全ての敵をこの場で相手にする事は出来ない。こちらは、全員が揃ってる訳では無いのだから。
子供達を巻き込みそうで、雷を落とすなんて出来ないし……。どうしたらいいの!?
内心で焦りながら、子供達を集めて走る事になると伝える。そんな私の耳にサンジ君の声が飛び込んで来た。
「チョッパー、お前先に行ってナミさんのお供しろ!!」
「わかった!!ホチャー!!」
そうして私は子供達を引き連れて、チョッパーを護衛に進む事となった。サンジ君とフランキーは来ないけど、そうして敵を足止めするから先へ行けと言ってくれている。
子供達はそれにお礼を言いつつ後に続いてくれるから、私は子供達を引き連れて初めての建物の中を駆け抜けて行く。チョッパーの戦い方なら子供達を巻き込みはしないし、チョッパーはこれで力仕事も出来るから本当に助かるわ。
初めはカンフーで戦うその形態変化の影響かと思ってたけど、そのテンションの高さに少しばかり驚かされる。子供達も家族に会いたいから、その走る速度は異様に早い。
「張り切ってんのね、チョッパー」
「俺はサンジからお前らを任されたんだ!!ホチョー!!男一匹、頑張るんだよ俺は!ハチャー!!」
そんなテンションだからか、いつもより脳の働きは鈍いみたい。多分戦闘能力を上げる代わりに、他が犠牲になってるのね。
そう考えたら頭脳戦専用のモードもあったから、使い分けを出来れば多分結構便利な能力よね。前と違って身体の変化を薬を頼らずに出来るようになってるのが、こうしてみると本当に大きな収穫と言えると思う。
「でも、何処へ逃げればいいのかしら?見取図が欲しいわね」
「それはナミが何とかしてくれ!!ワチャー!!」
チョッパーの言葉を受けて、子供達に視線を向けて見る。この場所に長くいるなら、多少は情報も持ってる筈よね。
私はチョッパーに目配せしてから少しだけ走る速度を落として、子供達との会話を試みる。通常は1つの部屋に押し込められているのだとしても、外へ通じる扉の位置は分かるだろうと踏んだのだ。
その他にも、聞き出せるなら1つでも多くの情報が欲しい。何もわからなければ、助けようとして苦しめてしまうなんて事も有り得るから。
それにより道を教えて貰いながら、子供達の話を聞けば1年で病気が治ると言われてこの場所迄連れてこられたのだと言う。両親から病気を治すように頼まれた人達に、連れて来られたのだと。
「1年で治る病気……なんだそれ?皆病人には見えねェけど……!!」
子供達の様子はずっと見てたけど、これだけ走り回っても特に発作的な事も起きてない。顔色を悪くしたりもしてないから、本当に分からないわ。
勿論、走ってるから息切れはしてるし、汗もかいてる。つまりそれが無いのとは違って、全くもって正常の範囲内と言う事。
心臓が嫌な音を立てるのを聞きながら、私は小さく頷く。だって、そうでしょ。
もし、私の仮説が正しいならば、この子達は完全なる被害者。偶然にも私達が来たこれが無ければ、この子達は恐らく幼い内にその生命を散らしていたのだろうから。
「……じゃあ、ここへは……ご両親が行ってきなさいって?」
「ううん。家の外でその人達に突然そう言われて、そのままここへ……。お父さんとお母さんに病気が伝染るといけないからって……。〝行ってきます〟も言えなかった……」
期待を込めて尋ねた言葉に返されたのは、涙声。震える声は、それが嘘偽りの無いものだと伝えて来るには十分過ぎる。
他の子達も同様に連れられて来たのか、頷いて同意を示している。でも、そんなの普通は有り得ないわ。
嫌な仮説だったけど、誘拐のにおいがプンプンする……!!その会話の流れを聞いたチョッパーは、余程の大病なのかとか言うから、思わず阿呆なの!?と言いつつ殴ってしまった。
「約束の1年はもう過ぎてるんでしょ!?チョッパー、後で診てあげなさいよ。診ればわかるでしょ」
「うん、分かった!!」
チョッパーならば、ちゃんと検査すればわかる。素直なのも疑わないのもチョッパーの美点だけど、それは行き過ぎれば愚かと呼ばれてしまう。
子供達に言われるままに進んで来たけど、道の終わりが見えて来た。1応扉があるけど、サンジ君の蹴りでも開かない扉が多過ぎるこの施設では、それは行き止まりを意味してる気がしてならない。
「行き止まりだわ!!」
そのドアをチョッパーが破壊してくれて、あまりのパワーアップに驚きを隠せない。この世界って、医者が強すぎる気がするわ。
けれどもまだ完全な外でも無いのに、寒くて全身が震え出す。……チョッパー、いいな、暖かそう……。
「うぅ……寒い……!!チョッパー、毛皮貸して」
「うん!って脱げるかっ!!」
八割本気の冗談だったのに、怒られちゃった。不思議だわ。
それにしても、外にしては暗すぎる。目がなれないと流石に危険かし……あ、扉だわ!そう思って駆け出せば、チョッパーもそれに気付いて追い掛けて来てくれた。
