私を奪い返しに来ただけの筈が、突然同盟と言われれば確かにそんな反応にもなるだろう。青白い顔で叫ぶウソップの気持ちは、何となく分かるのだ。
もしも、これが逆の立場なら私も叫んだと思うし、血の気も引いたと思う。そうならないのは、今回その問題発言してるのがルフィだと言う事と、同盟相手がローちゃんだからって所なのよね。
でも、ウソップには大前提となるローちゃんの情報が無い。ただ、王下七武海ってのと別な海賊船に居るって事だけが手持ちの情報になる。
「何でそんな
「そうだルフィ!!大体まだ〝四皇〟を視野に入れるなんて早すぎるよ!!戦える訳ない!!」
そう言いながら、チョッパー入のサンジ君はチョッパーの身体を治療する。その手伝いをしながら、でもね……と呟くように言ってしまうのは、ルフィが責められるのがなんか可哀想に思えてきたからだろうと思う。
ルフィはどうせもう止まらないし、なら受け入れてあげても……。……困るのは、寧ろローちゃんの方だと思うから。
「既に〝ビッグ・マム海賊団〟から標的にされてるんだから、四皇を視野に入れるのが早いってのは困るわ。視野に入れられてるんだから、こちらも対策は必要よ」
「「ナミはどっちの味方だよ!?」」
「私も今回の同盟については、リスクが高過ぎるって何度も言ったわよ。でも、聞いて貰えないんだもの」
声を合わせる二人に苦笑した時、ロビンがルフィに言った。その間もずっと、ローちゃんはただ静観しているばかりだけど。
吹雪は落ち着きを見せているけど、周りには大量の雪がある。眠ってる子供達の様子を見てみれば、今は安定してる様子。
「……ルフィ、私は貴方の決定には従うけど……海賊の同盟には〝裏切り〟が付き物よ。人を信じ過ぎる貴方には、不向きかも知れない」
「え?お前、裏切るのか?」
「いや」
「あのなァ!!」
ロビンの不安をかき消すつもりなのか、天然なのか。……恐らく天然だけど、ローちゃんに直接問い掛けるルフィに呆れてしまう。
実際ローちゃんは、ルフィを裏切ったりはしないと私は断言出来るけど、当人に〝裏切るのか〟と聞いて、それに対して〝はい、裏切ります〟なんて誰が答えると言うのか。つまりは、突っ込むウソップがこの場合は正しい。
けれどそんな大騒ぎの私達にルフィは笑う。少年らしい明るい顔で。
「とにかく〝海賊同盟〟なんて面白そうだろ!?トラ男は、俺、良い奴だも思ってるし、ナミとも古い付き合いみたいだから大丈夫だろ」
そして楽しそうに笑いながら、明るく信頼という爆弾を投下して来る。ルフィは天然の人誑しであるとこんな時痛感させられるけど、それに抗う手段を誰も持たないのだ。
だって、私達はルフィの事が大好きだから。好きな相手から向けられるそういった感情に、抗えるような人がクルーにいる訳も無いのだ。
「もし違ってたとしても、心配すんな!!俺には、二年間修行したお前らがついてるからよっ!!」
「「「「え~!?」」」」
私、ウソップ、チョッパー、フランキーがそれにより衝撃の声を出して、その後はそれぞれ大騒ぎである。それをロビンだけが、微笑ましそうに眺めて居たけど。
顔が熱を持つ。自分の姿が今はフランキーだとか、そんなの瞬時に忘れていた。
「や……やだもー、ルフィったら、照れるじゃない」
と、フランキーの身体で頬を染めて両手でそれを押さえて身をくねらせる私。それに続いて三人も喜びの言葉を照れながら言い出し、その様子に嫌そうな顔をしたローちゃんがあからさまな溜息を吐き出した。
「〝シャンブルズ〟」
その言葉の直後、フランキーとチョッパーは身体を元に戻す事になった。けど、私の身体は近くに無いので、私だけサンジ君の肉体である。
大喜びのフランキーと、微笑みながら怒りをたたえるロビン。でも、ロビンの気持ちはよく分かる。
本当に、フランキーが入ってるチョッパーは可愛くなかったもの。これでチョッパーが、可愛いいつものチョッパーに戻ったわ。
でも、ボロボロの肉体に戻った形になったチョッパーは怒りを滾らせ、怒鳴る。うん……チョッパーが正しい。
