研究所から見ると裏に有るだろう山の中、私は口を塞がれなくなったのと同時に叫び続けていた。ある意味当然だけど、ある意味シュールな上に自分でも五月蝿いと思う。
「離せー!離してよ馬鹿ー!!」
「……五月蝿い」
「何なのよあんた達、変態!!私を攫ってどうすんの!?」
だからこそ内心では敵と言うか、誘拐犯の言葉に同意しそうになる。でも、混乱してる私としては他に恐怖を紛らわせる手段が見付からないのよ。
まさかこのまま裏に売られるのかな。私が中身なら本当に外側どうでもいいの?
この世界の人達って性別とか見た目とか、本当に気にしないの!?
「そりゃあ本来の私は可愛いし、スタイルも良いし、攫いたくもなるでしょうけど!今は明らかに違うじゃない!!」
今の身体は変態サイボーグなのだ。ナミちゃんの身体と同じ価値があるとは思えない。
否、あって欲しくない。中身が同じなら身体を気にしないとか、そんなのルフィだけで充分である。
「何言ってる……この男」
「コイツオカマだ。COOLだな……」
「知らないわよ!?ルフィが放っとかない!!あんた達ケチョンケチョンになればいいのよ!!」
吹雪の中で縛られてぶら下げられてるのだ、文句くらい言ってもバチは当たるまい。でもなぁ、確かにルフィはこの身体でも気にしてない感じだったし、もしかして他の人も気にしないのかなぁ?
作注:ルフィ以外は気にすると思われる。……いや、気にして欲しい……。
五月蝿い五月蝿いと言われ続けて、私の心が折れそうになった時、二人組がフランキーの身体を求めた理由に言及し始めた。それに拠れば、どうやらフランキーの身体についてる武器を問題の〝マスター〟が求めてるとそれにより分かる。
けど、獣人であるからなのか、会話をしてる二人は毛皮のみで服を着ていない。これ迄出逢った事は無くて知らなかったけど、獣人族みたいなのがこの辺りを君臨していたのかも知れないわね。
ともすればチョッパーと同じで、寒さを感じにくいのかもしれないわ。だとするなら、最悪炎の地域に行けばコイツらは……と思った時、寒さに震え出すから思わず服を着ろと怒鳴ってしまった。
その直後、悲鳴と共に落下して来たルフィに慌てて敵がいる事を伝えたけど……もう、なんて言うか。暴走してるフランキーチョッパーと戦う方が大変らしく、私を捕らえてる二人には基本的にどちらも目を向けない。
何だろうこの感じ……物凄く覚えがあるわ。そう、ビビを仮的に仲間にした時、ルフィとゾロがやらかしたそれと良く似てる。
二人の戦いに巻き込まれる形で、倒されてしまう二人になんで私コイツらに捕まったんだろうって本気で泣きたくなる。その上、ルフィ本日一番の大技は、敵ではなく味方に向けられるという体たらく。
おかげで本来変わる筈も無いお面の表情まで、ガビーン!!って感じに変わってしまう程の衝撃。けど、ルフィに視線を向けてた為に私は隙だらけで、簡単に身体を掴まれてまたもや運ばれてしまう。
「チョッパー!!」
ルフィに殴られた事でフランキーの暴走は止まったけど、その為にチョッパーの身体が!!そう思って叫んでみても、ルフィはそんなチョッパーの身体とフランキーに謝るだけで放置して私を追いかけて来る。
どうやら、ルフィにも私を助けるつもりはあるらしい。……ちょっと、フランキーとのそれで疑っちゃったけど。
そんなルフィはけれども、雪山が庭である相手により少しずつ引き離されて行く。そんな時に、ローちゃんが姿を見せて私を助けてくれる。
「ローちゃん……?」
「……話は後だ」
「てめェ何のつもりだァ~!!」
怒り狂う誘拐犯に、ローちゃんは何も答えない。代わりにそっとその心臓に触れると、そのまま技を展開し誘拐犯の意識を刈り取った。
助けてくれた事に本気で驚いた。でも、もし敵対するつもりがないのならば、どうして私達にこんな事をしたのか分からない。
「ローちゃん、ありがとう」
「……その姿で言われてもな」
「ローちゃんがやったんでしょ!?」
「お前、ナミを助けてくれたのかー!!」
私が怒鳴った瞬間に、そう言ってルフィが走って来る。それにローちゃんは、微かに顔を歪めた。
それから私達から僅かな距離を取り、辺りを警戒するように見渡す。その様子に何を企んでるんだろうと思ってしまったのは、仕方ないと思う。
だってローちゃんは珍しく賢い人だから。……そんな人が無意味に距離を取るとは思えない。
密談するなら距離は近い方がいい。コッソリ助けるだけなら、さっさと立ち去るべきだもの。
「……少し、考えてな……。お前に話があって来た……!!麦藁屋」
ローちゃんの言葉の途中、解いてくれるつもりなのかルフィが私に近付いてきたけど、解くのではなく歯で鎖を噛みちぎるから驚きの余り声も出せない。フランキーの身体で結構盛大に暴れたのに、少しも緩みさえしなかった鎖が……砕けた?
