また、甘いと言われるのかも知れないけど、とりあえずまずは応急処置をしたい。そう思って開始したけど、直後に茶色が意識を取り戻した。
「あ……手当て……してくれてたのか……?」
「庇ってもらったし、あんた、そう悪い人じゃないみたいだから……」
言い訳のように紡いだ言葉は、誰を守る為なのか。自分でもよく分からない。
それでも、手を止める気にはなれないけど。本当に、どうして庇ってくれたんだろう。
「……俺は、俺の部下を助けに行かなきゃならねェ!だから、手当はいい。ありがとう」
「目的地が1緒なら、そこまで別行動する理由も無いわ。私達も仲間と合流して、子供達を助けなきゃいけないから」
「なら、乗れ!人が乗ってても速度は変わらねェからな!!」
その言葉にウソップをそっと振り向けば、静かに頷いてくれた。そうして私とウソップは、茶色に乗せてもらい研究所へと向かう事になった。
そうして向かっていると、見えて来る物がある。謎のジェル状の物体が集まり巨大化して行くのが見えて、嫌な予感しかしない。
「何なの、アレ……」
「スマイリーと呼ばれる研究生物と聞いたが……今となれば、何処までが真実なのか」
「嫌な予感しかしないわね」
「急ぐぞ!!」
走る茶色に本気で感謝しながら、私は嫌な予感しか生まないそのジェルを眺める。そうしていながら、ズタボロにされた筈なのに痛みの殆どない肉体に1応治療を施して行く。
それと同時に勿論ウソップの治療も行うんだけど、茶色は走るのに邪魔になるからと治療を拒否されてしまう。そうこうしていたら、ジェル状だったそれがいつの間にか煙と言うかガスと言うか微妙な物に変わっていた。
それを見ながら悲鳴のような声を出せば、ウソップも猛毒だろうと言う。そんな中で茶色……ううん、茶髭っちが全速力で走ってくれていて、それがなんだか申し訳ない。
こうして共に過ごす時間が増えれば、愛着みたいな物だって芽生える。だから、親しみを込めて呼び名を変える事にしたけど、茶髭っちは呼ばれ方が変わっても気にした様子は少しも見えない。
「ごめんね、茶髭っち。重症なのに、私達乗せてもらって……!!」
「構わねェ。俺から言い出した事だし、小人を乗せるようなもんだ……兎に角俺は……部下達を救わねば……!!」
「俺達はガチンチョ共だ!!まだキャンディ舐めてなきゃいいが……!!」
内臓が駄目になるので無ければ、最低限だけの摂取をしていて欲しいけど、駄目だとチョッパーが言ってたのを考えたら食べてたら困るのは確かよね。……どちらにしても、禁断症状か薬の弊害かで苦しんでるだろうな。
それに、何よりも……1度は倒れたと言うルフィ達も気になる。そう思った時、何かがガスに追われているのが見えて視線を固定すれば、追われているのが竜だとわかった。
でも竜って、ルフィ達が食べたんじゃないのかしら?
竜なんて生き物が、こんな変な島に何匹も居るなんて思ってもみなかったわ。そう思って眺めていたらその竜にゾロ達が居て、途中で合流を果たした。
それに内心で喜んだ直後、茶髭っちの走る速度が急激に上がる。その理由は、尻尾を竜に噛まれた痛みのようだけど。
そうして見えて来た研究所は、直前迄扉が開いていたのに、無情にも目の前で閉められてしまう。それに対して、待ってと叫んだけど待って貰えなくて……。
「中にルフィ達が居るんじゃないの?どうして、閉めちゃうのよー……」
「駄目だ。締め出さられる~!!俺達死ぬんだ。ガスで~!!」
私とウソップがよよ落涙……とばかりに嘆いていたら、ゾロが侍に問い掛けた。それに侍は頷く。
「鉄は斬れるか、キンエモン」
「あれしきならば支障なく……!!」
「そのまま走れ茶髭!!突っ込むぞ!!」
その言葉で昔も行き止まりが無いと言って、突き進んだ事を思い出す。違う目的を持つ者同士でも、共闘する事は可能なのだとこうして教えられる。
これだから、この1味は強いのだ。必要ならば、誰とでも手を組めるし変な遺恨を残さないから……。