「お前ら、人の身体に何してくれてんだよ!!」
「「はあ……すいません。コイツが悪いんだ」」
「お前がチョッパーの身体で暴走するから、俺は止めるしかねェだろ!!」
「だが、何もクラーケンをぶっ飛ばす様な技を出す事無かったろうがァ!!」
「どっちもだ!!」
暴走してるフランキーを動けなくしなければならなかったし、時間も無かったから仕方ないのかなとも思う。けど、他の……もう少し威力の低い技でも良かった気はするのよね。
どれ程凶悪に暴れていたとしても、少し置いとけば勝手に動けなくなったんだから。そう思うと、この場は間違いなくチョッパーの言い分が正しい。
正しいけど……。そんなにルフィを責めないで欲しい。
「自分に戻れただけ良いじゃない、チョッパー!!何で私だけたらい回しなのよ!!フランキーの次はサンジ君!?」
その直後笑い転げた三人と、そっと近付くルフィ。私の腕を掴んでそのまま抱き寄せられると、私が座ってるからか身長差の違和感が消えてしまう。
「ナミだな。髪とかから蜜柑の香りしないけど、何でだろうな……甘そうに思うんだ」
「ルフィ?」
「このまま、食っちまいたい。……でも、サンジにナミの身体を見るのも禁止してる以上、それは不味いよな」
それが無ければ恐らくルフィは、本気でサンジ君の身体である今の私にキスくらいはしてる。それがわかってしまう。
真っ直ぐに見詰めてくるルフィの瞳に、サンジ君の顔が映っている。それでも……ルフィが見てるのは〝
「このままだとキスもできねェから、元に戻れるようにナミはここで待機だな」
「……でも、ローちゃんが戻ったらサンジ君と遭遇できても戻れないわよ?」
「そりゃそうだけどよ、ナミがトラ男と行くのは難しいだろ。トラ男、センニューしてんだろうからさ」
それはそうだけど、何だろう。納得出来ない。
ルフィの首に腕を回して、肩口に顔を埋めるように抱き着くと、ルフィが背を撫でてくれて、それが妙に嬉しい。安心できるのは、恋してる相手に対してはおかしいんじゃないかなって思うんだけど……どうなんだろう。
「……ナミ」
「ルフィ……」
互いに肩に顔を落として、震えるようにして……抱きしめ合う。離れたら、そのまま二度と会えなくなるとでも言わんばかりに。
その時ロビンの驚きを隠さない声が聞こえて来た。でも、それに反応するよりも今は……少しでも長くルフィにくっついていたい。
「あらヤダ。余り違和感無いわ」
「あるだろ。……麦藁屋、それは男だぞ」
「ん?ナミなら俺、男でも気にしないぞ」
「「「「「気にしろ(てよ)」」」」」
ロビン以外が全員で突っ込むけど、ルフィは気にした様子も見せない。全く……困った船長様だわ。
でも、傍に居ると何となくどこかで触れ合っていたくなるので、少しルフィから離れてフランキーの元へ向かう。武器を返して貰わないといけないから。
「フランキー」
「ほらよ」
比較的大人しいと思っていたら、身体から武器を取り外したりして用意してくれてたらしい。その間にローちゃんは厄介だから放置しろと、子供達を助けたいと言うルフィに言った。
「薬漬けになってるらしい」
「知ってるよ!調べたから!!」
怒るチョッパーに、ローちゃんは冷静に政府が長年かけて行われてる研究だと教えて来る。それに対してロビンが疑問を挺すれば、目的は兵士だろうと言い切られた。
皆がマスターと呼んでたのがシーザーと言うらしい事をその話で知るけど、あまりそれには興味無い。その時ローちゃんが子供達を見上げて、誰にともなく問い掛けて来た。
「……本気で助けてェのか?……どこの誰とも分からねェガキ共だぞ」
私はフランキーから渡された物を身に付けながら、手荷物も片付けて子供達を同じように見上げた。脳裏には泣いていたモチャが居る。
家に帰りたい……と、助けてと泣くそれを私は例え1人でも助ける為に残るつもりでいる。まぁ、チョッパーも残ってくれるとは思うけど。
「見ず知らずじゃないわ。もう、会話もしたし、共に過ごした時間がある。名前だって知ってるもの」