それも、歯で。ちょっと待って……どうして、これに噛まれたりして、なんで私無事なの?
もしかして、私実は最強生物とかなのかな。そんな隠された事実でもあるのかしら?
「この島はログも示さねェ……つまり、ナミがどうやってか連れて来たと言うので無ければ、偶然ここへ来たんだろう」
鎖の1部分が砕けた事で、私は漸く鎖から開放される。とりあえず、この鎖が海楼石じゃなくて本当に良かったわ。
もしもこれが海楼石なら、悲しい現実が待ってたもの。ルフィが助けてくれようとしても、ローちゃんがどうにかしてくれようとしても、縛られたままになると言う。
まぁ、そうなったらルフィに運んで貰って、身体を戻して貰ってから短剣で斬り裂く予定だったけど。つまり、私としては誰かに助けて貰えるのは大前提だったのだ。
「この島には〝新世界〟を引っ掻き回せる程の……ある
ローちゃんの言葉にルフィは首を傾げる。私は漸く動けるようになったので、肩を回したりしているけど、特に不調は無さそう。
コートも着てるから、寒さで凍えるとかも無いわね。鎖で縛られて吹雪の中で吊るされてたのに、筋肉の硬直も無いとか……羨ましい肉体だわ。
「〝新世界〟で生き残る手段は二つ……!〝四皇〟の傘下に入るか……挑み続けるかだ」
ローちゃんのその言葉には納得出来る。四皇の内これ迄は、半数が此方から仕掛けなければ何もしないでいてくれたのに、今は何もしなくても潰しに来る方が多くなってしまった。
それも、その内1つは宿敵と呼ぶに相応しい黒髭……。そう思った時〝酒でも酌み交わそう〟そう言って笑った大きな人を思い出して、私は1度強く眼を閉じた。
果たされる事の無かったそれは、二度と果たす事が出来なくなった。でも、いつか墓前に酒を供えるくらいはしたいな……。
その時聞こえて来たのは、ローちゃんの問い掛け。それにより私は眼を開いて現実を直視する。
「誰かの下につきてェってタマじゃねェよな、お前」
「ああ!俺は船長がいい!」
「だったら
「……同盟?」
首を傾げるルフィと、頷くローちゃん。ローちゃんの言い分は分からなくもない。
でも、リスクが大き過ぎるわ。ルフィは七武海と同盟関係にあるの事を笠に着る事ができるタイプじゃないし、ルフィに限らず他の海賊との同盟が判明すればローちゃんは七武海の地位を剥奪される。
ルフィには隠し事とか出来ないし、何より……ルフィは同盟の意味をわかってない気がするのよね。そう思って黙ってる間にも話は進んで行く。
「お前と俺が組めば、やれるかも知れねェ……。〝四皇〟を1人……!!引きずり降ろす〝策〟がある」
「待ってローちゃん!!同盟なんてリスクしかないわ!!私は反対よ!」
「何もいきなり〝四皇〟を倒せると言った訳じゃない……!!順を追って作戦を進めれば……そのチャンスを見出せるという話だ……!!」
「でも「どうする?〝麦藁屋〟」」
ローちゃんは私の事を完全に無視して、ルフィにだけ話し掛ける。つまり、今は私の知るローちゃんでは無くて〝ハートの海賊団船長〟であると言う事なのね。
そう理解したからと言って、素直に頷く事は出来ない。でも、ルフィもまた私の意見を聞き入れるつもりは無いらしく、ローちゃんを真っ直ぐに見据えている。
「その〝四皇〟って、誰の事だ?」
「ルフィ!!リスクしかないって言ってるでしょ!?」
「〝百獣のカイドウ〟という男だ」
ローちゃんの言葉を受けて、ルフィは笑う。その顔が珍しく海賊らしいもので、私はもう止められない事を悟る。
でも、ここで諦めたら皆が騒ぐわよねと思えば、賛成にも回れない。困ったわね。
「ふーん。
「どういう意味だ」
ローちゃんは怪訝そうな顔をするけど、ルフィとはこういう生き物である。話を持ち掛けた時点で、ローちゃんにルフィの言葉を拒絶する事はほぼ不可能。
……つまり、私がいくら反対しても賛成してみても、結果論無駄なのよね。ルフィはこういう時、絶対に自分を曲げたりしないもの。