なのに子供達は来るのを嫌がる。怖い……と、怯えを見せるのだ。
「何が、怖いの?」
「この道、初めてここへ来た時に通ったの!」
「本当!?じゃ、きっと出口に通じてるわ!!相当寒いけど、我慢して!!早く!!」
外へ出て現在位置を知らなければ、残念ながら船には戻れない。船に乗れない限りは連れて帰ってあげる事は、物理的に不可能なのだ。
でも、泣きそうな顔をして、震える子供達。首を傾げた時、子供達は言った。
「だって……周りに……」
「?周り?」
言われて周りを見てみれば、氷漬けの人間が沢山いる。これは既に仮死状態ではなく、明らかに死んでいるだろう。
その凍ってる人達の衣服は明らかに囚人で、つまり、ここは軍関連の施設である可能性があるが高い。見せしめか、それとも何かの事故や自然災害か。
それも、彼等が存在するのは横だけでは無い。上にも、それどころか下にも続くその多過ぎる死体。
「ぃ……っ!いやぁぁぁ!!」
チョッパーと強く抱き締め合いながら、扉に向かい駆け出せば子供達が置いて行かないでと追いかけて来る。その扉を抜ければ下り階段があり、更にその先に光が見えた。
隙間が開いてるのだと分かりよく見れば、それは扉だと気付く。冷気を中に通さない為に、何重にも扉が用意されていたのだろう。
そうして氷漬けの人達の所を抜けた私達は、怖かったと泣く子供達に私も怖かったわよ!!と叫びつつ扉を目指す。怖くないとか、嘘でも言えないわ!
「でも見て!ほら!扉よ!!ここから出られる!!」
「「「やったー!!」」」
扉を目指して駆け出せば、子供達の足取りも軽くなる。既に痛みとしてしか感じない寒さの中で、それでも足を止めるつもりは無い。
この子達の事をちゃんと調べて、親元に帰してあげたい。この子達の無事を、親もまた願っているに違いないのだから。
そんな時に、サンジ君とフランキーが生首を手に合流してくれた。つまりは、後ろから追いかけて来ていた人達の足止めには成功したという事よね。
チョッパーは僅かに開いて光が入って来ていたそのドアを蹴り開けてくれて、私達は皆で1斉に外へと飛び出した。そして……私は余りの寒さに動きが止まるのを自覚する。
そうして合流したばかりのサンジ君達も共に飛び出せば、子供達は大歓声だ。私は寒くておかしくなりそうだけど。
「やったぞー!!」
「建物を出たぞ!!お家に帰れる!」
「パパとママに会えるー!!」
「ヘイヘイヘヘーイ、フランキー。ヘイヘイヘヘーイ、タンクだぜ。そこのけそこのけ、スーパーのけー!!邪魔するやーつは踏んでくぜ!!」
何か妙にリズミカルに歌うフランキーと、それに乗って喜ぶ子供達。私はとりあえず暖かそうなチョッパーに抱き着いて、皆がスーパー!!とポーズを決めるのを静観していた。
その時、妙に落ち着いた声が聞こえて来た。でもその声は、何処か頼りない。
「……ナミ?」
「ローちゃん!?……大きくなったわね」
「……どうしていつもいつも、お前は肌を露出してんだよ。……とりあえず、着とけ」
そう言って脱いだコートを私に着せてくれるから、有難く借りる。裾を引きずりそうだけど、てか、引きずってるけど、良いのかな?
うわぁー、こうやって見ると本当にローちゃん、大きくなったのね。お姉ちゃんは嬉しいぞ。
「ローちゃんは、いいの?」
「……この寒さじゃ風邪の前に凍死しかねねェ。それより、ナミお前……もしかして
真剣なその様子に、何処か期待するようなそれに、私は誤魔化せないと知る。だから私は、それに素直に頷いた。
「……そうね、経験して来たわ。……無事で、よかった」
「それは、こっちの台詞だ!!死んだと、思ってたんだ……!!あいつに捕まって、どうやって無事に……」
そう言って私を抱き締めるその腕が、恐らくは寒さでは無い何かで震えている。腕ごと抱き締められていては、その頭を撫でる事さえできはしない。
そのまま腰に回されていた腕に強く力が入り、身体が浮かぶ。慌ててローちゃんに抱きつけば、当然のように唇が重なった。
それは決して奪うような激しいものではなく、ただ、ここに居るのを確認したいと言われているようなそのキス。だから私は、それに抵抗出来なかった。
何処か甘えているような、縋るようなそのキスが……何とも言えない気持ちにさせられる。でも、いつまでもは受け入れて居られないと、挨拶にしては長すぎるそれを拒絶するように声を出す。
「う……んんっ!!ローちゃ……!」
「ナミ……!!」
離れてくれたと思った直後、角度を変えて繰り返されるそのキスに、でも、泣いたら涙まで凍りそうな寒さの中、私は何も出来ずにいる。その時風を切る音が聞こえて、私は漸く解放された。
「何してやがる!!まさかてめェが、子供達を捕らえてたのか!!」
