そうしてのんびりしてる背後で、サンジ君達の騒ぐ声が聞こえて来た。騒ぎに耳を傾けてみれば、どうやら侍が姿を消したらしい。
胴体が無い為に戦えない状態の侍を探しに行くと言うサンジ君の言葉により、ルフィの許可を得る為に起こすサンジ君に私は頷き私もルフィを揺り起こした。ルフィも起きて話を聞けばそれには賛成して、行ってこいよと笑う。
その時サンジ君入の私に対して、ブルックがパンツ見せてと言ったのだけど、その返事がまさかの良いぞだったのが聞こえて来た。それにより、何も考えないままにブルックを殴りつつゾロも同伴させたのは当然の処置だ。
これはウソップやルフィでは役に立たない。ゾロならばサンジ君はずっと喧嘩しててくれるし、そんな二人にブルックも妙な事を言うなんて出来ないとの判断である。
その間もチョッパーは子供達の検査をしていて、私達はこの後どうするか話し合う事になった。その時フランキー入りのチョッパーがあまりにも可愛くなくて、私とロビンの心境がシンクロしたのは不可抗力と言えるだろう。
だって、本当に可愛くないのよ。特に……笑顔が。
「ロビン……!」
「ナミ!!」
互いに分かりすぎるそれにより手を握り合うけど、今の私はフランキーである。……何だろう、この悲しさ。
その時、子供達が突然苦しみ出した。それを見て、チョッパーが茶髭に詰め寄るのを見れば、嫌な予感がする。
普通の病気ならば、チョッパーは怒ったりしない。なら、こんなに取り乱して怒る理由は何だろう?
茶髭は子供達が
……その時、私の中で全てが繋がった。子供達用の薬は砂糖を入れて飲みやすくしてる事が多いとはいえども、美味しいなんてありえない。
これがゼリーなら薬の成分を包んだまま飲み込めるから分かるけど、飴ならば口の中で溶けて出て来てしまう。その上固形だから、飲み込む時に喉に詰まらせる事も有り得るわ。
そんな無意味どころか危険な飴を使ってる状況下で、尚且つ子供達が幸せな気持ちになるなんて事は……答えは1つしかない。だとするなら、ベガパンクがやったと言われてるそれも含めて、そのマスターが怪しいとしか言えないわ。
「チョッパー、この症状……麻薬中毒で間違いないわね」
「……!?ナミ、分かるのか」
「中毒者は何度も見て来たわ。私も、利用価値が無くなれば……こうされていた可能性が高い。……飴に、入ってたのね」
「ああ!覚醒剤だ。他にも気になる数値は出てるけど、〝NHC10〟は世界でも決められた国の、決められた医師しか扱えない物だ!科学者が使うなんて許されない物なんだよ!!」
そうしてチョッパーは涙を流して怒り狂う。何の為に子供を慢性中毒者にするのかと、研究所から逃がさない為何じゃないのかと茶髭に詰め寄る。
それでもマスターを信じきっている茶髭にその言葉は響かず、寧ろ怒りを煽るばかり。ルフィは飴を取りに行けば良いのかと問い掛けるけど、チョッパーはそれをダメだと言う。
「チョッパー、自然に抜けるまでどの位かかるの?身体の小さい子はそれでいいけど、大きい子は禁断症状で錯乱したりしない?」
「それでも、与えたら意味は無いだろ」
「でも……!禁断症状を緩和出来る最低量だけ与えて、少しずつ減らすって手法が1般的な筈よ!!」
目の前で苦しむ子供達を見ていられなくて、妥協点は無いのかとチョッパーに問い掛けるけど、チョッパーは頑なに首を横に振る。つまりコレは、それをしてはいけない程に危険な覚醒剤であるという事。
何かが上がってくるような気がした。現状自分が暴れたいのか、泣きたいのかも分からない。
どうして、突然親元から連れ去られて、研究所に連れて来られたの。どうして、覚醒剤で逃げられなくしてるの。
……答えなんて1つしかない。実験、されてるんだわ。
戦災孤児を集められる状況に無いから、子供達を誘拐して行ってるんだ。子供は何処でも欲しいアイテムだから、他から回されないに違いない。
なら、子供達を使ってどんな実験をしてるの。ここが政府の施設だと言うならば、子供達を兵器にしようとでも言うの!?
