※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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カオス

 私が手渡した手袋を持って、それから無意識的にそっとつけたサンジ君は微かに首を傾げる。手袋は少しばかり不格好だけど、それは許して欲しい。

 

 「その指輪外せないから、そのままだと凍傷になりかねないでしょ。手袋が不格好なのは許して。前に必要で作ったのよ」

 「本当に、何でも作る人ですね」

 「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 クスクスと笑えばサンジ君が頷く。とは言え、現状はフランキーがクスクスと笑い、私が頷いてる感じに見えるのだけど。

 それこそ今はどうにも出来ないので、我慢するしかない。それにしても、サイボーグも寒さ感じるのね。

 

 「その姿でその口調、気持ち悪いな」

 「そもそも俺の姿で、アロハの前を閉めてたのは万死に値するぜ」

 「フランキー、その姿で喋らないで」

 「理不尽だな!?喋んのも駄目なのかよ!」

 「フランキーの言い分よりはマシよっ!!」

 

 そんな会話を繰り広げてる間に、聞こえて来たブルックの声。それにより反応したフランキー入りのチョッパーと、チョッパー入りのサンジ君が喜ぶ。

 反応のないサンジ君入の私を見た時、不審に思って視線を向ければ、何と私の身体を……つまり、コートの中を眺めていた。そうして私の身体でサンジ君が、鼻血を出しながらハート飛ばしてて……私は気付かれないように背後に回り込む。

 そうして私は無言のまま、その頭上から拳を振り下ろした。それを見ていたルフィが驚きの声を上げてたけど、今はそれどころでは無い。

 その後の事は台詞だけの方が、早く伝わりそうな程に混乱した状況だったと言える。合流した私達はとりあえず休めそうな所を探して、少し移動して吹雪を凌げそうな部品の所で腰を落ち着けた。

 私はナミちゃんの身体を傷付けた事にダメージ受けてたし、チョッパー入りのサンジ君がそれを治療するという何とも嫌な感じの状態になっている。その傍では下半身が戻ったと喜ぶ生首と、後ろ足が無くなったと落ち込むルフィが居た。

 何とも言い難い状況に、フランキー入りのチョッパーが嫌そうな顔をして、ロビンはシュールねと呟き、ウソップはルフィを宥める。ゾロは無言を貫くから……本当に収拾がつかない。

 吹雪の中でも冷えない頭なのか、頭が冷えててこの程度しか頭が活動しない程に混乱してるのか、難しい所。いや寧ろ、私実は馬鹿なのかな?

 

 「ねー、タンクやってー!!」

 「ロボ姉ちゃーん」

 「ビーム出せるー!?」

 

 群がる子供達の重さを感じない。感じないけど、何でだろう、嬉しくないの。

 そう言えばこの島、獣が居ないわね。いたらそれを食べさせてあげる方向で考えるのに。

 色々考えてるのに考えが纏まらない。その苛立ちもあって、騒ぐ子供達に私は怒鳴ってしまった。

 

 「お黙りー!!」

 「えー!?」

 「中身誰だっけー!?」

 

 それから私は少し冷静になり、子供達を宥めてから、チョッパー入りのサンジ君に言って煙草を回収すると、それをサンジ入りの私に投げ渡した。それに対して良いのかと驚く姿に、変な事されないなら別に構わないと心から思う。

 子供達への教育上も良くないし、下手な事されると風邪は勿論下手をすれば凍死しかねない。そうなった時実際に心を病むのはサンジ君なのだから、やめて欲しいと願って当然。

 

 「サンジ君が煙草を我慢してるのはわかってるから、元に戻る迄とりあえず吸って貰って構わないわ。だけど、私の身体で変な事しないで。男の子が女の身体になった事で興味深いのは分かるけど、下手な事すると、その身体……歩けなくなるわよ。煙草吸わないのは肉体違うんだから本来困らない筈だけど、サンジ君の様子見てると違うわよね。本来肉体がニコチン不足で耐えられなくなるのが当然で、でもどうやらこの世界では精神的に吸うという行為が必要とわかるから構わないわ。とりあえず、落ち着いて状況整理をしましょう」

 「ナミ、相当キてるな。立板に水状態だぞ……」

 

 チョッパー入のサンジ君に言われてハッとする。ずっと静かなブルックが地味に気になるけど、とりあえず揃った事で安心してるのかもね。

 私、駄目ね。ルフィがいるだけで、何とかなるって思っちゃってるわ。

 そんな事を考えながら、最初に名乗りを上げたフランキー入のチョッパーに視線を向ける。……本当に可愛くない。

 

 「まずは俺がフランキー。怪我しても俺には頼るな!!」

 

