※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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ガス

 その話の流れで、シーザーを誘拐するのだと言う事で皆が理解すれば、ローちゃんは1足先に進むと言ってくれた。誘拐の目的については語ってくれなかったけど、誘拐した後はもう引き返せないと言い切るローちゃん。

 それを聞いたルフィは、意味をわかっているのかいないのか不明だけど、笑顔で頷いた。それを受けてローちゃんは、仲間の説得をしておけよと言い残して足早に去ってしまう。

 私はその背中に、そしてチョッパーに気を付けてと叫ぶように声をかけたけど、二人とも小さく頷くだけで行ってしまった。その後ローちゃんの作戦に従う為に皆が動き出そうとしたけど、子供達を眠らせる事が可能なウソップと、子供達に意識を取られて戦えないと判断された私がこの場に残る事に決まる。

 そうして二人残された他は皆が作戦の為に行ってしまうと、私とウソップは呑気に座ってる事しか出来なくなった。どうでもいい様な雑談をしつつ、眠る子供達を眺めていた。

 

 「侍、どうなったんだろうな」

 「そうね。分からないけど、そろそろ元に戻れてると良いわね」

 「侍って、身体戻ったら強ェのかな?」

 「んー、多分強いと思うわよ。名前名乗ってないから、多分私達を信頼してないんだと思うわ。けど……ちゃんと味方になれば心強いと思う」

 

 なんと言っても、原作者は時代劇オタクみたいな所があったと記憶してるから、多分相当強い。侍は海軍が手出し出来ない程の強さって事で知れ渡ってて、そんな中で最初に登場した侍が弱いわけは無いもの。

 私の原作に関する未来知識は奪われたけど、それでも推測や予測する事は充分に可能なので、慌てる必要は無いと自分に言い聞かせる。まあ確かにルフィでは無くて、私が先に侍と会ってるから原作とは関係無いって可能性も無くはないけど……。

 そうして不安になるのには理由もある。私が読んだ作品の中で、ナミちゃん(ヒロイン)がルフィを含む仲間が誰も1緒に居ない時に強い男と会う事は無い現実があるからよ。

 逆を言えば、仲間やルフィと居る時に会う男は、恐ろしく強いと言う事。その条件を考慮して考えるなら、あの侍が敵だとするなら、サンジ君と同格の強さと言う事になるわ。

 味方になるなら少し読めないけど……でも、弱くは無いと断言出来るわ。ただ、そんなに強い味方が増えるのだとしたら……この先、平穏になんて過ごせない事は確か。

 アラバスタに向けて仲間になったビビは弱かったわ。それは場所の違いもあるし、本当の意味での弱者ならば〝仲間〟にはならなかった事を考えたら……この侍の立ち位置が分からないのよね。

 ビビが強かったのは心とか、そういう所。でも、侍は戦闘力が高くて……それなのにビビのように共に行動するようになる可能性が高い。

 

 「ナミ」

 

 思考の渦から呼び戻すように名を呼ばれた事で、意識をウソップに向けると、青ざめた顔で何かを見ていた。慌ててその視線を追ったら、そこにあるのは……ううん、居たのは苦しみから自我を失い動き出してしまった子供達。

 鎖で繋いであるのに、安心なんて出来ない。呻き、叫ぶ子供達に私は何が出来るのか……。

 

 「くさり……を、といて……!!お兄ちゃん……たち!!」

 「アアア~ア~!!」

 

 ウソップは幾度も子供達を煙に包むのに、その効果は見られない。鎖が悲鳴を上げている。

 どうしたら良いのか分からなくて、ウソップに叫ぶように問い掛ける私。それにウソップもまた首を横に振るばかり。

 

 「ウソップ!!どうして寝ないの!?」

 「そう何度も効くモンじゃねェよ!!きっと、禁断症状の苦しみの方が上なんだ!!」

 「じゃ……!!どうしたら!?」

 

 既に薬漬けの子供達に、私に効く睡眠薬を使ったら死んでしまうかもしれない。ここが雪山であるのもまた、災いしてしまう。

 微睡む程度ならば、構わない。けど、苦しみから解放される為とは言え、深く眠ればそれは生命に関わるもの。

 

 「何とか力尽くで抑えるしかねェよ!!頼む!!サンジ!!」

 「ナミです!!」

 

 まさか子供達を雷で感電させる訳にもいかないし……。そう思った時、ウソップは見た目は頼りになりそうなのにとか言う。

 でも、サンジ君でも子供は蹴れないしどうにもならなかったと思うのよ?