「……ごめん、チョッパー。チョッパーも、つらいのに」
「ナミ……。良いんだ。確かに症状が重くなっていればいる程に、通常はナミの言ってた治療法が多く用いられてるのは間違いないから。でも、これは……この毒は……色々な臓器にも負荷がかかり過ぎる物で、だから、そんなやり方したら毒が抜ける前に死んでしまう可能性が高いんだよ」
「っ……!!ど、して……?」
「ナミ……」
「この子達が、何したって言うの!?」
涙が零れ落ちる。私が泣いても何にもならないとはわかってるのに、チョッパーは何も悪くないのに、縋るようにチョッパーに触れて、震えるしか出来ない。
目の前でガタガタと震えながら、子供達は苦しそうに息をする。鼻水と唾液を垂れ流して、苦しみ続けている。
何も出来ない私は、なんて無力なんだろう。そう思って居た時、シンド君がルフィに問い掛けた。
「麦藁のお兄ちゃん、キャンディ……持ってきてくれるの?」
「ん?……いや!!駄目だ!!チョッパーが言うなら駄目だ!!あいつウチの船医なんだ。あいつを信じろ!!」
「何で……」
「ん?」
その時、大きな子供達の様子が変わった。禁断症状だと、わかる。
理性とか、そういったものが全て消えて、麻薬だけを求めている事が伝わって来た。それを見た周りの子が怯えた様子で悲鳴をあげるから、咄嗟に身体の小さな子を優先的に腕の中に抱き締める。
凶暴性を表に出した子達の中でも、最初に暴れだしたのはルフィに問い掛けたシンド君。それを見て理性を取り戻した子は、止めようとしたりしてくれてるけど、その声は既に届かない。
「さっき取って来てくれるって、言ったじゃんか!!」
「え?」
「言ったじゃんかぁ!!」
暴れるシンド君と、それを見て泣く子供達。ルフィが吹き飛ばされる威力のそれは、私にどうこうできる問題じゃ無い。
せめて、まだ身体の大きくなってない子は守らないと。そう思って抱き締める腕に少し力を込める。
その時子供達が教えてくれたのは、シンド君は
身体の大きくなる病気なのだと聞かされていたらしいそれに、人体実験で巨人を人工的に作ろうとしてるのだと気付く。……どうして、人間はこんなにも残酷なんだろう。
小さい方が可愛いからと、子供の状態から変わらなくする為の動物実験は太古から行われて来た。そのわかりやすい例がトイプードルや豆柴、マンチカンだろう。
それだってどれ程非道か……!だと言うのに同じ人間に対して、それを行える精神が分からない。
それも、小さいままにするのではなく、巨大化だと言うのだから、許せる筈もない。大きいと言うだけで、生きにくくなるのは間違いない事だと言うのに。
「脳下垂体のホルモンが異常高進してるのは……元々じゃないんだ……。……だったら、この子達は……〝実験〟されてる……!!」
同じ答えに行き着いたらしいチョッパーが、怒りに震える。ルフィが殴っていいか聞くけど、それは駄目だと慌てて声を出そうとした時、ウソップがそれを止めて私から子供達を引き剥がす。
不安にかられてウソップを見れば、私に視線を向けずに言い切る。ウソップは武器を構えて、けれども怪我はさせないとその横顔で伝えて来ていた。
「大丈夫だから、任せとけ!!〝必殺〟!!〝爆睡星〟!!」
ウソップの技により子供達が全員眠ったのを見て、溜息が落ちる。その時チョッパーが連れて帰ってやりたいと、親元に返してやりたいと、助けたいとルフィに願い出た。
必死なチョッパーに対して、ルフィは視線さえ向けずに頷く。そして親元に送り届けてやろうと言ってくれたそれに、ホッと私も胸を撫で下ろす。
けれどもフランキーはそれに納得せず、ロビンも元凶を確認しなければどうにもならないと否定的。……特にロビンは、子供とか可愛いの好きだから、帰すのに協力的な意見を言うと思ってたから、少し驚いてしまう。
それでも皆の意見を聞いたルフィは、研究所へ戻ろうと言い出したけど、チョッパーは治療の為に残ると言う。元凶を殴りたいけど、今は子供達が心配だと。
それに内心同意来た時、ルフィの声が聞こえて来る。驚いて視線を向ければ真剣な顔で私を見ていて、何処か優しげに瞳を細めるルフィがいた。
「ナミもだろ」
「え?」
「ナミも、子供達心配で戦いになんねェだろうから、チョッパーの事手伝ってやれよ!俺達の中でチョッパーの次に知識あんのナミだし、二人なら子供達も目覚めた時怯えたりしねェだろうからさ!!」