 恐ろしく可愛くない上にガラの悪いチョッパーが、偉そうにドヤる。本当に喋らないで欲しい。

 私の天使。私の癒しが汚されて行くわ。

 

 「俺がチョッパーだぞ!!怪我は俺が治してやるぞ!!」

 

 サンジ君が可愛い。子供時代のサンジ君とはまた違った可愛さに、頭を撫で回したくなる。

 これによりわかったのは、見た目ではなく中身が重要であるという事。……でも、いつものチョッパーがいいとは思う。

 

 「私がナミ。ビームの調整とか身体の変化に対応出来ないから、この形状から変わるつもりは無いわ。皆を怪我させたくないもの」

 

 私の言葉に皆が1瞬呼吸を止めて、それから頷いた。何かを納得したらしい。困った事よね。

 

 「そして我等が、んナミさ~んだ!!」

 

 そう言って私の身体でサンジ君が胸を晒け出して、ボインボインと動かし始める。それにウソップとブルックが待ってましたー!!と喜ぶけど……。

 

 「私、そんなに品が無かったかしら……?」

 「うおお!!もうしねェ!!だからナミさんをこれ以上傷付けないでくれ!!」

 「辞めろナミ!!ナミが死んじまう!!」

 

 騒ぐサンジ君とチョッパーに私も大人気なかったかなと少しだけ思うけど、直後に続いた言葉により私は怒りを再燃させる。心配そうであるが故に、余計に!

 

 「それにしても……ナミさんの身体、随分と弱ってますよね。なんか、挟まってる感じがありますし」

 「……五月蝿い!その手の文句はルフィに言って!!……それから、私の身体に触れたら次から20万ベリーよ。覗きは10万!!」

 「そんな殺生な!!」

 

 そのやり取りの中でルフィとウソップが笑い転げるから、ルフィなんか私の事どうでも良いんだと少しいじける。するとルフィがヒョイッと近付いてきて、頭を撫でて来た。

 そして、先程の爆笑とは全く違う笑みを浮かべるから、怒りが持続しない。これは、狡い。

 

 「……頭撫でにくいから、早く戻らないとな」

 「ルフィ……」

 「流石にフランキーの身体襲ったら、フランキーに怒られそうだしよ」

 「……俺が怒らなきゃ襲うのかよ……。想像したくもねェから、頼むから辞めてくれ」

 

 フランキーの言葉にルフィは笑う。そして、まるで当然のように言放つ。

 

 「確かにナミの身体も可愛いけどよ、俺はナミの魂的な所が好きだからな。サンジが中にいるナミは欲しいと思わねェけど、フランキーに入っててもナミは可愛いんだよ」

 

 どうして、ルフィって、こう……!真っ赤になる私に、ロビンが本当にシュールだわ……と呟くけど、これはルフィのせいだもん!!

 それからルフィが何かに気付いた様子で首を傾げる。何だろうと見詰めれば、告げられるのは簡単な答え合わせ。

 

 「あ、ナミ。指輪どうした?」

 「この身体だと無くしそうだから、サンジ君に身に付けてて貰ってるわ」

 「そっか……。サンジ!!」

 「んあ?」

 

 突然呼ばれたサンジ君は、煙草を咥えてやる気なさそうな返事をする。そんなサンジ君に、ルフィは当然のように言った。

 

 「その指輪、無くすなよ。ナミ、マジで落ち込むと思うから」

 「ルフィ!?」

 「だってナミ、それ外すの風呂の時も嫌がるじゃねェか。気に入ってくれたのは嬉しいけどよ、指輪に妬きそうだ」

 「だって、ルフィがくれたから……!その、ルフィといつも居るみたいな、そんな気分になって……!!だから別に、そんなたいした理由がある訳じゃないのよ!?」

 「ナミ、可愛い」

 「ルフィ……」

 

 そのまま見詰め合えばフランキー入りのチョッパーが吠えた。辞めろー!!と。

 それによりはたと正気に戻り、ごめんと謝ればサンジ君が珍しく、もう妙な事しませんごめんなさいと言うので、それに頷く。怪我の功名とはこれだろうか。

 その後ウソップが話を纏めてくれた。普段は私の仕事だけど、私は絶賛落ち込み中なので置いといて貰えてる。

 足と生首の男……侍がワノ国の侍で、ボスと呼ばれてたのがルフィ達の足になってくれていたワニタウロス。侍は息子のモモの助を助けにここまで来て、敵を斬っていたに過ぎないらしい。