 子供達は飴を求めて苦しみを訴える。頭痛や吐き気を訴えて、飴を食べれば楽になれると言い出した子供達は、数人ではあるけど、とうとう鎖を引きちぎり暴れ出した。

 

 「ギャー!!来たー!!も……もう、攻撃して良いだろ!!ありゃ怪物だ」

 「駄目よ!!馬鹿ね!!相手は子供よ!?」

 「お前は子供に甘過ぎんだろ!!」

 

 その時、子供達が動きを止めた。喜び、そして歓声を上げた声を聞いて嫌な予感を感じつつ振り向けば、背後には見知らぬ巨体が立っていて……。

 子供達にキャンディを食べたいだろうと声をかけるそれに、私は子供達から意識を逸らしてマスターと呼ばれるそれを睨み上げた。……こいつが、マスター……。

 

 「マスターって……!!なら、あんたが子供達を攫った犯人ね!?」

 「なんでここに……!?ルフィ達とすれ違っちまったのか……!!」

 

 ウソップの問いには答えないままに、マスターは言う。子供達を連れ出すから苦しんでるじゃないかと。

 ルフィ達がすれ違ったと言うのならば、その内ここに来るわ。でも、それをただ待つなんて出来ない。

 私は、コイツを許せない。その発言を……聞き流せないのよ!!

 

 「何ですって!?」

 「おい馬鹿辞めとけよナミ……!!あいつは〝自然系〟で3億の首だってローが言ってたろ!!」

 「誰がこの子達を苦しませてんの!!こんな小さい子達にあんた1体何をしたのよ!?」

 

 子供達を苦しめてる元凶が、良くもまぁいけしゃあしゃあと!!子供が親に会いたいと願って、何がいけないって言うのよ!?

 そう思うから、ウソップの静止なんて私には届かない。冷静さを失えば、勝てる相手にも勝てなくなるのは知ってる筈なのに、冷静になんてなれなくて……。

 

 「皆家に帰りたがってるわ!!親達だって探してるに決まってる!!この子達は、私達が必ずここから逃がす!!」

 

 その時背後から聞こえたのは〝マスター〟と〝キャンディー〟を求めて大合唱のようになっている子供達の声。それにマスターは笑い、何処に帰りたがってる子がいるのかと言われてしまえば、薬のせいとわかっていても言い返せない。

 確かに今のこの子達は、飴と言う毒を求めてる。親に二度と会えなくなる可能性が高くても、飴を求める程の苦しさとは……どれ程のものなのかしら。

 

 「おい待て!!お前ら行くな!!また研究所に戻りてェのか!?」

 

 ウソップが慌てて声を出すけど、子供達はそんなウソップを殴り飛ばす。でも、戻ったら二度と家には帰れなくなる。

 何よりも、禁断症状でそうなったとはいえ、これを後で覚えていたら……帰りたいってどれ程願ってももうその声を上げられなくなる。助けてくれようとした人が自分のせいで傷付いた事で、誰にも助けを求められなくなるわ。

 私やナミちゃんがそうだったように、自分が我慢すれば良いって、誰かを巻き込むくらいなら死を選ぶようになってしまう。それがわかってて、行かせられない。

 それでも倒れたウソップも心配で、こんな事になってる元凶に怒りを向ける余裕も無い。ウソップの名を呼びながらに駆け寄り、けれども駆け出す子供達を見てそちらへ飛びつく為に方向転換する。

 

 「待ちなさい!!あんた達!!そいつの所へ行っちゃ駄目!!お家に帰りたいんでしょ!?」

 

 その時子供達は禁断症状から私が虫に見えたのか、殴り飛ばされてしまう。そんな私を見て、ウソップが怒りを隠さず立ち上がる。

 慌てたように私を見て、武器を構えた。ウソップは、私に甘過ぎる。

 

 「ナミー!!コンニャロ調子に乗るなよガキ共ォ!!」

 「駄目よ!!ウソップ辞めて!!」

 

 ウソップだって今怒りのままに子供達を殴ったりしたら、落ち着いてから自分を責めるわ。そう思って飛び付いて止めるとウソップは私の殴られた頬を見て瞳を揺らす。

 ウソップは、私を心配してくれているのだ。殴られたのが私だからと言う、ただそれだけの理由で怒ってくれてるのだと分かる。

 今の打撃を受けたのが肉体が私なら、きっと持たなかった。それもわかってるからこそ、ウソップは怒ってくれてる。

 

 「ぐっ……!!離せ!!もう無理矢理止めるしかねェだろ!!あいつら幻覚見てんだよ!お前をゴキブリっつたぞ!?」

 

 私だって聞いていたわ。でも、子供達が幻覚を見てるのもわかってる。

 どうしたらいいのか、答えが分からない。その時子供達が苦しみ暴れる姿を見て、研究所の中で怯えながら震えてたその姿を思い出す。

 

 『お父さんとお母さんに会いたいよ!!お姉ちゃん、戻って来てね!!後で助けに来てね!!』

 

 脳裏には子供達が泣く姿がある。今も耳の奥で谺響してるのよ。

 なら……答えはひとつしかない。迷いなんて、もう無いわ。

 

 「この子達は……!!被害者よ!!何も悪くない!」

 