「ルフィ……ありがとう……」
震える私をルフィは抱き締めてくれる。そして、当然のように頭を撫でてくれて、いつもと違って少し届かない感じが何だか愛しい。
私の顔を覗き込んで、目尻の涙を指で拭ってくれる。こうやってルフィは、私の心を掴んでしまうのだ。
「わかってるから、もう、泣くな。……ナミ泣かせた奴はぶっ飛ばすって決めてんだ。大丈夫、任せとけ」
「そうだぞ。俺様の身体で泣くんじゃねェ!!」
「……フランキー、あなた、すぐ泣くじゃない。寧ろナミの方がいつもは泣かないんだからそんな事言う権利無いわよ」
そんな会話の後、ルフィが子供達を縛り上げてくれる。身体を元に戻す為にもローちゃんに会う必要があるとフランキーは言うけど……。
「俺は皆がいるなら身体なんてなんでもいいけどな!!」
「……ルフィは、フランキーの身体を抱くつもりなの?」
「あ、それは不味いか!!面白ェけど、それは困るもんな!!」
「面白くねェからな!?早く戻るぞ!!」
そんな事を言って、ルフィ達は出発した。私達はそれを見送ってから、子供達の検査に入る。
状態を理解出来なければ、治療する事も出来ない。中毒レベルがどのくらいなのか、他にはどんな問題を抱えているのか、どうしても知る必要があるのよ。
そう思ってチョッパーと子供達を調べて回っていた時、突如響き渡る爆発音。もう施設としては機能してないのだから、これは攻撃の筈。
でも、敵の姿が見えなくて……新世界には姿を隠せる敵が多いらしいと内心で溜息1つ。種族的なものか、それとも何かの装置でも使っているのか。
「チョッパー、戦いになるわ。荷物片付けて」
「ここには俺とナミだけだぞ!」
「チョッパーの方が目立たないから、上から敵を探してくれる?私、見聞色の覇気使うと無防備になっちゃうから……ギリギリまで使いたくないのよ」
「分かった!見て来るよ!」
そうして登っていくチョッパーを見送り、子供達に瓦礫が降り注がない事を祈る。今、私は何が出来るだろう。
登ったチョッパーから敵の姿が全く見えないと聞かされて、やはり見聞色の覇気を使うしかないかと思う。なのでチョッパーが戻るのを待って使おうとしたら、茶髭……うーん、白髭さんどころか、黒髭から見ても格下だし……茶色でいいわよね。
そんな訳で、茶髭改め茶色が目を覚まして嬉しそうに笑った。もちろん改めたのは私の中でのみである。
そして、助けに来たのだと言うから情報を聞き出す。探しても姿を知る者は無いと言われれば、見聞色の覇気頼りねと思う。
その後に何も分からないと言った割には、巨大な獣人である事や声の低さ、二人組である事に加えて出身地や年齢まで知っていて、思わず突っ込んでしまった。それでも茶色は語る。
「奴らは巨大で強ェぞ!!俺を助けに来てくれた!お前らはもう〝殺しのリスト〟に入っちまったん……!?」
その時目の前に突然現れた巨大な人影。それが茶色に問い掛ける。
確かに驚くくらいに低い声で、巨大な体格である。つまり、茶色の言い分や情報に基本的な所で嘘はないのだろうと理解した。
「〝茶髭〟だな?お前も殺しのリストに入ってる」
その言葉に、私は全身の毛が総毛立つのを感じた。これ程信頼して、慕ってる相手すらその〝マスター〟は切り捨てるのか。
その状態でそんな訳は無いと繰り返す茶色に、殺し屋は録音を聞かせる。足手纏いだからもういらないと、殺せと言うそれにチョッパーも言葉を失う。
悪し様に罵られるよりもずっと酷い言い草で表現された言葉に続いたそれに、茶色は涙を流す。茶色は、マスターを心から信じて、慕っていたのだろう。
それなのに心情を欠片も考慮せずに、淡々と最終確認する殺し屋に、涙を流すばかりで茶色は返事さえも出来ずにいる。そして悲痛な声でマスターと叫んだのと同時に、爆音と爆炎が広がった。
黒い炭のようになりながら、涙を流し続ける茶色に駆け寄ると、殺し屋は戻って来たルフィに標的を移動させてその場を離れて行く。海賊は本来、山賊とは違い仲間意識が高い筈なのに、どうして……!?
「茶色!!しっかりして!」
声をかけるのに夢中で、私は突然身体が浮かび上がるそれに対応出来なかった。そのまま口を塞がれて運ばれて行くのに対し、どうして身体が変わっても拐われるのは私なの!?と内心で叫んでいたけど、それは誰にも届かない。