気付けたのは、恐らく視線の高さが落ちているソレに1番近かったのが理由だろう。
「何だ、コリャ……」
「新種の電伝虫か?」
「8匹もいるぞ。気付かなかった」
「虫畜生ではない!!お主ら、そう悪党では無いと見受ける!!これら全て拙者の〝顔〟でござる!!すまんがちと組み上げてはくれんか!?」
その言葉にフランキーは反応して組み上げるけど、パーツが余りすぎた。それでもチョッパーは顔になったと喜んでいて……でも、この能力って、まさか。
でも、だとするならこの人はローちゃんの敵という事?
この人の特徴としては、1人称が〝拙者〟である事。つまりは、この部位の1つにあるコレは髷だろう。
……そうなると、電伝虫にあった人斬りの侍は、この男である可能性が高い。助けていいものなのかしら?
どんな形でもくっ付くのか、どうして血が流れ出ないのか、それを解明したくて手を伸ばして色々見てみながらそのついでに組み上げれば、案外それなりの姿になる。うん、こんなもんかな。
「こうじゃない?」
「全然違うぞ!」
それを見てサンジ君も何かに気付いた様子で、面白おかしく組み上げて笑う。悪戯っ子な顔してるので、必要とあればサンジ君が対処するつもりなのだろうと分かる。
「コレがいいよ」
「だはは!!」
「遊んでおらんか!?」
その後完成した顔に、チョッパーは生首が喋ってると叫び、他の二人も悲鳴を上げる。斬られて生首となり生きているのは、バラバラの実の能力者であるバギーの他は、ローちゃんの能力で斬られた相手だけだと思うのよね。
名も知らぬ相手に斬られたと言うそれは、恐らく真実だろう。生かされている事は〝武士の恥〟と言い切るそれは、間違いなくワノ国の人間であると言う事を決定付けるばかり。
それでも……情報が足りなさ過ぎるわ。さっきはチョッパー達の事しか聞き出せなかったし、それならコレに話を聞いてみるしかない……かな。
「ところであんた、ここが何処か知ってんの?」
「
その時、昔の事が脳裏を過ぎる。それにより胸に走った衝撃は、怒りか悲しみか、それとも絶望なのか。
〝女が生意気に!お前は黙って足だけ開いてりゃ良いんだよ!!逆らうな!!〟
女は子を宿す道具でしか無いとでも言いたいのか。そんなんだから、日本は現代においても時代遅れだと諸外国から言われるのよ。
私はどんな感情を抱くのが正しいのかも分からないままに、その顔を摘み上げる。それも可能な限り摘む面積を少なくしてダメージを強く与えるように心掛けてるので、相当痛い筈。
その上頭とは案外重い物なので、自分の重みで垂れ下がるそれはいい感じで皮膚を引っ張り、痛みに慣れてる人でも悶えそうな状態にしてみる。それでも痛いと言わない辺りは、流石は武士と呼ぶべきかしらね。
「何よコンニャロー。生首の癖に生意気よ!顔を組み立ててあげた恩人に対して!!」
「やめよ!!……む……娘が暴力を!?」
〝女が抵抗するな!!男に逆らって良いと思うなよ!〟
胸をドス黒い物が過ぎる。わかってるのに……この人が私に何かした訳じゃないって。
お国柄で仕方ない思考と言動なのだと。それでも、敵か味方か分からない現状で優しくしてやる義理はない。
「……女は何されても抵抗するなと言いたいの?あんたの言葉の暴力に対して、私はただ摘んでるだけ。寧ろ、優しいと思うけど?」
「またしてもあんたと!?その態度……っ。クッ……!!」
少しばかり捻りを加えてやれば、言葉が1瞬消えた。……本当に、嫌な事思い出させてくれるわ。
殺気立ちそうになる自分をやっとの思いで抑え込み、ふふっと笑った時、3人が仲間の筈なのに1歩では無く後退り距離を取った。何故か侍も言葉を無くしたけど、あえて言おう、私は悪くない!!