 侍が三分割されたのは、やはりローちゃんの責任らしい。そうしてその会話の中でブルックが胴体に会ったとの話になれば、持っていた携帯食料を皆に配りながら少しの休憩を挟みつつ意見の擦り合わせをする事になった。

 その間にウソップがお面を作ってくれて、サンジ君のお面だけ目がハートになってるのを見てなんか納得しつつも全てがどうでも良かった。それにしても、視界が高くなると随分と世界が違って見えるわね。

 ルフィはワニタウロスの元で名前と言うか通り名を聞いていて、どうやらそれが茶髭と言うらしい事を知る。実際海賊は目立つ身体の部位が通り名になる事が多く、白髭さんが居たからなのか、髭の色が通り名になってる海賊はそれなりに居るらしい事は知っていた。

 元の世界では黒髭が有名で、それは残虐性と処刑法が余りにも酷かったからではあるのだけど、勿論海賊に限らなければ赤髭とか色々有名な人はいた。でもその辺の話は、この世界とは無関係の話なので割愛する。

 そして私達がシャボンディ諸島に到着した時の億超ルーキー達と、黒髭を加えたメンバーが最悪の世代と呼ばれていると聞く。その流れで聞こえて来たのは、ベガパンクの名前。

 それに私が反応したのは当然だと思う。だって、まだ会えていない唯一の親友なのだから。

 

 「ベガパンクは元気なの!?怪我とか、病気とか……!!」

 「知るか!!あんな奴死ねばいいんだ!!」

 「何ですって!?彼が何したって言うのよ!!」

 

 海賊から見たら海軍に所属してる奴なんて皆最低だってのは分かるけど、それでも悪く言われてはいい気分にはならない。彼は口は素直じゃないけど、優しい子なのに!

 

 「俺がこんな姿なのは、ベガパンクのせいだよ!!」

 「……どういう事?彼は人を傷付ける事なんて昔から出来ないわよ。口は悪いけど、いい子だもの」

 「知り合い、なのか?」

 「会った事、無いけど」

 「「「「「「「「無いのかよっ!!」」」」」」」」

 

 茶髭とのやり取りを受けて、麦藁の1味に所属する男衆と茶髭が声を揃えるけど、私は何一つ嘘は言ってない。私は今世、ベガパンクとなってからの彼に会った事はないもの。

 それでも、知ってるのよ。彼は優しくて、弱くて、そして……強い事を。

 そして今も、私を想ってくれてる事も含めて、知ってるの。会った事は無くても、今でも親友だと……そう無条件に信じられる。

 

 「会った事は無いけど……彼は私を傷付けないし、今も昔も全力で私を守ってくれてるわ。私の手配書が生け捕りのみなのは、間違い無くベガパンクの意向も強く含まれてる」

 

 クリマタクトを撫でて、笑う。これも、ナミが私達の誰かだと思ったから作ってくれたんだと、そう信じられるもの。

 今は多くの人達の手が入ってるけど、幼少期からずっと持っていたこれは、間違い無く私を守り続けてくれてる。私に使いやすいようにと、考えられてるのが分かるもの。

 それでも茶髭はベガパンクは悪人だと言って、マスターとローちゃんが救世主だと言う。その経験を否定するつもりは無いけど……どうなってるんだろうかと首を傾げたのは当然の事。

 それによりミノタウロス達が大量に居ると語るそれに、嘘偽りは見えない。ただそれでも、感動して泣くフランキーとチョッパーの他は妙に冷静だった。

 途中でルフィ達偵察隊がドラゴンに会ったらしい事を聞いて、茶髭から逃げろと言われたゾロがそれに頷いた時、嫌な予感がした。だってウソップの顔が……だとするなら……。

 

 「ルフィ、美味しかった?」

 「おう!!」

 

 ……やっぱりか。そう思って溜息を落として、でもその直後に様子を見ればルフィが寝ていたのでその身体を支えてあげる。

 ずっと動いてたし、長い話苦手だもんね。そう思って笑ったら、ロビンが呟いた。

 

 「変な扉、開きそうだわ……」

 「ロビン、今すぐ閉じろ、その扉」

 

 フランキー入りのチョッパーがそう突っ込んだけど、今は少し静かにして欲しい。安心して寝てるルフィが可愛いから、もう少しだけ……寝かせておいてあげたいわ。

 子供達は外に出られただけでも嬉しいのか、雪で遊んでいて平和である。こんな時間が少しでも長く続けばいいと思いながらも、解決しなければならない問題が多過ぎてそうはならない事もちゃんと気付いていた。

 冷たい吹雪が、この場にいる人達の心まで凍り付かせないように……そう願ってしまうのは、甘いのだろうか。吹雪はまだ、やみそうにない。

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