「……巫山戯てんのか。それは知ってるとは言わねェ」
「子供に泣いて〝助けて〟と言われたのよ。見捨てる気は無いわ」
「ナミは、どうしてそう……」
マスターがどれ程上手く騙してるつもりでも、子供達もおかしい事には気付いてる。そんな粗だらけの人間が、ベガパンクに出来なかった実験を成功させられるとは思わない。
……彼と話せれば、解決策が見つかると思うのよね。彼は昔から、色々な物を作ったり研究したりするのが得意だったもの。
寝ている子供達に寄り添うように傍に腰を降ろして、そっとその身体を撫でる。静かな寝息をたてるモチャを見て、少なくとも安全を確認しなければ離れられないわと思う。
「この子達の安全を確認できるまでは、私は絶対にこの島を出ない!!」
「……ナミ1人で残るつもりなのか?どうしてお前は〝子供〟にそう甘いんだ!!」
「仲間置いてきゃしねェよ。ナミやチョッパーがそうしてェんだから、俺もそうする」
ローちゃんの言葉に答えたのはルフィだったけど、それにローちゃんは声もなく動揺する。混乱してますって顔に、けれども私には意識を向ける余裕は無い。
モチャだけじゃない。ここに居る皆が可愛くて……。
どうしてこんな非道な事ができるんだろう。犯罪者や、死にかけてる戦災孤児を拾って来たなら……いや、それでも許せないかもだけど、まだ理解出来る。
だってそれならば、どちらにしても幸せに生きる未来はほぼ無かった訳だし、生きていられた可能性だって元々少ないのだから。それに多分……子供でなければこの実験は成果が全く見えないんだわ。
歯並びを子供の方が直しやすいように、姿勢も歳を重ねてからは悪くなるばかりで良くするのが難しいように、恐らく巨大化させるには成長するそれを利用する必要があるんだわ。それならば、様々なサイズの囚人の氷漬けも恐らく実験された被検体。
「後サンジがサムライをくっつけたがってた。お前、俺達と同盟組むんなら協力しろよ!?」
ルフィの言葉で意識がルフィに向く。その時硬直してるローちゃんが見えたけど、これを望んだのはローちゃんだもの、知らないわ。
ルフィが普通の海賊同盟なんてできる訳無いのよ。何度も止めようとしたのに、話を聞いてもくれなかったんだから、そこは自力でどうにかして貰いましょう。
「あァ……お前言っとくが、ルフィの言う〝同盟〟って多分少しズレてるぞ」
「友達みてェのだろ」
ウソップの言葉に、ルフィが合いの手のような物を入れる。主導権も握れないし、我儘で自分勝手だと言い切るウソップに、私達は揃って無言のまま頷いた。
喘ぐように異議申し立てをしようとするローちゃんに、けれどもローちゃんは私達を見て自らの主張を引き下げて肩を竦めた。どうやら諦めたらしい。
気を取り直したローちゃんが、私達に船医は誰だと問い掛けると、皆が迷い無くローちゃんにチョッパーを繋ぐ。動けないからだとわかっていても、ローちゃんが反応出来ずに居る感じとかも含めて、笑いが込み上げてきてしまう。
結局その後ローちゃんが大騒ぎする事は無かったけど、チョッパーは頭上から刀の飾りへと変更された。そのまま簡単な打ち合わせを開始する。
シーザーの考えや名前、懸賞金やロギアの能力者である事等をまずは説明される。それを珍しく、ルフィも大人しく聞いていた。
「覇気を使えない者は決して近付くな。ただの科学者じゃない」
「こっちで覇気使えんのは、俺とゾロとサンジ……後、お前だろ」
「さりげなくナミを抜くんじゃねェよ」
「使えても戦わねェなら、使えないのと同じだろ。ナミは見聞色の覇気が得意だから、攻撃躱すの得意だけど攻撃に回んのは難しいぞ」
ルフィが覇気を使えるようになってるのはわかってたけど、分析までできるようになってるのには流石に驚いてついルフィを行事してしまう。でも、ローちゃんはその言葉に小さく頷いて、確かになと言うから少し嫌な気分になる。
そのままとりあえず戦力としては十分との話になれば、私は結局戦力外なのだと痛感させられる。でも、二人とも私を弱いとは言わないのだから不思議なものよね。