「名前も知らないのに、敬称は付けられないでしょ。そもそも、尊敬出来る所がある訳じゃないんだから、あんたって呼んで貰えるだけ有難いと思いなさいよね!」
「な、何と無礼で勝気な!!……しかし……身包みを剥がされ傷心なのであろう。心中お察ししよう……!!」
「別に、身包みなんか剥がされてないわよ?」
「えっ?」
ヤダヤダ。本当に、時代錯誤よね。
確かに多少露出は多いかもしれなけど、アレだけ暑かったんだし、ウチのクルーには能力者も多いんだから当然の姿よ。まぁ、能力者が多いのは知らないんだから、驚くのも無理ない……のかな?
溜息1つで感情を霧散させて、可能な限り冷静に言う。後に引き摺らない元のナミちゃんって凄いなってこんな時思う。
「こういうファッションなのよ」
それに正直……戦いやすいのよね、このファッション。そもそも、雑魚はこの姿だけで隙が生まれたりすし、女慣れして無いと勝手に倒れてくれるし、いいこ事が沢山!!
そう思って気に入ってるのに……!そう言えば、ベックも嫌な顔してたわね。
「何と淫らな!!
「あら……お嫌い?」
「お好きでござるっ!!」
その侍の反応にサンジ君が怒り、会話の中で私達が海賊だと知った侍が殺気立つ。それはある意味分かるからどうでもいいけど、聞き流せない単語も中に含まれていた。
それは正しく、私の求めていた情報。他の島に拐うだけの時間的余裕は無かったから、この島に関する情報以外の何物でもないわ。
「時同じく
「んん?おいおい〝氷の島〟って何なんだ。ここは燃える〝炎の島〟じゃねェか!」
「そうだそうだ!!海まで燃えるボーボーの島だ!!」
フランキーとチョッパーが騒ぐけど、確かに氷の島である可能性はある。だとしたら、私の見た雲は見間違いなんかじゃなかった。
「……いえ、待って。可能性はある。……あんたは、ここを氷の島だと言うのね。でも……思い出して欲しいの。火山の噴火音聞かなかった!?」
「……時折爆音はしたが、拙者、漂流の海より氷の島へ入っただけ。もう、拙者に話し掛けるな海賊め!!」
「やっぱり、船から見た〝冬の空〟……間違いじゃ無かった!!」
私は三人に向き直り、どう説明したら分かるかと少し考える。でも、ここに居るのはとりあえず本当の意味でのお馬鹿はいないから、普通に話せばいいかと考えを改めて言葉を続けた。
「ルフィ達が入って行った〝燃える島〟は裏から見れば〝氷の島〟で、つまり私達は島の反対側へ連れて来られたのよ」
そんな特徴的な島を、ウェザリアの記録に残してない筈がない。でも、それが無かったって事は、それは近年生じた島か……近年そうなったかのどちらか。
だとするならこの島は、恐らく青雉と赤犬が海軍元帥をかけて戦った島。あの二人の能力が全力でぶつかったのならば、気候が変わってもおかしくはないし、実際〝島の気候をも変えた〟事は語り草になってる。
あの二人の実力が拮抗したからこそ、この島の気候も拮抗してる。そう考えればそっちの辻褄は合うけど……。
「誰が何の為に私達をここへ誘拐して来たのかは、この部屋を出て確認するしかないわね……」
「だがナミさん、扉が堅くて……「退いてろ。コーラは満タンだ!!」」
「流石はフランキー!!よっ!兄貴!!」
そんな事を言いながら避けて、扉諸共付近の壁まで溶かしてしまうフランキーに味方で良かったわと強く思う。流石のサンジ君も褒める位に威力は高い。
その上チョッパーの喜びようを見れば、ルフィはフランキーが敵になった時戦えない事は言うまでも無い。……ロボットとか、ビームとか、好きだもんね。
私はフランキーと共に先に外の様子を伺い、耳をすませる。どうやら流石に、この音で人が集まって来てるみたいね。
「サンジ君、チョッパー、急いで!!追っ手が!!」
サンジ君はそれでも暫しその場に残って、生首の侍と話をしていたようだった。私は追ってくるそれから逃げる為、サンジ君ならすぐに追い付くと判断して駆け出す。
途中で想定通りに追い付いたサンジ君は、その腕に生首を抱いていて、走りながらあらましを聞けば息子を探してるという。それならばサンジ君が見捨てられなかったのも、大暴れしてるのも理解出来るから私も反対はしなかった。
もう少しで敵に追い付かれそうだと言う時に入った部屋には、大小様々な子供達がいて、巨人族から普通の子供まで沢山いるそれに驚いて足が止まってしまう。それに喝を入れるサンジ君により駆け出したけど、情報が欲しい。
子供を攻撃したくないし、敵じゃないならそれこそ子供は情報の宝庫なのだ。けれども、生首が息子の名を叫んでばかりいる為に子供達が逃げてしまったりして情報が集まらない。
「あんた喋んないでよっ!!」
思わず言葉と同時に手を出せば、女に手を上げられたから腹を切りたいと騒ぎ出す生首。その程度で腹切るんなら、私に手を出した奴らは全員腹切ってるわよ!!