「……黒足屋?そうか、ナミが居るんだから当然か。悪かった、ナミ。ナミしか見えてなかった」
「ローちゃん……コート、ありがとう。でも、汚しそうだから返すわ」
明らかに裾を引きずってるのもあり、動きにくい。寒くても動けないよりはマシな筈とコートを返してる間に、サンジ君達が目の前にいるガラの悪すぎる海兵達と戯れていた。
「不味いぞ!まさかの海軍だ!!ここは無理だ出口を変えよう!!」
「皆中へ!!」
「わぁあああ!!……あれ!?海軍って良い人達じゃないの!?」
私達の言葉に反応して悲鳴を上げた子供達。でも、直後に首を傾げたを見て、そうだった!と思う。
明らかに悪人面してても、ズタボロで汚らしく見えても、彼等は海兵。子供達から見たら、味方である筈の存在。
サンジ君もそれに気付いたのか、確かにと頷く。そして、言った。
「そうだな。じゃ、行け!!」
「やだ!!あの人達ヤクザみたい!!」
「ローちゃん、またね。コート本当にありがとう。これで動けるわ」
子供達の言葉に確かにねと思う。それから、私はローちゃんに笑顔でお礼を告げたけど、なんか嫌そうな顔をされてしまった。
でも、コートを借りてた時間のおかげで固まっていた身体に血が通ったのが分かる。これでまた走れるわ。
そう思って、私はコートを返してから子供達と共に中へと戻る。サンジ君が子供達に指示を出してくれて、そうしてかけて行く私達はその直後……悲劇に見舞われた。
妙な衝撃を感じた直後、皆の言動がおかしくなり……そして……私はフランキーになっていた。……って、これって!!
何してくれてんの!?と、随分離れたローちゃんを睨むけど、今は逃げるしかない。立場もあってやったのならば、今すぐは治しては貰えないだろうから。
けれども私の身体が、その瞬間動きを止めた。しまったと思った時には、寒さで動けないのだと分かってしまう。
「……ナミさん、これ、今までどうやって動いて……?」
「……根性、かしら?」
「ナミ、とりあえずこれ着てくれよ」
そう言ってサンジ君が、私の身体に上着を貸してくれる。でも、この口調……チョッパー、かな?
そうして動けるようになった私の身体には、どうやらサンジ君が入っているらしく、出口も寒さもどうでもいいからカメラと言ってるのを聞いて、フランキーの身体なのに殴りたくなってしまった。殴ったら……多分意識飛ぶわよね。
その後で別な出口から飛び出したけど、子供達が次々と動けなくなっていって、私は困り果てる。それなのに鏡とカメラと言い張る私の身体に、いい加減にしろと怒鳴ったのは不可抗力だ。
そこで生首が能力を使い服を全員に出してくれたので、私達は全員その身体に見合ったコート等を着る事に成功した。けれどもそれをやらなかった理由を聞けば、怒りに燃えたのも分かって欲しい。
「折角の乳バンド……隠すには惜しく……」
そんな理由で子供達を寒さの中に置いていたのかと思えば、泣きたくなってしまうのも当然だと思う。とりあえず生首をボコボコにしてから、近くの大きな岩場の影に移動する。
その岩場の中に空洞も見付けたので、とりあえずの拠点にするのに調度いいかと考えた。子供達の中でも身体の小さい子を優先して中に入れて、私達はルフィ達との合流を目的に少しばかりの休憩を開始する。
無闇に動き回っても、恐らくいい事はない。ならばここで少し作戦を寝るのが正しいかと判断したのは、間違いでは無い筈。
「サンジ君、ちょっとじっとしててね」
「へ?」
「武器とか取らないと、私戦えないもの。大人しくしてて」
「俺様の身体は、全身が武器だぞナミ」
フランキーの言葉が聞こえなかった訳じゃないけど、正直扱いきれない。私以外のメンバーが、私の武器を扱い切れないのとそれは同じだろうと思う。
現在着ているのが脱げば消える衣服の為、脱がさないでそれ等を取り出す必要がある。けど、胸の間に入れてる物とかを考えたら、サンジ君に任せれば何されるかわかったものでは無い。
人の身体で鼻血を吹き出し続けるサンジ君に、貧血になっても知らないわよと言いながら武器を回収して行く。その様子は大男が美女を襲ってるようにしか見えないなんて、そんな事にも気付けないままに。
私はその武器達を順調に回収していくけど、サンジ君はそれにより見える素肌に視線が張り付いている様子。私はサンジ君を無視して、回収した武器とネックレスを身に付けた。
それから、外すと無くしそうでそのままつけて貰うしかないピアスと指輪を見詰めてしまう。……傍に、手元に無いと、本当は嫌だけど仕方ないわよね。
そんな私に、サンジ君は困ったように笑うから……はたと思い出して、手荷物に入れたままになっている前に兎の皮で作った手袋を差し出した。どうせサンジ君は、戦う時手は使わないのだから丁度いい筈よねと、そんな事を思いながら。