 私の言葉にウソップは息を飲む。こうなった私が譲らないのはよくわかってる筈で、だからこそウソップはたじろいだ。

 子供達は苦しいと、鎖を解けと叫ぶ。鎖から抜けた子はマスターの方へ移動を開始していて、でも今ならまだ巻き込まなくて済む筈だわ。

 

 「だが何とかしねェと、俺達までこいつらにやられちまうぞ!!」

 「だったら、その怒りは……あいつに!!」

 

 その言葉で、ウソップはマスターに火を嗾ける。背後では鎖に繋がれていた子達も、それを引きちぎり動き出した所で……。

 不幸は連鎖する。ガスの能力者だから爆発すると思っていたのに、ガスと言うより〝気体〟であるらしいマスターは、空気を抜く事で火を消してしまったと言う。

 つまり、接近戦の出来ない私達は、接近された時点で詰むのだ。なのに、子供達まで暴れだしては太刀打ち出来ない。

 ウソップを助ける為にと雷雲を用意するけど、地球にある大半のものが空気が無ければ存在出来ない為にそれがマスターに届く前に、効力を失う。そうして酸素を奪われた私達は、その場に倒れ込んでしまった。

 私もウソップも遠距離戦タイプなのが災いした。せめて、中距離で私がもう少し戦えたら良かったのに……!!

 そこへ子供達が攻撃を仕掛けてくるけど、意識が朦朧としてる中で、しかも、相手が子供達では反撃も出来ない。もう駄目かと思った時、巨大な影が間に入って来た。

 その正体に気付いた時には、その人物がマスターを攻撃してくれた直後で……。私は、思いもよらないその助っ人をそれによりできるようになった酸素を思いっ切り吸い込んでから、叫ぶように呼んだ。

 

 「茶色!?」

 「〝茶髭〟だよ!!いい加減覚えろ!」

 「た……助かった……!!」

 

 茶色が気を引いてくれてる間に子供達をと思ったけど、ウソップに今は逃げて皆と合流して体勢を立て直してからにしようと言われたので、とりあえず逃げる為に駆け出した。当然のようにその場に残り戦ってくれる茶色は心配だったけど、今それを気にする余裕は無い。

 今戦っても勝ち目は無い。ならば今、私が茶色と共闘しても無駄なのは分かりきってる現実。

 ウソップと共に駆け出して、でも、子供達を気にして少し振り向いた時茶色が戦ってた筈のマスターが目の前に現れた。驚いている間に、ウソップと私は肩を掴まれて、そのままガス爆発に飲まれる。

 まるであの日のようだと思ったのを最後に、私の意識は深く暗闇の中へと沈んで行った。……それから、どれくらいの時が流れたのか、意識を取り戻した時には、もう誰の姿もなくて、呻くウソップに気付いて慌てて駆け寄り抱き起こす。

 

 「ウソップ!」

 「うっ……うぅぅ……」

 

 大分やられた筈なのに、サンジ君の肉体はなんともない感じで動かせて本気で驚いてしまう。……よく、打たれ強いって敵が言ってたけど、我慢強いんだと思ってたけど、本当に頑丈だったのね。

 その時手にしていた手袋を見て、サンジ君に預けたままになっている手作りの不格好な手袋を思い出す。そのまま周りの雪を見て、幼かった頃のドフィやロシー、ローちゃんを思い出してしまう。

 今はもう、面影さえ殆ど無いのに……。そう思った時、意識を取り戻したらしいウソップの声が聞こえて来た。

 

 「お……おお、サンジ……。助けに来てくれたのか」

 「だから……ナミよ、私」

 「あ……あぁ……」

 「そんなに残念そうにしないでよ」

 

 地味に落ち込みそうな反応されて、肩を落とせば悪かったと言いながら起きてくれたウソップ。とりあえず簡易的な治療をしてから、ルフィ達も同じように酸欠で負けたと知ったからには対応しなければと立ち上がる。

 空気を抜かれた時に、皮膚が裂けるとかそう言うのがなかったから完全に酸素が消失してる訳じゃない。なら、酸素マスクとかがあれば対応できるけど、戦いながらそれを使うのは無理があるわ。

 つまり、突然水中にいるような状態にされるって事。なら酸素を吐き出す事はできるのだから、慌てなくても大丈夫。

 それも踏まえて、でも、なんで意識を奪われたのかくらい情報共有しておきたくて、私は歩き出した。その背後から慌てたように私を呼びながらウソップが着いてこようとした時、倒れてる茶色に気付いて足を止める。

 助けてくれたのだし、彼も騙されていたのだ。そう思ったら、自然と足が茶色に向かって動いていた。

 そんな私をウソップが止める事は無くて、それどころか何処か優しい顔で笑って居たのは少し気になったけれど、その理由は皆目見当もつかない。ガスによる恐怖体験がこの先待ってるなんて、この時の私達は誰もわかっていなかった。

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