「切りたいなら切れ!!いちいち五月蝿いのよ!!男尊女卑男!!」
その時、子供達が病気は治ったと言い出した。帰りたいのだと。
涙を浮かべて言うそれに、嘘は見えない。追われてるからと言って去ろうとしたけど、背後から涙声が追ってきて、私の足はその場で完全に動きを止めてしまった。
私は、その声を、振り払えない。この涙を、見なかった事には、出来ない。
「じゃあ……後で助けに来て!!」
繰り返される助けての言葉。涙を零しながら、必死で訴えるそれを、私は無視出来ない。
「助けも来ない!!お父さんとお母さんに会いたいよ!!」
子供の声が、過去の記憶を呼び覚ます。この子達は、過去の私……ううん、過去のナミちゃんだ。
〝私わかったの。助けは来ない。自分で何とかしなきゃって……。もう、泣かないって決めた。1人で戦うって決めたの!!〟
チョッパーとフランキーも、子供達の発言を聞いて連れて行きたいと言ってる。でも、それでも大人の正しい判断として、無理だと決断を下して走って行く。
敵が近付いてくる。サンジ君も、前を見据えて走り続けていると気付いてるわ。
この場合、どう考えてもフランキーとサンジ君が正しい。そんなのはわかってるけど……!!
「ナミさん早く」
泣いている子供は1人じゃない。魂の叫びを向けたのは1人でも、その思いは同じなのだと気付けない程に鈍くは無いわ。
……ごめん、皆。私はこの子達を見捨てられない。
「助けよう!!子供達!!」
「何言ってんだナミさん!!理由がねェよ!!病気とも言ってたし、ここは病院かも知れねェ!!たった今会ったばっかで、何の事情も分からねェ!!人助け稼業じゃあるめェし!!」
「それは……私も、わかってるけど」
私達は正義の使者でも英雄でもない。それ所か、悪の権化である海賊だわ。
それも私は、皆よりずっとそうして生きてきた期間も長い。ここが病院だとするなら、近くにいた海賊を危険だからと捕らえて様子を見てただけとも考えられる。
そんな事はわかってるのよ!でも、それでも……!!
「
三人が同時に動きを止めた。けれども追う側はそれに気付かないで、子供達も纏めて攻撃しようと銃口を向ける。
その時、ここは病院なんかじゃないと気付いて、私1人でも残って戦おうと胸元に手を伸ばした。その時、サンジ君が動き出す。
銃ごと敵を蹴り飛ばし、吹き飛ばしてくれたのだ。つまりは、私の言い分を受け入れてくれたと言う事。
「サンジ君!!」
その直後、チョッパーとフランキーも参戦してくれて、逃げるのを辞めた三人が敵をバタバタと倒して行く。私はそれを見て、思わず歓喜の声をかけてしまう。
「チョッパー!フランキー!!」
「……まったく。子供に優しいナミさんも素敵だ。……そもそも、ナミさんが人を……特に子供を見捨てられる訳無かったよな。また、惚れちまうぜ!!」
そんな軽口を言ってサンジ君は笑う。私はそれにより泣きそうになるけど、そんな余裕は私達には無かったのだ。