「〝四皇〟は俺が全部、倒すつもりだから!!」
「〝四皇〟を全員倒す!?……利害は1致してるようだが、ナメ過ぎだ。……ナミから聞いてないのか」
「ん?何を?」
「……奴等はかつて〝白髭〟とも縄張り争いをしていた〝海の皇帝達〟だ。中でも〝百獣のカイドウ〟って男は、この世における
ルフィは首を傾げると私に視線を向けて来た。でも、話してないから知らなくて当然。
風が吹き抜けて、でも髪が乱れない奇跡に肉体が違うって便利かもって初めて思った。ローちゃんの視線も突き刺さるので、私は溜息混じりにそれに答える。
「……聞かれてないから、教えてないわよ。ルフィは、興味無い事覚えないもの」
そう……ルフィはじっとしてもいられないし、そういう意味においては、私はルフィについて本気で発達障害を疑ってたりする。まぁ、もしルフィが発達障害だったとしても、私が困る事は無いので気にならないけど。
それに、誰しもある程度は発達障害の要素は持っているもの。算数が得意で、国語が苦手とか、その逆とか……それが日常生活に支障が出るレベルで格差が出るから〝障害〟となるのだから、そういう意味ではルフィにも問題は無いだろうとも思う。
人間誰しも得手不得手がある。それが日常生活に支障がでるレベルで顕著だと、発達障害なだけなのだから。
そう、ただ単純にルフィは心が子供で、精神が大人になってるのだと思う。……いや、逆かも。
「成程、だがそれならきちんと話しておいてやるが……俺達の同盟はカイドウの首を取るまでだ。作戦成功の確率は……そうだな……。30%……ってところか」
「それでも、七武海の立場を失い、四皇全てを敵に回すリスクを考えたらマイナスの方が大きいと思うわ。それでも同盟を組みたいと言うの?」
「……決めるのはナミじゃねェ。今は〝船長〟の話合いだ。幹部だろうと、クルーでしかないナミに決定権はねェ」
その言葉に私が黙ると、ルフィは明るく笑った。そして、ローちゃんの言葉に頷く。
どうしてこう、誰も想定してないような事ばかりが起きるのかな。そんな事を考えて脱力してしまう。
「そうか。……よし!やろう!!」
「ルフィ!!」
「同盟組むなら、とりあえず最初にさ、助けたい奴等がいるんだ」
「……は?」
「トラ男は医者だろ!巨大な子供が沢山いるんだ。診てやってくれよ!!」
「…………同盟を組む条件ってのか。案外わかってんだな。良いだろう」
「ローちゃん、色々理由はあったんだろうけど……早く身体を戻してね?私、このままだと色々不便なのよ」
子供達の事を了承してくれたのは嬉しいけど、私の身体を返して欲しい。ルフィはもう私じゃ止められないから、皆に期待しましょう。
そんな事を考えながら、私はルフィに案内されるままに倒れているフランキーチョッパーの元へ向かい、その身体を抱き上げた。……可哀想に、痛々しいわね。
その間にもローちゃんとルフィは戦争では助かったとか言って話していて、既にスーパー……しか言えなくなってるフランキーチョッパーに、私は溜息を落とすばかり。……二人共、チョッパーに叱られたらいいと思うのよ。
そんな中で、ローちゃんがシーザー〝誘拐〟が肝になると言えば、まだ見ぬマスターに多少同情する。ローちゃんもルフィも〝殺さない〟タイプの海賊とは言え、だからこそ誘拐される側は悲惨だろうと分かるから。
そうして研究所跡地であり、我々の避難所となっているその場所へ向かう。そこで待っていたウソップ、チョッパー、ロビンに話をすればルフィは笑顔で頷いた。
「「〝ハートの海賊団〟と同盟を組む~!?」」
叫ぶ二人と、無言を貫くロビン。基本的にルフィの決定には従うつもりの私達だけど、リスクの多さには説得を試みたくなるらしい。
私と視線を交わして、それだけで頷き合う。海賊同盟は、ルフィがやる行為として考えた時には双方が危険過ぎるのよ。
そうしてる間にも、ウソップはルフィの首を締め上げていた。カクンカクンと動くルフィの首は、ルフィが無抵抗である何よりの証だろう。