シャッターをぶった斬って中に飛び込めば、ルフィの声が聞こえた気がした。それにより顔を上げると、やる気に満ちた顔をしたルフィが見える。
その顔を見ただけで、声を聞いただけで、もう大丈夫だと信じられる。ルフィが笑うなら、不可能なんて存在しないと思えるの。
「皆来たな!!揃ったか!おーし!暴れるぞォ!!」
ルフィの姿を見て、声を聞いただけで安心して、笑ってしまう。これで私達にもう、負けは無い。
この島での問題は確実に解決出来るわ。私達が揃って、出来ない事なんて有る訳ないんだから。
周りは騒がしいけど、ガスが入らないようにはなったし、ブルックが外の様子を見てくれてる。茶髭っちの事を噛んでた竜は取り外すのに成功したし、まぁ、何とかなるわよね。
けれども外の様子を伝えた私達に、海軍は感謝する所か銃口を向けて来る。それを見て、何故か笑うシャンクスを思い出した。
「それを向けるって事は……戦うつもりなのよね。そして、私達の背後にある壁がそれを受け止めきれなければ、あなた達も死ぬ事になる。……その覚悟は……できてるって事でいい?」
相手が戦いを挑まなければ、シャンクスは基本的に自分から仕掛けない。その代わり、向けられた敵意や殺意に対しては、容赦しなかった。
例え怯えからでも、脅す為でも、武器を向けた瞬間それは敵対と看做す。それがあるから、シャンクス達は基本的に無傷で四皇に登り詰めた。
勿論、それ迄に多くの仲間を喪い、傷付き、苦しんだのも分かるけど……ね。だから、シャンクスは1人で寝ると魘されるのだ。
「逃げ場がねェ……!!」
「そんなもんいるか!!」
ウソップの言葉にゾロが言う。サンジ君も楽しそうに笑い、ブルックも笑いながら剣を手にした。
私も本来の姿ならば、戦う事を選択するんだけど……。まぁ、何とかなるかしらね。
その時ローちゃんがルフィの傍にいるのが見えて、声を掛ける。良かった、これでまともに戦えるようになるわ!
「ローちゃん!!」
「ん?……あァ……」
そうして元に戻り喜んだ時、コートが変わってるのに気付く。え、ちょっと待って、つまりサンジ君……?
「脱いだわね!!」
うるぁぁぁ!!ってな勢いでサンジ君に回し蹴りしつつ、その身体に装着してた武具や荷物を全て回収して身に付ける。それを見ていたブルックがナミさん流石ですって褒めてくれたので、少し照れてしまう。
その時傍では、サンジ君が肉体の負ってるダメージが今の1撃のダメージじゃない事に気付き、その理由をウソップに聞いていた。心優しいチョッパーでさえ、怒り狂ったのに、サンジ君は怒るどころかやられたのが自分の肉体で良かったと泣くから……罪悪感が半端ない。
だからこそ、少し声を潜めて聞いてみる。蹴る前に聞くなんて、そんな精神的余力は私には無かったのだ。
「それで、なんで脱いだの?」
「あァ……実は……」
そうしてサンジ君が教えてくれたのは、侍はキンエモンと言う名で、息子の名前がモモノスケと判明した事。服を脱いだ理由は、そのキンエモンを助ける為だったと言う。
「水中に……なら、仕方ないわね。あら、手袋は?」
「身に付けてると不味かったから、出してもらったコートのポケットに入れてありますよ」
「良かったわ」
そんな会話をしてる間に、ローちゃんが2時間以内にR棟66に行けと言う。そうしなければ生命の保証をしないと。
その言葉を皮切りに皆が戦い始めたりするから、私もそれに従うように戦いを開始した。そんな中で茶髭っちが乗れと言ってくれて、私は茶髭っちに運ばれて先へと進み始める。
その時ゾロはルフィも自分もやられて倒れたと知り、怒りを見せた。それは、自らへの怒りなのだとわかるけど、結局ルフィはゾロの中で特別なのだとこんな時に思い知らされるのだ。
ルフィもゾロのそれを受けて謝るから、そのやり取りを聞いただけで妙に気が抜けてしまう。でも私としても、茶髭っちに甘えてのんびり乗せて貰うだけと言うのも嫌なので、何時でも戦えるように武器を身に付け直してからクリマタクトを構えた。
「やり過ぎない程度に、雷落とせば充分よね」
ケムリン達もいるなら、海軍は本格的な敵と呼べない存在だろうから。そう思って笑った私が周りには戦いを喜ぶ魔女のように見えてるなんて、少しも考えなかった。
その上私の乗ってる茶髭っちの前を、駆け抜けながら戦うのは剣士三人組。黒刀で斬り抜けるゾロ、冷気を纏う剣で斬り裂くブルック、火を纏う刀で斬り捨てるキンエモン。
私を守るようにサンジ君とウソップも茶髭っちに乗っていて、私達ら随分楽させて貰いながら三銃士ならぬ三剣士を眺める。飛ぶ事も無い小さな竜は、可愛い顔してぼーっとしているけど、茶髭っちが言うには随分と危険な存在らしい。
「……酷い事するわ」
「うお!!ロビンいつの間に!!」
「ふふ、ちょっとルフィに頼まれ事を……」
「頼まれ事?」
「今回子供が関わってるから、ナミのサポートを頼まれたのよ。勿論それだけじゃないけど、そうね……もうひとつの重要な案件は」
ロビンとウソップがそんな話をしてる間に部屋の扉を閉められてしまいそうになっていて、何とか隙間を縫ってドアを抜けた。茶髭っちには感謝しかないわ。
けれどもその直後、ドアが閉まる直前に投げ飛ばされて来た物体に気付けば少しばかり驚いてしまう。だって、それが人だったから。
……あの子は、確か。そう、たしぎちゃん。
東の海で会ってるし、その他の所でも皆は会ったりしてるらしいから、何度も話題には上がってた。あの時……東の海では、苛立ちもあってついキツい事を言ってしまったけど……実際彼女が何か悪い事をした訳じゃない事も分かってる。
そんな彼女が叫ぶ。悲痛な声で。
「退いて下さい!まだ外に何人も海兵が!!」
既に人が通れる隙間は無い。その中で呼吸を乱しながら仲間を助けに戻ろうとするその姿に、気持ちは分かるけどと思ってしまう。
そう思いながら隙間の向こうを見れば、石灰で固められたかのような人達が見えた。それは、彼女を投げ飛ばし無事に……次の部屋に送れた事で満足してるのだと分かるような、誇らしげな姿。
喜びの形で固まった彼等は、それだけ彼女が大切だったのだろう。だからこそ、彼女を抑え込んでる人の言葉が耳に痛い。
「大佐ちゃん、駄目だ!!もう遅い!!」
「何を馬鹿な事!!仲間がまだ扉の外に取り残されてるのに!!そこを退きなさい!!」
「無理なもんは無理だ!!
親しみを込めて呼ぶ〝大佐ちゃん〟ではなく、正式に呼ぶそれに、想いがどれ程込められているのか。大人として、仲間として、生命をかけて他の仲間達が繋いだそれを無には出来ない。
そんな想いが、その短い呼び方ひとつに込められているのを感じ取ってしまう。だからこそ、もう届かないとわかっていて、彼女を抑えている海兵は言葉を向けたのだろう事まで理解してしまった。
「良くやったお前ら!!俺達の大切な大佐ちゃんは、しっかりと受け取ったからなァ!!」
私達は誰一人、声を出せない。マスターと呼ばれている男、シーザーを私達は誰一人として許せはしないだろう。
私達は明らかに、正義の味方なんかじゃない。でも、好んで誰かを傷付けるような事を私達は出来ないし、しない。
そんな私達から見れば、シーザーは〝大嫌い〟なタイプだわ。……ルフィも、このタイプの人間は大嫌いだもの、確実にぶっ飛ばす。
誰かを傷付ける為に、私達は力をつけた訳じゃない。理不尽に大切な存在が傷付けられないように、大切な仲間達の夢を叶えられるように、私達は力をつけたの。
子供達を苦しめて、実験に使って、ショーとして人の命を簡単に奪い尽くす。自分を慕い、尽くしてくれる人達をただのモルモットとして扱う男を、人を傷付けて、苦しめて、殺すだけの男を……許せる道理は無い。
麦藁の1味とキンエモンは揃って茶髭っちの上に乗ったまま、次の場所へと向かって行く。ここまでに、茶髭っちの仲間は見付かっていない。
それはある意味確信に近い嫌な事を連想させるけど、それもまた誰も口には出さない。茶髭っちを止める為、本来ならばその部下が無事ならば使う事が効果的だろうに、彼等を使わない時点で、その答えは見えていたと言えるだろう。